59.子供たち、衣替えする
いつもお世話になってます!
クロを改めて飼うことになってから、翌週の出来事。
朝。俺は子供たちを起こしに部屋へと行く。
「ぐー……」「すぴょすぴょ……もうたべれぬ」「すぅー……すぅー……」
二階の子供部屋は、2部屋をぶち抜いて作ったので広い。
そこには6つベッドがあるのだが、そのベッドのいくつかが、カラになっている。
半分くらいカラだった。
「ぐぐぅ……」「すぴすぴ……すぴすぴ……すぴっすぴ。いっきゅうさん……」「くぅー……」
入ってすぐのところにあるのが、ラビのベッドだ。
そこに犬娘のキャニス、きつねっこのコンがいて、ラビとくっついて眠っている。
コンを真ん中にして、キャニスとラビが、コンのきつねシッポを抱きかかえるようにして眠っている。
ぴったり3人で身を寄せ合って、くうくうと気持ち良さそうに眠っている。
「んー……ぇ。んんー……ぅ」「…………」
その一方で、隣のあやねのベッドには、妹鬼のアカネがいた。
姉の体に妹鬼がくっついている。あやねは妹の頭を抱きかかえながら、小さく寝息を立てている。
「んがー……。んごー……」「みぃー……」
反対側のベッドには、レイアがあおむけに寝ていた。そのお腹の上に黒猫のクロがとぐろを巻いて眠っている。
子供たちはめいめいが、肌を寄せ合い眠っていた。夏場はそんなこと無かったのだが(アカネ・あやね除く。ふたりは年中同じベッドで寝てる)。
俺はまず獣人たちを起こす。
「ほら、キャニス。コン。ラビ、朝だぞ」
犬娘ときつね娘は軽く肩を揺するだけ。ラビは朝が弱いので抱っこし、よしよしと背中をぽんぽんと叩く。
「あさかー! さみー!」
がばっ! とキャニスが1発で起きる。
「さみーあさはやっぱコンのシッポにかぎるでやがるです!」
だきーっ、とキャニスがコンの自慢のシッポに抱きつく。もふもふのふわふわなので、確かに温かそうだった。
「ふゆはやっぱこれだね、ろってのとっぽ」
ぱち……とコンが目を開けて、キャニスを見やる。
「みーのしっぽのまりょくにとりつかれたものがまたひとり……。みーはましょーのおんな?」
コンが俺を見上げて聞いてくる。
「だな。おまえのシッポは確かに魅力的だよ。触りたくなる」
「おさわり1かいひゃくえんね」
「金取るのかよ……」「じょーだんのつうじぬひとですな」
やれやれ……とコンが首を振るう。
そうこうしているとラビがパチ……っと目を覚ます。そしてモジモジ……と体をよじる。
「トイレか?」「なのです」「わかった。ほらみんなおきろー。起きたヤツからメシなー」
俺はあやねたちに声をかける。姉鬼は起きると、妹の髪を優しく撫でながら「アカネちゃん、朝だよー……ぉ」と妹を起こしている。
レイアはお構いなしに眠っていた。あとで起こしに行こう。
「いくぞコンっ! あさめしくいに!」
「きょーはさむいからみそしるがのみたいね」
てててー、っとキャニスとコンが出て行く。
俺はラビを連れて2階渡り廊下、トイレへと向かう。子供用のトイレの前にラビを下ろす。
「みんなメシ行ったけど、急がなくて良いからな」
トイレの外で、俺がラビに言う。
ややあってじゃー……と水の流れる音がしたあと、ラビがガチャっとドアを開けて出てくる。
「にーさん。あさからありがとーなのですっ」
にぱっと笑ってラビが言う。水場で手を洗わせたあと、お手ふき用のタオルを、俺がラビに手渡す。
「そんじゃ食堂行くか」
「…………あの、にーさん」
もじもじ……とラビがまた身を捩る。トイレではないだろう。さっきしたばかりだからな。
「あの、あの、あの」「はいよ」
俺はラビの体をよいしょと持ち上げる。ラビは嬉しそうに俺の体にきゅーっと抱きついてくる。
「えへへっ。にーさんのおと、らびはだいすきなのです」
ラビが俺の心臓に耳を当てる。そしてぴくっ、ぴくっ、と微細に動かす。
この子は耳が良い。こうして耳を当てて心音を聞くのが趣味なのだそうだ。
ラビを連れて一度子供部屋へ行く。
まだレイアとクロが寝ていたので、揺すり起こす。
目覚めたレイアとクロを連れて、俺たちは食堂へと向かった。
「おせーぞおめーら」「みーはもうおなかがぺこぺこのぺこちゃんだよ」
ぷー、とキャニスとコンがほおを膨らませる。
俺はコンの隣にラビを座らせる。
「みんなごめんなのです」
申し訳なさそうにラビが眉をひそめてそう言った。
「ま、しゃーねーなです」「きにせずともよい」「そもそもれいあちゃんねぼうしてたしねー……ぇ」「そうだぜラビちゃん。気にすんなってよ」
子供たちがラビを許す。レイアは「ごはんまだー!」「みー!」と実にマイペースだった。
調理場からエプロンを着けたコレットが出てくる。
子供たちの前に立つと、
「はーい。じゃあみんな、今日はどっちが良いかな。和食の人!」
「ぼくー!」「みー」「みー」
キャニス、コン、そしてクロが返事をする。
「おやかぶった。きゃらかぶりか」
「みー?」
「みーはみーのせんばいとっきょ。つかっちゃめ。しようりょーはらうべき」
「みー?」
「ぐぬぬことばかつうじぬ、じつにはがゆい……」
洋食はラビと鬼姉妹、そしてレイアになった。
食卓には和食だと温かい味噌汁が、洋食だとポタージュスープが出る。
頂きますをした後、子供たちが真っ先に手をつけたのは、スープだった。
「みそしるはうめーです……」
「みそすーぷ、つくるては、やさあしさにあふれてた」
ふにゃり、とキャニス・コンのしっぽがお湯に入れたとろろ昆布のようにふやける。
「ままっ、すーぷおかわりなのです!」
「アカネちゃんもー……ぉ。おかわりだってー……ぇ」
「あ、姉貴いいよ。自分のは自分で言えるよ」
ラビたちもポタージュスープをずずずっと啜る。
「やっぱさみーひはあったけーすーぷでやがる、です」
「「「それなー」」」
と子供たちがキャニスに同意するようにうなずく。秋に入り、朝晩は冷え込む。日中は日差しがあると暖かいが、日陰へ行くと寒い。
「そろそろみんな衣替えの時期だな」
☆
その翌日は、クゥのところで仕事をする日だった。俺はクゥのところで買い物をした後、家に戻ってくる。
「ただいまー」
夕方、俺が孤児院のドアをくぐると、一階ホールには子供たちがいた。
「にーさんっ」
ラビが真っ先に俺に気づくと、てててっと駆け寄ってくる。ぴょんっ、と飛び込んできたので、俺はラビを受け止める。
「ただいまラビ」
「おかえりなのですにーさんっ!」
すりすり……とラビが俺に頬ずりする。
「やれやれらびはおこちゃまでやがるです」
「そうはいうな。らびはこどもだからね」
キャニスとコンは、テーブルを挟んで、ジェンガをやっていた。俺が複製で出したものだ。
「みーはこのぶろっくをとる」
コンが真ん中のジェンガをすっ……とシッポでつついて抜く。
「あ、コンてめー。まんなかとるなって」
「そんなるーるはない。あえていうならみーがるーるだ」
ジェンガに夢中のキャニスとコン。
「アカネちゃん、うごいちゃだめだよー……ぉ」
「わかってるよ、姉貴」
鬼姉妹はソファに座って、姉が妹の髪の毛を三つ編みにしている。
「くろ、あんたつめのびてるわよ。れいあがかじってあげようか?」
「みー♡」
レイアはクロとおしゃべりしている。
「あ、そうだ。みんなにお土産があるんだ」
と、軽い気持ちでそう言うと、
「「「おみやげー!!!」」」
コンがジェンガをなぎ倒し、鬼姉妹は髪の毛を編んでる途中で立ちあがり、レイアはクロと一緒にびょんっ! と俺に抱きついてくる。
「なーなー! おにーちゃんおみやげみせろやです!」
「おみやげっていいひびき。りゅーこーごたいしょーにはいってもおかしくない」
わあわあ、と子供たちが俺のズボンにしがみついてくる。
「み、みんなげんきんすぎるのですっ」
「こどもだからね、しかたないよね」「コン、おめーもこどもでやがるです」
子供たちが早く早くと急かすので、マジック袋(【無限収納】が付与された袋。何でも入る)から段ボールを取り出す。
どさっと出した段ボールに、子供たちが群がる。
「くいもん?」「ならづけ?」「おいしいものかなー……ぁ」「甘いのがいいな」「れいあはからいのー!」
全員が食べ物を想像しているみたいだった。
「すまん、食いもんじゃない。着るものだ」
「ばっとーさい?」「ちげーだろです」
コンにキャニスがツッコミを入れる。子供たちは日本の漫画を読んでいるので、俺じゃなくても、コンのボケにツッコめるようになってきているのだ。
「これは子供用の冬服だ」
段ボールから取り出したのは、子供サイズの洋服だ。
ロングTシャツ。スウェット。パーカーにダウンベスト。カーディガン。
どれも俺が地球の物品として複製したものだ。それを商業ギルド・銀鳳商会に技術提供した。
俺の渡したものを元に、こうして現地でも服を、クゥたちが作っているというわけである。
「着てみるか? 温かいぞ」
すると子供たちがワッ……! と長袖シャツや上着に袖を通す。
「おー! このもこもこのべすと、すんげーあったけーです!」
キャニスがダウンベストに手を通して、ぶんぶんぶん、とシッポを激しく振るう。
「スウェットいいね。うらにうもうのかこうがされてる。さすがゆにくろくおりてー」
無地のスウェットを着たコンが、ぶんぶんぶん、とキャニスと一緒にシッポを振るう。
「しかもじゅーじんよーにあなあいてるやん。おきゃくさまのこえにおこたえしてる。ほすぴたりてーをかんじる」
「難しい言葉知ってるなー」「みーはきむずかしいこだからね」
そんなことは無いと思う。
「はわわ、このうわぎ……とってもかわいいのです!」
「いいねー……ぇ。うえからかんたんにはおれるよー……ぉ」
「姉貴、あたしピンクやだ。姉貴のとおそろいが良い」
ラビと鬼姉妹はカーディガンを気に入っているようだ。俺は姉鬼が着てる黄色いカーディガンを妹に手渡してやる。
「れいあはパーカーがいい。クロをここにいれるの」
「みー!」
レイアはパーカーを羽織って、フードのところにクロが入る。クロは定位置をみつけたとばかりに、喜色満面になっていた。
「ぼくもパーカーほしーです!」
「ぱーかーのうえからだうんべすときると、しゃれおつだよ」
「! そのはっそーはなかった! コン、やるな!」
「やりおるまんだからね」
キャニスはレイアと同じパーカーを着て、上からダウンを羽織る。
「キャニスちゃん、おしゃれっ! とってもおしゃれなのですっ!」
「かぁっこいいねぇー……い」
ぱちぱち……と子供たちが拍手する。
「や、やめろや。くすぐってーです」
キャニスが顔を紅く染めて、ぽりぽりとほおをかく。
「れいあもおしゃれになるんだからっ!」
レイアもキャニス同様にパーカーの上からダウンベストを羽織る。
「ふふ、ではみーも」「らびもっ!」「おいらもー……ぉ」
子供たちがキャニスと同じ格好になる。色違いではあるが、キャニスのかっこいい着こなしをみんなまねしていた。
「ひゅー、キャニスがりゅーこーつくってるよー。かっこいいよひゅー」
コンがはやし立てると、キャニスが顔をてれてれさせながら、
「これならさみーおもいしなくていいです!」
「よるもこれならあたたかくねれるね」
「そうだー……ぁね。これならひとりでねれるねー……ぇ」
「…………」
「じょうだんだよー……ぉ。これからもいっしょにねていいんだよー……ぉ」
「べ、別にそこ気にしてねーし……」
かくして、子供たちに、秋冬用の服が導入されたのだった。
お疲れ様です。次回も掌編です。職員たちのシフトの話をします。
ではまた!




