62.子供たち、深夜にこっそりラーメン食う
いつもお世話になってます!
ジロが休日を取り、その翌日にアムとマチルダが休みを取った、その日の夜。
ウサギ獣人のラビは、ふと、目を覚ます。
むく……っと起き上がる。また尿意を催したのか……と思ったが、そうでもなかった。別にモジモジとするわけじゃない。
「なんだか……あれ?」
目をこしこし、と擦る。ベッドに横になる。目を閉じて意識が沈むのを待つ。
かち……こち……かち……。
壁に掛けてある時計の音が、いやに大きく感じた。目をきゅーっと閉じて体を丸めても、ぜんぜんウトウトしてこないのだ。
眠ろうと努力して、ころころ、と体勢を変えてみるけど、だめ。まるで眠くならない。
「あう……寝れないのです……」
むく……っとラビが半身を起こす。
なぜだか知らないが、今はまったく眠くないのだ。
困った。夜は眠らないのといけないのに。他の子たちはみんな寝ている。自分だけが取り残された気がして、さみしくなった。
と、そのときだ。
「へろー」
にゅっ、とラビのベッドの上に、きつね娘のコンがやってきた。
「わっ。コンちゃんっ」
いきなり現れたコンに、ラビが驚く。
「しっ。みんなおやすみちゅー。おしずかに」
しっ……とコンが口の前に指を立てる。ラビは口を手で押さえて、コクコクとうなずく。
コンがよいしょとラビの隣にやってきて、腰を下ろす。
「らびもねむれぬ?」
「はいなのです。コンちゃんも?」
「みーもねむれぬ。おひるねしすぎたからかな」
「あ、そっかぁ」
今日はアムとドッジボールで大いにはしゃぎすぎた。だから終わったあと、ラビたちは疲れて、夜まで眠ってしまったのである。
「コンちゃんはなんでもしってるのですっ。はくしきなのですっ」
「はくしきなんてむずかしいことばよくしってるね。らびのほーがはくしきだ」
えへー、とコンとラビが笑い合っていると、
「おめーらも起きてるです?」
にゅっ、とキャニスが、ラビのベッドによいしょと乗ってきた。
「きゃにすもどーこーのしか?」
「コン、おめーむずかしーことばつかうんじゃねーです」
「あいむそーりー、ひげそーりー、あべそーりー」
? とキャニスとラビが首をかしげる。
「ぎゃぐがすべるほど恥ずかしいものはない……」
ひゃぁ、とコンが自分のシッポで、顔を隠す。
「めがさめちまったです。おめーらもそんなかんじか?」
キャニスの問いに、ラビとコンがうなずく。
「ねなきゃいけないのに、ねれないのですー」
ラビが目を><にして言う。
「まーまてらび。みーはすごいことにきがついたよ」
「ほ-、コン、いってみろやです」
うん、とコンが頷いて言う。
「よるおそくまでおきてるみーたち……おとなっぽい」
ラビとキャニスが顔を合わせる。そして……
「「たしかにー!」」
と同意した。
「たしかに言われてみっと、おにーちゃんもおねーちゃんたちも、よなかまでおきてやがるです」
「でしょでしょ? つまりよなかまでおきてるみーたちも、おとな」
「「いわれてみればー!」」
と目を剥くキャニスとラビ。
「よるおそくまでおきてるぼくら、かっこいい?」
「ひゅー、きゃにすかっこいいよ、ひゅうひゅー」
コンにはやし立てられて、キャニスは照れ照れと、頭をかいた。
「しかしねむれねーから、ひまでやがるです」
ベッドの上で車座になるキャニス、ラビ、コン。
「ここはてーばんの、こいばなでもする?」「「こいばなー?」」「しまった。まだはやかったか」
うむむ、とコンが腕をくむ。
「おいコン。こいばなってなんだです?」
「きみたちにはまだはやいやつよ」
ぴっ……とコンが手で×をつくる。
「んだよー、じゃあコンはこいばなできんのかよー」
「ふふふ、どくしゃのごそーぞーにおまかせするよ」
? とキャニスとコンが首をかしげる。
そのときだった。
……ガチャッ。
と、子供部屋のドアが開いたのだ。
「! まじーぞおめーら! お兄ちゃんかも!」
「おそくまでおきてたら、にぃにおこられちゃう」
「はわわっ、はわわわわっ! に、にーさんごめんなさいっ、らびたちその……」
しかし予想に反して、
「んー……ぇ。どうしたのー……ぉみんなー……ぁ」
「…………」
ドアのところにたっていたのは、鬼姉妹のあやねとアカネだった。
「ンだよー。おどかせんじゃねーです」
ほっ……とキャニスが安堵の吐息を吐く。
「おどろかしちってー……ぇ、ごみんねー
……ぇ」
ぽわぽわとあやねが笑いながら、妹を連れて、キャニスたちの元へ行く。
「あやねたちはうぇとぅーごーしてたの?」
コンの言葉に、鬼姉妹が首をかしげる。
「あの、あやねちゃん。たぶんコンちゃんはどこいってたのっていいたいんだと、思うのですっ!」
すかさずラビがフォローを入れる。コンが「それよそれそれ」と何度も頷く。
「おトイレいってたんだー……ぁ。アカネちゃんと一緒にー……ぃ」
「…………姉貴、ごめん」
アカネが尿意を感じて、トイレに行こうとした。しかし1人で行けないからと、寝てる姉を起こしたのだ。
申し訳なさそうに肩をすぼめるが、姉はケラケラとわらって、「気にしないで良いよー……ぉ」と言う。
「あやねはえれーやつです」
うんうん、とキャニスがあやねを褒める。
「よるにおきてあげるなんて。ちゃんねーのみーかがだね」
「「「?」」」
これには全員が何を言ってるのかわからなくて、首をかしげていた。おねーちゃんの鑑だね、といいたかったらしい。
「またすべってしもうた。はずかしい……」とコンがシッポを抱いて悶える。
あやねはコンを見たあと、キャニスの方を向いて言う。
「それでー……ぇ、キャニスちゃんたちはー……ぁ、なにしてたのー……ぉ?」
よいしょ、とあやねがベッドに乗っかる。アカネがうんしょうんしょ、と登るのに苦労していた。姉が手を伸ばして、よいしょと持ち上げる。
「ぼくらめがさえちまったんです」「めがしゃきーん、ってなってるの。めがしゃき、めがしゃき」
なるほど、とあやねがうなずく。
「たしかにおいらもー……ぉ、いっかいおきたら目がしゃきってしたー……ぁね」
「姉貴……。ごめんね」
「だからアカネちゃんのせーじゃないってばー……ぁ。きにしすぎだなー……ぁ」
ていてい、と姉が妹の脇腹をくすぐる。すぐに晴れやかな表情になって「や、やめろよぉ」と笑った。
「これでこどもはぜーいんおきてることになるんです?」
「キャニスたいちょー、れいあたいいんがねてます」
子供たちがレイアのベッドを見やる。竜人少女はあおむけに大の字で寝ていた。その腹の上で、黒猫のクロがくぅくぅと寝息を立てている。
「あいつすげーです」
「れいあちゃんも、らびたちとおなじくらいひるねしたたのに……」
目を丸くする子供たちにお構いなく、レイアは熟睡してたのだった。
☆
「はらへってねーか、おめーら」
ベッドの上で車座になる5人。キャニスが唐突に、そう言った。
「いわれてみるとたしかにぺこちゃん」
コンが同意を示す。
くぅ、と可愛らしいお腹の音を立てたのは、ラビだった。
「あぅっ」「ラビちゃんはおなかのおとまでかわいいねー……ぇい」「うう、恥ずかしいのです……」
かぁ、っとラビが顔を真っ赤にする。
「そういうおいらもおなかがすいたねー……ぇ」
妹鬼もそうなのか、姉に同意するようにしてうなずく。
「よーし、おめーら」
すちゃっ、とキャニスが立ちあがる。
「どうしたきゃにす。うちいりするの。しじゅーしちしてきな?」
「ちげーです」ぷるぷる、と犬娘が首を振るったあと、
「めしくいにいくぞ、です」
キャニスの提案に、子供たちは「「「どこにー?」」」と首をかしげる。
「そりゃあ、しょくどーにきまってんです」
「「「おー……」」」
子供たちはしかし、ちょっと乗り気じゃないみたいだ。
「それはさすがにでんじゃらすぞんびでは?」
危ないのでは? と言いたいらしいコン。
「ま、ままたちに怒られちゃうのですー」
きゅーっとラビが目を閉じて言う。
「ばっかおめー、みつかったらおこられるにきまってんです」「「「でしょー」」」
けど……とキャニスが続ける。
「ばれなきゃ……おこられねーです」
にやり、といたずらっ子のように、キャニスが笑う。
「ばれなきゃ、いかさまじゃあ、ないんだぜ、ってやつですねわかります」
コンが立ちあがると、にやり、と黒い笑みを浮かべる。
「おいキャニス。ンなこっそり隠れてなんてだめだって」
「アカネは食いたくねーです? ラーメン」
クワッ……! とアカネが目を大きく見開く。
「ら、ラーメン……」
わなわな、とアカネが唇を震わせる。くぅ、と可愛らしくお腹が鳴った。顔を真っ赤にして、姉の後に隠れる。
「よるのかっぷめん、かくべつだね」
「なー、コン。おめーもそーおもうだろ?」
「たしかにうまそぉだー……ぁね」
じゅるり……とあやねが口元をぬぐう。自分のではない。妹のである。
「らび、おめーはどうするです?」
みんなはこのまま食堂へ行きそうな雰囲気だ。優等生のラビはどうするか? とキャニスが聞いてるのである。
「らびは……らびもっ、みんなとらーめんたべたいのですっ」
意外にもラビも乗ってきた。
「よーし、おめーらいくです。ぼくにつづけっ!」
ひょい、とキャニスが華麗に着地を決める。子供たちは犬娘のあとを、てててっ、とついていく。
こっそりと二階の階段を使っておりて、一階へ。そこから東ブロック、食堂へと進む。
「おにーちゃんたちがカップ麺を隠してやがったです。たしか……このあたり……」
調理場の棚をキャニスが漁る。
「きゃにすたいちょー、みつかりましたぜ」
にゅっ、とコンが別の棚から出てくる。その両手にはしょうゆと塩味のカップ麺があった。
「でかした、コン」
キャニスはコンからカップめんを受け取り、ビニールを破る。
作り方はジロが作るところを何度か見ているので、子供たちもわかっていた。
「しまった。おゆがねーです」
「キャニスちゃん、だいじょーぶなのです!」
ラビがケトルに水を入れる。ぱち……とスイッチを入れて待つことしばし。
「すげーおゆができてやがるです!」
「「「ラビちゃんすごいー!」」」
やんややんや、とラビをはやし立てる。
「えへっ♡ にーさんがやってたの見てたのです」
お湯ができたので、さっそくカップ麺にお湯を注ぐ。
「こぉー……してにーちゃんたちにかくれて、こそこそするのー……ぉ、たのしいねー……ぇ、アカネちゃん」
「だな。わくわくする」
鬼姉妹、そして獣人たちが、カップ麺を囲んでじゅるり……と涎を垂らす。
「まだかっ、まだかっ」
キャニスのしっぽがぶんぶんぶん! と激しく回る。
「せいせい。おちつけキャニス。おゆをいれて3ふんまつ」
コンが手でバッテンを作る。
「待ちきれねーですっ」「おなかすいたのですー」
と待つこと3分。
ついにカップ麺が完成した。
ぺり……っとふたを取ると、ふわり、と香ばしい醤油と塩のにおいがする。
「んじゃおめーら、これをみんなでわけるです」
「「「おー!」」」
「ばっか。こえがでけーです。しずかに」
「「「おー……」」」
子供たちがフォークを片手に、今まさにラーメンを食おうとした、そのときだった。
「ちょーーーーーっとまったー!!!」
大きな声が、調理場の出入り口からした。
「れいあをなかまはずれにすんじゃないわよー!!!」
バサッ! と竜人が翼を広げて、子供たちの前に着地。
「あんたたちだけでうまそーなもんくってんじゃないわよっ。れいあとクロにもわけなさいよ!」
「みー!!!」
大きな声で、抗議する竜人と子猫。
「バカッ! おめーらしずかにしろやです! おにーちゃんにバレちまうだろです!」
「は、はわわ……キャニスちゃん、声がおっきーのです」
わあわあ、と騒いでいた、そのときだった。
「なにしてるんだ、おまえら?」
食堂の方から、ジロが、やってきたのである。
子供たちがビクゥッ! と体を硬くする。
「お、おにーちゃん……」「にぃ、これはちゃうねん」「に、にーさん……」
はわわわわ、と子供たちが慌てる。
ジロは調理場のカップ麺を見て、子供たちを見て、頷く。
「なるほど……」
「お、おこるならぼくをおこれやですっ!」
バッ! とキャニスが子供たちをかばうようにして前に出る。
「ぼくがラーメン食おうっててーあんしたです。こいつらはついてきただけです。怒るのはぼくだけにしろやですっ」
両手を広げてキャニスが言う。
「にぃ、ちゃうのん。みーもくいたいっていったの」
「ら、ラビもです」「おいらもだよー……ぉ」「アタシも」
そう言って、コンたちが、キャニスの前に並んでたつ。
「おめーら……」
「おこるならみーたちも」「らびもいっしょにおこってほしーですっ」
するとジロは……。
「……怒らないよ」
ふっ、と笑ったのだ。
「俺もたまに夜中に腹減ることあるしな」
その声には柔らかさがあった。とがめるニュアンスはないみたいだ。
「おこって、ねーです?」
「まさか。そんなわけないだろ」
ジロは調理場へやってくると、子供用の小さな器を6人分、取り出す。
カップ麺を3×2で6等分して器に盛ったあと、子供たちの前に出す。
「ほら、冷めないうちに食えよ」
「「「…………」」」
子供たちは顔を見合わせる。くぅ、とお腹の音が鳴った。
「「「いただきまーすっ」」」
子供たちはガツガツと夜のラーメンを食べる。
「うめー!」「よみせのらーめん、とてもうましうまし」「いつもとちがってなんだかおいしーのですっ」
ちゅるちゅる、と子供たちがラーメンを食べ終える。
空いた器はジロが回収。
「皿洗うからおまえらは先に寝てろ。あ、寝る前に歯は磨けよ」
「「「はーい!」」」
子供たちが調理場から出て行く。
「おにーちゃんさんきゅー!」「にぃ、てんきゅー」「にーさん、いっつもありがとーなのです!」「にーちゃんおやすみー……ぃ、ありがとー……ぉ」「あんがと」「れいあねむーい」
口々にジロに礼を言って、子供たちは食堂を出て二階へ。
歯をシャコシャコと洗いながら、今日のことを話し合う。
「よるのらーめんうめーかったです」「とてもおいしい。やみつきになるね」
上機嫌にシッポを揺らすキャニスとコン。
「にーさんがゆるしてくれてよかったのです」
「そーだー……ぁね。にーちゃんはやさしぃねー……ぇ」
「「「それなー」」」
と子供たちは同意し、がらがらぺっ、する。
そして子供部屋へと戻り、ベッドに横になる。すると不思議と、さっきまでなかった睡魔に襲われた。
すとん……まるでスイッチを消したかのように、子供たちがすぐに寝息を立てるのだった。
お疲れ様です。これにて幕間終了となります。
次回から10章に入ります。
ではまた!




