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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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27.善人、外出する嫁のために、旅行用品を用意しておく

いつもお世話になってます!




 鬼族たちが、俺たち獣人孤児院で暮らすようになってから、2週間が経過した。


 その日の夕食の席でのことだ。


 リビングには大きめのテーブルが4つばかりでており、獣人、鬼族の子どもたちが、テーブルを囲んでいる。


「きょうもうめーかったですぅ……♡」


 お腹をぽんぽんとさするのは、犬獣人のキャニスだ。


 しあわせそうに顔を蕩けさせ、しっぽでお腹をかいている。


「かれーらいすうますぎ、ほっぺころっとおちたぁ……」


 同じくシッポでお腹をさすっているのは、きつね獣人のコン。


 レイアとラビも満足した顔で、イスの上で脱力している。


「ここはすごいねー……ぇ、まいにちおいしいものが出てくるよー……ぅ。これがてんごくっていうのかぁねー……ぇ」


 獣人たちの正面に座っているのが、鬼族の子ども、赤鬼のあやねだ。


「…………けぷ」


 とかわらしいゲップをもらすのは、あやねの妹の鬼、アカネだ。


 今日の夕飯はカレーライス。しかも3種類別々のカレーを作った。


 牛肉をふんだんに使ったビーフカレー。


 新鮮な魚貝を使ったシーフードカレー。


 そして揚げたてのメンチカツを使ったメンチカツカレーだ。


 前はカレーを作るとき、1種類だけだったのだが。


 こうして人数が多くなったため、大量に作る機会が多くなり、なら種類も多くしようとなったのである。


 まあカレー以外の時は、あまり種類を分けることはあまりしないのだがな。


「みんな~。カレーで終わりじゃないわよー」


 ニコニコ笑顔のコレットが、カラになった皿を片付けた後、手にお盆を持ってやってくる。


 獣人たちがいっせいにシッポをぴーんと立たせる。


「デザートわすれてたですー!」「でざーといーぐるー」「お腹くるしーけどたべるですー!」「あいすがほしいわっ!」


 アイスアイスアイス-! と獣人たちからの熱いコール。


 この世界でも子どもにはアイスクリームが大人気みたいだ。


「アカネちゃん、デザートなんだろうね……ぇ。たのしみだねぇ……♡」


「べ、べつに。ふんっ、おまえらよくあんだけ食ってでざーとくえるよなっ」


「おー……? じゃあでざーとはおいらがもらっちゃおうかなー……ぁ」「…………」「うっそ、ぴょー……ん」「てめぇ!」


 妹鬼アカネがあやねの胸ぐらを掴んで、がくがくと揺すっている。


「もう、アカネちゃん。ダメでしょう。お姉ちゃんと仲良くしないとね?」


 コレットがお盆をテーブルにのせて、ぷんすこと怒る。


「うんっ! わかったよお姉ちゃん!」


 アカネは態度を一変させて、素直にうなずく。


「アカネちゃんはー……ぁ、コレットちゃんがだいすきだぁね-……ぇ」


 ぽわぽわとあやねが笑いながら言う。


「は、はぁっ!? べ、べつにそんなわけ」「ないのー……ぉ?」「あ、あるけどもんだいあるかごらぁ!!」


 顔を真っ赤にして、アカネが歯を剥く。


 あやねはニコニコ笑いながら、そっかそっかと妹の頭を撫でていた。


 一方で獣人たちの目は、テーブルの上に乗せられたデザートにロックオンされていた。


「これは……なんでやがるです?」


 キャニスがきょとんと首をかしげる。


 透明な器に入った果物。そしてしゅわしゅわと泡を立てる液体。


 この世界にはないデザートに、獣人たちが首をかしげる。


「ジロくんが作ってくれたデザートよ。フルーツポンチっていうんだって」


 透明な器が人数分ある。


 炭酸水の中でカットフルーツが浮いていた。


 最近熱いからな。こういう見た目も涼しくなるようなデザートも良いだろうと思って作ったのである。


「しゅわしゅわ泡が出てやがるです?」


「きっとばくだん。たべるとはれつする」


「に、にいさんっ。これはたべていいものなのですっ?」


 コンにそそのかされて、ラビが半泣きになる。


「コン、おまえワザとやってるだろ」


 コンは実は転生者だ。


 つまりこのフルーツポンチがどういうものなのかを知ってるはずである。


 その上であえてああいったのは、ラビをからかったのだろう。


「あんまりラビをいじめるなよ」


「おけまーる。らび、だいじょうぶ。これどえらいうまい」


「ほ、ほんとうです?」


 マジマジ、とコンがうなずく。


 泣きかけていたラビの頭を、コンのふかふかのシッポが撫でる。


「なぁおにーちゃんっ、たべていいっ? たべていいですっ? というか早く食べさせろやですー!」


 キャニスが待ちきれないといった表情で、器をガン見している。


 この子たちと一緒に暮らすようになってそこそこ立つ。


 キャニスたちは、俺の出すものにたいして、一定の信頼を置いてくれるようになっていた。


 俺の出すものにまずいものはない……と。嬉しい限りである。


「じゃあスプーンをもらった子から食べて良いわよー」


 そう言って俺とコレット、そして桜華の3人で、子どもたちに銀のスプーンを置いていく。


 スプーンも器も、そしてデザートに使った食材や炭酸水も、それら全て、俺の特殊技能スキルで作ったものだ。


「まずはぼくが1ばんですー! あーむっ!」


 右手でスプーンを掴んだキャニスが、フルーツを炭酸水ごとすくいあげて、ぱくりと一口食う。


 すると……。


「~~~~~~~~~!!!」


 目を><にして、シッポが電流を流されたようにぴんと立つ。


「やばい、らび。きゃにすがばくはつする。つくえのしたにひなん」「はわわっ!」「うっそぴょーん」「コンちゃんもうっ!」


 続いてコンとラビが、ぱくり。


「うまあじ、なつかしきはこきょーのあじ」


「!?!??!?!?」


 コンがくねくねとシッポをくねらせる。

 

 ラビは炭酸の衝撃に目を白黒させながら、耳をぴーんと立たせた。


 そしてキャニスたちは、


「「「うまーーーーーい!!!!」」」


 と大きな声を張り上げる。


「なんでやがるですっ! この、しゅわしゅわっ、しゅわしゅわがっ、しゅわしゅわっって、うめーですっ!」


「こんなおいしいお水、はじめて飲んだのですっ! あまくてしゅわしゅわでおいしいのですー!!」


 キャニスとラビが驚愕に目を見開き、何度も炭酸水をスプーンで掬ってのんでいく。

 フルーツよりも炭酸水の方が気に入ったみたいだ。


  転生者であるコンはさほど感動しないものの、「このりょうりをつくったやつは、だれだー」と嬉しそうにシッポをふぁっさふぁっさと動かしている。


 レイアなんて食べるのに夢中で、会話をいっさいしてなかった。


「な、なんだよ……そんなうめえのかよ……」


 アカネがそわそわと体を揺すりながら言う。早く食べたくてしょうがないのだろう。


 桜華がスプーンをアカネと、あやねに手渡す。


「アカネも早くたべろやです!」


「アカネちゃんっ、このかんどうを一緒にわかちあおうなのですっ!」


 早く早く-! といぬっこと兎ッ子が妹鬼をせかす。


「しゅわしゅわ……」


 アカネがスプーンを持ったまま固まっていた。


 おそらく器の中の発泡にびびっているのだろう。


 この子が見た目ほど強気でないことを、この2週間で俺は良く知っている。


「アカネ、だいじょうぶだ。食っても死にはしないぞ。それにほら、あやねを見てみろ」


「え?」


 俺に言われて、アカネが、隣に座る姉を見やる。


「ふぉぉー…………ぉ♡ おくちのなかがぱちぱちしゅわしゅわでおいしいー……い♡」


 姉が妹より先に、デザートを食べていた。おそらくそっせんして毒味(というか、安心させるために)を買って出たのだろう。


 あやねはぽやんとしているが、意外としっかりお姉ちゃんしているのだ。


「な、美味そうに食ってるだろ。だからだいじょうぶだ」


「…………べつに、ジロにぃの作るもの、疑ってるわけじゃねーし」


 この2週間でアカネの俺に対する呼び方も、ある程度固まっていた。


「…………はぐっ」


 えいやっと、アカネがフルーツポンチを口にいれる。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡♡」


 アカネが自分のほおを抑えて、ぶんぶんぶん、と身を捩る。


「なんだ、ばくはつすんのか?」


 コンがきょとんと首をかしげて、アカネに尋ねる。


 アカネは身もだえしまくっていた。


「みんな、やばし。ばくはつするぞ」「ひなんめいれい! みんなつくえのしたにかくれろやですー!」「はわわっ!」


 レイア以外が机にバッ、と隠れる。


 レイアはマイペースにガツガツガツとフルーツを食っていた。


「どぉ-……ぉ? アカネちゃん、かんそうはー……ぁ?」


 飲み込んだタイミングを計らって、姉が妹に尋ねる。


「さいっこうっ! なにこれとってもおいしいよっ! おねえちゃんっ!」


 アカネが長髪をふりみだしながら、手に持ったスプーンをぎゅっと握る。


「いままでこんなのみもの、のんだことないよっ! くだものもとってもつめたくってじゅわってして、とってもとってもおいしいのっ!」


 興奮気味にアカネが言う。


「そっかー……ぁ、良かったねー……ぇ。アカネちゃん、お代わりどうするー……ぅ」


「もちろんっ! ジロにぃ!」


「はいよっと」


 俺は立ちあがると、アカネの器を受け取る。


 お代わりも大量に作ってある。

 

 大きめの容器がなかったので、鍋にぶちこんであるそれを、お玉ですくう。


 子どもたちはすさまじいスピードでくい、お代わりを連呼する。


 俺とコレット、そして桜華は、そんな子どもたちの様子をにこやかに見守る。


 ……ややあって、


「はぁー……」「まんぷくだぁ」「もうたべられないのですぅ……」「ぐー」


 獣人たちが満足げに、ぐったりとテーブルにつっぷしている。


「おいしいものたくさんでもうしんでもいいです……」


「そうすっとべつのせかいでてんせいするはめになるから、きをつけるんだよ」


「コンちゃんなにをいってるのかわからないですぅー……」


 ほへー、と夢見心地の獣人たち。


 すでにレイアは寝息を立てていた。あとで回収してベッドに運ばないとな。


「あとはふろはいってねるだけです」「きょうもいいいちにちだったね、はむたろう」「コンちゃん、らびはらびなのです。だれなのです、はむたろうって?」


 と、そろそろおねむタイムに入ろうとしている獣人たち。


 そのときだった。


「みんな、ちょっといいかしら?」


 コレットが立ちあがって、ぱんぱん、と手を叩いて注目を集める。


「なんです?」「じゅーだいはっぴょー? あにめかするのか?」


 子どもたちがコレットの方を見やる。


「実はね、みんなに言っておかないといけないことがあるの」


 コレットが真剣な表情で、子どもたちの前に立って言う。


「いっておくこと、なんです?」「じつはじっしゃえいがかもするとか?」


 獣人たちがコレットを見やる(レイア除く)。


「……アカネ、あやね。あなたたちも聞いて」


 すくっと鬼族の母、桜華がコレットの隣に立つ。


 ふたりの鬼、そして鬼娘たちも、くいっと首をかしげた。


「実はわたしたち……明日から3日間、この家をあけることになったの」


「「「………………」」」


 子どもたちがきょとんと、目を丸くしている。


 事情を知っている俺は、特に驚かず、子どもたちに補足説明を入れる。


「あー、つまりだ。コレットと桜華は明日から3日間、おでかけするんだ」


 するとようやく子どもたちが、言葉を理解したらしい。


「おでかけ……」「みーたちは?」「はわわ、まさか……」


 じわ……っと子どもたちの目に涙がたまる。


「あ、でも泣かないでっ! ちゃんと3日後には帰ってくるからねっ!」


 コレットが念を押すと、子どもたちがほーっと安堵の吐息をはいたのだった。



    ☆



 翌日の早朝。


 今日も天気が悪く、どんよりとした曇り空だった。


 孤児院の工事は佳境に入っており、新しい建物の姿が、ぼんやりとだが出来上がっている。


 孤児院の前には俺の作った車が1台とまっている。


 俺はキャリーケースと、石油を入れるようなポリタンクをいくつかおいて、彼女たちが来るのを待っていた。


「ジロくん、お待たせ」


 すると孤児院の方から、おめかししたコレットと桜華が出てきた。


 普段はまったく化粧をしないふたり。


 だが今日は特別なので、ふたりともばっちりと化粧をしていた。


 特にコレットは大人っぽさがぐっとましており、とても似合っていた。


「ジロくん、ちらちら」


 コレットが感想を求めてきたので、かわいいぞと頭を撫でてやる。


 エルフ耳がぱたぱたぱた、と蝶のように羽ばたいて、喜色をあらわにしていた。


「……あの、じろーさん」


 ちらちら、と桜華が俺に視線を送ってくる。


 ただでさえ大人の美を内包する桜華が、化粧によって、妖艶さがましていた。


「とってもキレイだと思うぞ」


「♡」


 桜華は体を抱くと、やんやんと身を捩る。


「ふたりとも、準備は整えておいたぞ」


 俺はキャリーケースをふたりの前にもってくる。


 色は青とピンク。青がコレットで、ピンクが桜華のものだ。


「あの大荷物が、こんな小さな箱の中に入っているの?」


 コレットの持ち物は、3日分だというのに、とんでもない量だった。


 着替えやら雑誌やらなんやらが詰め込まれていた。


 とてもじゃないが普通のカバンでは入りきらない。


 そう思って、俺はこのキャリーケースを作ったのである。


「ああ。【無限収納アイテムボックス】が付与されてある。いくらでもものが入るようになってるぞ」


 桜華とコレットがほえーっと感心したように吐息を漏らす。


「他にも必要っぽいものを作っていれておいたからな。確認してくれ」


 そう言って俺はコレットのキャリーケースのふたを開ける。


 そして俺の作った必要になるっぽいものを、取り出す。


 ドライヤー。化粧水。歯ブラシ。歯磨き粉。洗面グッズ。


 タオルたくさん。清潔なシャツたくさん。

 ポケットティッシュ、ウエットティッシュ、シャンプー、ボディソープ、制汗剤。


 と、いちおうお泊まりに必要なものは一通り作っておいた。


「……ドライヤー、とはなんですか?」


「髪を乾かす道具のことよ。スイッチを入れて……ほらっ」


 コレットがドライヤーを手に持って、電源を入れる。


 ぶぉおおお……っと熱風がでて、桜華がびっくり仰天する。


「……すごい、これならすぐに髪を乾かせますっ」


 桜華もコレットも髪が長い。


 いつも乾かすときに難儀していた。


 前からドライヤーは作っていたのだが、桜華は使ってなかったのだ。使い方がわからなかったからだろう。


 歯ブラシは前から孤児院で導入されていた。


 ここに俺が来るまで、歯は枝に塩をふってそれで磨いてるだけだった。


 すげえよな異世界……。


「ごめんね、ジロくん。いっぱい作ってもらって」


 コレットが申し訳なさそうに耳をぺちょんと垂らす。


「気にすんな。嫁の荷造りを手伝うのも、旦那の仕事だろ」


「ジロくん……♡」


 ぎゅっ、とコレットが俺に抱きついてくる。


 桜華は後で、「…………」もじもじと内股を擦り合わせていた。


「歯ブラシとかの使い方はわかるよな?」


「うんっ、だいじょうぶっ」


 衛生グッズは、前から孤児院に導入されていたので、使い方にまよわないだろう。


 問題は別にある。


「それでコレット……車、ほんとうにだいじょうぶか?」


 荷物をキャリーケースにぽいぽいと詰め込んだ後、俺はコレットに尋ねる。


「うんっ、そっちもだいじょうぶだよっ」


 ふんすっ、と鼻息荒くコレットが言う。


「わたしね、運転結構得意みたいっ。運転の才能あるみたいなの」


「お、おう……。そうだな……」


 コレットたちの外出が決まったのが1週間前。


 それからコレットに、車の運転をレクチャーしたわけだが……。


「……スゴいです、コレットさん。こんな大きな鉄の馬を操れるのですね」


「えへっ♡ 運転はまかせて桜華さんっ。わたし完全にこの子を乗りこなせるようになったからっ」


 ……お、おう。


 どこからその自信が来るのだろうか……。


 いちおうコレットはこれに乗れるようにはなった。


 そもそもこの車、オートマ車だからな。


 マニュアル車と比べて、そこまで操作に複雑性はない。


 だからコレットも、1週間もしないうちに、動かしかたはマスターした。


 ……もっとも、動かしかただけは、だが。


「コレット。今からでも遅くないから、馬車をクゥに手配してもらわないか?」


 俺の提案に、コレットがどうしてと首をかしげる。


「いや確かに会合が開かれるザクディラは、ここから結構距離ある。馬車より車の方が早くつけるだろう」


「でしょ? 馬車って結構がたがたってくるから、車ちゃんの方が楽だもんっ! ぜったい!」


 いや……それでも……なぁ……。


 あなたの運転はちょっと馬車よりゆれますよ、とは言えなかった。


「それよりジロくん、燃料の問題なんだけど」


「ああ、それは問題ない。これ燃料切れても動くからな」


 アムが森に逃げてしまったとき、先輩がこの車に【動作入力プログラミング】の魔法をかけた。


 それによってアクセルを踏めば、タイヤが回る。


 つまり燃料がなくても魔法のチカラで動くようにはなっている。


「けど魔法が仮に切れることも考慮して、燃料も作っておいたぞ」


 そう言って俺は、容器入ったガソリンをペンペン、と叩く。この容器は金属を【成形モデリング】の魔法で箱型にして、【硬化ディフェンド】の魔法によって容器の変形を防いでいる。


「これってジロくんの世界の特別な燃料なんでしょう? どうやって作ったの?」


 ガソリンを複製するのには、結構手間がかかる。


 なにせ俺はガソリン事態を見たことがない。


 燃料補給の時は、ガソリンスタンドへ行って、燃料を注いでいただけだ。


 ガソリン単体がでーん、と大量にプールされているものは見たことが無い。


 見たことが無いものは複製ができないはずなのに、どうして燃料を作れたのか?


「車から燃料を抜いて、それを複製したんだよ」


 車を複製すると、ガソリンが満タンの状態で出てくる。


 あとはポンプ(石油ストーブに使うあれ)で石油を吸い出して、硬化した金属容器に詰める。


 で、容器を複製した……という次第だ。


 1度こうして中身を見れば、それ以降はバンバン作れるからな。


「いちおう燃料の注入方法は教えたから心配はしてない。マジック袋に容器は余分に入れておいたから。なくなったら取り出して使ってくれ。ただ気化しないよう十分に取り扱いには気をつけてな」



「もう、なにからなにまで、ありがとジロくん♡ だーいすき♡」


 コレットが俺に抱きついて、俺と唇を重ねる。


「…………」


 桜華がもじもじ、とさらに内股になってい た。


 ややあって、コレットが口を離す。


「それじゃ……ジロくん。そろそろいくね」


 俺は車の荷台にキャリーケース2つと、燃料の入った袋をいれる。


 カーナビ(魔法でエンチャントしてあり、この世界でも使えるようになってる)で目的地を入力してやる。


 この国の東地域にある、最果ての街、「ザクディラ」。


 そこで【彼女たち】の会合が開かれるのである。


「カーナビセット完了っ! 桜華さん、シートベルト締めてっ」


「……は、はい。うんしょ、うんしょっ」


 おもに胸のせいで手間取ったものの、桜華はなんとか、シートベルトをしめることができた。


 コレットは運転座席に、桜華は助手席に座る。


「あとは地図通りに運転すれば良いから」


「おっけーおっけー、わかってるわっ」


 俺は運転座席をのぞき込みながら、コレットに忠告する。


「あんまりスピード出すなよ」


「まっかせろい!」


「隣に人が座ってること忘れるなよ」


「言われなくてもわかってるってばっ!」


「あと……」


「あーもうだいじょうぶだよっ! ジロくんってば心配性だねっ!」


 いや心配しているのはあなたの……。


 と言う前に、コレットがステアリングをがしっと握る。


「……コレットさん、それじゃあよろしくお願いしますね」


 桜華がコレットを見て言う。


「おうけいおうけいっ! まっかせなさいってばー! わたしの運転が火を噴くぜ-!」


「……こ、コレットさん?」


 桜華の額に汗がたらりと垂れる。


「運転はこのわたしにまかせなっ、だいじょうぶ、峠の走り屋とはわたしのことよっ!」


「……あ、あの何か悪い予感がするのですが」


「へーきへーきっ、桜華さん、そんじゃしっかり掴まってなッ! でないとふりおとされっぞ!」


「つ、掴まる!? ふりおとされる!? こ、コレットさんどういう」


「ッシャー! はっしーんっ!!!」



 コレットが桜華を無視して、ギアを入れて、そしてアクセルを全開にふかす。


 ああ、忠告したのに……。


 ぶぉおおおおおお!!! とすさまじいエンジン音をならすと、車はばかすか排気ガスをまき散らしながら、あっという間に見えなくなってしまった。


「……桜華、すまん。生きて帰ってきてくれ」


 ようするに馬車を使いたくなかったのは、こういう理由だ。


 コレットは運転の技量はある程度あるみたいだった。


 が、運転の練習に付き合うウチにわかった。


 コレットが、運転の時、豹変することに。


 地球でも普段穏やかなのに、運転の時だけ性格がガラッと変わるやつがいた。


 まさにコレットがそれだった。


「まあ、ふしぎと運転は上手いから、事故はないだろう」


 けどスピード出しすぎて捕まらないだろうか……。


 あ、ここ異世界だった。


 じゃあ、だいじょうぶか。


 桜華は、だいじょうぶじゃなさそうだけど。


 ……ともあれ、こうして今日から3日間、コレットと桜華という、孤児院のリーダーが、家を空けることになった。


 彼女たちは明日に開かれる会合に参加するため、ここからとおく離れた街、ザクディラへと向かった。


 その間の孤児院の面倒は、俺とアムが見ることになる。


 コレットの長期間の不在は、初めて経験することだ。


 果たして上手くやっていけるだろうか……?



お疲れ様です!


そんな感じで新章スタートです!


6章はコレットと桜華が出かけることになる感じです。


ふたりがどこへ、何をしに行ったのか……については、次回触れます。


今章では前回ほぼ出番のなかったアムちゃんにスポットを当てる予定です。また残りの鬼娘たちの紹介と交流も描いていきます。


またコレット不在でぐずる子供達とか、手こずるジロとか、そういう普段かけないことも書けたらなと思ってます。


そんな感じで6章もよろしくお願いします!


最後に、今回もまた下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです!


モチベーションアップのために、どうかご協力ください!


ではまた!

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