64.善人、遠足を企画する
いつもお世話になってます!
子供たちと焼き芋をした、数分後。
裏庭には、孤児院の全員が集まっていた。
職員だけじゃなく、鬼娘たちも、庭で焼き芋を食べている。
サツマイモは十分な量を【複製】しているため、孤児院の子供・職員全員ぶんがある。
「なーなーコン」
もくもく……と焼き芋を食いながら、キャニスがコンに尋ねる。
コンのシッポが? と曲がる。
「この黄色いの、なんでやがるです?」
キャニスが焼き芋をほおばりながら、しっぽで落ち葉を指して言う。
「ふぁふぃふぉふーふぇふぇ」「何言ってるかわっかんねーです」
コンがほおをパンパンに膨らませながら、何かを言おうとする。だが口にものが入っているので、言いたいことが判然としない。
「ふぉー……」
コンはトコトコ……と俺の元へ歩いてくると、きつねのしっぽで、ぺち、と俺の足を叩く。
「どうした?」
「ふぁっふぃ」
タッチ、と言いたいらしい。
「みーふぁ、ふぁふぃふぃふぉふぇふふふぁふぃー」
「……何が言いたいかわからんが、とにかく俺が答えれば良いんだな」
こくこく、とコンが頷く。
俺はキャニスの隣に座る。
「おにーちゃん、この黄色いやつはなんでやがるです?」
キャニスが落ちてる葉っぱを拾って、俺に見せてくる。
「これは葉っぱだ」
「?」
はて? とキャニスが首をかしげる。
「ちげーです。はっぱはみどりいろしてやがるです」
「うーん……っと」
キャニスの表情は、純粋に疑問をいだいているようだった。本気でわからない。そう思っているようだ。
「あのな、葉っぱは秋になるとこう言って色が変わって落ちてくるんだよ」
「? ?? ????」
キャニスが、何を言ってるんだこいつ……みたいな顔になる。
「うーん……。もしかして紅葉とかしらないのか?」
「こーよー?」
子供たちが、ちょこちょこ、と集まってくる。ラビ、鬼姉妹の手には、みんな黄色の葉っぱがにぎられている。
「みんな葉っぱが赤くなったり黄色くなってるところってみたことないのか?」
俺の問いかけに、プルプル……と獣人たちが首を横に振るう。
「そーいえばにーさんの漫画のなかで、こーよーってあったきがするのです」
ねー、とキャニスとラビが顔を見合わせて言う。
「そうか……。山の方に行くともっとすごいぞ。木が一面に真っ赤や黄色になってるんだ」
「「「おー!!」」」
子供たちの目がきらきらと輝く。
「みてぇーなー……」「いちめんのあかやきいろ、ですー……」
はぁー……と子供たちがうっとりとする。
しかしそうか、山の中の紅葉を見たことが無いのか。考えれば、この子たちは、森の中からあんまり外へ出たことないみたいだしな。
ふむ……。
「へいにぃ」
ひょい、とコンが俺の肩に乗る。
「きたいしとる」
ぐっ、とコンが俺に親指を立てる。
コンはどうやら、俺を信頼してくれているみたいだ。子供たちも、きらきら……っとした目で、俺に訴えてくる。
「おう、任せろ」
「「「わー!」」」
☆
その夜、俺たち職員は、1階ホールに集まっていた。
その場には俺とコレット、アムにマチルダ、そして桜華がいる。
「子供たちを遠足に連れて行きたいと思ってるんだ」
俺の提案に、マチルダが「いいですねっ! 良いと思います-!」と真っ先に同意してくる。
「どこ行くつもりなの?」
とアムが俺を見て言う。
「天竜山脈だ。子供たちに山の紅葉を見せてやりたくてさ」
なるほど……とアムが考え込む。
「……ジロくん、その、」
コレットが不安げに俺に目をやってくる。
彼女の言いたいことはわかる。獣人たちを森の外へ連れてくのは、どうなんだろうかと。
この国には獣人差別の風潮が根強くある。子供たちが森を出て誰かにあったら……と思っているのだろう。
それにコレット自身も、少しだけだが、拒否反応を示していた。
コレットも、森の外へ出ることを嫌がっている。それはコレットがハーフエルフだからだろう。
彼女はハーフエルフであることを負い目に感じている。混じり物である自分は……と、以前そのせいで、コレットは追放処分をくらったことがある。
それがトラウマになって、コレットは森の外へ出る際は、外見を変える魔法薬を手放せないでいるのだ。
「大丈夫。天竜山脈はドラゴンの住処だ。あまり人が寄りつかない山だから、人に会わないだろう」
「……。そう、ね。いざとなれば、薬があるものね」
懐からすっ……とコレットが外見詐称薬を取り出す。……やっぱり、まだトラウマは払拭できてないか。
今回の遠足では、なるべく薬を飲ませないようにしたい。彼女にはトラウマを乗り越えてもらいたいのだ。そういう意義もあったりする。
「アムと桜華はどうだ?」
「いいんじゃない」
「…………」
ぽーっ、と桜華が何かを考え込んでいる。
「桜華?」
「……あ、えと、はい。いいと、思います」
一瞬遅れて、桜華がこくこくと頷く。
「……天竜山脈なら、わたし案内できますし。良いと思います」
彼女たち鬼族は、かつて天竜山脈の中で生活していた。だから山の案内ができるということだろう。
「あれ? あやねとアカネは紅葉見たことないって言ってたぞ?」
「……あの子たちは、去年の冬にうちに来たんです。……だから秋の紅葉は初めてかと」
なるほど……。
「んじゃ子供たちを遠足に連れてくか。桜華、先導を頼むな」
「……はい。了解です」
続いて具体的な話し合いになる。
「今回は単に遠足だ。日帰りになる。子供たちと山へ行って昼ご飯を食って、紅葉を見て帰ってくる感じだ」
アムが手を上げる。
「桜華さんの幼児たちはどうする?」
「そうだな……。一花たちに頼んでみるな」
こくり、職員たちが頷く。
「ジロくん、いつ頃行くの?」
「準備があるからな。それにコースの下見をしておきたいし……1週間後くらいかな」
当日のコースの下見を、俺は桜華とともに行くことになった。
ある程度山でやりたいことを話し合い、ひととおり話が終わる。
「じゃあとりあえず子供たちには明日遠足に行くことを伝えて……」
とそのときだった。
「おにーちゃんっ!」
上から子供たちの声がした
見やると、渡り廊下から、子供たちが俺たちを見下ろしていた。
「きまった? きまった?」「けつはとれたか?」
わくわく……きらきら……と子供たちが期待に充ち満ちた目を向けてくる。
「おまえら……寝てなかったのか」
子供たちがでででーっと降りてくる。
俺にぴょいっ、とキャニスとコンが抱きついてくる。
「なーなーおにーちゃん! えんそくいけるのか?」
なあなあ、と俺にキャニスが食ってかかってくる。
「ああ。来週だ。みんなで遠足行くぞ」
すると子供たちが「「「わー!」」」と万歳をする。
「さっすがおにーちゃんでやがるです!」
「にーはきたいをうらぎらないね」
「にーさんありがとーなのですー!」
ニコニコ笑顔の子供たち。
「にー。じゅーよーなことがある」
ぴっ、とコンが手を上げる。
「ばななは、おやつにはいりますか?」
「「「?」」」
子供たちが定番のネタについて行けてなかった。
「その辺はしおりにちゃんと書くから」
「それはちょーじょー。ちなみにみーはばななはおやつにふくめるはです」
とにもかくにも、こうして子供たちを連れて、天竜山脈へ、遠足へ行くことになったのだった。
次回から遠足になります。




