68.子供たち、河原で遊ぶ
いつもお世話になってます!
子供たちと遠足にやってきている俺たち。
孤児院を出て山道を登り、そろそろ昼飯時だ。
俺たちは天竜山脈の、山と山の間を流れる大きな川、天竜川へとやってきていた。
「いっちに! いっちに! おめーらもーすぐとーちゃくするです!」
「み、みんながんばろーなのです!」
「「「おー!」」」
子供たちはわっせわっせと頑張って歩いている。
「うう、姉貴ぃ……。疲れたぁー……」
「あとちょっとでつくからねー……ぇ。がんばろー……ぉ」
「うん」
姉鬼が妹の汗をぬぐってやりながら、一緒に歩く。
ややあって河川敷へと到着。
森の開けたその場所は、目の前に大きな川が流れている。
「「「ついたー!」」」
子供たちがワッ……! と歓声を上げる。
俺は子供たちの汗を、タオルでぬぐってやりながら言う。
「お疲れさん。少し休んでお昼ご飯の準備だ」
「「「おっけー!」」」
子供たちはリュックを脱ぐと、そのままだーっと川へと走って行く。
「わ、わわ……みんなまってぇ。おいてかないでほしーのですっ!」
俺はラビの汗をぬぐっていた。他の子たちは一足先に走っていく。置いていかれるのがいやなのか、ラビがわたわたと慌てる。
「よし。ほらラビ、みんなんとこ行ってきな」
汗をぬぐい終えて、俺はラビからリュックを回収する。
「はいなのです!」
ラビは元気よく頷くと、だーっ! と子供たちを追いかけていった。
「元気いっぱいねー」「……そうですね」
コレットと桜華が、子供たちを見やって言う。
「ふたりともお疲れさん。おまえたちは休んでてくれ」
桜華たちは女性だ。山道は疲れるだろう。現に額に汗が浮かんでいる。
「ジロくんは?」
「俺は子供たちを見てくるよ」
川にでも落ちたら大変だからな。
「いいの?」
「ああ。俺あんま疲れてないし。休んでてくれ」
俺はマジック袋から折りたたみのイスを取り出す。あらかじめアウトドア用品は、孤児院の作業場で作ってきてあるのだ。
イスを広げておく。
「ジロくん……ありがと。お言葉に甘えさせてもらうね」
「…………」
コレットがにこーっと明るく笑う。桜華は「…………」ほおを赤く染めて、俺をじいっと見てくる。
「桜華? どうした?」「…………」「桜華?」「あ、いえっ! なんでも、ないです」
ぷるぷる、と桜華は首を振るう。
「そんじゃ行ってくる」
「いってらしゃい」
俺はコレットと桜華をおいて、子供たちの元へ行く。
子供たちは川からちょっと離れたところ、並んでたっていた。
「「「おー……」」」
口をぽかんと大きく開いて、目の前を流れる川を見やる。
「ざーって! ざーって! すんげーです!」
「かぬーでかわくだりとかしたらおもろそー」
「はわわっ、早いのです。怖いのです……」
「姉貴ぃ~……」
キャニスたちアウトドア派は目をきらききらとさせて、インドア派はびびっていた。
「あんまり近づくなよ」
「にーさんっ!」
ラビは俺に気づくと、てててっ、とやってくる。俺はしゃがんで彼女をよいしょと持ち上げる。
「えへっ、にーさんがいれば安心なのです……♡」
ほぅ、とラビが安堵の吐息をはく。
「ラビは子供でやがるなー」「おこちゃまだからね、しかたないね」
ひょいっ、とキャニスとコンが、いつの間にか俺の肩に乗っていた。
「そう言って乗っかるのな」
「たけーところから川をみおろしてーだけです」
「そーそー。べ、べつににぃのことなんてすきじゃないんだからねっ」
うんうんと頷くふたり。
「コン、おめーのそれは何なんです?」「つんでれつんでれ」「まーたわけわっかんねーことを」「きゃにすもおとなになればわかるよ」
その一方で、鬼姉妹はというと。
「てーい」
「おっおっおおっ! すげー姉貴すげー!」
なんだなんだ、と子供たちが俺から降りていく。
「あやねちゃん、何をしてるのです?」
「んー……ぅ? これはねー……ぇ。こぉいうあそびー……ぃ」
あやねは河原に落ちている石をひろいあげる。くいっ、と腰をかがめると、しゅっ、と石を水平に投げる。
飛んでいった石は、
「すっげー! ぴゅんぴゅんっ! って! ぴゅんぴゅんって!」
「あやねるまじぱねえ。石がとびうおみたい」
「あやねちゃんすごすぎるのですー!」
獣人たちが、姉鬼をやんややんやと褒めちぎる。
「ふふん、だろ? 姉貴はすげえんだぜ!」
姉が褒められて、妹鬼がめちゃくちゃ喜んでいた。
「いやー……ぁ。てれますなー……ぁ」
てれてれ、とあやねが頭をかいている。
「よーし! ぼくらも今のぴゅぴゅんってやつ、やるぞおめーら!」
「きょうそうねっ! れいあまけないんだからっ!」
子供たちが一斉に石を持ち上げて、
「てりゃー!」「だいりーぐぼーる1ごう」「えいっ!」
と石を投げる。
しかしみんなワンバウンドもしないうちに、ぽちゃり……と川の水に石が沈む。
何度か投げているようだが、ぜんぜんうまくバウンドしない。
「むじーです」「これがさいのーのさか……」「あやねちゃんはやっぱりすごいのです!」
ぱちぱちぱち……とあやねに拍手をするめんめん。
「なんかこつとかあんのか? 教えろやですあやね」
「んー……ぅ、こつねー……ぇ」
ううん、とあやねが首をかしげる。
「こー……ぉ、ぺちょんってやつを、こー……ぉ、しゅしゅっ、となげれば、ぴゅぴゅんってなるよー……ぉ」
「「「おー……」」」
子供たち全員の頭に、ハテナマークが浮かぶ。
「あやねる、ばくれつにせつめーべた」
「ううー……ぅ。ひとにおしえるのってー……ぇ、むずかしー……ぃ」
腕を組んで考え込むあやね。
「にーちゃんなんとかできなぃー……い?」
「うーん、そうだな」
子供たちの遊びに大人が口出すのは無粋かと思ったのだが、頼ってきてむげにはできない。
「みんなちょっと集合」
ててて、と子供たちが集まってくる。
「こういうな、平たい石を探すんだ」
俺は見つけた平たい石を、【複製】スキルを使って増やす。魔力はさっき持ってきた【竜の湯】の残り湯を浴びて回復したのだ。
水筒に入れてマジック袋に入れておいたのである。
倍々ゲームの要領で石を増やして、子供たちに手渡す。
「そんでさっきあやねが言っていたが、石をたたきつけるんじゃなくて、こう切るようにして投げるんだ」
俺が石を持ってサイドスローの要領で、投げるポーズをとる。
しゅっ、と投げた石は、水面を切って何度かバウンドした。
「「「おー!」」」
きらきらとした目を俺に向けてくる子供たち。
「ほら、やってみな」
「「「よーし!」」」
子供たちが何度もていていと石を投げていく。ぺちょん、ぽちゃんと1回もはねずに、石が落ちていく。
「ていやー! ……あー! くそー!」
「てーい。おー。だめかー」
俺は子供たちの隣に座って、ひたすらに石を作っていた。まだ水筒に入れた竜の湯のストックはあるので、何回でも魔力回復ができる。
子供たちがあきるまで、俺はそうやってその場で石を作った。
ややあって、
「ぜ、ぜんぜんうまくいかないのです~……」「みーたちさいのーなしなし?」
はぁ、と吐息をはくラビとコン。
「おめーらあきらめてんじゃねーぞです!」
キャニスがかーっと歯をむく。
「ぼくたちにできねーわけねーです! あやねだってできた、ならぼくたちもできる!」
キャニスの言葉に、獣人たちがぴんと耳を立てる。
「キャニスちゃん……」「きゃにす……」
弱気だったふたりが、うんっ、とうなずく。
「きゃにすちゃんのいうとーりなのです!」
「みーたちよわきだたね」
よし、とラビとコンがうなづいて、平たい石を持つ。
「がんばれぞおめーら!」「がんばるのですっ!」「みてて、みーのゆーしを、とくとーせきで」
てい! と獣人たちが石を投げる。
すると……。
3人の手から離れた石が、水面をぴょんぴょんと飛び跳ねていく。
はねていった石は何回かバウンドして、水に沈んでいった。
「! ぴょんぴょんいった!」
「とびはねたのです!」
「はねるのとびらやんけ」
わー! と獣人たちが歓声を上げる。
隣で見てた鬼姉妹が、ぱちぱちと手をたたいた。
「どーだあやね! かっこよかったです?」
にかっと笑ってキャニスが言う。
「うんー……。とー……ぉってもぉ」
「やるじゃん。すげーよ。姉貴の次に」
えへへ、とキャニスがうれしそうに笑う。
「みーたちもいしぴょんぴょんできたね」
「キャニスちゃんがあきらめるなーっていってくれたおかげなのです!」
「それある。ありよりのあり」
うんっ、とコンとラビがうなづく。
ふたりはととと、とキャニスに近づくと、犬娘の手を取る。
「キャニスちゃんありがとーなのです!」
「みーたちあたらしいすきるをおぼえたよ。きゃにすのおかげ。てんきゅー」
えへー、と笑うコンとラビ。
キャニスは「べ、別にぼくはなにもしてねーです」と照れながら、しっぽをくねらせていた。
「それにぼくはなんもしてねーです。がんばったのはおめーらじゃん」
「でも、でもっ。キャニスちゃんがいなかったら、あきらめてたのです!」
「さすがキャニス。われらのりーだー」
「うう……やめろやぁ~……♡ はずいだろー……♡」
照れる犬娘に、笑い合うラビとコン。
「ゆーじょぉだー……ぁね」
「…………」
「アカネちゃん、うらやましー……ぃ?」
「…………。ふん、別に」
ぷいっとそっぽむく妹。姉は何かを考え込むしぐさをする。
よしとうなづいて、
「おー……ぅい。みんなー……ぁ」
姉鬼が妹の手を引いて、獣人たちのもとへ行く。
「みんなで石投げしよー……ぉ」
「おー! んじゃみんなで投げるです!」
「みーのひっさつわざがひをふくよ。みておどろけ」
俺の出した石を子供たちが手に取る。それぞれがていてい、と石を投げる。
あやねの投げた石が一番遠くへ、次にキャニスが、ラビ、コンの順番で石が水の中に落ちた。
だが……。
「…………」
妹鬼のアカネの投げた石は、1度もバウンドせずに水の中へ落ちた。
「わ、笑いたきゃわらえよっ!」
半泣きでアカネが言う。
「んにゃ、べつに」
あっけらかんとキャニス。
犬娘はぽん、と手をたたくと、
「よーしおめーら! アカネがいしぴょんぴょんできるよーに、特訓につきあってやろーです!」
キャニスの号令に、ラビとコンが「「おー!」」と手を上げる。
「ば、ばかアタシはいいんだよ。別にできなくても……」
「なに言ってやがるんです」「ぴょんぴょんできたほーがたのしーのです!」「あ~。こころがぴょんぴょんするんじゃー」
キャニスが石を持ってこうやって投げるんだよとフォームを教える。
ラビはアカネが石を投げた後、新しいものを手渡す。
コンは「ふれふれぷりきゅあ」と応援していた。
妹鬼は、最初は「別にいいし……」と言っていたのだが、キャニスたちと一緒にいることで、徐々に楽しそうに笑う。
「おっしゃ、アカネ。もーちょいです。もーちょいでいけるです」
「アカネちゃん、がんばです!」
ラビから石をもらって、アカネがうん、とうなづく。
「おらー!」
アカネがサイドスローで、ひゅっ、と石を投げる。
すると投げた石は、ぴょんぴょんぴょん、と飛び跳ねていった。
「「「おー!」」」
獣人たちは目を大きく開いて、歓声を上げる。
「できたじゃん、です!」「よかったのです!」「こんぐらっちれーしょん」
わー! と獣人たちが両手を挙げて喜ぶ。
「あ、あのさ……その、」
アカネは目をそらしながら、「あ、あり、ありが……ありあり……」と言葉に詰まる。
だが恥ずかしいのか、なかなか言い出せないようだ。
姉鬼は妹の肩にぽん、と両手をおいて、
「みんなー……ぁ、アカネちゃんがねー……ぇ、ありがとー……ぉって。だいすきー……ぃだぁって」
「ば、なにいってんだよ姉貴!」
顔を真っ赤にして妹が吠える。
「あ、アタシは別にそんなこと別に……」
「おもってないのー……ぉ?」
「んなこと、ねーけど……」
すると獣人たちが、「いやぁ」「えへへ♡」「てれますね」と頭をかいていた。
「ぼくもアカネは、ま、きれーじゃねーです」
「らびはアカネちゃんだいすきなのです!」
「みーもすき。きゃ、いっちゃったいっちゃった」
屈託のない笑みと好意を向けられて、アカネは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「照れてやがる?」「てれてますがな」「て、てれてねーし!」
キャニスとコンに向かって、アカネが声を張る。
「照れてやがったです、な、コン」
「あれはめちゃくちゃてれてましたな」
「ちげーっていっただろーが!」
かー! と吠える妹鬼に、コンとキャニスは、わー、と逃げる。追いかける妹とその友達を見て、姉はニコニコと笑っていた。
「えらいなあやね」
俺はあやねの隣に座って、彼女の頭をなでる。
「んー……ぇ? なんのことー……ぉ」
「アカネがみんなの輪に入れるように取り持ってくれたじゃないか」
姉鬼の赤髪をなでる。
「さすがお姉ちゃんだな」
「んへー……ぇ♡ ほめられちったー……ぁ」
にぱーっと笑う姉鬼。
すると、んっ、と両手を伸ばしてきた。
「どうした?」
「おいらもー……ぉ。さっきのラビちゃんみたいにだっこしてほしいなー……ぁ」
「ああ、うん。いいぞ」
よいしょと姉鬼をだっこする。
「おー……ぉ。こいつー……ぁ、いいながめだぁー……ね」
あやねが俺の胸で、感嘆の声を張る。
「おいらがおっきくなったみたいだー……ぁよ」
それに、とあやねが俺の胸板にほおを寄せてくる。
「にーちゃんの体、とー……ぉってもあったかいねー……ぇ」
目を閉じて、すりすりとあやねがほおずりしてくる。
「ずっとこー……ぉしてたいなぁ」
「別にいつでもだっこするぞ。言ってくれたな」
「ほんとー……ぉ。んじゃー……ぁ。そーする」
すると……。
「あー!」
とキャニスが大きな声を張る。
「あやねがおにーちゃんにだっこしてもらってやがるです!」
「なぬ、じぽ? じぽなのか?」
ててて、と子供たちが集まってくる。
「おにーちゃんぼくもだっこしてくれやです!」
「みーもだくべき。じどーぽるのとかきにしたらあかん」
しゅるるん、とキャニスとコンが俺の肩に乗ってくる。
「あ、あのあの……にーさん……」
「はいはい」
子供四人をよいしょと持ち上げる。……さすがに腰にくるが、しかしまあ、
「やっぱおにーちゃんは高けーです!」
「ここからのながめ、ひゃくまんどるだね」
「にーさんの音おちつくのです……♡」
と楽しそうにしているから、俺は我慢して、子供たちの止まり木になるのだった。
お疲れ様です。次回は川でみんなでお昼ご飯を食べます。




