45.善人、花火をする
いつもお世話になってます!
子どもたちとプールで遊んだ翌日。
その日も子どもたちは、朝から元気に、プールで遊んだ。
そのご昼食を食べた後、子どもたちはまたプールへ行きたいと主張。
今は熱い夏だ。プールで涼みたいという気持ちは良く理解できた。
それでも俺はダメだと、子どもたちの申し出を却下した。
別に意地悪したつもりではない。別の理由があったからだ。
子どもたちにその理由を話すと、あっさり子どもたちは了承。
夜に備えた、子どもたちは飯を食った後に、昼寝をするのだった。
さて。
残された俺たち大人組はと言うと、現在、プールに来ていた。
俺は夜の準備があって、作業場にこもろうとしたのだが……。
マチルダとコレットに手を引かれて、プールへとやってきた次第だ。
「まあ別にこっちでも作業できるけどさ……」
時刻は昼を少し過ぎた頃、13時くらい。
太陽は頂点にさしかかっており、ぎらぎらと、殺人的な熱光線を浴びさせてくる。
雲ひとつ無い快晴。
これならできそうだ。
「ふう……」
俺は子供用のプールに足をつっこんで、【複製】スキルを発動させる。
【複製】。これは、俺がかつて使ったことのあるものなら、条件はあるけど、何でも作れるというスキル。
俺は子供用のプールに足入れて、スキルを発動させる。
魔力がグン、と俺の体から吸い取られて、それが物体の形を取る。
そのときに俺は魔法もあわせて合成させる。
すると魔法と物体が合成……複製合成された物体が、完成する。
細長く、ステッキのようなものができる。
「よし、えっと……【点火】」
すると持っていた【それ】から、シャァアアア…………っと火花が散る。
「おお、良い感じ良い感じ」
これをあとは大量に作るだけだ。
「しかし熱いな……ほんと……」
炎天下の中、俺はひたすら【複製】を使って【それ】を作りまくる。
「ほんとあちい……」
熱すぎた。ちょっとプールで泳ごうかな、と思った、そのときだった。
「だーーーれだ♡」
突如として、視界をふさがれた。
誰かが後から、俺に目隠ししてきたのだ。
誰だ? と言われても、わからない。目を隠されて視界をふさがれたのだ。背後の人物が誰かなんて……何をヒントに答えれば良いのだ?
……ぐにゃり。
と、背中に、大きくて柔らかな物が、押しつけられた。
蕩けるくらい柔らかい物体が、ふたつ、俺の背中に、肩甲骨のあたりに当たっている。
「誰だ?」
「…………」
背後にいる人物は、答えない。たぶん俺が当てるのを待っているのだろう。
この大きな胸に該当するのは、ふたり。
そしてこんなマネをするのも、今のところ候補はふたりしかいない。
コレットか、マチルダ。
そのどちらかだと思われた。行動と、そして胸の大きさから。
しかし……どっちだ。どっちがいるんだ?
わ、わからない。視覚情報もないし、胸の感触も、ふたりとも近いからな。
大きくて、張りがあって、でも柔らかい。
ぐにぐに……と背後の人物が、胸を押しつけてくる。……この積極性は、マチルダだろう。
うん、マチルダだ。コレットはああ見えて結構おとなしい。こんなふうにぐりぐりぐにぐに、と自分の胸を白昼堂々と押しつけてこないだろう。
となるとこのあふれんばかりの積極性は、マチルダだ。そうだ。絶対にそうだ。そうに違いない。
「マチルダだろ?」「のー♡」ぐしゃぁ!「痛ええええええええ!!!!」
目隠ししていた状態から、手で俺の目玉を、クラッシュしてきた。
「目が、目が!」
すると、ぱぁ……っと温かな光りが、俺の体をつつみこむ。
目の痛みがすぅ……っと、ウソのように引いていった。
「光魔法……?」「残念♡」ぐしゃぁ!「目が! 目がぁあああああ!!」
するとまた目の痛みがすぐに消える。
背後を振り返ると、
「オッス、オラ、コレット。マチルダジャナイヨ。ゴメンナ」
死んだ目をしたコレットが、俺の背後に立っていた。
「コレット……」
しまった。コレットの方だった。これは……また厄介な地雷を踏んでしまった。
「ジロくんが回復したのはわたしが回復魔法をかける前に竜の完全回復能力が働いたからだよ」
平坦なトーンで、コレットが解説する。
そうだった。俺が足をツッコんでいるのは、竜の体液が混じった、擬似的な竜の湯。
竜の体液には完全回復能力がある。これによって体の傷が完全に癒えたのだろう。
「はぁああ………………」
コレットがその場にしゃがみ込んで、いじいじ、と地面に指で【の】を描く。
子供用の浅いプールであるため、コレットのお尻が水に浸かるだけだ。
「そっかぁ……。ジロくんはわからないんだ。妻のものだって、わからないだ……」
ぺちょん、とエルフ耳が垂れ下がり、いじいじ、といじけている。
「いやごめんって。ほんとごめんって」
「そっかぁー……。ふっ。そうですね。わっかんないよね。そうですねそうですね、
あれだけいっぱい触られてきたんだけど、わからないですよねそうですよね……」
い、いかん……完全に落ちこんでる。
コレットが鬱オーラを漂わせていると、
「じーろさんっ♡」
と言って、輝く笑顔で、マチルダが更衣室から走ってくる。
彼女は水色のビキニを着て、こちらへ走ってくる。
両手を振って走ってくる物だから、乳房が、ビキニからこぼれ落ちそうだ。
ばるんばるん、たゆんたゆん、と上下左右にと、柔らかくて大きな乳房が激しくゆれる。
ややあって、マチルダが俺のそばへやってきて、ふぅふぅ、と息を整える。
ヒザに手をついて、前屈みの体勢のマチルダからは、谷間が覗いていた。
「やん♡ もー♡ ジロさんってばエッチなんですから♡」
「すまん……。そんで、すまん……」
「ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」
マチルダに目がいってしまっていると、不機嫌そうなオーラをさらにこくするのが、うちの奥さんだった。
「マチルダの水着姿……100点。コレットの水着姿……1点」
死んだ目でコレットがつぶやく。
「なんだよその点数」
「ジロくんのなかでの、点数」
「そんな点数なんてつけてねえよ」
「ど~~~~~~~~~~~~だか」
コレットはまったく信用してなかった。頬をぷくっと膨らませて、その場でかがみ込んで、ぷいと後を向く。
「ジロさんっ! どうですか? 私の水着姿……100点ですかっ♡」
「マチルダちょっと静かにしててくれ」
コレットの機嫌が下限を突破しそうだった。
俺はしゃがみ込んで、コレットを背後から抱きしめる。
素肌が胸板にくっつく。まるで吸いつくようなほど、ぴちぴちと張りのある肌だ。
「ごめん。コレット。間違えてごめん。あと本当に点数とかつけてない。コレットの水着姿は完璧だと思う」
耳元で俺がそう言うと、コレットの長い耳が、ぴくっ♡ と少しだけ動く。
柔らかな彼女の身体を後からだきしめながら、ごめんごめんと謝っていると、どんどんとコレットのエルフ耳が、機嫌良さそうにぴくぴくと羽ばたく。
ややあって、コレットが立ちあがる。
「ジロくん♡ どうかしら♡」
コレットは俺からちょっと離れて、自分の水着姿を俺にさらす。
コレットはフリルのついた純白のセパレートビキニだった。
普段ロングにしている髪を、髪留めでアップにしている。白いうなじがとてもセクシーだ。
そしてフリル付きのビキニからのぞく、乳白色の柔らかそうな乳房。
夏の日差しを受けて、コレットの若い肌が、太陽光を反射してかてかと白く輝く。
「ま、まぶしいぜ、おまえの水着姿……」
言って恥ずかしくなる。なんだこの歯の浮くようなセリフは。
だが効果は覿面だった。
「そうかなっ♡ そうかなっ♡ ふふっ、ふふふふっ♡」
コレットはその場でくるくると回る。
フリルがふわりと持ち上がって、足の間の三角形が見える。むちっとした太ももが実にやわらかそうだ。
「ジロさんっ! 私のッ! 私の水着姿はどうですかっ! まぶしいですかっ!」
ぐいぐい、とマチルダが俺の腕を取って、自分の胸に押しつける。ぐにゃぐにゃ、ぐにぐに、と乳房がひしゃげる。
「どっちもまぶしいって」「「どっちもじゃだめ。どっちかにしろ」」「あ、はい……」
……マチルダとコレットがぎゃあぎゃあ言い争いしている間に挟まれて、俺は夜の準備を進めるのだった。
☆
竜の湯で作業を終えて、ぐったりして戻ってくると日が暮れていた。
子どもたちが夕食を食べている間、俺は準備を進める。
ややあって日が暮れると、子どもたちがぞろぞろと、1階ホールから顔を出してきた。
「おにーちゃんっ! 待ちわびたです!」
キャニスがててて、とやってきて、俺の体にぴょんとしがみつく。
ランニングシャツに短パン、という、夏休み全開の格好だ。
「にぃ」
にゅっ、とコンが俺の右肩に乗ってくる。こっちは大きめのTシャツ一枚という格好だ。
「まちわびてくびがきりんさんになった。でもぞうさんのほうがもっとすきです」
キャニス同様、待ちわびたといいたいらしい。
するとテコテコと、ラビと、鬼姉妹がやってくる。
3人ともおそろいのパーカーにスカートという格好だ。
「にーさんっ! 何するのですっ?」
子どもたちには、事前に昼寝を十分するように言ってある。
こういう言葉を添えてだ。
「【夜ねむくならないよう、昼寝は十分にしておけ】だよねー……ぇ。とぉってもたのしみー……ぃ」
昼もプールで遊ばせても良かった。
ただそうすると、この子ら、翌朝までぐっすりと眠ってしまう。
それじゃあ楽しめない。これからすることは、夜じゃないと楽しめないことだらな。
「ぐー……すぴー……」
「ジロさん、レイアちゃんが……」
苦笑するマチルダ。どうやらレイアは飯食ったらまた眠ってしまったらしい。
「大丈夫だ。起こし方はわかってる」
俺はマチルダのそばまで行って、レイアを回収。抱っこしながら「今から楽しい事するぞー」というと、
「れいあをのけものにするとは、いいどきょうねっ!」
と目を覚ます。
ばさっ、と翼を広げて、レイアが地面に着地。
「さて子どもたちが集まったし……やるか……」
日は落ちた。準備は万端。
俺はバケツをいくつか出して、マチルダとコレットと手分けして、水を入れる。
子どもたちは窓のふちにすわって、しっぽをそわそわと動かしていた。
「アム。とりあえずみんなに1本ずつ配ってくれ」
「ん、りょーかい」
アムはそう言うと、手渡しておいたマジック袋(【無限収納】が付与された特別な袋)から、俺が昼間用意したそれを、子どもたちに手渡す。
「「「おー……?」」」
例によって、現地人であるキャニスたちが首をかしげる中、
「ふぁいあーふらわーやーん」
と異世界人であるコンだけが、嬉々としてそれを握る。
「コンはかせ、でばんでやがる! せつめーを!」
「おまかせなさいな」
キャニスにせがまれ、コンが立ちあがる。
ぴょんと窓の縁から降りて、子どもたちの前に立つ。
例によってきつねのしっぽでおひげを作って、言う。
「これは【花火】とゆーもの。なつのげいじゅつのひとつだね」
「「「はなびー?」」」
キャニスたちが全員、首をかしげている。ちなみにマチルダもアムも、コレットもハテと首をかしげる。
「コンッ! せつめーがたりてねーです!」
「どういうものだかー……ぁ、さぁぱりだぁねぇ-……い」
「なによこれ、たべもの?」
レイアが花火を食いそうだったので、俺がひょいっと取り上げて「違うから」と言って返す。
「せいせい。まあこれはみたほーがはやいね。あんずるよりうむがやすし」
ちょっと使い方違うような……まあいいか。
コンはきょろきょろ、と辺りを見回す。
「にぃ、火がないよ。ふぁいあーぼーできない」
花火は本来、先端の火薬の部分に火をつけて楽しむ物だ。
だがそれは地球ではそうだったという話しであり、異世界では違う。
「コン。それは火をつけなくても着火するんだ」
「おおなんとさいせんたん」
ぴーんっ! とコンがしっぽを立たせる。
「ねーえー、コンっ。まーだー? まだでやがるですー?」
「まちなされみなのもの。……それで、にぃ、どすればひがつくの?」
コンが手持ち花火を持ったまま、俺を見上げてくる。
「簡単だ。【点火】っておまえが言えばそれで火がつく。危ないから人に向けるなよ」
「おけ。しんらばんしょー、すべてをはあくしたぜ」
すごい超理解力だった。
「さてしょくん。おまたせしたね。しゅじんこうのとーじょーだ」
コンが他の子どもたちからちょっと離れる。
「みーに近づいちゃのーだよ、みなのもの。とてもあぶなし。いのちのほしょーはない」
ごくり……と子どもたちが息を呑む。アカネが「ふぇえええん」と泣いて、姉が「だいじょうぶだよー……ぉ」とよしよしする。
「ウソだ。コンが大げさに言ってるだけだ」
「あーん、ねたばれきんしー」
なんだぁ……と子どもたちが安堵の吐息をはく。アカネが「良かったぁ……」と涙目で言うと、あやねが妹の頭をよしよしする。
「それではおまちかね……。【点火】」
コンが花火を手に持った状態で、キーワードを口にする。
それがトリガーとなり、【動作命令】が発動。
すると……。
ーーシャァアアアアアアアアア!!
と、コンの持っている花火の先端から、火花が、まるで流れ星のごとく吹き出すではないか。
「な、なんだそりゃぁあああ!!!」
キャニスをはじめとして、子どもたち全員が、目を驚愕に見開く。
「ふふふのふ、みなのかおがおどろきもものきさんしょのき」
現地人たちのリアクションに、ごまんえつのコン。
手に持っている棒の先からは、絶え間なく光りのシャワーが降り注いでいる。
夜の闇にキラキラと、赤い火花が飛んでいく。
「きれいなのですー……」
うっとり、とラビがコンの手に持つ花火を見てつぶやく。
「でも、らびのほーがきれいだよ」
きらん、とコンがどや顔でそう言う。
ややあって、コンの持ってる花火が終わる。
「おわってしもうた。そらにきえていってうちあげはなび」
コンの花火が終わると、子どもたちがこぞって窓の縁から立ちあがる。
たたたっ、とコンのそばまでやってくると、
「コンッ! それっ! どーやるっ! どーやるっ!?」「おしえなさいよっ!」
「コンちゃんっ!」「はかせぇー……」「おい教えろよ!」
きゃあきゃあ、と子どもたちがコンに殺到する。
後のことはコンに任せるか。
俺はコンから使い終わった花火を受け取り、新しいものを手渡す。
そしてさっきまで子どもたちが座っていた場所に、腰を下ろす。
「おちつきたまへ、みな。ほそいほーをてにもつ。せんたんはひとにむけない。そしてきーわーどをゆー」
コンがうまいこと、子どもたちの伝令役になってくれていた。
あまり大人があれこれ言わない方がいいな、子どもたちで楽しんでるから。
と思っていたそのときだった。
「ジロー」
と、先輩が、ホールから出てきて、俺のそばまでやってきた。
「あれは花火かい? にしてはちょっと作りが変じゃないか?」
「ああ。俺が複製で作った、魔法の花火だ」
先輩と話していると、コンの説明を聞いたキャニスたちが、あたりに散らばる。
「よしぼくから……【点火】!」
するとキャニスの持っていた花火から、シャァアアア……っと緑の火花が散る。
「みどりっ! みどりのほのお! すげー! まほうみてー!」
きらきら目を輝かせながら、キャニスが言う。
「すごいのです! こっちはピンクっ!」
「紫だー……ぁ、ふしぎだぁねー……ぇ」
「うぉおおおお!! すっげー! 姉貴姉貴っ! すげえよこれぇええ!!」
ラビたちインドア派の子供らも、花火に興味引かれてくれたようだ。
「【点火】!」「【点火】ー……ぁ!」「【点火】よ!」
しゃあああ! しゃあああ! と次々に火をつけていく子どもたち。
「……ふむ、あれはキーワードを言うことで、火属魔法がつくように、花火に【動作命令】が書かれてるのかな?」
さすが先輩。
目の前で1度見ただけなのに、もう構造を見抜いてしまった。
花火は、言うまでもないが、火をつけないと火花が出ない。
普通の花火は、普通に複製して作れる。だが火をつける作業が実に面倒に感じたことはないだろうか?
ろうそくの前にじいっとたって、火がつくのを待つ。だいぶだるいし、へたしたら【つかないよー】って先端を覗いて、顔に火がついたら大変だ。
ということで、一工夫加えることにしたのである。
無属性魔法・【動作入力】
これは無機物に命令を出して、そのとおりに動かすという魔法だ。
たとえば手を叩けばボールが転がる、みたいな感じで、命令はいろいろと書き込むことができる。
やったことは単純だ。
【花火を手に持って『点火』と言うと、火がつく】という命令を、花火に書き込んだのである。
「火はどうやってつけてるんだい?」
子どもたちが花火を持って、裏庭を駆け巡っている。
レイアが両手に花火を持って空を舞い、子どもたちが立ち止まって、やんややんやと褒めていた。
「【遅延】の魔法を使った」
無属性魔法・【遅延】
これは魔法の発動を、意図的にずらすことのできる魔法だ。
使い方は単純。
普通の属性魔法(火とか水とか)を発動する際に、【遅延】を使う。
その際に条件を設定できるのだ。
具体的に言えば、発動まで何秒おくれて魔法が発動する、と設定できる。
2秒後だったり、1分後だったりと。
ただ【遅延】では、秒数でしか、遅延の条件を設定できなかった。
手を叩いたら、とか、キーワードを言ったら、とか、そういう細かい条件設定は、【遅延】にはできないのである。
あくまでできるのは、魔法の発動を時間で遅らせることだけ。
「そこに【動作入力】とを一緒に複製合成させたら……条件設定ができるようになったんだ」
「そうなのか……。そんな使い方ができるんだね……」
【遅延】、そして【動作入力】をコンボすることで、【何をしたら】、遅延していた魔法が発動する、という、細かい条件設定ができるようになったのである。
「遅延と動作入力か……。ジロー、きみはほんと、魔法を面白い使い方するね」
「そうか?」
「そうだよ。遅延も、動作入力も、こんなふうに使ったのはジロー、キミが初めてだよ」
先輩が俺の隣に腰を下ろす。
「すごいよ、キミは」
「……大賢者に褒められると、光栄だな」
俺は立ちあがって、子どもたちのもとへと近づく。
「おー! おにーちゃんっ! おにーちゃんもやるです?」
「みてにぃ。みーのにとーりゅー。らいとせーばーのまい」
コンが花火を2本もって、ぶんぶんぶん、とめちゃくちゃに振り回す。
子どもたちはすっかり花火の使い方を覚えて、コンから距離を取って、「おー!」と感心している。
「コンちゃんすごいのです! きれーなほのおの丸ができてるのですー!」
「ほわー……ぁ、きれいだぁねー……ぇ」
インドア派の子らが、コンの動きに見とれている。
「まけねー! コンっ、ぼくの舞もみやがれです!」
「れいあの舞もまけないわよっ!」
レイアは空を跳び上がって、ぶんぶんと回転。キャニスはその場でぐるぐるまわっている。
アウトドア派は激しく動くのが楽しそうだ。インドア派は自分たちの花火よりも、コンたちの動きを見て喜んでいる。
「おーい、ラビ。こういうのもあるぞ」
俺はマジック袋から糸のような花火を取り出す。
ラビと鬼姉妹が、ちょこちょこ、と俺に近づいてくる。
「にーさんっ、これはなんです?」
弾んだ声のラビ。
俺はラビたちに「これは線香花火」といって、手渡す。
「せんこー?」「はなびー……ぃ?」
はて? とラビとあやねが首をかしげる。
「あんまり激しくない感じの花火だよ。使い方は一緒だ。【点火】」
俺はかがみこんで、子どもたちに見える位置に、線香花火を垂らす。
すると……。
「わっ、わわっ、じじじって。じじじってなってるのです!」
「おー……? おー……。ひばながはなちょーちんみたいに、ぷぅーっ……てなったー……ぁ。うけるー……ぅ」
「はぁー……。すっげ、きれー……」
インドア派の子どもたちは、静かにパチパチ言う火の玉を、じいっと見つめている。
目をきらきらと、そしてラビが耳をぴくぴく動かして、線香花火を見てる。
「あんま動かない方がいいぞ。動かないほうが長持ちするからな」
「そうなのです? あっ、落ちちゃったのです……」
「アタシも……」
ぽと、とラビとアカネの線香花火が落ちる。俺は新しいものをふたりにあげる。
「あやねちゃん、すごいのです! 火の玉がまったくうごいてないのです!」
ラビの言うとおり、姉鬼はその場から微動だにしてないため、1本目の線香花火がズイブンと長持ちしている。
「ふふー……ぅ。うごかないのとくいだからねー……ぇ」
インドア派には、こういう静かに楽しめる花火のほうがウケていた。
「おうせんこーはなびやん。みーにもおひとつぷりーぞ」
コンが俺たちに気づいて、ちょうだいちょうだいと言ってくる。
俺が1本だけ手渡すと、コンはちょっと考えて、「たくさんちょーだい」といってきた。
俺は10本まとめて袋から出して手渡す。
「何をするのですっ? なにするですっ?」
ラビたちが、コンにキラキラした目を向ける。
「ふふん。いいかい、10本をこう、まとめてもつ。そして……【点火】っ!」
すると線香花火の先端が、10本分まとまって、
「ひぎ・げんきだま」
「「「でっかーい!!!」」」
1本で作るより、だいぶ大きな火の玉が完成する。
「ふふふのふ。これでぶーをたおせるぜ……あ」
ぽとっ、と線香花火が落ちる。
「しもた。うごいてもーた。もういっぽん」
「今度はもうちょっと長持ちさせような」
「どりょくする」
コンが線香花火の巨大なものを作っていると、キャニスたちが「やらせてー!」とせんがでくる。
線香花火のあとは、打ち上げ花火をあげた。
と言っても市販用のちゃっちいやつだが、それでも子どもたちはきゃっきゃと楽しそうに、空に打ち上がる花火を見て喜んでいた。
「もうちょっと大がかりなものを見せてあげられないものか……」
「にぃ、ぜーたく。これで、じゅーぶん」
肩に乗っかるコンが、楽しそうにケラケラ笑う。
子どもたちは花火を見入っていた。
まあ確かにこれでも十分……?
「いやもうちょっとなんとかできないか考えてみるよ」
「おたのしみにしてる」
コンが降りて、子どもたちとまた花火をライトセーバーにして遊んだ。
ラビたちは線香花火をやったあと、蛇花火を見てケラケラ笑う。
俺は子どもたちから古くなったものを受け取って、新しい花火を渡すことに徹する。
そうやって、夏の夜は過ぎていったのだった。
お疲れ様です!
そんな感じで花火回でした。花火回はもう一回やります。あと水着回(アムや鬼たちの水着も書いてないので)もまたやります。
次回からは海編に入る予定です。商会の持つ貸し切りのビーチにみんなで行って……みたいな感じにしてこうかなと思います。
以上です!
ではまた!




