51.夜はバーベキュー、そして海へ
いつもお世話になってます!
子どもたちと海で遊んだその数時間後。
すっかり日は落ちて、あたりが暗くなってきた。
俺たち職員は子どもたちを連れて、海から撤収する。
別荘には銀鳳の鎚が技術提供しているのか、俺たちの孤児院にあるような風呂があった。
子どもたちを風呂に入れた後、俺たちは夕飯の準備を進める。
孤児院であらかじめ作っておいた食材をマジック袋(【無限収納】を付与した袋)から取り出す。
また袋からバーベキュー用のコンロ、蚊取り線香といった、野外で食事するため必要な物を取り出す。
俺たちは別荘の外、海の見えるウッドデッキにて、夕食の準備に取りかかる。
食材等の用意はコレットと桜華、残りは火をおこしたり食器を用意したりする。
その間に、子どもたちはデッキから海を見下ろしていた。
「はええー……きれーでやがるです……」
キャニスたちはデッキの端っこに腰を下ろして、足をぷらぷらさせながら、沈む夕日を見つめていた。
「すごいのです……。まるでオレンジ色の宝石なのです……♡」
水平線に沈みゆく太陽に、ラビが見入っている。垂れた耳が潮風に吹かれて、ぱたぱたと流されていく。
「あぁー……。すごいねー……ぇ。これがうみかー……ぁ」
「…………おねぇ、ちゃあぁ……ん」
「おー……ぅ。こんなところで寝たらー……ぁ。あぶないよー……ぅ」
姉鬼が妹の肩を支える。アカネは海で泳ぎ回って疲れてしまっているみたいだった。
現にレイアはすでに仰向けに倒れて、グースカピーと眠ってる。
「もー……ぉちょっとでごはんだから。がんばっておきてよぉねー……ぇ」
「うん……わかった」
ぐしぐし、とアカネが目を擦る。だが眠いのか、結局姉の肩にこてん、と頭を乗せる。
あやねはよしよしと頭を撫でながら、なるべく動かないようにしていた。
「コン、うみはすげーな。およいだりすいかわりできるだけじゃなくて、こーやってみてもおもしれーです」
キャニスが隣に座るコンに言う。
「そうおもえるのなら、キャニスもりっぱなしょうなんぼーい」
とどや顔でそう言う。
「しょーなんってなんです?」
「みーのうまれこきょー。しょーほくじゃないよ。きみがすきだーと、さけんじゃうゆえ」
「コンちゃんはたまによくわからないことをゆーのです。それがかっこいいのです!」
「やめーや。ほれてまうやろ」
ひゃー、とコンが自分のふかふかしっぽで顔を隠す。
「けっきょく、はなみちは、はるこさんとつきあったのかな?」
「コン、だからおめーなんのはなししてやがるです?」
「おとなにしかわからぬわだい。しょせんみーはふるきじだいのおんな……」
ふっ……と哀愁を漂わせるコン。
「あ! でもコンちゃん!」
ぴんっ、とラビが耳を立たせる。
「いまのって……孤児院にあった漫画の話しな気がするのです!」
するとコンがぴんっ! としっぽを立たせる。
「らび。おぬしスラダンよんだのか?」
「はいなのです! とっても面白かったのですー!」
地球の漫画は、孤児院にいくつか出しておいてある。ラビは文字が読めるため、そこにあった漫画をたくさん読んでいるみたいだ。
「みーのわだいに、ついてこられるきょーてきしゅつげん……。たぎる」
「ンだよー。ぼくをなかまはずれにすんじゃねーです」
ぷー、とキャニスが頬を膨らませる。
「きゃにすももじをおぼえよう。いっしょによもうぜ。ひだりてはそえるだけ」
しゅっ、とコンがシュートを打つポーズを取る。キャニスと鬼姉妹が首をかしげる中、
「そえるだけ!」
しゅっ、とラビだけが、コンと同じポーズを取る。
「ぐぬぬ……ふたりだけではなされてつまんねーです。よし! ぼくももじをおぼえるです!」
「おいらもおぼえたいよー……ぉ。らびちゃんおしえてー……ぇ」
あやねたちの要求に、ラビが「もちろんなのです!」「みーもちからかすよ。おたすけまんだからね」コンと一緒にうなずいていた。
そうこうしていると、
「ジロくん♡ 準備オッケーよー♡」
コレットが別荘の中から出てくる。
彼女はミニスカートにキャミソール、その上からパーカーを羽織り、髪をポニーテールにしてる。衣類は銀鳳が、地球の技術を流用して作ったのだろう。
こういう若い格好をしていると、コレットは女子高生にしか見えない。
とくにミニスカートから覗く、肉ののった白い太ももが実にエロい。
俺の視線に気づいたコレットが、「えっち♡」と言ってスカートから伸びる足をすすすとあげる。下着がちらりと見えた。赤だった。それだけだ。
俺はコレットたちと協力して食材を、ウッドデッキへと運ぶ。
「おにーちゃん! きょーのめしはなんでやがるです!」
デッキの手すりに乗っかったキャニスが、俺に尋ねてくる。
「バーベキューだ」
俺はそう答えて、彼女に近づいて、ひょいっと持ちあげ抱っこする。
「危ないから降りような」
「コンもやってやがるけど?」
「おっととっと、なつだぜ」
ふらふら、とコンが手すりに乗っかって歩いていたので、コンも回収。キャニスとふたりを抱えて、ウッドデッキに置かれたイスに座らせる。
「にぃ、こどもからなんでもとりあげるのよくないよ。こどもはころんでそのいたみから、きょーくんをえるんだ」
コンが俺を見上げてそう言う。さっき手すりから下ろされたことを言っているみたいだ。
「めっちゃカッコいいなそのセリフ」
「ふふ、せやろ?」
「ただ手すりから落ちたら額にコブ程度じゃすまないからな。そこは見過ごせないよ」
「にぃのかほごっぷりにだつぼー。けどいやじゃない。あいされてるかんがする。にぃ、あいしてる」
ひゃあ、と言ってコンがしっぽを抱く。
「よーしメシにするぞ」
「むしはよくないとおもうけどね」
以前孤児院でやったように、炭火でひをたいて、網で串を焼く。
「ラビちゃん、これは何て食べ物なのー……ぉ?」
バーベキュー初心者の姉鬼が、隣に座るラビに尋ねる。
「これはばーべきゅーなのです! おいしいおにくなのです!」
「ほー……ぉ。あーむー……ぅ。んー……ぅ♡ まー……ぁい♡」
俺たちが焼いた串を、子どもたちの皿に盛っておいてやる。基本的に焼くのは俺。
アムやマチルダたちは、子どもたちに食べさせたり、口元をぬぐったりする。
コレットと桜華は、じゃんじゃん串を作っては持ってくる。
「アカネ、たれつけるとうめーです」
口の周りをタレだらけにしたキャニスが、正面に座る妹鬼に言う。
「あ? んだよタレって」
するとその答えに、コンが口を開く。
「ぇばらっやきにっくのたっれっ! ごーるでんなあじ」
市販されている焼き肉のタレを、コンがでん! とアカネの前に置く。
「これどうやってつかうんだよ……? 姉貴わかる?」
「んー……ぅ。わからないねー……ぇ」
「らびがおしえるのですー!」
ラビがアカネからボトルを受け取ると、「てりゃー!」とふたをポンっ、とあける。
とくとくとく……とアカネと、あやねのお皿に、ラビがタレを注ぐ。
「このお肉に、おーごんのたれをつけるのです!」
「するとてにはいる。おーごんたいけん、ごーるどえくすぺりえんすが」
バァアアアアンッ! と擬音が聞こえてきそうなポーズをコンが取る。
「とにかくアカネ、ぐだぐだいわずにさっさとくえやです」
キャニスに言われて、アカネがおそるおそるタレにちょん、とお肉をつける。そしてハグッと一口。
「どうです?」「どうなのです?」
わくわく、とキャニスとラビがリアクションを期待するように、妹鬼を見やる。
アカネはと言うと……。
「~~~~~~~!!!!!」
ばしばしばし、と隣に座る姉の肩を叩く。
「どしたー……ぁの?」
「! !! !!!!」
アカネが興奮しすぎて、言葉を出せてないようだった。あと単純に口に物を入れていてしゃべれないらしい。
「へいあやね、まずくえ。くえ、くえ、くえ、ちょこぼーるむかい」「やめろ」「え、なに? みー、こどもだからむつかしいことわかんにゃい」
すっとぼけるコン。
コンは時々とんでもねえネタをぶっ込むから怖い。スマホのない異世界で良かった。子どもに検索なんてされたら大目玉だ。
「コンちゃんがゆー……ぅなら、たべないとねー……ぇ」
あむ、とあやねが一口。
「おー……ぉ♡ これはいいねー……ぇ♡あまくて、あぶらとおにくとよくあうよー……ぉ」
「なっ! なっ! 姉貴っ!めっちゃうめえだろ! なぁっ!」
「そだぁねー……ぇ」
あやねは持っていた串を皿に置いて、ハンカチを取り出す。タレでべったりと汚れた妹の口元を、ハンカチでぬぐってやる。
妹は特に感謝の言葉を述べず、がつがつと串を食べる。姉は美味しそうに食べる妹を見て微笑み、自分もあぐあぐと食べる。
「おにーちゃんっ! くしがなくなった! はやくつぎよこせやです!」
アカネたちを見ていたら、いつの間にかキャニスが串をからにしていた。
「なにっ! れいあもおかわりよっ!」
「らびもっ、おかわりなのですっ!」
食欲旺盛な肉食系たちが、次々とお代わりを求めてくる。
前ならば、処理しきれなかっただろう。しかし今は違う。
「アム」「はいはい。ほらキャニス。新しい串よ。しっかりかんで食べてね」
アムに皿を渡して、キャニスに渡してもらう。
「あねきぃー……。くしおとしたぁー……
「だいじょぶだよ! ほらっアカネちゃん。新しい串もってきたからね!」
「ぐす……まちるだありがと~」
子どもが落としても、マチルダがフォローしてくれる。
「ジロくんいっぱい串作ってきたわ。焼くの交代しましょ♡」
「…………たくさんたべてください、じろーさん♡」
下ごしらえは料理の上手い職員に任せられる。交代して飯を食う。俺の次はアム。アムの次はマチルダと、かわりばんこで腹を満たす。
「…………」
以前はコレットとふたりで、回していた。あのときは忙しくて、食べてる暇なんてなかった。
けど……今は違う。職員が増えた。手伝ってくれる人がいる。
あの頃から……初めてバーベキューをやったあのときから、まだ数か月しかたってないのに。
「ずいぶんと、うちも賑やかになったもんだな……」
「……そうね、ジロくん」
ウッドデッキにあるイスに、俺が座る。コレットがいつの間にか焼く係をアムと交代して、俺の隣に腰を下ろす。
「たいへん?」
「まあな。けど全然だ」
コレットが手を伸ばしてくる。指を絡めてくる。
腹がいっぱいになったキャニスたちが、「うみいこー!」「いいねー」「きょうそうねっ!」とデッキをおりようとする。
「こらー! まだごちそうさましてないよっ、みんなっ!」
「まちるだがおこったでやがるですっ!」
「でもふしぎ、まったくこわくないふしぎ」
楽しそうな喧噪を見つめていると、不思議と、1日の疲れが取れてくるのだ。
☆
その後、夕食を取った俺たちは、海岸で花火をすることにした。
ただ市販の花火では、前回と同じだったので、工夫した。
俺は砂浜の砂を手に取り、土魔法【錬金】を使う。
これは土の成分を魔法で変えて、鉱物を作る魔法だ。
俺はこれを使ってナトリウムやリチウム、カリウムなどを生成。
手にそれらを持った状態で、海辺で空に向かって炎属性の魔法を、夜空に打ち上げる。
「すっげぇえええ!!! 黄色い炎だぁああああああ!!!」
「むらさきの炎がっ! ほのおのむらさきの鳥がとんでるのですっ!」
俺は錬金を使って鉱物を作り、それを火魔法で燃やして空に打ち上げる。
ナトリウムやカリウムといった金属は炎であぶると、特殊な色の炎になる。炎色反応ってやつだな。
それを利用して、炎魔法【火鳥】【炎虎】などの魔法を使って、ようするに擬似的な打ち上げ花火をした。
魔力供給はレイアに協力してもらった。子供用のプールを用意し、そこに海水を入れて、レイアに入って汗を流してもらう。
あとはそこに足をツッコんで、空に魔法を打ち上げる。
「たーまちゃーん」
擬似的な花火を空に向かって放っていると、コンがそんなことを言う。
「コン、だれですたまちゃんって?」
「はなびをみたらこういうの」
「ナルホド……たーまちゃーんっ!」
「「「たーまちゃーんっ!!」」」
俺の火魔法【爆発】が緑の爆炎をあげると同時に、子どもたちがそう言う。
「すまぬ。たまちゃんまちがえ」
ウソを教えて申し訳なくなったのか、コンが正しいやりかたをおしえる。
【爆発】の爆炎があげる。
「「「たーまやー!!!」」」
……そうやって打ち上げ花火をした後は、寝る時間だ。
子どもたちを連れて大きな寝室へと連れて行く。別荘にはたくさん部屋があって、バカでかいベッドがいくつもあった。
1つに1人寝かせても大丈夫だが、子どもたちがぐずったので、結局同じベッドで寝かせることにした。
夜は職員たちで集まってビールで打ち上げ。
桜華は一口ビールを飲んだだけでばたんと倒れた。
アムはノンアルコール。マチルダはビールを水のように飲んでいて驚いた。
軽く打ち上げをやったあと、その日は早々に就寝することにした。職員もだいぶ疲れていたようだ。
誰が俺の部屋で寝るかで一悶着あって、結局みんな別々の部屋で寝ることになった。
そして……夜も深まった、0時。
「…………ねれん」
蒸し暑くて、俺は目を覚ます。
むわりとまとわりつくのは、湿気を帯びた熱。俺は寝苦しくて部屋を出る。
そのまま別荘を出て、ウッドデッキまでやってきた。
「…………」
夜の潮風が、火照った体を冷やす。すごく気持ちが良い。しばらく風に当たっていようとした、そのときだった。
「ジロくん?」
別荘の方から、コレットがやってきたのだ。
「コレット。どうした?」
コレットはミニスカにパーカーという格好で、俺に近づいてくる。ビーチサンダルからのびる白い太ももに目がいきそうになる。
「寝苦しくって」
「そっか。俺もだよ」
「おそろいだね」
コレットが俺の隣にたつ。すっ……とコレットが俺の腕にしがみついてくる。
「ね、ジロくん」
コレットが俺を見上げて、こう提案してきた。
「散歩、しよ?」
お疲れ様です!次回で8章は終了となります。来る時コレットの様子がおかしかったことの伏線を回収して終了になるかなと思います。
また新連載やってます。下のリンクから飛びますのでまだの方は是非!
ではまた!




