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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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30.善人、料理動画をスマホで見ながら、手作り料理を作る

いつもお世話になってます!




 コレットと桜華が外出した、2日目。


 朝、俺は良いにおいに包まれながら、意識を覚醒させる。


 南国の花を彷彿とさせる甘酸っぱい香りが、鼻腔を突いた。


 目を開けなくてもわかる。


 アムの髪のにおいだろう。


 アムは毎朝、気づけば俺のお腹の上に乗っているのだ。


 普段は並んで寝るのだが、知らぬ間に移動しているのである。


 腹の上に重さを感じる。やはりアムが乗っかっているようだ。


「アム……どいてくれ。起きられない……」


 腹の上に乗ってるアムに、俺が話しかける。と、そのときだった。



「なんだい、もう目が覚めちまったのかい? あんちゃん」



 ……俺は違和感を感じた。


 アムは俺のことをジロと呼ぶ。だのに腹の上に乗っている人物は、俺を兄ちゃんと呼んだ。


 俺をそう呼ぶ人物には、ひとり心当たりがある。だがそいつはアムではない。


一花いちか……」


 目を開けて見下ろすと、そこには鬼娘・一花がいた。


 ばさばさの髪を髪留めで総髪にし、猛禽類のような鋭い目つきは、彼女に武士のような印象をあたえる。


「もうちょっと眠っていて欲しかったんだけどねえ」


 くつくつ、と一花が笑ってそう言う。


「……ちなみにもう少し眠ってたら、どうするつもりだったんだ?」


 俺は半身を起こして見下ろす。


 俺のまたの間に、一花が寝そべっている。


 そして俺のパジャマは完全にズリ下げられていた。そして一花が今まさに、パンツに手をかけると言う場面であった。


「そりゃぱくっと」「いや、言わなくて良い」「なんだい、最後まで言わせてくれよう、いけずだねえ兄ちゃんは」


 ぷー、と一花がほおを膨らませる。


 ちなみに一花は衣服を何も身につけてなかった。


「なんで全裸なんだ……」


「そりゃあ、これからいたすからに決まってんじゃあないか。なあ肆月しづ風伍ふうこ


 一花が左右に目を配らせる。


「ええ、そうですわ♡ お姉さま♡」


「ほんとほんと、それ以外にないじゃんっ」


 ねー、と顔を見合わせるのは、ふたりの鬼娘だ。


 大柄な少女と、小柄な少女だった。


「おじさま♡ おはようございます♡ 昨晩はあんなに……ああ♡ わたくしも早く……♡」


 ひとりは一花ほどではないが背が高く、骨格がしっかりしている。


 太ももや二の腕、そして乳房にたっぷりと肉がのっている。全体的にぷにっとした印象の少女だ。


 丸いメガネをかけており、ふわふわの長い髪を三つ編みにしている。


 この子が桜華の娘・四女の肆月しづだ。


「おっちゃん体力あんねっ。私も体力には自信あっけど、おっちゃんには負けるぜっ。どっちが体力あるかさ、競争しようよっ。もちろんどこでとは言わなくても、わかるよなっ♡」


 もう片方は、小柄だ。


 アムと身長は同じくらいだろう。


 短い髪に、小麦色の肌が、彼女に活発な印象をあたえる。


 手足はすらりと長く、草食獣を彷彿とさせる。


 だが胸と尻はしっかりと肉がついており、腹はきゅっとひきしまっていて、きちんと女の体をしていた。


 この子が五女の風伍ふうこ


 次女の弐鳥にとりと、三女の美雪以外の鬼娘が、俺の部屋にいることになる。


「弐鳥は美雪と赤ん坊のご飯つくってるさね♡」


「ああそう。じゃあおまえらも手伝いに行ったほうがいいんじゃないか?」


「つれないこと言うなよ~♡」「そうですわ♡」


 ねー♡ と一花と肆月が笑い合う。


 その間にも風伍が、ごそごそと俺のパンツをはぎ取ろうとしてきた。


「やめろって」


「え、なんで?」


 きょとんと首をかしげる風伍。


「こういうのはな、ちゃんと恋人になってからやるもんだぞ」


 諭すようにそう言うが、


「え、そうなの? スポーツみたいなもんじゃん?」


 風伍は本気でそう思っているらしい。


 真顔で首をかしげていた。


風伍ふうこ、よく言った。そのとおりさね♡」


「へへ、でしょっ♡」


 よしよし、と長女が五女の頭を撫でる。


 鬼娘たちは、全員が仲良いらしい。


 もっとも美雪は例外的に、どの鬼娘とも絡んでいるところを見たことが無いので、正確には全員とは言えないけど。


「しかし誤算だったさな。まさか兄ちゃんがこんな早くから起きるとはねぇ」


 壁の時計は6時20分を示していた。


「起きる前にちゃちゃっともらおうって思ったんだがねぇい……」


「お姉さま♡ 今らかでも遅くはありません。おじさまが忙しくなる前にもらってしまいましょう♡」


「そーしようぜー!」


 肆月が俺の右腕を、風伍が俺の左腕を押さえる。


「おーっとちなみに怖い怖い鬼の動きを封じる指輪は、こっちで預からせてもらってるさね♡」


 一花の手には、桜華から持った指輪が握られていた。

 

 俺が寝てる間に、一花に取られたのだろう。


 これでは抵抗しようにもできない。


「よーし、まずはお姉さまが1番。つぎに肆月。風伍な」


「「はーい♡」」


 とてつもない怪力で身動きを封じられた。

 いかん、貞操が……と思っていたそのときだった。


「なにやってんのよ、アンタたち-!」


 猫のように甲高い声がしたと同時に、一花が真横に吹っ飛んでいった。


 高速で何かが飛翔し、一花に蹴りを入れたのだ。


 そこに立っていたのは……。


「アム……」


 赤毛の猫獣人、アムだった。


 瞳にめらめらと怒りの炎を宿しながら一花と、そしてふたりの鬼娘たちを見ろしている。


「良いキックだ。やるねえ、アムちゃん♡」


 吹っ飛んだ一花は、まるでダメージがないように見えた。


 鬼は腕力が強いだけじゃなく、体も頑強なんだそうだ。


「朝っぱらからなにやってんのよ、もうっ!」


「何ってそりゃあナニだろ」「ナニですわ♡」「ナニ以外の何だとおもってんのさ」


 あっけらかんと、鬼娘たちがそう言う。


 これから行われる予定だった行為に対して、特別何も感じてないようだ。


 本当に気軽に、まるで天気が良いので散歩でもするか、みたいな、そんな気軽さで、男を襲おうとしていた。


 これが鬼のメスか……。


「アタシが風呂で体洗ってるスキに……もうっ、どきなさいよアンタたち!」


 ふしゃーっ! とアムがしっぽをびーんと立たせて言う。


 どうやらアムは俺より先に起きていたらしい。


「ちぇ、良いところだったのになー」


 風伍が残念そうに言う。


「まあまあ♡ 機会は何度でもありますわ、ふーこちゃん♡」


「だなっ♡」


 鬼娘たちは素早く衣服を身につけると、


「「「それじゃ、また♡」」」


 と言って、すたこらさっさと、俺の部屋を出て行った。


 帰り際に一花が「返しとくさね」と言って、俺に指輪を投げてきた。


 それを受け取った頃には、鬼たちはすっかりいなくなっていたのだった。

 

 後には俺とアムが残される。


「アム、すまん。助かった」


 アムは「ん。別に良いわよ」と言ってため息をつきながら、すすす、と俺の隣に座る。


 そしてお腹の上に乗っかってきて、「♡」と体を丸くした。


「おまえほんと、そこ好きだよな」


「てーいちだもんっ。ふふっ♡」


 アムの猫っ毛をくしゃくしゃと撫でてやると、彼女は気持ち良さそうに喉を鳴らす。


「ところで……ジロ。そろそろ起きないといけないわよね」


 アムがちらりと、壁掛け時計を見る。


 6時半。そろそろ起きないとだ。


「でももうあと10分、こうしてたいな……♡」


 アムは首筋に鼻を押し当てて、しっぽをゆるゆると動かす。


 俺は彼女の背中をなでながら、10分間だけそうしていたのだった。



    ☆



 その3時間後。


 今日も天気が悪いので、子どもたちは中で遊んでいる。


 俺は掃除機の自動化テストを兼ねながら、孤児院の中を掃除。


 アムは乾燥機から洗濯物を取り出して、たたんでくれている。


 鬼娘たちは赤ん坊の世話と、それぞれが仕事をしている。


「あ、またダメだ」


 俺の前を走っていた掃除機が、廊下の壁にぶつかり、それ以上進もうとしない。


 廊下の端っこで俺は立ち止まり、ひとりごちる。


「うーん……やっぱり孤児院の中の地図を書き込まないとダメか……」


 最初はざっくり【孤児院の中を掃除しろ】と掃除機に【動作命令プログラム】をかいたのだが、それだと指示が曖昧すぎて動こうとしなかった。


 次はルート(何メートル進んだら曲がって、次は何メートル進んで……)を逐一書き込んでみたのだが、プログラムが長すぎてしまうので、記入漏れがあったみたいだ。


「やっぱ家電の完全自動化は難しいな……」


 とつぶやいていたそのときだった。


「へい、にぃ」


 にゅっ、とコンが俺の右肩に乗ってきた。


「うおっ。コン、いつの間に」


 俺に気づかず、この子は肩に乗ってきたのだ。


「いつでもそこに、まっくどーなるど」


 にやり、とコンが不敵に笑う。


 まあこの子が神出鬼没なのは今に始まったわけじゃない。


「どうした、コン?」


「ふふふ、よーじはない」


 すんすん、とコンが俺の髪に鼻を埋めてにおいをかぐ。


 ほう……と吐息をはくと、


「いつもながら、けっこーなおてまえ」


 とろんと目を細めてコンが言う。


「おまえみんなとゲームしなくていいのか?」


 今は1日1時間のテレビゲームタイムの最中であるはず。


「わりーなのびた。あれ、4にんのりだから」


「ああ、ゲーム機は4人しかプレイできないもんな」


「そゆこと」


「あー、コンこんなところにいやがったですー」


「おや、のびたくん、どうしたんだい?」


 コンが声のする方を見て言う。


 いぬっこのキャニスが、トコトコと俺たちに近づいてきた。


「のびたってだれでやがるです?」


「せかいいちゆーめいながんまんさ」


「へー、きーたことないです。コンはほんとうに何でもしってやがるなです」


「なんでもはしらないよ、しってることだけ」


 どやっ、と決め顔でコンがそう言った。


「いちどはいってみたかったせりふ、だい2位がいえてまんぞく」


 んふー、と満足そうにコンが鼻息を漏らす。


「それでキャニスまでどうしたんだ?」


「ゲーム待ちでやがるです。ヒマだから遊べやおにーちゃん♡」


 キャニスが俺の足にしがみつくと、よじよじと登ってくる。


 このへんコンもキャニスも動物だからだろう、木登りが得意なのだ。


「掃除機かけ終わるまで待てないか?」


 と俺が言うと、


「まて~~~~~~…………」「るのか? まてるんか?」「ぬっ、でやがるです!」「まてないんかーい」


 わー、と漫才をするコンとキャニス。


「ぼくたち勝手におにーちゃんで遊ぶでやがるです」


「みーたちはにぃのじゃましない」


 ねー、とキャニスとコンが顔を見合わせて言う。


 俺はコンたちを乗せたまま、掃除機をかける。


「でもおねーちゃんがいないと物足りねーです」


「それな。ふかふかがたりぬよ」


「そうっ、ふかふかがたりねーですっ」


 うんうん、とうなずき合う獣人たち。


「にぃのにおい、好き。しかしたりぬふかふかが」


「おにーちゃんの味も好きでやがるですが、やっぱふかふかがなー」


 ねー、と獣人たちが顔を見合わせて言う。


「なー、おにーちゃん。おねーちゃんはいつ帰ってくるです? きょーです?」


「明日だよ」


「なげーです……」「ながしましげをー……」


 ぺちょーん、と耳を垂らす獣人たち。


「おねーちゃんの料理が恋しいでやがるです……」


「いんすたんともわるくない。けどてりょーりにはまけるね」


 ねー、と獣人たちがうなずきあう。


「まあ、そうだよなぁ」


 昨日の昼と夜は、冷凍食品で済ませた。

 

 普段からコレットの美味い手料理を食べてる子どもたちからしたら、美味いと言えば美味いだろうが、しかしコレットの方に軍配が上がるのだろう。


「きょーもれとると?」


 コンが首をかしげる。耳がペちょんと垂れていたので、そうだと答えたら、さらに凹んでしまうだろう。


 ゆえに対策は考えてある。


「大丈夫だ、ちゃんと手作りだよ」


 ぴーんっ、とキャニスとコンがしっぽを立たせるが、ぺちょんと垂らす。


「おねーちゃんの手作りがくいてーんです……」


「大丈夫だ、それにはおよばん。ちゃんとコレットの料理作ってやるから」


 またふたりのしっぽがピーン! と立つ。

「じゃあ安心でやがるです」「にぃ、きたいしてる」


 ぐっ、とサムズアップする子どもたち。


「でもにぃにまみーのりょうりつくれるの?」


「かみにれしぴでもかいてやがるです?」


「いや、レシピみながらでも、結局は手順とかがわかんないと完璧に作れないしな」


「こぴーすれば?」


 コンが首をかしげる。


 まあコピーするのが1番手っ取り早い。


 しかしとある理由で、手作り料理は複製ができないのだ。


「まあ任せろ」


「お-! まかせたー! ですっ」


「にぃにすべてをたくす」


 その期待には応えないとな、と思いながら、俺は掃除機をかけるのだった。



    ☆



 1時間後。


 俺は台所に立っていた。


「さて……」


 これから料理するわけだが、


「ジロ、できるの?」


 と背後にアムがいて、俺の手元を覗いてくる。


「コレットほどじゃないが、まあ多少はな」


 俺は冷蔵庫の中から挽肉とピーマン、タマネギを取り出す。


「何作るの?」


「ピーマンの肉詰め。あいつらコレットのこの料理じゃないと、ピーマン食わないだろ」


 たしかに、とアムがうなずいた後、首をかしげる。


「でもジロ。別に料理作らなくても良くない? スキルを使って複製すればいいんじゃないの?」


 やっぱり、そこを聞いてくるよな。


 と思って俺は冷蔵庫を開けて、お皿を取り出す。


 皿の上には、ピーマンの肉詰めがおいてあった。


「なんだもうできてるじゃない。作る必要ないでしょ」


「まあ、食ってみろ」


 俺はレンジでチンしたそれを、アムに手渡す。


 アムはフォークを使って一口食べて……首を捻る。


「どうだ?」


「び、微妙……」


 眉を八の字にして、アムが首をかしげる。


「おかしいのよ……。なんかコレットのピーマンの肉詰めの味がしたり、しなかったり、またしたりって……味が、なんてゆーか、不安定? ふわっとしてる感じ……」


 うーんとアムが首を捻っている。


 俺も一口食べる。うん、コレットの料理を複製したはずなのに、なんか違う。


「これってどういうことなの?」


 アムが首をかしげたので、俺は手短に説明する。


「端的に言うと、手作り料理の複製は難しい……というかできないんだよ」


「できない? なんで、食べたことがあれば複製できるんでしょ」


 それはそうなんだがな。


「まず【手作り料理】っていうのが、そもそも難しいんだよ。手作りだから、当然その日その日の味付けって異なってくるだろ?」


「まあ……毎日同じ分量をきちっといれてないわね」


 入れる野菜。肉の量は、作る日によって微妙に変わってくる。


 そして特に、味付けが問題になってくる。


「料理って結構塩を少々とか、こしょうを少々とかいって、分量が適当な部分があるだろ。そうすると毎回【コレットの手作りピーマンの肉詰め】の味は、毎回微妙に味が異なるわけだ」


「それがどうしたの?」


「俺の複製はな、作りたい物体にたいして、1つの経験に対する複数の異なる結果があると、結果が混じって、正確にコピペできないんだよ」


 インスタント食品のような、画一的な味のものならば、味の経験が固定される。


 しかし手作り料理となると、特に毎回の味付けやら入れる食材の量が、全部1から10まで同じことは絶対にない。


 コレットの手作り料理、という物体に対して、その味は毎回変わるため、味の経験がその都度蓄積される。


 そして味の経験が複数あると、それら経験が混じり合ってしまい、結果同じものを作っているはずが、微妙に味が異なるものになってしまう、という次第だ。


 だから俺は【手作り料理】はコピペできないし、しない。


【食材】という手の加わってないものをいつも出して、コレットに料理してもらっているのは、そういうわけなのだ。


 手作り料理は出さないんじゃない。出せないのだ。出しても味が微妙なものになってしまう。


 無論食えはするけど、コレットの手作りの美味しい料理には、とうていかなわない。


「そっか……。だからいつもコレットが料理してたのね」


「ああ。俺ができるのはあくまで食材を出すところまで。料理はコレット。って分業してるんだよ」


 手作り料理の完璧な複製ができるのであれば、料理も俺が担当していた。


 コレットが毎回キッチンに立たなくてすみ、彼女の負担が減るからな。


 そうやらないのは、単に俺ができないから、というわけである。


 だが今はコレットがいない。料理は俺が作るしかないのだ。


「じゃあどうやって作るの? レシピは?」


「それはここに入ってる」


 俺はそう言うと、ポケットからとあるものを取り出す。


 手のひらサイズの、長方形の箱だ。


「なにこれ?」


「これはスマートフォンだ」


「すまーと、ふぉ?」


 はて、とアムが首をかしげる。


「ようするにあらゆる知識を閲覧できたり、遠く離れた人と通話できる魔法の道具だよ」


 俺の説明に、アムが「すごいじゃない!」としっぽをぴーんと立たせる。


「それがあれば料理の作り方も調べられるってことなのねっ?」


「ん~~~…………。実はそうじゃないんだよ」


「あら、そうなの?」


 そう、この世界でスマホを作ることはできる。


 しかし使うことはできないのだ。


 なぜならこの世界には、地球と違って電波が通ってない。


 ネットに接続したくても、そもそも別の世界なので、ネットにつながらない。


 電話もしかりだ。


「今のままだとこのスマホ、本来のチカラの数%しか発揮できないんだよ」


「そうなのね……。残念」


 ああ、本当にな。


 いくら複製スキルがあるとは言っても、ここは異世界である。


 スマホを作れても通話もネットも使えるようには、さすがにできない。


 そもそも別の世界にいるわけだからな、俺は。


「せめて地球から電波が届けばな……」


 残念なことに地球と異世界とをつなぐゲートのようなものはこの世にはない。


 ほんと、ゲートのようなものがかりにあったら、それを通じて電波を受信できるのだが。


 まあないものをねだってもしょうがない。


 ともあれ、この先このスマホは本来の力が発揮されることは、今後絶対に、100%ないだろう。


 残念でしょうがない。ほんと、どうにかならないものか。まあ、無理だよな。


「まあそれはさておきだ。この箱にはな、録画機能がついてるんだよ」


「ろくが?」


 ハテナ、とアムのしっぽが曲がる。かわいい。


「ようするに時間を切り取って、映像として残すことができるんだよ。ほら」


 俺はスマホをアムに見せる。


 画面上には、先ほどアムがしっぽを?にした姿がばっちり動画として映っていた。


「すごいじゃない! なにこれすごい! どうなってるの? アタシが箱の中にいる」


 つんつん、とアムがスマホを指でつつく。


「さっきも言ったが過去の映像を記録して残すことができるんだよ」


 こんなふうに、と俺は先日取った1本の動画を、アムに見せる。


 スマホの中では、


【はいじゃあ、ジロくん。まずはピーマンを縦に切って中身を取り出しましょう。そしたら洗って種をきれいにとったら、小麦粉をまぶすの。そこにさっき作った肉づめ用の肉をつめていくのよ】


 とコレットが料理を、ピーマンの肉詰めを作ってる動画が写っていた。


「これはコレットがこの間ピーマンの肉詰めを作ったときの動画だ」


 コレットには作る際、レシピを一緒に口に出してもらった。


 ようするに料理番組みたいなことをしてもらったわけである。


 俺がこれからするのは、コレットが作ったこのピーマンの肉詰めの動画を見ながら、料理を作る。


 動画を見ながらなので、作り方の手順や、だいたいの調味料の分量がわかる。


「なるほど……これならコレットの料理を再現できるワケね」


「そういうこと」


【小麦粉を入れないとね、詰めたお肉がぽろっと取れちゃうの。あとはお肉を詰めてフライパンに乗せて、水を入れてふたをする。しばらく蒸したら完成よー♡】


 愛しい妻が料理を作る姿を、俺はトレースしながら料理を作る。


 やや時間がかかったが、いちおう作ることができた。


 やがてお昼になり、子どもたちがリビングへと集まってくる。


 テーブルの上には、ピーマンの肉詰めが、大皿に置かれている。


「おねーちゃんの料理です……」


「はたしておあじは……」


 キャニスとコンが、ぱくり、とひとくち。

「「おねーちゃんのりょうりじゃー!」」


 わぁっ! と歓声を上げる獣人たち。


「はぐはぐ、うめー! ぴーまんなんてくえたもんじゃねえものが、食えるでやがるです!」


「まみーはてんさいや。ぴーまんをひとのくえるものにできるんやからな」


 子どもたちがガツガツと料理を食べていく。良かった、上手くいったみたいだ。


「ちょっとみんな、作ったのはジロなんだから、ジロを褒めなさいよ」


 アムがフォローを入れてくれるが、いや、これでいいのだ。


 結局俺のやったことは、コレットの料理を真似て作ったってだけだ。


「この料理が上手いのは、コレットがそれだけ美味い料理を作れるからだよ。手柄はコレットのもんだ」


 俺は別に褒められなくて良い。この子たちが美味い美味いといってくれれば、手段はどうでもいいのだ。


 俺はコレットの肉詰めを食いながら、そう思うのだった。



お疲れ様です!


そんな感じでコレット不在の2日目の様子でした。


さて次回なのですが、アムちゃんとのイチャイチャがまだ足りなかったので、イチャイチャ多めにする感じです。


たぶん6章は次の次くらいで終わるかと思います。


そんな感じで次回もよろしくお願いします!



最後に告知です。


昨日から新連載はじめました。


よろしければ読んでいただけたらと思ってます!


以上です!

ではまた!

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