49.善人、海を楽しむ
いつもお世話になってます!
孤児院みんなで、海の見える別荘へとやってきた。
別荘到着してから1時間後。
もろもろの準備をしてから、俺たち孤児院のみんなは、別荘裏にあるビーチへとやってきていた。
時刻は昼前。
じりじり……と太陽が肌を焼く。見上げるとそこには、澄んだ青い空が広がっており、太陽は中天にさしかかっていた。
「「「おー……」」」
別荘の裏に広がる海を見て、子どもたちがぶんぶんと、しっぽを振っている。
「これが海……」
「でぃすいず、しー」
「おっきくってひろくって……おっきくってひろくってなのです!」
獣人たちが動物しっぽを、ぐるんぐるんと回転させる。
キャニスたちは幼児用の可愛らしい水着に身を包んでいる。しっぽの部分に穴があいている。
「れいあがいちばんのりするわっ!」
レイアがばさり、と翼を広げると、そのまま海へと飛んでいこうとする。
俺は彼女を抱っこして止める。
「なにすんのよっ!」
「まあ待て。みんなこっちこい。日焼け止めるから」
夏の直射日光を、遮蔽物のない場所で浴びたら、どうなるかなど自明の理だ。
子どもの肌は大人と違ってデリケート。しっかりとケアしないとならない。
……だが海に来ること自体が初めての子どもたちは、
「んなもんいらねーです!」
「えとえと……はやくあそびにいきたいのですっ!」
と文句を言っている。海が初めての現地人には、難しい話だったな。
「コン。頼む」
「おまかせり」
こういうときはコンによく頼る。大人の俺が一方的に言うよりは、同じ子どもの目線で物を語ってもらったほうがいい。
「みなのしゅー、ひやけどめしないと、とんでもないことなるよ」
コンがしっぽでおひげを作る。
「コンはかせっ。とんでもねーことってなんでやがるです?」
「爆発でもー……ぉ、するのかなー……ぁ? なんちってー……ぇ」
キャニスと姉鬼が首をかしげる。
「あるいみでは、そーかもしれぬ」
すっ……とコンが視線を外し、深刻そうな顔になる。子どもたちが「!!」と目を見開く。
「なつのひざし、このままだとはだがぴりぴりする。おふろはいるとき、しぬほどのくつーをあじわうことにあるだろう……」
コンが遠い目をする。
かつて同じ経験をしたのだろうか。
子どもたちはごくり……と息を呑む。コンのタダならない雰囲気を覚ったのだろう。
「お、おにーちゃんっ、ぼくもひやけどめぬってくれやです!」
キャニスが俺に抱きついてくる。
「らびもっ、しぬほどのくつーはやなのですー!」
「アタシもしぬたくないよぉ……」
ラビとアカネがぴょんぴょん飛び跳ねて、俺に早くとせがんでくる。
「れいあちゃん、きゃにすちゃんもぬるってー……ぇ」
「なにー! なられいあもぬるわ!」
あやねはレイアを引き留めていた。さすがフォローの鬼。
俺はあらかじめ孤児院で【複製】していた、日焼け止めクリームを、持ってきたマジック袋から取り出す。
職員たちは使い方がわからないみたいだったので、俺が手本を見せること。
「コン、来い」
「ごしめーはいりましたー」
コンがててて、と近づいてくる。俺は日焼け止めをちょっと手に取る。
クリーム状のそれを手のひらに出す。
「なにこれ? たべもの?」
レイアが舐めようとしてきたので、俺が止める。
俺はマジック袋からレジャーシートと、傘を【成形】で改造したパラソルを出現させる。
「コン、シートに横になれ」
「ししゅんきのひと、どきどきちゅーい」
コンはぺちょっ、と寝そべる。
俺は水着の間から、コンに手を這わせ、彼女の肌に日焼け止めを塗る。
「あーん、らめー。そこはらめなのー」
「変な声出すなよ……」
「どくしゃさーびす、ひつよーかと」
どこに需要があるんだよ……。
コンの背中、手足、そして最後に顔に、ぬるぬると塗り、完了。
「よし、いいぞ」
「ひやけへのたいせーをえた。これでかつる」
コンが立ちあがる。マジック袋をあさると、浮き輪を持ってサングラスをかける。
「んじゃコン。みんなが終わるまでちょっと待ってな」
「はやるきもちをおさえきれぬ。みなのもの、いそぐべし」
コンに促され、子どもたちが寝そべり、そこに日焼け止めを塗っていく。
「あははっ! くすぐってーですっ!」
「あぅ……♡ はぅ……♡ うぅ……」
「なんかへんなかんじ。ぬるぬるつるつるするわ」
「あはー……ぁ♡ ぬるぬるできもちいよー……ぉ♡ だからアカネちゃん、だいじょうぶだよー……ぉ」
「あ、姉貴ぃ~。ほんとか? なあほんとにだいじょうぶなやつか? からだでろでろになっちゃうとかないよなっ」
子どもたち全員に日焼け止めを塗り終わる。
「よーし、いいかみんな」
俺は子どもたちの前に立つ。
「絶対に遠くへ行くな。俺の目が届かない場所へ行っちゃダメだ。いいな?」
子どもたちがこくこく、とうなずく。
「それとこれを配っとく。全員利き手につけておくように」
そう言って俺は、事前に作っておいたヘアゴムを、子どもたちに手渡す。
「にぃ、このごむごむなに?」
「安全対策だ。いちおうな」
コン以外は、海に来るのは初めてだ。水難事故が起きる可能性は高い。
だから俺は、子どもたちに魔法を付与した輪ゴムを配った。彼女たちの身に危険が及ぶと発動する仕組みになっている。
「よーし、じゃあ行こうか、みんな」
「「「しゃー!」」」
俺は子どもたちを連れて、海へと向かう。
子どもたちは海の前で、ぴたりと足を止める。ざざぁー……ざざぁー……と寄せては返す波を前に、戸惑っているみたいだ。
「みなのものびびりすぎ」
「「「はかせー!」」」
浮き輪を持ったコンが、てててっ、と海に入っていく。
「おう、このからだをぬけるなみのかんかく……♡」
ぶるぶる、とコンがきつねシッポを振るわせる。
「久しぶりの海はどうだ、コン?」
「ちょべりぐ」
ぐっ、とコンが親指を立てる。もう世代についてはツッコまないことにした……。
「コンがいったぞ! よーし、ぼくらもとつげきすんぞー! ですっ!」
こういうときに真っ先に飛び込んでいくのが、キャニスだ。
子どもたちがうなずくと、キャニスにつづいて海に足をつける。
「あしにすながっ!」
「あしのあいだにみずがとおってるのです!」
「姉貴っ! 姉貴っ! ぜってー手をはなすんじゃねーぞ! 流されたらしょーちしねーからな!」
「わかってるよー……ぉ。ふぁあー……ぁ♡ ながれるこのかんじ、いいねー……ぇ♡」
子どもたちが初めて入る海に、棒立ちで震えている。
「みなのしゅー、みずをちょっとぺろっとしてみるとよい」
コンの言葉に、子どもたちが素直に従う。キャニスとレイアはガバッ! と顔を海につける。
ラビと鬼姉妹は、おそるおそる指をちょんとつけて、ぺろっとなめる。
「ぷはっ……!! ぺっ!」
「なんなのよこれ……!! ぺぺっ!」
「しょっぱいのですっ。こんちゃんのゆーとーりなのですっ。ぺぺぺっ!」
「姉貴っ! 毒かなっ? 毒かなこれっ?」
「うーん、そうじゃないと思うよー……ぉ」
塩味の水を舐めた子どもたちが、コンをバッ! と見やる。
「これがうみ。しょっぱいみず」
「「「おー!!!」」」
物知りなコンに、みんなが拍手を送る。コンは照れてしっぽで顔を隠す。
「それではしょくん、うみをたのしむぞ」
ぴっ、とコンが海を指さす。
「「「おー!」」」
☆
子どもたちが遠くに行かないよう、大人組は交代して、子どもを見張ることにした。
まずは俺の番だ。
「コンっ、それなんだです! うきわにのるそれなんだっ!」
コン、キャニス、レイアのアウトドア派は、ちょっと深い場所まで、浮き輪でやってきてる。
と言っても俺の足が届くくらいなので、そこまで深くはないが。
「しっ。きゃにすしずかに。なみをまってる」
「波をまつ……?」「なにしてんのよ。もったいぶんないでよねっ」
するとザザァ……っと波がやってくる。
きらんとコンが目を光らせると、浮き輪から体を抜いて、輪の上でたつ。
「こんは、なみのりを、つかった」
そんなことを言うと、コンに波が到着。浮き輪が流れる。その上でコンがたちあがり、文字通り波に乗る。
コンはしっぽで器用にバランスを取ると、そのまま砂浜まで到着。浮き輪からぴょんと降りて、どや顔でピースする。
「すげー! コンまじすげーです!」
「れいあもできるんだからっ!」
キャニスとレイアが波をまち、コンのように浮き輪の上でたつ。
「お、おっ、おー! できるっ! ぼくにもできるっ!」
「れいあだってできてるもん!」
キャニスがコンをまねてしっぽでバランスを取り、レイアは翼で体のぐらつきを修正する。
やがてコンの元へと到着するふたり。
「こんどはだれがいちばん、なみにのれてるかきょーそーしようぜです!」
「いいわねっ!」「このなみのりぴかつーにかてるかな?」
アウトドア派は波乗りに夢中だ。
一方でインドア派たち、つまりラビと鬼姉妹はというと、砂浜に座っていた。
コンたちは第二波に乗って、砂浜まで流れてくる。俺はラビの元へ行く。
ラビと鬼姉妹は、砂を集めて、1つのおおきな塊を作っている。
「何作ってるんだ?」
「にーさんっ、これはおしろっ! おしろをつくってるのです!」
よく見るとただ砂を集めてるのではなくて、四角く固めたり、側面に窓が掘ってあったりする。
「しょーらいおひめさまになったらー……ぁ、すみたいおしろをつくろうってー……ぇ」
あやねがポワポワ笑いながら言う。ラビとか結構絵本好きだからな。ラビが言い出しっぺか。
「て、アカネちゃんが言ってましたー……ぁ」
「姉貴ぃいいいいいいい!!!」
妹鬼が顔を真っ赤にして、あやねの胸ぐらを掴んでゆする。
「なんだアカネ、結構可愛いとこあるんだな」
「うがー! ちがうっ! ちがうんだって!」
「アカネちゃんはそうだよー……ぉ。けっこうかわいいとこあるんだよー……ぉ。ドレスとか好きだしー……ぃ」
「おまえ黙ってろよぉおおおお!!」
がくがくとアカネが姉をゆすり、あやねは「はっはっはー」と楽しそうに笑っている。
その間にラビは、浅瀬へとちょこちょこと歩いて行き、しゃがみ込んでいた。
「何やってるんだ?」
「おしろにつける、かいがらをさがしてるのです!」
よく見ると砂にまみれて、貝殻がいくつも落ちている。それを拾い上げて、手にいっぱい持つと、鬼姉妹のもとへ行く。
「アカネちゃん、あやねちゃんっ! いいものとってきたのです! じゃーん!」
ラビが手にいっぱいの貝殻を、鬼たちに見せる。
「おー……♡ かわいいねー……ぇ♡」
「……ラビちゃん、アタシもそれほしい。どこにあったの?」
きらきらと鬼姉妹が目を輝かす。
「うみにいっぱいおちてるのです! みんなでひろうのです!」
わー、とラビたちが浅瀬に集まり、貝殻あつめをする。
「むむむ、なにやらたのしげなふんいきをきゃっち」
「おめーらなにやってるです?」
サーフィンで浅瀬へと流れてきたコンとキャニスが、ラビたちの元へ近づく。
「かいがらをあつめてるのですっ! おしろをごーじゃするにするあそびです!」
にぱーっと笑ってラビが言う。
「! なにそれめっちゃおもろそーです!」
「けんちくさぎょうか。まいんくらふとならまかせて。もっどをどうにゅうしよう」
ててて、とアウトドア派たちが、ラビたちに加わり、お城作りに熱中し出す。
そのときだった。
「……あの、じろーさん」
背後から桜華が、俺に声をかけてくる。
「…………」
「……こどもたちは、わたしがみてます」
「…………」
「……だから、海で遊んできてください」
「…………」
「……あの、じろー、さん?」
ハッ! と我に返る俺。
「……どうか、しましたか?」
おっとりと桜華が首をかしげる。
彼女は黒のホルターネックのワンピース水着を身につけていた。
ビキニのように上下で別れておらず、お腹は布地に隠れている。
あまり肌を見せたくないという、恥ずかしがってのチョイスが、もじもじと身を捩る所作と加わり、とてもエロい。
「……あのじろーさん。……あまり、じろじろみられると。……はずかしい、です」
「あ、ああ……ごめん」
身を捩るたび桜華の爆乳がゆれる。ぺち、ぺち……と乳房が肌に当たって音を立てていた。音が出るって何だよ……。
「……あの、だから。……あの、みてますから。……あの、はい」
そう言うと桜華は、自分の顔を手でおおい、子どもたちの方へと走っていく。
胸の揺れは後からでは見えないけど、ぱっくりとあいた白い背中が実に扇情的だ。
子どもたちを桜華に任せ、俺はパラソルのたっている場所へと移動する。
「おや、兄ちゃんじゃあないかい」
「やっほ~、おに~さん♡」
ビーチチェアに寝そべるのは、桜華の娘、長女の一花に、次女の弐鳥だった。
長身長髪の一花はきわどい紐ビキニ。ロリ巨乳の弐鳥は白いワンピース水着。
弐鳥にしては大人しい水着だなと思ったのだが、よく見ると肌が透けて普通に局部が見えた。
「や~ん♡ おにーさんったら♡ 目をそらしてかわいいんだから~♡」
くすくす、と弐鳥が俺を笑う。
一花たちはビーチチェアに寝そべって、日焼けしてるようだった。
「ここはいいねぇい。人の目がなくってさ」
「ほんと~♡ のびのびできるよね~♡ ミっちゃんも来れば良いのに~」
弐鳥の言う【ミっちゃん】とは、桜華の娘、三女の美雪のことだ。
「そう言えば美雪が見ないな……」
四女の肆月と五女の風伍は、海で桜華の胸を揉んでいた。しかられてもふたりは懲りずに揉んでおり、桜華がヒザをガクガクさせてる。
「美雪は家で赤ん坊たちの面倒みてるさね」
「あたしたち交代で子ども見るよっていっても~自分は海いくつもりないからって、言うこと聞かなくってさ~」
今日に始まったことではないが、美雪は他の鬼娘たちと違って、単独行動を好む。
というかあの子が孤児院のみんなと、一緒にいるところを見たことが無い。避けてるというか、嫌っている……って感じではないのだが。
「ま、あの子のことはほうっておいてだね、兄ちゃん♡」
にやり、と一花が目を細める。
「アタシたちと気持ちいいことしないかい♡」
一花がビキニの下、またの部分の紐を、ぐいっと横にずらす。わざと指で、スリットが見えないように隠してる。わざとやってやがるな。
「お外でならきっといつもよりもぉっと気持ち良いよ~♡ ね~♡」
弐鳥はビーチチェアのうつぶせになり、ぷりっとしたお尻を突き上げて、ふりふりと誘ってくる。
「熱中症にならないようにな。あそこに飲み物が入ってるから」
ちょっと離れたところに、魔法冷蔵庫(雷魔法を付与した、電源がなくても動く冷蔵庫)がおいてある。
冷凍庫の中には凍ったペットボトルが、冷蔵庫の中にはスポーツドリンクが、それぞれぎっちり入っている。
「つれないねぇい」
一花がクツクツと笑う。
「ねえイッちゃん。もう襲っちゃうよ~♡」
「お、いいね。押したおして無理矢理もなかなか乙なもんさね♡」
「おまえら指輪あるからな?」
俺は桜華からもらった、鬼の動きを制限する指輪を持っている。俺がそれを近づかせると、ちぇーっとつまらなそうに、鬼娘たちが頬を膨らませた。
鬼娘たちから離れて、パラソルの元へ移動する。
そこにはピクシーが、レジャーシートの上でサングラスをかけて、あおむけに眠っていた。
この間プールで見せた、マゼンダのセパレート水着を身につけている。
白いぷにっとした子どものようなお腹に目がいく。
「ジロー。飲み物」
「はいはい」
俺は冷蔵庫から無糖の紅茶のペットボトルを取り出して、先輩の隣に座る。
「ん」「はいはい」
ふたを開けて、先輩に手渡す。
先輩はむくっと半身を起こして、コクコクと飲み物をあおる。
額とお腹に、じっとりと汗をかいていた。飲み物を嚥下するたび、ぷにっとしたお腹が動いて、思わず触りたくなる。
飲み終わったペットボトルをしめると、俺に差し出してくる。
「君も飲め。なに水分補給だ。他意はない」
にんまり笑って先輩が言う。俺は受け取ってボトルに口をつける。薄く引かれたグロスが飲み口についていた。
先輩は子どもみたいな見た目なのに、きっちり大人のメイクをする。それがギャップを生む。
俺は紅茶を飲む。甘くない。あんまり得意ではないが、飲んでふたを閉める。
「先輩、俺、無糖のやつ苦手ってしってるだろ?」
「知ってるよ。でも飲ませたかったんだ」
先輩がサングラスを外して、ウインクしてくる。
「海に君と来るのなんていつぶりだろうね」
海辺で子どもたちが砂のお城を作っている。三階建てのものにレベルアップしていた。
桜華は娘たちに体をまさぐられていやいやと首を振るっている。もうっ! と顔を真っ赤にすると、娘たちが逃げていく。
「学生の時以来じゃないか?」
「そうだね。大学の夏休みを利用して、君の実家の近くの海へ行った。あれは酷かった。どうして都会の海は、ああも汚いのだろうね」
先輩がうつぶせになって、海を見やる。
「ここはいい。まるで沖縄やハワイじゃないか。きみとこんなキレイな海に来れるなんて、それこそ転生して良かったと本気で思うよ」
ぱたぱた、と先輩がうつぶせのまま足をぱたつかせる。
肉の薄い尻がビキニに包まれていて、でも紐が少し肉に食い込んでいる。無いと思っても、結構肉はあるんだなと思った。
「スケベ」「悪い」「別に良いさ。君は私の物だし、私は君の物だ。好きに見れば良い」
ころんと転がって、先輩が俺の隣にうつぶせになる。ヒザの上に顎を乗せてきた。
「ここはいいな。海もキレイで人の目もない」
周りを見回す。周囲にいったいにビーチが広がり、俺たち孤児院のメンツ以外は誰もいない。
子どもたちの楽しげな声と、波の音だけが響いてくる。ある意味で静かだ。都会の海なんて、ラジオの音や、人の声でうるさいくらいだからな。
「ジロー。ふたりでここに住むのはどうだ? 何もかもを投げ出してさ」
「まさか。そんなことできるわけないだろ」
子どもたちの作る砂の城が、五階建てにランクアップしていた。子どもたちは肩車して、桜華とも協力して、もっと大きくしている。
「だね」
先輩が苦笑する。
「ごめんよジロー。海を見てたらセンチメンタルな気分になってしまった。変な質問をしてすまない」
先輩は立ちあがると、伸びをして、「ちょっと泳いでくる」と言って、海へ向かって歩いて行く。
海へ到着すると、水泳選手のように、あたまからざぶんと飛び込み、そのまま遠くへと泳いでいく。
俺は手をついて足を伸ばし、パラソルの下で子どもたちを見やる。
いつの間にか城は六階建てになっていた。満足そうに子どもたちがうなずいている。
「ジーロさんっ♡」
弾んだ声でマチルダが、後から、つまり別荘から降りてきた。
水色のビキニに包まれた、豊満なバストにむちっとした太ももに目がいきそうになる。
「ジロくんお待たせっ♡」
つづいて俺の嫁、ハーフエルフのコレットがやってくる。芸術的な肉体の彼女。胸がデカく尻もでて、腰だけがきゅっと引き締まっている。
手足は長く、金髪は後で髪留めでまとめており、うなじがのぞいて実にセクシーだ。
白くフリルのついたセパレート水着を来ており、彼女が呼吸や動作をするたび、たぷたぷぷるぷうと乳房が微細に動く。
「遅かったなふたりとも」
「乙女にはいろいろ準備があるんだぜ、ジロくん」
「ですですっ!」
よくわからないが、鬼娘や桜華、先輩はすぐに出てきたのだが……?
それにコレットたちの見た目も、ぜんぜん変わってるようには見えない。何の準備があったんだ……?
わからないが、水面下の努力があるように思えた。
コレットは俺の隣に腰を下ろして、俺の肩に頭を乗せると、腕をギュッと掴んでくる。
「あっ! ずるいですよコレット! 私もっ!」
「残念だなマチルダ。おれさまのとなりは、コレット専用なんだぜ」
「コレット! ジロさんのセリフをねつ造しないでください!」
マチルダが俺の逆側に座り、くっついて、「えいえい♡」とデカい乳房をこすりつけてくる。
水着に包まれた巨乳が、ぐにぐにとひしゃげてつぶれる。果実とミルクのまじったような、あまったるい肌のにおいが鼻腔を突いてくらくらした。
「……マチルダ、えいてぃーん。コレット、わんはんどれっとおーばー」
ずうう……ん、とコレットが暗い調子で言う。
「だから。コレット。若さは関係ないから。おまえが大好きだから」
「あらそーお♡ もー♡ ジロくんってば、も~♡」
ぺちぺち、と俺の肩を嬉しそうに叩いて、はしゃぐコレット。
「むむむっ! ジロさんっ!」
がばっ、とマチルダが立ちあがり、俺の前で前屈みのポーズを取る。谷間が強調されてやばい。挟んでもらった記憶がフラッシュバックする。「ギルティ」「痛いってつねるなって」
ぎりり……とコレットに太ももをつねられる中、マチルダが言う。
「せっかく海に来たんです! 恋人らしくふたりきりで遊びましょう!」
「それは聞き捨てならないわねマチルダ……」
ゆらりとコレットが立ちあがる。
「ジロくんはわたしの旦那さまよ。独り占めなんてさせるものですかっ」
コレットも前屈みになって、しかも布をずらして胸が見えるようにしてくる。
「じゃあ3人で! 水掛け合いしましょう」
ぐいっとマチルダに腕を引っ張られ立ちあがる。
コレットとマチルダ、ふたりの美女に手を引かれて、俺はビーチへとつく。
マチルダは海に足をツッコむと、「ひゃぁ♡ つめたいですジロさんっ♡」とぱたぱた足を動かす。
ぶるんぶるんと乳房が上下にゆれる。
「マチルダ……。あなたワザとやってない?」
額にぴきぴきマークをつけながら、コレットが尋ねる。
「えー? なんてー? 波の音が大きくて聞こえなーい!」
「こ、この……」
怒ったコレットが、マチルダに水をかける。へぶっ、とマチルダが海水をもろに顔に受ける。
「やりましたねー! えいえいっ!」
マチルダがコレットに水をかける。
「ジロさんもっ! えいえいっ!」
ぱしゃぱしゃ、と水がコレットめがけて飛んでいく。へぶっ! とコレットの顔に海水がヒット。
「ああ、すみませんコレット! 方向が定まらなくって♡」
テヘペロ、みたいな感じでマチルダが舌を出す。
「ジロくん、マチルダがいじめてくるわ~」
コレットが俺の腕にしがみついてくる。海水によって冷えた体。だが体温はほどよく高く、冷たさと熱さの内包していた。
いつまでもそうして抱きついていて欲しかった。
「ずるいですよコレット! 私だって!」
ぱしゃぱしゃさせながらマチルダが近づいてくる。そのまま正面から、マチルダがツッコんできて、俺たちは海水にたたきつけられる。
ばしゃーんっ! と大きな音と、水しぶきが上がる。
「ご、ごめんなさい……ジロさん……」
しゅん、とマチルダが落ちこむ。
俺はマチルダの上半身をガン見してしまった。
「ま、マチルダ……前。前隠せ」
「へ?」
マチルダがきょとんとしている。俺は目をそらしつつ指摘する。
「おまえ今の衝撃で上の水着が……」
「え………………? ああっ、ほんとですねっ!」
恥じるどころか、むしろ嬉しそうにそう言う。
「よいしょよいしょ。……こほん、あー、ジロくんたいへんだー。わたしも上の水着がどっかいったよぅ。こまったなー」
コレットが自ら上の水着を脱いで、後ろ手に隠してそう言った。
前と横を見ないように、マチルダの水着を探し当てようとする。
「あんっ♡」ふにゅっ。「てい♡」ぐさーっ。「いってええええええ!!」
前方で何か柔らかいものが当たったと思ったら、コレットからの目つぶしを食らった。痛いってば!
コレットがすかさず光魔法(回復魔法)を使う。視界が快復する。
「おねーちゃんたちなにしてやがるですー?」
ぱちゃぱちゃ、とキャニスがバタ足で近づいてくる。
「ジロさんと遊んでたのよ……って、キャニスちゃん! すごいわっ! 浮き輪無しで泳いでるー!」
見るとキャニスだけじゃなくてレイアも、浮き輪無しで泳いでいた。
「へへっ、コンにおそわったです。あいつは泳ぐのがホントうめーです」
その張本人は平泳ぎですいーっと俺の隣へとやってくる。
「にぃ、まちるだのぶらみつかった」
いつの間にかコンの手に、さっきマチルダが紛失した、上の水着があった。
「ありがとう、コンちゃん♡」
マチルダはコンから水着を受け取ると、抱き上げてギュッとする。
「まちるだのみずぎでっかい。スイカかかな?」
そこでコンがハッ……! と何かに気づいた表情になる。
「にぃ、スイカだ。スイカくってない。うみではあれをくわねば」
「スイカっ! ぼくもくいてー!」
子どもたちのリクエストに応えるべく、俺は立ち上げる。
「めかくしな。すいかわりしたいな」
「コンっ! なんじゃそりゃ! すいかわりってなんじゃです!」
「ふふふ、おとなのきけんなあそびよ」
子どもたちが俺の後ろから突いてくる。
海に来たが、ほんと、やりたいことが多すぎて、時間が足りなそうだった。
お疲れ様です!
次回も海で遊ぶ回になります。スイカ割りのあと浜辺でバーベキューしてって感じかと。
以上です!
最後に、新連載始めました。下にリンクが貼ってます。よろしければ是非!読んでもらえると嬉しいです!
ではまた!




