63.善人、焼き芋する
いつもお世話になってます!
季節は移ろい、秋になった、ある日の朝。
俺は子供たちを起こしに、二階へと向かう。
子供部屋のドアを開ける。
暗い部屋に六つのベッド。
だが今は、ベッドがほぼ全部からになっていた。
「あれ? みんなは?」
見回すと、1つのベッドに、子供たちが集まっていた。
「ぐー……がー……」
「すぅ……です……」
「んぇー……んんぅ……」
キャニス、ラビ、あやねとアカネが、同じ場所に集まっている。
「コンは?」「ごしめいはいりましたー」
にゅ、とコンが手を上げる。
コンは子供たちの真ん中にいた。全員にギュッと抱きしめられている。
「にぃ、たいへん。みーだいにんき」
「だな。凄い人気だ」
コンのふわふわのきつねシッポに、みんなくっついている。
「みーがはーれむらのべのしゅじんこーみたいになってる。すまほたろーや」
「モテモテなだなコン」
「ですまじろーとよんでもいいよ」
ときおりこの子はよくわからないネタを挟んでくるから困る。
それはさておき。
「おーいみんな。朝だぞー。起きろー」
俺は部屋の電気をつけて、子供たちに言う。
「あさかー! さみー!」
ぶるる……とキャニスが腕を抱いて起きる。
「姉貴ぃー……さみーよぉー……」
アカネがコンのシッポにしがみついて、いやいやと首を振るう。
「コンちゃんのしっぽはー……ぁ、あったかいからねー……ぇ」
よしよし、と姉が妹のあたまを撫でる。
「みーのシッポの魔力、とりつかれしものがこんなにもたくさん……つみなおんなだね、みーってば」
ふっ……とコンがかっこつけて笑う。
「んぅ……んんぅー……」
ラビは俺が起こしても、起きようとしない。コンのきつねシッポをぎゅーっと抱きしめている。
「あーん、らび、らめぇ。しっぽにねぐせがついちゃうのー」
「変な声を出すな」
コンの頭に軽くチョップ。ラビをよいしょと持ち上げようとする。
「んんぅー……。やぁ……。やぁ……」
ラビがいやいやして、コンのシッポを離そうとしない。
「離さないな」
「みーもいっしょにだっこするていあん」
コンとラビを、よいしょと持ち上げる。
「みーにだかれるきもちいい」「誤解を招くからやめて」
俺はラビとコンを抱っこして、レイアを起こし、全員で外へ行く。
裏庭はからっと晴れた秋晴れの天気だ。透明な青空がどこまでも広がっている。
「さみー!」
パーカーを着たキャニスが、腕を擦りながら言う。
「くしゅっ」
「アカネちゃー……ぁん。さむいでしょー……ぉ。ほら、マフラーだよー……ぉ」
姉鬼が、自分のしていたマフラーをとって、妹の首に巻いてやる。
「さみしくて、さみしくて、ふるえる」
コンが俺の腕の中でぷるぷるしていた。ラビは「へくちっ」とくしゃみをして目を覚ます。
「だらしないわねー、あんたたち」
「みー」
寒そうにしてる子供たちの中、レイアは平然という。
「レイア、おめーすげえです」「このさむぞらのもと、はんそではんずぼん。ゆうしゃか」
キャニスとコンが感心している。
レイアは寒空の元だというのに、薄手の半袖シャツに半ズボンというかっこうだった。
さすがにダウンベストは着ているが、それでも寒そうな格好だ。
だが当の本人はけろっとしているし、むしろ、
「あんたたち厚着しすぎじゃない?」とかおっしゃる。
「レイアはかぜのこだったか」
とコン。
「? れいあはりゅーのこよ?」
「いや、コンはそう言いたいんじゃないと思うぞ、レイア」
子供たちが体を揺すって「さみー」「さみすぎるのです……」「さむしんぐえるすー」
と実に寒そうだ。
「キャニス。こういうときは体を動かすに限るぞ」
「! そーです。おめーら!」
キャニスがみんなの前に立つ。
「さむさがなんだー! じっとしてたらもっとさみーぞです!」
子供たちが「「「たしかにー!」」」と同意する。
コンとラビを下ろしてやる。
「じーっとしてても、どーにもなんないしね」
「そうなのですっ。動いてからだぽかぽかにするのですっ」
「アカネちゃん、さむくてもたいそーしようねー……ぇ」
「わかった。姉貴がそう言うならそうする」
子供たちがうなづくのをみて、キャニスが元気いっぱいに言う。
「よーし! おめーらいくぞぉ! らじおたいそーだいいちー!」
「「「おー!」」」
☆
ラジオ体操をして、子供たちに朝ご飯を食べさせた。
みんな温かいスープと味噌汁を好んで食べていた。
子供たちは寒いというのに、ボールを持ってサッカーしようぜぇ! と出て行った。ホント、サッカー大好きだな子供って。
マチルダと一花たちが子供たちのサッカーの相手をするよそに、俺は箒を持って、裏庭にいた。
この孤児院は森の中に建っている。
季節は秋。紅葉と、そして落葉の季節だ。
裏庭には落ち葉の絨毯ができている。
赤に黄色、紅葉に銀杏? のような葉っぱが落ちている。似てるが、地球のものとは微妙に形が違っていた。
「しかしすごいあるなぁ」
広くなった孤児院の裏庭。そこにはいっぱいに落ち葉が敷き詰められている。
俺は竹箒を持って周囲を見回していると、「……あの、じろーさん」
と控えめな声で、誰かが俺に声をかけてくる。後を見やると、そこに立っていたのは、黒髪の美女、桜華だった。
男を悩殺する爆乳に大きな尻。くびれた腰が実にセクシーだ。
今は襦袢の上に大きめのストールを上から羽織っている。
「どうした桜華? 今日は非番だろ」
「……お掃除、手伝いに来ました。……じろーさん、たいへんかなって」
なんともありがたいことだ。
「ありがとう、桜華。けど大丈夫だぞ」
「? どういう……?」
首をかしげる桜華の前に、俺はマジック袋(【無限収納】が付与した何でも入る袋)に手を突っ込む。
中から俺は竹箒を取り出す。
1本……2本……10本と。
「……こんなにたくさん、どうするんですか?」
ここにいるのは俺と桜華。竹箒は二本で事足りる、と桜華は思っているのだろう。
「まあ見てればわかるよ」
俺は竹箒の前に立って、パンッ! と手を叩く。
すると……。
がささっ、がさささっ、がささささっ。
寝ていた竹箒が、いっきに……立ちあがったのだ。
「……! じ、じろーさん、ほ、ほうきが……」
おびえた桜華が、俺の腕にしがみついてくる。スライムのような大きくて柔らかな胸が、ぐんにょりと潰れた。
な、生暖かい上に、すげー柔らかい。沈む。肉に腕が沈んでくのだ。
「お、桜華。離してくれ。大丈夫、モンスターとかじゃないか」
俺が言うと、桜華は俺に抱きついていることに気づく。かぁっ、と顔を真っ赤にすると、パッ! と俺から離れる。
「……す、すみません、じろーさん」
「あ、いや……いいって。気にすんな」
まだ桜華の胸の暖かさが残っている。それにスゴく良いにおいがする。花粉みたいな、粉っぽい……甘いにおいだ。
「……それで、なにをするんですか?」
「あ、そうだった」
俺は立ちあがっている竹箒を見回して、もう一度パンッ! と手を叩く。
すると、竹箒たちは、がさささささ! と自動で動き、あたりに散会。
「……すごいです。箒が、勝手に動いてます」
しゃしゃしゃ、と箒たちが勝手に動き、一カ所に落ち葉を集めていく。
俺も竹箒を使って落ち葉を、自動で動くこいつらとともに集める。
「……じろーさん、これはいったい?」
桜華も竹箒をもったじょうたいで、俺に尋ねてくる。胸の谷間に箒の柄がはさまっていて、なんだかいけないことをさせてるように見えた。
「箒に【動作入力】って魔法を付与したんだ」
無属性魔法、【動作入力】
これは無機物に命令を下して、動かす魔法だ。
命令には色んなものを書き込める。条件設定に、手を叩いたら周囲一面の落ち葉を拾うこと、と動作命令を書き込んだのだ。
結果、箒は立ち上がり、しゃしゃしゃ、と落ち葉を払っている次第である。
「……じろーさん、すごいです」
「ありがとう、桜華」
きらきらとした目を俺に向けてくる桜華。
「ここは俺がやるから桜華は休んで良いぞ。おまえ今日非番なんだからさ」
すると桜華が「…………」と俺を見つめてくる。
「どうした?」
「……どうして、じろーさんは。同じ男の人なのに、あの人とこんなに違うの……」
とぶつぶつと桜華が、何事かをつぶやいている。
「桜華?」
「…………っ」
桜華が我にかえる。
「……ご、ごめんなさいじろーさん。ぼうっとしてました」
ぺこぺこ、と頭を下げる桜華。ばるんばるん、とでかい乳房がとんでもない立体軌道してた。
「い、いや気にすんなって。ところでどうしたんだ? なにかぶつぶついってたけど」
桜華はきゅっ、と下唇を噛んだあと、
「……なんでも、ないです」
と言って、それ以上なにもいってこなかった。
俺は竹箒で落ち葉を集める。桜華はその場につったって、俺をじいっと見つめていた。
ややあって、落ち葉がこんもりと集められる。
5つくらいの山が完成した。
「にぃ、こんなにはっぱをあつめて、なにするの?」
がさっ! と落ち葉の山から、コンが顔を出す。
「おまえ……頭に葉っぱがつくぞ」
俺はコンを落ち葉の山から救出し、抱き上げる。
「あたまにはっぱくらい、べつにね」
頭の葉を払ってやっていると、ふとコンのシッポに目をやる。
「コン、シッポに葉っぱついてるぞ」
「! それをはやくいってよ。はやくとってとって」
どうやらシッポに葉っぱがあるのは許せないみたいだ。なんだその謎のこだわりは……。
シッポの葉っぱを払ってやって、コンを下ろす。
「にぃ、なにするの?」
「ん。焼き芋しようかなって」
「!」
コンがクワ! と目を開く。
「わーにん、わーにん、みなのもの、しゅーごー」
コンが声を張って、子供たちを集める。
「なんだなんだ」と子供たちが集まってくる。その場にいた桜華とマチルダ、そして一花もやってくる。
「みなのもの、おいしーけーほーはつれい」
「「「!」」」
獣人たちのシッポがぴーんと立つ。
「おいしーけーほーがはつれーしたです!」
「楽しみなのです-!」
わー! と子供たちが歓声を上げる。
「ちょっと待ってな。すぐ用意してくるから」
俺はその場を一旦離れる。
調理場へ行って、棚の中からサツマイモを取り出す。銀紙に包んで……完成。
「よし」
「……あの、じろーさん」
気づけばまた、桜華が後ろに立っていた。
「……あの、お手伝いをと思いまして、……別に、深い意味は、その」
顔を赤らめ、モジモジする桜華。
「ありがと。でも大丈夫だ。準備はこれで完了だ」
俺は焼き芋というものを作ることを桜華に説明する。
「……でも、それ一個じゃ足りないのでは?」
「ああ。だからこうする」
俺は調理場を離れて、建物の地下へ向かう。
地下にある作業場。ここには足湯があり、竜の湯から引っ張ってきたお湯が張ってある。
俺は銀紙に包まれたサツマイモを、【複製】スキルを使って、大量に作る。
マジック袋に大量の銀紙を巻いたサツマイモを入れて、その場を後にする。
庭へ行き、子供たちの元へ行く。
あとは火属性魔法で火をつけて、落ち葉の中に銀紙で包まれたサツマイモを入れる。
「なー、おにーちゃん。まだーです?」
「まだまだ」
「にぃ、まだ。おなかとせなかがふゅーじょんしてごてんくすになる」
「もうちょい」
「あう……にーさん、らびはもう……」
「よし、できたぞー」
俺はその辺に落ちてた枝を使って、銀紙の包みを、葉っぱの中から回収する。
少し冷ましてから、
「コン」「こういうときのこんさん」
と言って、コンに銀紙を手渡す。
「コン。んなぴかぴかのやつくえねーです?」
「ふふ、これをはずす。なかみはこれ」
銀紙を取り外すと、そこには紫色のほくほくとしたサツマイモが出てくる。
ぎゅるるぅ~~~~~~………………。
と子供たちが腹を鳴らす。
「な、なんだかとてつもなくうまそうなにおいがするです……」
「よだれがとまらないよー……ぉ」
じゅるり、と子供たちが涎を垂らす。
コンは両手でサツマイモを持って、縦にわる。
「! なんじゃそりゃー!」「きんいろの……ほくほくしたおいもさんなのです!」
サツマイモはほどよく焼けていた。
「バターはいるか?」「いらぬ。まずはなにもつけずに」
あむ……とコンがサツマイモを食べる。
コンのシッポが、ぶんぶんぶんぶん! とヘリコプターのように動く。
はぐはぐまぐまぐ、と食べて。けぷ……とかわいらしくゲップし。
「うますぎけーほー、はつれー!」
と声を張る。
コンがうまいといったので、子供たちが一斉に銀紙を手に取る。
サツマイモを割って、ぱくっとたべる。
「はふはふっ! あめー! なんだこれあめー!」
「かにくがとろとろでおいし~のです~♡」
「アカネちゃんおいしねー……ぇ」
「芋って、芋って! 芋なのに……デザートじゃねーかー!」
わー! と子供たちが喜色満面で、ほくほくのサツマイモを食べていく。
俺は1つ取って、桜華に手渡す。
「ほら。熱いから気をつけてな」
「…………」
ぼうっとした状態で、桜華が俺を見つめてくる。心なしか、目が潤んでいた。
「桜華?」
「……え、あ、すみません。ちょっとなつかしくて」
「なつかしい?」
いえ……と言って、桜華が首を振るう。そしてぱくと食べて、どんどんと食べていく。
「おにーちゃん、おかわりー!」
「あ、ああ……。たくさんあるから、遠慮無く食えよ」
「「「おー!!!」」」
お疲れ様です!10章スタートとなります。
秋らしいことやりつつ、桜華のことに触れてく感じになります。
次回もよろしくお願いします!




