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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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25.鬼のいる朝の風景

いつもお世話になってます!



 一花と弐鳥にとりと出会い、鬼族孤児院に粉ミルクを持っていた、翌朝のこと


 俺はコレットともに、鬼族孤児院へと向かっていた。


 冷蔵庫の使い方や食料の場所などわからないだろうと、俺とコレットが、桜華たちのもとへ向かったのだ。


「ジロくん、正直に答えて」


 しごく真面目な表情で、となりを歩くコレットが言う。


 なんだろう、今後の孤児院の経営についてだろうか。


 それとも改築のプランでも聞くのだろうか。


 いずれにしても重要な話しっぽかった。なにせ目が真剣も真剣だったからだ。


「桜華さんとわたし、どっちのおっぱいが好みなのかなっ?」


「…………」


 ぽかっ。


「あいたっ」


 真面目な話しだと思って損した……。


「アホなこと聞くなよ」


「ぜんぜんアホなことじゃないですっ。重要なことなのー!」


 ぷんすことほおを膨らませるエルフ嫁。


「別に俺は胸とかどうでもいいよ」


 と虚勢を張る俺。


「そのわりには桜華さんのおっきいそれをガン見してましたが?」


 じとーっとコレットが見上げてくる。


「いやまあ、大きいなって事実を目で見て再確認してただけだよ」


「へ~~~~~~~。ふ~~~~~~~~~~~~ん」


 コレットはそう言うと、ぷいっとそっぽむいて、先を歩く。


 俺が並ぼうとすると、コレットがスタスタと前を歩く。


 どうやら、またヤキモチを焼いているらしい。


「コレット。ごめんってば」


「ジロくんのその、怒ってる理由わかんないけど、とりあえず謝っておこうみたいなそれ、きらい」


 ふぅんだ、とコレットがそっぽむく。


 俺は彼女の損ねた機嫌を回復させようとする。


「いやだからあれだろ、かわいい嫁さんがいるのに、他人の胸をガン見してたのがダメだったんだろ」


 コレットのエルフ耳が、ぴくっ、と動く。

 

 かわいい嫁さんの部分で反応を見せた。


「いやほんとごめんってコレット。おまえみたいな若くて美人で顔もスタイルも抜群の嫁がいるのに、他の女なんて見る必要ないのに、ガン見してごめん」


 ぴくっ♡ ぴくぴくっ♡ ぱたぱた♡


 とコレットの長い耳が、蝶のように機嫌良さそうに羽ばたく。


「俺は間違ってたよ。大事なものはすぐ近くにあったんだ。コレット、おまえが1番だよ」


 コレットが立ち止まる。


 耳はもう空でも飛びそうなほど、ぱたぱたぱたぱたとせわしなく上下してるではないか。


 コレットは無言で前を向いたままだ。


 だがオーラを感じる。抱きしめろというオーラ。


 俺は背後に回って、コレットを後から抱きしめる。


 腕に柔からな乳房の感触と、そして髪の甘いにおいが鼻腔をくすぐる。


 今日は天気が良かった。


 朝から気温がぐんぐんと上がっている。


 コレットの額には少し汗をかいていて、うなじからは色っぽい、大人の肌のにおいがする。


「……ジロくん。ちょっと汗かいちゃった」


 物欲しげにコレットが見上げてくる。


 確かに鬼族孤児院へいくまでの間に、竜の湯がある。


 途中で一緒に温泉に入っても良い。


 だがコレットの濡れた瞳は、風呂以上のものも要求しているようだった。


「コレット。ダメだって。朝だぞ今。それに鬼族のみんなに見られたらどうすんだよ」


 孤児院と竜の湯とは離れてはいるものの、見えない距離ではない。


 まあ朝も早いし、万一見られることはないだろうが。


「ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから……ね♡」


 子どものようにおねだりするコレットがかわいらしかった。


 俺はため息をついて、「ちょっとだけな」と言って嫁エルフの頭を撫でる。


 嫁が腕に抱きついてくる。

 

 俺とコレットは竜の湯へと向かったのだった。


 まあ、だいじょうぶだろうとは思うけど、いちおう音とかには注意したし、たぶん見られてないだろう、うん。



    ☆



 汗を軽く流して、俺たちが鬼族孤児院へと向かうと、すでに桜華は起きていた。


 その背中には赤ん坊が「ふぇぇ……」と背負われていた。


 しかしおんぶされていたのではない。


 桜華の両手はあいていた。そして朝食の準備をしていたのだ。


「……じろーさん♡」


 リビングに立って湯を沸かしてた桜華が、ぱたぱた、と俺に近づいてくる。


「桜華さん、おはよう♡」


「……おはようございます、コレットさん♡」


「桜華、おはよう。さっそく使ってくれてるみたいだな、それ」


 俺は桜華の背中を指さして言う。


「ジロくん、桜華さんの身につけてるヒモみたいなもの、なに?」


 コレットが桜華の背後に回る。


 いっけんするとリュックサックを背負っているように見える。


 だが肩から伸びる紐の先には、車の座席シートのようなものがついてる。


 腰のあたりにベルトがあり手足を通す穴がある。


「これはベビーキャリーってやつだ。おんぶひもって昔は言われてたな」


 赤子を背負って母親が作業できるよう開発された、地球の便利グッズである。


 しっかりと子どもを母親の体に固定でき、なおかつ母親は動きやすく、そして子どもはまったく息苦しくない。


 という設計思想らしい。


「……これ、すごいです。赤ん坊をおんぶしながら作業なんて、前はできませんでした」


 以前は他の娘に子どもの面倒を見てもらっている間に、自分は作業をしていたとのこと。


「……すごくしっかりくっついてて、まるで体のいちぶのようですっ」


 弾んだ声で桜華が言う。


 そりゃ良かった……と思っていたそのときだった。


「おかーさ~ん、おはよ~」


「ん? なんだいあんちゃんに姐さんじゃあないか。どうしたんだい?」


 リビングに長女の一花いちかと、次女の弐鳥にとりがやってきた。


 さらに後には残りの娘たちもいて、ひとりを除いて、全員が赤ん坊を抱っこしている。


「…………」


 赤ん坊を抱っこしてないその娘は、まさしく桜華そっくりだった。


 艶やかで長い黒髪と顔の形が似ていた。


 ただ身長は低く、そしてなにより胸が薄い。うすい、というか、ない。


 桜華の娘にしては、ちょっとばかり貧乳過ぎないかと思ってしまった。


「一花ちゃん。あねさんはやめてっていってるでしょう?」


 苦笑しながらコレットが言う。


 ふたりは既知であるようだ。


 まあ、コレットは鬼族孤児院へ何度も足を運んでいるみたいだしな。


 桜華の娘たちとも顔見知りになるというものだろう。


「いやしかしあんちゃん、ほんとあんたってやつはスゴいやつだねぇい」


 一花がニッ、と笑みを浮かべる。


「あんちゃんが用意してくれた、紙おむつってやつ、どえらい便利だったさね」


「ほんとほんとっ! ちょ~たすかったぁ~」


 ねー♡ と長女と次女が同意し合う。


「ジロくん、紙おむつって?」


 俺は部屋の隅に移動する。


 大量に詰んでおかれている、パックに入った紙おむつを手に取る。


「赤ちゃんに履かせる、まあ使い捨ての下着みたいなもんだ」


 ひとつとってコレットに手渡す。


「わっ、かるい。それになにこの素材、布? いや紙ってさっきいってたし……え、これ紙なのジロくん!?」


 驚愕に目を見開くコレット。


 ないすリアクションだ。


「あの、ぺらっぺらな紙なの?」


「まあ画用紙とかとは違うらしいが……とにかくこれは軽くて通気性がとてもいいんだ。それになにより、これの利点は」


 説明しようとしたそのときだった。


「はいはいは~い♡ あたしが説明する~♡」


 ろり巨乳の弐鳥にとりが、ぴょんぴょんとジャンプする。


「これだから、赤ちゃんが用を足したり大をだしたときに、下着ごとぽいって捨てられるの~」


 この世界にもおむつはある。


 だが布製だ。


 排泄物を処理した後、洗濯して、また腰巻きのように赤ん坊の下半身にまくのである。


 正直かなり不衛生だと思う。


 この世界ではそこそこ貴重な布を使い捨てるわけにもいかない……という理屈はわかるんだがな。


 しかし紙おむつならば、大量にあるし、いくら使い捨てても問題ない。


「紙おむつすっごい便利~♡ もうこれない生活なんて考えられないよ~♡」


 後ろに立つ鬼娘たちも、うんうんと同意している。


 心から喜んでいるようだった。


 年頃の女の子たちにとって、赤ちゃん相手とは言え、下の世話をするのは精神的に来るものがあるのだろう。


 それが解消されたのだ。


 喜んでるみたいで良かった良かった。


「それにこのウェットティッシュってのも便利さね。わざわざお湯を用意して布で拭かなくていいってのが楽さ」


 ベビーキャリー、おむつの他にも、ウェットティッシュや子供服。


 よだれかけにおしゃぶり。それに赤ちゃん用のベッド(柵が着いていて落ちないようになってるあれ)。


 等など、必要と思われるものは、昨晩のウチにあらかた作って、桜華たちに届けてあるのだ。


「さっすが兄ちゃん、こんな便利なもんぽんぽんつくれるなんて、たいしたぁもんだねぇ」


「ほんとっ。も~~~ちょっ~~~~~~助かっちゃった♡ おにーさんだいすき~♡ ウチに来てー♡」


 きゃいきゃい♡ と鬼娘たちが黄色い声を上げる。


 美少女からそうやってほめられると、悪い気はしなかった。


「………………ちっ」


 ただひとり、さっきの黒髪ロングの子だけが、俺をにらんで舌打ちをしていた。


「も~、ミーちゃん態度わるいよ~」


「そうさね美雪、おめえさんも女なんだから、ほら、笑顔笑顔」


 ねー、と長女と次女がにかーっと笑う。


「………………」


 黒髪ロングの子は、俺と姉たちを見やると、不機嫌そうに顔をしかめて、どこかへと歩み去って行った。


「すまんね、あんちゃん。美雪はちょっといま思春期入っててさ」


「不快な思いさせちゃったらごめんね~」


 長女と次女が謝ってくる。


 というか、


「さっきの子が三女の美雪か?」


 一花がうなずいて言う。


「ちょっとあの子は難しい性格の子でさ。まっ、悪い子じゃないんだ。あんちゃん、仲良くしてやってくれよ」


 黒髪ロングの美雪は、俺たちに一瞥もせずに、リビングを後にする。


「ところでジロくんジロくん」


 くいくい、とコレットが服を引っ張ってくる。


「どうした?」


 俺より身長のやや低いコレットが、俺を見上げながら聞いてくる。


「この紙おむつとかって、こっちのじゃないんでしょ?」


 さすがに異世界に紙おむつはない。コレットもこの世界に住んで長いのだ、それくらい一発でわかったのだろう。


「でもじゃあジロくん、よく赤ちゃん用の品つくれたね。あれって【経験】がないと複製できないんでしょう?」


 俺の複製は万能ではない。できないことも多い。


 俺が複製できるのは、その名前と形、そしてそれを使ったり味わったりした経験が必要となる。


 かつては俺も、前世でも赤ん坊だった時期がある。


 使ったことがあるから複製ができた……というわけではない。


 このあたりは複雑なのだが、前世において、古すぎる記憶の経験は、カウントされないらしい。


 赤ん坊時代とか、幼少期とかに触れたり使ったことのある物体はコピーできないのだ。


 記憶を元にして生成されるからだとは思う。


 ゆえに記憶が曖昧な時期の物体はコピーできないのでは、と推察している。


 ともあれあ赤ん坊のときのおむつやほ乳瓶などは、先ほどの理論では複製できないはずだ。


 しかし俺にはできた。


 なぜか?


 俺はコレットを見て言う。


「俺さ、年の離れた姉貴がいたんだよ」


「お姉さん……いや、お義理姉さんねっ!」


 言い直すコレットがかわいらしかったので、頭を撫でてやった。


「……あれがあんちゃんの嫁さね」「……すっごいきれ~。あたしらじゃ勝てっこないよ~」「……まあでもさっきのアレを見た感じだと、アタシらにも勝機が無いとも言えないさね」

 

 と鬼娘たちが何事かをつぶやいていた。


「…………」


 桜華が娘たちを見て、何かを考え込むそぶりを見せる。


「……あの子たちが暴走する前に、【あれ】をじろーさんに渡しておかないと」


 うん、と桜華がうなずいていた。


 ……俺の知らない場所で、なにかが進行しているようであった。


「ともあれだ。俺には姉がいたんだ。で、俺が高校生……学生の時かな。結婚して出産したんだよ」


 俺が高1のときに、姉貴は24。


 姉貴たち夫婦は実家で同居していた。


 姉貴の出産後もしばらくは、実家にいたのだ。


「で、俺は姉貴の手伝いをさせられてたんだ」


「手伝い……赤ちゃんのおもりってこと?」


 俺はうなずいて続ける。


「ミルクあげたり、おんぶしてやったり、おむつを変えたりな」


 俺は高校時代、帰宅部だった。


 家に帰っても何もすることもなく、姉貴の手伝いをしていたのだ。


「その関係で赤ん坊の用品を買いに行ったり、ミルクの温度調節したりしたから、粉ミルクやら紙おむつやらを複製できたってわけだ」


 ようするに過去買ったり味を確かめたりしたことがあるから、赤ん坊用品を作れたというわけだ。


「そっか、そうなんだ。ジロくんは昔から良い子さんだったんだね~♡」


 コレットが背伸びをして、よしよし、と俺の頭を撫でる。


「やめろって。みんなが見てるだろ」


 俺はそう言って鬼娘たちをちらりと見る。


「…………」「…………」「…………」「…………」


 4人の娘たちは、確かに俺を見ていた。


 だが、なんだろう。


 目がおかしかった。


 全員がぎらついた目で、俺を、穴があくほど見ている。


「……ほらみんな、そろそろ食事にしますよ」


 ぱんぱん、と桜華が手を叩いて注目を集める。


「わかったさね。んじゃあんちゃん♡ あとでね♡」


「えへへっ、またね~♡ おにーさんっ♡」


 残りの娘たちも俺に好意的なあいさつをして、キッチンへと向かっていった。


「あ、ジロくん。わたし一花ちゃんたちを手伝うね」


 コレットは鬼娘たちのもとへとかけていく。


 俺は戻って子どもたちを起こそうか……と思ったそのときだった。


「……あの、じろー、さん」


 くいっと桜華が、俺の服を引っ張る。


「どうした?」


「……あの、渡したいものが、あるんです」


 桜華がおずおず、とそう言ってくる。


 彼女の目には決意めいたものがあった。


 気の弱そうな彼女にしては、珍しいなと思った。


「渡したいもの?」



    ☆



 桜華たちの元を離れて、俺は獣人孤児院へともどってきた。


 コレットはすでにこっちの朝ご飯は用意してある。


 子どもたちを起こしたら、俺がキャニスたちに飯を食わせる手はずだった。


 子どもたちの部屋のドアを開けると、入ってすぐのところに、毛玉があった。


 銀色の毛の塊だ。


 バスケットボールくらいの大きさの、ふわふわとした見事な毛の玉だ。


 だがこれは毛糸の玉ではない。


「コン」


 俺はしゃがみ込んで、その毛玉、否、コンを持ちあげる。


「すぴょー」


「おまえほんと寝相わるいよな……」


 さっきのはコンが丸まっていた姿だ。


 コンは寝るとき、自分のシッポを抱っこするようにして眠るのである。


 体も丸くするので、遠目には毛玉にしか見えないというわけだ。


「ふぁぁー…………。にぃ、おっはー」


 毛玉状態が解除され、コンがあくびまじりに、俺に言う。


「おはよう、コン」


「ふんふん、すんすん」


 胸の中に収まるコンが、正面を向いて、俺の首筋に鼻を埋める。


「あいかわらず、けっこーなおてまえで」


「お茶かよ」


 コンはふと、「にぃ、それなん?」と俺の右手を見て、シッポで指す。


 右手には1つの、銀の指輪が、ひとさし指にはまっていた。


「まさか、けっこんゆびわとか」


 ハッ……! とコンがシリアスな顔になる。シッポがぴーんと立つ。


「にんしょーさた? かさす?」


「違う違う」


 コンは他の獣人の子らと違い、転生者、つまりもと地球人だ。


 ゆえに結婚指輪のことをコンだけは知っている。


「これはもらったんだ」


「やっぱりかさす? りこんべんごしよんどく?」


「呼ばなくていい」


 ため息をついてコンに説明する。


「さっき桜華にもらったんだ」


「しまつた、けーたいがない。でんわできない」


 まだ俺が不倫していると思ってるのか、このきつね娘。


「なんか桜華がくれたんだ。護身用、だってさ」


 護身用と真面目な顔をしてこの指輪を渡された。


 どういうことかを尋ねようとしたとき、娘たちに呼ばれ、桜華はそっちへいってしまった。


 なので詳しい話は聞いてない。


「うえぽんあーむ? りんぐだがーにでもなるか?」


 武器にでも変形するのか、とコンはいいたいらしい。


「いや、それが魔法武器の類いじゃないらしい。本当にタダの指輪だってさ」


「ゆびわでどうたたかえと? そんなそうびでだいじょうぶか?」


 だいじょうぶだ、問題ない。とは言えない。


 だってただの指輪だしな。


「使い道が不明すぎる……」


 ただ桜華は、これがあれば【あの子たち】から身を守れると言った。


 身を守る……ねえ。


 ーー人食いの鬼。


 という単語がよぎり、俺は頭を振って、邪念を払う。


 一花や弐鳥、それに桜華もいいやつらばかりだった。


 人を食べる悪い鬼には、当然見えない。


 ありえない……しかし桜華はなぜ護身用と言って、指輪を渡してきたのか?


 ……疑念が頭に植え付けられてしまったな。


 と、そのときだった。


「あう、にーさん……」


 くいくい、と誰かが俺の服を引っ張る。


「ラビ、どうした?」


 しゃがみ込んでコンを下ろす。コンはおりようとせず、俺の頭の上に乗った。「そらにそびえるくろがねのにぃ」とかなんとか。


「あうぅ……にーさん、ごめんなさいなのです……」


 ラビが半泣きで謝ってくる。


 朝ということもあって、俺はそれ以上聞かなくても、ラビがなんで謝ってきているのかを察した。


「やっぱり夜中のトイレは怖いか?」


「はいなのです……」


 トイレ事情(ボットン便所だったのを水洗式になおした)を改善した。


 とは言え、やっぱり夜くらいなかをひとりで歩いて行くのは、怖いみたいだ。


「気にすんな。じゃあ風呂行ってシャワーを……」


 と、そのときだった。


「にーちゃん、にーちゃー……ぁん」


 くいくい、と逆側の服を、誰かがつまんできた。


 そっちを見やると、短髪の赤鬼・あやねがいた。


「ごみんねー……ぇ、おいらもー……ぉ、おもらししちまったぁー……い」


 どうやらあやねもおねしょしたようだった。


「…………」


 なぜかあやねの後で、アカネが暗い顔をしてうつむいていた。


 あやねたちの使っているベッドは、見事な日本地図ができていた。


「そっか。んじゃふたりとも、竜の湯いって体をきれいにしような」


「あー……それなんだけどー……ぉ」


 あやねが俺を見上げて、ふへっと笑う。


「せっかくだから……ぁ、みんなでお風呂行きたいなー……ぁ。おいらみんなとお風呂入りたいー……ぃ」


 姉鬼がふにゃふにゃとした口調でそう言った。


「みーも、あるかりせーのはんたい」


 はいはい、とコンが手を上げて賛成してくる。


「アカネも来るか?」


 俺は妹鬼にそう尋ねる。


 アカネはびくっ! と反応した後、無言でうつむいていた。


 アカネのズボンは濡れいていた。


 あやねのズボンも濡れてはいたのだが、前ではなく後が濡れていた。


 ……なんとなく、事態を察することができた。


 ようするに妹がおねしょして、それを姉がかばっているのだ。


 自分がしたことにしたわけだ。


「あやね、別にかばわなくても、怒るつもりはないぞ」


「んー……ぅ? なんのことー……ぉ」


 ふへっ、とあやねがとぼけた調子で首をかしげる。


「おいらがおねしょしたんだよー……ぉ、あ、そうだ-……ぁ」


 ぽん、とあやねが手を叩く。


「ラビちゃぁー……ん、今度さー……ぁ、夜おといれ、いっしょにいかないー……ぃ」


 隣で半べそかいていたラビに、あやねが言う。


「おいらもねー……ぇ、夜のトイレこわくってさー……ぁ。いつもアカネちゃんについてきてもらってんだー……ぁ」


「そ、そうなのです?」


 ラビが涙を拭いて言う。


 親近感がわいたのか、ラビの頬がちょっと赤くなって興奮していた。


「うんー……。アカネちゃんにもうしわけないからー……ぁ、今度からラビちゃんがおといれいくときー……ぃ、おいらを誘ってくれるとー……ぉ、うれしいなー……ぁ」


 ふへー、っと笑うあやね。


「い、いいのです?」


「もちろんー……。あー……。ただおいら1度寝るとなかなか起きないんだー……ぁ。だから隣に寝てる人が起きるくらいのー……ぉ、おっきい声だしてくれるとー……ぉ、うれしいかもー……ぉ」


 ね、とあやねが隣にたつアカネに笑いかける。


「で、でもそれだとアカネちゃんが起きちゃうのです。いいのです?」


 ラビが首をかしげてアカネに尋ねる。


「……べ、別にいいよ。気にしない」


「いいってさー……ぁ。あ、そぉだー……ぁ、だったら3人でおといれいこうよー……ぉ」


「3人です?」


 そうそう、とあやねがうなずく。


「ほらー……ぁ、ふたりでいくよりー……ぃ、3人で行った方がー……ぁ、もっと怖くないよー……ぉ」


 それに、とあやねが続ける。


「アカネちゃんは強い子だからー……ぁ、おばけがでたらー……ぉ、追っ払ってくれるよー……ぉ」


 なるほどっ! とラビが納得を示す。


 てててて、とラビがアカネに近づいて言う。


「アカネちゃん、ごめいわくをかけるのです。でもおねがいしたいのですっ。よなかいっしょにトイレにいってほしいのですっ!」


 ぺこっ、と頭を下げるラビ。


「お、お姉ちゃぁ……ん」


 アカネが申し訳なさそうに、眉を八の字にする。あやねはポン、と頭を1回だけなでて、ふへっと笑った。


「…………。わ、わかったよ」


 アカネはすぐに表情を引き締めて、ラビに言う。


「め、めんどくせーけど、ついていってやるよ」


「ほんとうなのですかっ?」


 ぴょんっ、とラビが飛び跳ねる。


「ありがとうなのですっ、アカネちゃんっ♪」


 わー、とラビが両手を挙げて喜ぶ。


 そしてラビがアカネの手をぎゅっと握る。


「よろしくなのですっ♪」「う、うん……。よろしく」


 ラビの逆側の手を、あやねがぎゅっと握った。


「おいらもよろしくねー……、ラビちゃん」


 ふへーっと笑うあやねに、ラビがよろしくなのですっ! と応じる。


「おいらたちはおねしょ仲間だー……ぁ、チーム・おねしょだー……ぁね?」


「チームっ! かっこいいのですっ!」


 ぴょんっ、とラビが飛び跳ねる。


「アカネちゃんは違うけどー……ぉ、司令官的な立ちいちって必要だと思うんだー……ぁ」


「たしかにそうなのですっ! アカネしれーかんなのですっ!」


「お、おう……。べつになんでも、いいんじゃね?」


 顔を紅くして、アカネが頬をかく。まんざらでもない様子だった。


「チームおねしょ結成だぁ……ねぇい」


「けっせいなのですー!」


 仲よさげに、3人でぴょんぴょんと飛び跳ねるラビと鬼姉妹。


 俺は3人の興奮が収まるのをまって、みんなで竜の湯へと朝風呂に向かったのだった。



お疲れ様です!


すみません、昨日言ったとおり、今回で区切れませんでした……。


次回で五章終了となります。


また伏線回収ができなくてすみません……。次回で回収します。


次回は伏線を回収して、鬼娘たちに【食われそう】になるみたいな話になります。


ただこの食われそうってのは、人食じゃなくて、別の意味で【食う】って意味ですので、ご安心を。


エロはあるけど、本番はバンされますので、ギリギリを攻めてこうと思います。


指輪の伏線も次回回収されます。

おそらくノクターンを読んでる方がいれば、あれだよなと気付けるかと思います。



そんな感じで次回もよろしくお願いします!

ほんと予定通りいかなくてすみません!


よろしければ今回も下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです!


励みになりますー!


ではまた!

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