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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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32.善人、風邪を引くが、猫娘に助けられる

いつもお世話になってます!




 眠っている間……うだるような熱さを感じていた。


 闇の中で炎にあぶられているような、そんな感覚だ。


 熱くて、苦しくて、それでも俺の意識は回復しない。


 何度も目覚めろと自分に言い聞かせても、俺の体、この灼熱のまどろみからぬけだせないでいた。


 苦しい……。


 ここから逃げたい……。


 この暗闇から抜け出したい……。


 そうもがいていても、状況は改善しない。

 

 暗闇の中で、辛い思いをしていた、そのときだった。


 ……すっ、と額に、冷たいものが乗せられた。


【だいじょうぶ、すぐにげんきになるから】


 温かい声だった。女性の声であり、それは聞き慣れた、彼女の声だ。


【だいじょうぶ、あんたの代わりに、アタシが頑張るから】


 冷たい何かは、俺の額をなで回しながら、耳元にささやきかける。


 アンタの代わり? 頑張る……?


【今はゆっくり休んで。ね?】


 そう言ってその声は、俺から離れようとする。


 額に乗っていたのは、そのひとの手のひらであることがわかった。


 ……俺はその手を握った。待ってと言った。


【だいじょうぶだよ、ジロ】


 どこまでも優しくて温かな声が、頭上から降ってくる。


【今まで、ずっとアンタにおんぶに抱っこだった。けどアタシ決めたから】


 決めた……?


【アンタの背中を、アタシも押すって。コレットと一緒に、アタシもアンタを支えるから】


 冷たい手のひらが、俺の手を包み込んでくる。


【これからはジロばかり、頑張らなくて良いよ。辛くなったら、いつでもアタシを頼って。そうするのが、アタシにとっての幸せなの】


 ね、とその子はそう言って、笑っているようだった。


 ……ひどく、安心する声だった。


 体のだるさも、苦しさも、熱さも……気づけば引いて、ずいぶんと楽になっていた。


【じゃ、ジロ。またあとでね】


 そう言って彼女が離れていく。


 俺は彼女の名前を呼ぶ。振り返ってどうしたのと聞いてくる。


 その子に俺は、ひと言だけ。


 たった一言だけ、胸に抱える思いを、言葉にして、伝えた。


【……うん、その言葉が聞けて、アタシとっても嬉しいよ】


 じゃあね、と言ってその子は離れていった。後には暗闇が広がっていて、けれど最初にあった息苦しさは、完全に消えていたのだった。



    ☆



「…………あー?」


 目を開けたはずなのに、真っ暗だった。


 おかしい、起きてるはずだ。


 だのに、前が暗い。なんだ失明でもしたのか?


 妙にふさふさとした感触が、顔の上半分にする。たとえるのならしっぽ……それもこのふさふさしっぽは、


「おぅ、にぃ。ぐっもーにんぐむすめ」


 ……聞き慣れた平坦な声音。そして転生者しか知らないだろうネタ。ふさふさのしっぽ。


「……コン。おまえか?」


「おおむねそのとーりかと」


「おおむねってなんだよ……。コン、どいてくれ」


「ちゅーもんのおーいりょーりてん」


 そう言ってふぁさ……とコンがしっぽをどけてくれたおかげで、ようやく、視界が開けた。


 まぶしい日差しが窓から差し込む。


 オレンジ色した朝日が、俺の顔を照らす。


「今日は良い天気だな。絶好のサッカー日よりだな」


 俺が窓を見てそう言うと、コンが不思議そうに首をかしげて言う。


「きょーはいいてんきだったよ」


「え?」


 なんだろう、この子は今だった、と言った……?


 それに……なんか変だ。


 窓から差し込むオレンジ色の陽光。


 壁の時計を見ると、4時を指しているではないか。


 4時……? 朝の4時……だとして、果たしてコンが起きてるだろうか。


 まさか……という予感がよぎる。


「コン、今って何時だ?」


「ふぉー」


 コンが4本の指を立てる。


「朝の?」「? ゆーがたの」


 ……。

 …………。

 …………や、やっちまった!


 つまり今は朝の4時じゃなくて、夕方の16時なのだ!


 俺は寝過ごしたのだ。


「すまん、コン!」


 俺は勢いよくベッドから半身を起こして、ベッドから降りる。


「なにぬねの?」とコンが首をかしげる。


「すぐに飯の用意……いや洗濯……やべえ掃除もなんもしてねえ……」


 つまり俺は2日目の夜から、3日目の夕方まで爆睡していたことになる。


 いったいなぜ、どうしてこんな長く寝てたんだ……?


「にぃ、ねるべき。やみあがりゆえ、おやすみください」


 コンが心配そうに耳をペちょんとたらして、俺を見て言う。


「病み上がり? なにをいって……」


 と、そのときだった。


 ……ぐらり。


 と体が傾いたのだ。すっ……と体に力が入らなくて、その場にへたり込む。


「にぃっ」


 珍しくコンが声を荒げて、俺のそばまでやってくる。


 体に穴があいたようだ……。ぐ……っと力を入れようにも、立ち上がれない。


「ねてなきゃっ、だめっ!」


 語気を荒げて、コンが言う。


 普段我が道を行く脱力系きつね娘が、このときばかりは、語調を強くしていた。


「コン……だって飯の支度が、洗濯物が……それにコレットも帰ってくるんだ。出迎えないと」


 すると……そのときだった。



「ジロくん」



 ……なつかしい、声がした。


 実に3日ぶりとなる、その人の声を聞いて、俺はとてつもない安らぎを感じだ。


 ……そうだ。彼女は3日目に帰ってくると言った。


 2日目に会合があって、3日目には帰ってくると。


 俺はうずくまった状態から、顔だけをそっちに向ける。


 そこにいたのは……美しい妖精だ。


 長く艶のある金髪。男を虜にする大きな胸と尻。


 整った顔立ちに、晴れた日の青空のような、青い瞳。


 そして何より特徴的な、長い耳。人間にしては長く、エルフにしては短いそれ。


「コレット……」


 俺は眼前に立つ彼女の名前を呼ぶ。

 

 コレットは微笑むと、俺のそばまでやってきて、肩を貸してくれた。


「大丈夫? 立てる、歩ける?」


 コレットの甘い肌と髪においに、感動すら覚えながら、こくりとうなずく。


 コレットは俺に肩を貸しながら、ゆっくりと、歩いて行く。


 ベッドへ連れて行ってくれるのだろう……と思っていたが、


 ベッドを横切って、部屋を出て行こうとする。


「コレット……? どこへ……?」


「ん、とりあえずジロくんが起きたから、眠ってしまう前にあそこへ行こうって思って」


「あそこ……?」


 どこだろうか……?


「ちょっと離れてるけど、ゆっくり向かいましょう。だいぶ楽になるはずよ。んしょ、んしょっ」


 コレットがふうふう良いながら、俺を運ぼうとする。


 だが、


「あっ……!」


 足をもつれさせて、コレットが転びそうになる。


 俺もろとも転ぼうとした……そのときだった。


「あぶないっ、ジロっ」


 すばやく誰かが、俺の腕を掴んで、ぐいっと引き寄せてくれた。


 彼女のおかげで、俺たちは転ばずにすんだ。


「だいじょうぶ、ジロ?」


「ああ、大丈夫だよ、アム」


 そこにいたのは、赤髪の猫獣人だ。


 小柄な彼女は、今、大きめのエプロンをつけている。


「アム、そのエプロンって……まさか……」


 見覚えのあるエプロンだ。なにせ、それは俺が普段つけているやつだからだ。


 ……目を覚ます前の、まどろみの中の記憶を思い出す。


 まさかあれは夢じゃなくて、現実だった……?


 だとしたら……。


「……とりあえず、今は行こ」


「そうね、行きましょ、ジロくん」


 アムが逆側の肩を貸してくれる。


 俺はコレットとアムの力を借りて、ゆっくりと、孤児院の外へと向かう。


 外に出て、裏庭を歩いていて……俺はようやくどこへ行こうとしているのか、わかった。


 俺は隣の赤毛の少女を見やる。


 そして俺のこのヘロヘロな体を見て、またアムを見る。


 ……察してしまった。全てを。ようするに、俺は倒れて、それをこの子が、カバーしてくれたのだ。


「アム……その……」


「いいから、今は、良いから」


 そうか、と黙って俺たちはそこへと向かう。


 うちの裏にある、体力とケガ病気なんでも完全になおしてしまう、その場所へと。



    ☆



「すまなかった、アム」


 竜の湯から帰って、戻ってきたらすっかり日が暮れていた。


 今はコレットが出て行って3日目の夕方。

 そろそろ夕飯という時間。


 俺は獣人孤児院のリビングにいた。


 テーブルを挟んで向こうには、アムとコレット、そして背後にはテンがいて、ぐすぐすと泣いていた。


「テン、なんで泣いてるんだよ……」


「ぐす……。だってぇ……。社長の不調に気づけなくてぇ……。これじゃあ社長秘書失格です……ぐすぐす……うぇえええん」


 子どものように泣きじゃくるテン。


「いいって、今回は俺の管理不届きだよ」


 ほんと、今回は自業自得だった。


「なあ、アム」


 俺は猫獣人を見て言う。


「なに?」


 普通の顔で首をかしげるアム。そこに怒りはなく、平然と、いつも通りの彼女がいた。


「何があったのか確認したいんだが……とりあえず今朝なにがあったのか、説明してくれないか?」


 大方の予想はついてる……が、現場を目撃しているのは、この中でアムしかいないだろう。


 アムはうなずいて言う。


「朝起きたらね、ジロがすごい熱出してたの」


 ……やはり、俺の思ったとおりだった。


「寝不足と過労ね」


 コレットがため息をついて目を伏せる。


 医学の知識に明るいコレットがそう言うのだ、診断は正確だろう。


「つまり寝不足が体調不良を招いて、風邪を引いて半日寝込んでいた……ってことか?」


 俺がそういうと、アムがうなずく。


「アンタを竜の湯に持って行くことは可能だったわ。けど病人を荷物みたいに運ぶのも、病人を温泉へザブンと入れるわけにも行かなかったの」


「なるほど……だから俺が目が覚めるまで待ってた……ってわけか」


 裏にある竜の湯。


 ここに入れば、病気、つまり風邪を治すことができた。


 しかしそうしなかったのは、アムがさっき説明したとおりだ。


 ふたりの助力があって、俺は竜の湯に浸かり、すっかり体調を取り戻している。


「俺が目覚めるまでの間は、どんな感じだったんだ?」


 アムが朝から今までのことを、端的に話す。


 アムが俺の仕事をすべて、代行してくれていたそうだ。


 掃除洗濯、そして夕飯の支度から、子どもたちの世話まで。


「全部ひとりでは無理だったから、一花たちに手伝ってもらったの」


「……そうか。あとであいつらにもお礼言っておかないとな」


 俺は天井を見上げて、目を閉じる。


 自分のアホさかげんに腹が立った。


 目を開けて、アムに顔を合わせる。


「アム。ほんとうにす」まん、といおうとした、そのときだった。



 ……ちゅっ。



 とアムが身を乗り出して、俺の唇を塞いだのだ。


 軽いキスだった。すぐに顔を離し、俺の唇に、アムが指を乗せる。


「すまないとか、言わないで。謝らないで」


 語調を強めて、アムがそう言った。そこには断固とした意思が感じられた。


 アムが席に戻って言う。


「ジロの手伝いを、アタシはしたくてしたの。アタシの意思で、やったの。だからすまないとか、謝られる筋合いはないし、謝って欲しくない」


「アム……」


 アムはにこりと笑って言う。


「それよりジロが無事で、良かった」


 この子は……。


 この子は、本当に優しい子なのだなと思った。


 俺のいない間の仕事は、大変だったろう。

 

 だのに苦労を口にせず、あまつさえ、俺の身を案じてくれている。


 その彼女が謝らないでくれと言った。


 ならばこう言えば良いのだ。


 手伝ってくれたアムに、優しい彼女に、


「アム……ありがとう」

 

 俺がそう言うと、アムは「どういたしまして」と大輪の花が咲いたように、明るい笑みを浮かべたのだった。



    ☆



 コレットたちが帰ってきた翌日の朝。


 ついに新しい孤児院が完成した。


「「「おー!!」」」


 獣人の子どもたちが、いっせいに歓声を上げる。


 そこにあったのは……前の孤児院の3倍くらい大きな、レンガ造りのしっかりとした建物だった。


「でっけー!」「これがだいさんのわがやか」「第三? 2じゃないのです、コンちゃん?」


 ほああああ……と子どもたちが口を大きくぽかんとあげて言う。


「ふぁあ……おっきー、りっぱだね……ぇ、アカネちゃん?」


「そーだな。アタシらも余裕でくらせるよね、これ」


 鬼族の子どもたちも、新しい建物を見て感嘆の吐息を漏らしている。


 獣人孤児院と、鬼族孤児院の全員が入ったとしても、まだまだ部家には余裕はありそうだった。


「さっそくたんけんいくかーです!」

「それあり。あるあるたんけんたい」


 子どもたちがいち早く、建物へ向かって走って行く。


「ちょっと! まちなさいよっ、れいあもおいてくんじゃないわよっ!」


「あやねちゃん、アカネちゃん、いこうですっ!」


 レイアとラビがその後に続く。


 ラビは鬼族の姉妹の手を引いて、新しい建物へと入っていく。


「ふぉー! おにーちゃんすっげー! 2階建てっ! 2階建てでやがるですー!」


「ばかな、ここはしろか? よーさいか?」


 前より縦にも広く作ってもらったのだ。


「はわわっ、ふきぬけになってるですー!」


「ふぉぉお……♡ おしろみたいだぁねー……ぇ」


「おねーちゃぁ……ん、どこー。みんなー、どこー?」


 どうやらアカネが迷子になっているみたいだった。広いし、建物は新しいし、まよってもしょうがないか。


「アカネっ! ここにいやがったですー!」


「呼ばれたら飛び出るー……ぅ。おねーちゃんさんじょー……」


 どうやらキャニスとあやねが、妹鬼を回収したようだ。


 しばらくして、子どもたちが外に、俺たちの元へと戻ってくる。


「新しい孤児院はどうだ?」


 俺はしゃがみ込んでキャニスたちに尋ねる。


「「「ちょーすっっげー!!!」」」


 大変素直な感想をいただいた。


 うん、この子たちが喜んでくれるものができて、良かった良かった。


「もっかいたんけんいくでやがるです!」


「あたらしいふぃーるど、まっぴんぐせねばな」


 おー! と言って、子どもたちがまた建物へと吸い込まれていった。


 鬼族の桜華と、その娘たちも、その後に続く。


 一花には昨日のうちに、謝っておいた。迷惑かけたなと言うと、一花は「気にしなさんな。一緒に住んでく仲間だろ?」と男前に笑った。


 やっぱり桜華の娘たちも、全員が良い子たちなのだな、と今回のことでわかった。


 全員が新しい孤児院へと入っていき、後には俺とコレット、そしてアムが残される。


 先輩は来週まで学会で帰ってこないのだ。


「ジロ。あのね。アンタに言っておきたいことあんの」


 アムが俺を見上げながら言う。


「アタシ、ここにずっといる。ここでアンタと、コレットの手伝いする」


 決意のこもった顔で、アムが俺と、そしてコレットを見やる。


 アムの瞳には、揺るぎのない信念を感じさせた。


「昨日ね、ジロやコレットの仕事を代わりにやって、アタシわかったの。ふたりとも……こんな大変な仕事してたんだなって」


 今までアムは、要所要所で、俺たちを手伝ってくれていた。


 だが俺が倒れていた昨日、彼女は孤児院の仕事を、初めて1から10まで経験したことになる。


「とっても大変だった。掃除も洗濯も、ジロが自動化してくれてなかったら、一花たちが手伝ってくれなかったら……ぜったいに上手くできなかった」


 ちなみに昨日は、料理はインスタントで済ませたらしい。


 子どもたちはいっさい文句を言わなかったという。アムを含めて、全員が優しい子らなのだ。


「だからね、ジロ、コレット。アタシ思ったの。ふたりにお世話してもらうんじゃなくて、ふたりのお手伝いがしたいんだって」


「アム。それは……ウチで働くってことだよな?」


 アムはうなずいた。


「うん。アタシ、もう決めたの。ここで働く。大好きなみんなのいる。大好きなひとたちのいる、ここで。この場所で」


 アムが新しくなった孤児院を見上げながら言う。


「おねーちゃーん!」「まみー」「にーさーん!」


 獣人たちが窓から顔を出して、俺たちに手を振っている。


 アムの目が細められる。


「建物のもおっきくなったじゃない。この先桜華さんたちみたいに、人数が増えてくかも知れないわよね。なら人手がいるに越したことないでしょ?」


 ねえジロ、と俺を見てアムが言う。


「もうひとりで全部背負わないで。もう子ども扱いしないで。アタシはアンタと、コレットと、対等になりたい。子ども扱いはもうやなの。アタシも、アンタたちと同じ側に……立たせて、ください」


 アムがぺこり、と頭を下げる。


「お願いふたりともっ。アタシを、ここで働かせてくださいっ!」


 真摯な態度のアムを見て、俺は、コレットを見やる。


「ジロくん」


 コレットは笑っていた。その目には少しばかりの涙が浮かんでいた。


 子どもの成長を見て喜ぶ、母のように、俺には見えた。


 俺はうなずいて、アムのそばによる。


 頭を下げているアムの肩に、ぽん、と手をかける。


「アム。頭を上げてくれ」


 すっ……とアムが顔を上げて、俺を見上げてくる。


「アム、俺さ、心のどこかで、まだおまえを子ども扱いしてたのかもしれない」


 付き合おうと宣言した、あの日から、今日まで。


 恋人になった後でも、アムはやはり、俺たちの子どもという意識があったと思う。


 それがこの2日間の、態度に出ていた。だから下準備も自分だけでやったし、料理も全部俺ひとりでやっていた。


 アムに手伝ってと言えなかったのは、やっぱり、どこか彼女を、守られる側の人間だと思っていたからだろう。


 でも……俺は間違っていた。


 彼女は立派な大人だったのだ。


「アム。これからは、おまえを頼るよ。悩みがあったら相談するし、なにか準備があるんだった、一緒に手伝ってくれ」


「ジロ……それって……」


 アムの目に、涙がたまる。


 俺はうなずいて、彼女を抱いた。


「アム。ウチに来てくれ。ずっと一緒にいよう。一生、一緒に」


「ジロ……。それってさ……」


「ああ」


 間違ってない。ウチで働いてくれ、そして、家族になってくれと。


「ダメか?」


 俺の言葉に、アムはキスをもって返事をする。それは肯定の印だ。そして契約の証。


「コレットは……いいの?」


 アムが俺から離れて、コレットに尋ねる。


「良いに決まってるでしょう。よろしくね、アム」


「………………。うんっ!」


 アムが笑い、コレットも笑う。


 コレットが俺の右手を、そしてアムが俺の左手を掴む。


 新しい家。新しい職員。


 そして……新しい家族。


 すべてが一新された、孤児院での生活。


 これからどんなことが起こるだろう。


 これから俺たちは、どうなっていくだろう。


 すべてが未定だ。未だ定まらぬ未来が、俺たちの前に広がっている。


 それでも……全然怖くなかった。


 新しい家で俺を待つ子どもたちがいる。


 そして新しい家族が、俺には、いる。


 不安はない。恐れもない。


 俺が倒れても、支えてくれる優しい嫁たちがいる。


 ならば未来を恐れる必要は、まったくなかった。


 次から次へとやってくる、新しいものを、素直に楽しもう。


 俺たちの楽しい暮らしは、まだまだ、始まったばかりなのだから。






お疲れ様です!


そんな感じで6章終了となります、お疲れ様でした!


次回は少し掌編をはさんで、そこから7章へ入ってこうと思います。


掌編の内容はマチルダさんのお話になる予定です。


ジロと別れてから6章終わりまでの、マチルダさんの様子とか、あと1話のフラグ回収(ケインと3人で飲みに行く)


そこで結婚したジロをみていてもたってもいられなくなって……7章へ続く、みたいな、そんな流れにするつもりです。


分量はそんなにないです。たぶん。2話か3話。4話かかることはないです。


そんな感じで次回もよろしくお願いします!



そして、最後にお知らせです!



このお話、書籍化が決定しました!



皆さまの応援のおかげで、出版社からオファーをいただきました!


ほんとに皆さまのおかげです!ありがとうございます!


ここまで頑張ってこれたのは、いつもこの話を読んで、支えてくださった皆様がいたからです!


本当の本当にありがとうございます!


これからも頑張って、皆様に面白いと思ってもらえるものを、少しでもくすりと笑ってもらえるようなものを、全力で書いてく次第です!


書籍化の詳しい情報は、決まり次第あとがきや活動報告にて書きます。


どこで出版されるのか、イラストレーターさんはだれなのかとか。


ツイッターの方でも情報をばんばんと流してくつもりですので、そちらも併せてチェックしていただけると嬉しいです!マイページにツイッターへのリンク貼ってます!


長くなりましたが、あとがきは以上になります!


皆さまほんとにありがとうございます!これからもバリバリ頑張っていきます!


ではまた!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 風呂に入ってないから過労は癒えてなかった、と言う事は、主人公は毎日お風呂に入りたいとは思わないタイプの元地球人だったか。
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