25.鬼のいる朝の風景
いつもお世話になってます!
一花と弐鳥と出会い、鬼族孤児院に粉ミルクを持っていた、翌朝のこと
俺はコレットともに、鬼族孤児院へと向かっていた。
冷蔵庫の使い方や食料の場所などわからないだろうと、俺とコレットが、桜華たちのもとへ向かったのだ。
「ジロくん、正直に答えて」
しごく真面目な表情で、となりを歩くコレットが言う。
なんだろう、今後の孤児院の経営についてだろうか。
それとも改築のプランでも聞くのだろうか。
いずれにしても重要な話しっぽかった。なにせ目が真剣も真剣だったからだ。
「桜華さんとわたし、どっちのおっぱいが好みなのかなっ?」
「…………」
ぽかっ。
「あいたっ」
真面目な話しだと思って損した……。
「アホなこと聞くなよ」
「ぜんぜんアホなことじゃないですっ。重要なことなのー!」
ぷんすことほおを膨らませるエルフ嫁。
「別に俺は胸とかどうでもいいよ」
と虚勢を張る俺。
「そのわりには桜華さんのおっきいそれをガン見してましたが?」
じとーっとコレットが見上げてくる。
「いやまあ、大きいなって事実を目で見て再確認してただけだよ」
「へ~~~~~~~。ふ~~~~~~~~~~~~ん」
コレットはそう言うと、ぷいっとそっぽむいて、先を歩く。
俺が並ぼうとすると、コレットがスタスタと前を歩く。
どうやら、またヤキモチを焼いているらしい。
「コレット。ごめんってば」
「ジロくんのその、怒ってる理由わかんないけど、とりあえず謝っておこうみたいなそれ、きらい」
ふぅんだ、とコレットがそっぽむく。
俺は彼女の損ねた機嫌を回復させようとする。
「いやだからあれだろ、かわいい嫁さんがいるのに、他人の胸をガン見してたのがダメだったんだろ」
コレットのエルフ耳が、ぴくっ、と動く。
かわいい嫁さんの部分で反応を見せた。
「いやほんとごめんってコレット。おまえみたいな若くて美人で顔もスタイルも抜群の嫁がいるのに、他の女なんて見る必要ないのに、ガン見してごめん」
ぴくっ♡ ぴくぴくっ♡ ぱたぱた♡
とコレットの長い耳が、蝶のように機嫌良さそうに羽ばたく。
「俺は間違ってたよ。大事なものはすぐ近くにあったんだ。コレット、おまえが1番だよ」
コレットが立ち止まる。
耳はもう空でも飛びそうなほど、ぱたぱたぱたぱたとせわしなく上下してるではないか。
コレットは無言で前を向いたままだ。
だがオーラを感じる。抱きしめろというオーラ。
俺は背後に回って、コレットを後から抱きしめる。
腕に柔からな乳房の感触と、そして髪の甘いにおいが鼻腔をくすぐる。
今日は天気が良かった。
朝から気温がぐんぐんと上がっている。
コレットの額には少し汗をかいていて、うなじからは色っぽい、大人の肌のにおいがする。
「……ジロくん。ちょっと汗かいちゃった」
物欲しげにコレットが見上げてくる。
確かに鬼族孤児院へいくまでの間に、竜の湯がある。
途中で一緒に温泉に入っても良い。
だがコレットの濡れた瞳は、風呂以上のものも要求しているようだった。
「コレット。ダメだって。朝だぞ今。それに鬼族のみんなに見られたらどうすんだよ」
孤児院と竜の湯とは離れてはいるものの、見えない距離ではない。
まあ朝も早いし、万一見られることはないだろうが。
「ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから……ね♡」
子どものようにおねだりするコレットがかわいらしかった。
俺はため息をついて、「ちょっとだけな」と言って嫁エルフの頭を撫でる。
嫁が腕に抱きついてくる。
俺とコレットは竜の湯へと向かったのだった。
まあ、だいじょうぶだろうとは思うけど、いちおう音とかには注意したし、たぶん見られてないだろう、うん。
☆
汗を軽く流して、俺たちが鬼族孤児院へと向かうと、すでに桜華は起きていた。
その背中には赤ん坊が「ふぇぇ……」と背負われていた。
しかしおんぶされていたのではない。
桜華の両手はあいていた。そして朝食の準備をしていたのだ。
「……じろーさん♡」
リビングに立って湯を沸かしてた桜華が、ぱたぱた、と俺に近づいてくる。
「桜華さん、おはよう♡」
「……おはようございます、コレットさん♡」
「桜華、おはよう。さっそく使ってくれてるみたいだな、それ」
俺は桜華の背中を指さして言う。
「ジロくん、桜華さんの身につけてるヒモみたいなもの、なに?」
コレットが桜華の背後に回る。
いっけんするとリュックサックを背負っているように見える。
だが肩から伸びる紐の先には、車の座席シートのようなものがついてる。
腰のあたりにベルトがあり手足を通す穴がある。
「これはベビーキャリーってやつだ。おんぶひもって昔は言われてたな」
赤子を背負って母親が作業できるよう開発された、地球の便利グッズである。
しっかりと子どもを母親の体に固定でき、なおかつ母親は動きやすく、そして子どもはまったく息苦しくない。
という設計思想らしい。
「……これ、すごいです。赤ん坊をおんぶしながら作業なんて、前はできませんでした」
以前は他の娘に子どもの面倒を見てもらっている間に、自分は作業をしていたとのこと。
「……すごくしっかりくっついてて、まるで体のいちぶのようですっ」
弾んだ声で桜華が言う。
そりゃ良かった……と思っていたそのときだった。
「おかーさ~ん、おはよ~」
「ん? なんだい兄ちゃんに姐さんじゃあないか。どうしたんだい?」
リビングに長女の一花と、次女の弐鳥がやってきた。
さらに後には残りの娘たちもいて、ひとりを除いて、全員が赤ん坊を抱っこしている。
「…………」
赤ん坊を抱っこしてないその娘は、まさしく桜華そっくりだった。
艶やかで長い黒髪と顔の形が似ていた。
ただ身長は低く、そしてなにより胸が薄い。うすい、というか、ない。
桜華の娘にしては、ちょっとばかり貧乳過ぎないかと思ってしまった。
「一花ちゃん。姐さんはやめてっていってるでしょう?」
苦笑しながらコレットが言う。
ふたりは既知であるようだ。
まあ、コレットは鬼族孤児院へ何度も足を運んでいるみたいだしな。
桜華の娘たちとも顔見知りになるというものだろう。
「いやしかしあんちゃん、ほんとあんたってやつはスゴいやつだねぇい」
一花がニッ、と笑みを浮かべる。
「あんちゃんが用意してくれた、紙おむつってやつ、どえらい便利だったさね」
「ほんとほんとっ! ちょ~たすかったぁ~」
ねー♡ と長女と次女が同意し合う。
「ジロくん、紙おむつって?」
俺は部屋の隅に移動する。
大量に詰んでおかれている、パックに入った紙おむつを手に取る。
「赤ちゃんに履かせる、まあ使い捨ての下着みたいなもんだ」
ひとつとってコレットに手渡す。
「わっ、かるい。それになにこの素材、布? いや紙ってさっきいってたし……え、これ紙なのジロくん!?」
驚愕に目を見開くコレット。
ないすリアクションだ。
「あの、ぺらっぺらな紙なの?」
「まあ画用紙とかとは違うらしいが……とにかくこれは軽くて通気性がとてもいいんだ。それになにより、これの利点は」
説明しようとしたそのときだった。
「はいはいは~い♡ あたしが説明する~♡」
ろり巨乳の弐鳥が、ぴょんぴょんとジャンプする。
「これだから、赤ちゃんが用を足したり大をだしたときに、下着ごとぽいって捨てられるの~」
この世界にもおむつはある。
だが布製だ。
排泄物を処理した後、洗濯して、また腰巻きのように赤ん坊の下半身にまくのである。
正直かなり不衛生だと思う。
この世界ではそこそこ貴重な布を使い捨てるわけにもいかない……という理屈はわかるんだがな。
しかし紙おむつならば、大量にあるし、いくら使い捨てても問題ない。
「紙おむつすっごい便利~♡ もうこれない生活なんて考えられないよ~♡」
後ろに立つ鬼娘たちも、うんうんと同意している。
心から喜んでいるようだった。
年頃の女の子たちにとって、赤ちゃん相手とは言え、下の世話をするのは精神的に来るものがあるのだろう。
それが解消されたのだ。
喜んでるみたいで良かった良かった。
「それにこのウェットティッシュってのも便利さね。わざわざお湯を用意して布で拭かなくていいってのが楽さ」
ベビーキャリー、おむつの他にも、ウェットティッシュや子供服。
よだれかけにおしゃぶり。それに赤ちゃん用のベッド(柵が着いていて落ちないようになってるあれ)。
等など、必要と思われるものは、昨晩のウチにあらかた作って、桜華たちに届けてあるのだ。
「さっすが兄ちゃん、こんな便利なもんぽんぽんつくれるなんて、たいしたぁもんだねぇ」
「ほんとっ。も~~~ちょっ~~~~~~助かっちゃった♡ おにーさんだいすき~♡ ウチに来てー♡」
きゃいきゃい♡ と鬼娘たちが黄色い声を上げる。
美少女からそうやってほめられると、悪い気はしなかった。
「………………ちっ」
ただひとり、さっきの黒髪ロングの子だけが、俺をにらんで舌打ちをしていた。
「も~、ミーちゃん態度わるいよ~」
「そうさね美雪、おめえさんも女なんだから、ほら、笑顔笑顔」
ねー、と長女と次女がにかーっと笑う。
「………………」
黒髪ロングの子は、俺と姉たちを見やると、不機嫌そうに顔をしかめて、どこかへと歩み去って行った。
「すまんね、あんちゃん。美雪はちょっといま思春期入っててさ」
「不快な思いさせちゃったらごめんね~」
長女と次女が謝ってくる。
というか、
「さっきの子が三女の美雪か?」
一花がうなずいて言う。
「ちょっとあの子は難しい性格の子でさ。まっ、悪い子じゃないんだ。あんちゃん、仲良くしてやってくれよ」
黒髪ロングの美雪は、俺たちに一瞥もせずに、リビングを後にする。
「ところでジロくんジロくん」
くいくい、とコレットが服を引っ張ってくる。
「どうした?」
俺より身長のやや低いコレットが、俺を見上げながら聞いてくる。
「この紙おむつとかって、こっちのじゃないんでしょ?」
さすがに異世界に紙おむつはない。コレットもこの世界に住んで長いのだ、それくらい一発でわかったのだろう。
「でもじゃあジロくん、よく赤ちゃん用の品つくれたね。あれって【経験】がないと複製できないんでしょう?」
俺の複製は万能ではない。できないことも多い。
俺が複製できるのは、その名前と形、そしてそれを使ったり味わったりした経験が必要となる。
かつては俺も、前世でも赤ん坊だった時期がある。
使ったことがあるから複製ができた……というわけではない。
このあたりは複雑なのだが、前世において、古すぎる記憶の経験は、カウントされないらしい。
赤ん坊時代とか、幼少期とかに触れたり使ったことのある物体はコピーできないのだ。
記憶を元にして生成されるからだとは思う。
ゆえに記憶が曖昧な時期の物体はコピーできないのでは、と推察している。
ともあれあ赤ん坊のときのおむつやほ乳瓶などは、先ほどの理論では複製できないはずだ。
しかし俺にはできた。
なぜか?
俺はコレットを見て言う。
「俺さ、年の離れた姉貴がいたんだよ」
「お姉さん……いや、お義理姉さんねっ!」
言い直すコレットがかわいらしかったので、頭を撫でてやった。
「……あれがあんちゃんの嫁さね」「……すっごいきれ~。あたしらじゃ勝てっこないよ~」「……まあでもさっきのアレを見た感じだと、アタシらにも勝機が無いとも言えないさね」
と鬼娘たちが何事かをつぶやいていた。
「…………」
桜華が娘たちを見て、何かを考え込むそぶりを見せる。
「……あの子たちが暴走する前に、【あれ】をじろーさんに渡しておかないと」
うん、と桜華がうなずいていた。
……俺の知らない場所で、なにかが進行しているようであった。
「ともあれだ。俺には姉がいたんだ。で、俺が高校生……学生の時かな。結婚して出産したんだよ」
俺が高1のときに、姉貴は24。
姉貴たち夫婦は実家で同居していた。
姉貴の出産後もしばらくは、実家にいたのだ。
「で、俺は姉貴の手伝いをさせられてたんだ」
「手伝い……赤ちゃんのおもりってこと?」
俺はうなずいて続ける。
「ミルクあげたり、おんぶしてやったり、おむつを変えたりな」
俺は高校時代、帰宅部だった。
家に帰っても何もすることもなく、姉貴の手伝いをしていたのだ。
「その関係で赤ん坊の用品を買いに行ったり、ミルクの温度調節したりしたから、粉ミルクやら紙おむつやらを複製できたってわけだ」
ようするに過去買ったり味を確かめたりしたことがあるから、赤ん坊用品を作れたというわけだ。
「そっか、そうなんだ。ジロくんは昔から良い子さんだったんだね~♡」
コレットが背伸びをして、よしよし、と俺の頭を撫でる。
「やめろって。みんなが見てるだろ」
俺はそう言って鬼娘たちをちらりと見る。
「…………」「…………」「…………」「…………」
4人の娘たちは、確かに俺を見ていた。
だが、なんだろう。
目がおかしかった。
全員がぎらついた目で、俺を、穴があくほど見ている。
「……ほらみんな、そろそろ食事にしますよ」
ぱんぱん、と桜華が手を叩いて注目を集める。
「わかったさね。んじゃあんちゃん♡ あとでね♡」
「えへへっ、またね~♡ おにーさんっ♡」
残りの娘たちも俺に好意的なあいさつをして、キッチンへと向かっていった。
「あ、ジロくん。わたし一花ちゃんたちを手伝うね」
コレットは鬼娘たちのもとへとかけていく。
俺は戻って子どもたちを起こそうか……と思ったそのときだった。
「……あの、じろー、さん」
くいっと桜華が、俺の服を引っ張る。
「どうした?」
「……あの、渡したいものが、あるんです」
桜華がおずおず、とそう言ってくる。
彼女の目には決意めいたものがあった。
気の弱そうな彼女にしては、珍しいなと思った。
「渡したいもの?」
☆
桜華たちの元を離れて、俺は獣人孤児院へともどってきた。
コレットはすでにこっちの朝ご飯は用意してある。
子どもたちを起こしたら、俺がキャニスたちに飯を食わせる手はずだった。
子どもたちの部屋のドアを開けると、入ってすぐのところに、毛玉があった。
銀色の毛の塊だ。
バスケットボールくらいの大きさの、ふわふわとした見事な毛の玉だ。
だがこれは毛糸の玉ではない。
「コン」
俺はしゃがみ込んで、その毛玉、否、コンを持ちあげる。
「すぴょー」
「おまえほんと寝相わるいよな……」
さっきのはコンが丸まっていた姿だ。
コンは寝るとき、自分のシッポを抱っこするようにして眠るのである。
体も丸くするので、遠目には毛玉にしか見えないというわけだ。
「ふぁぁー…………。にぃ、おっはー」
毛玉状態が解除され、コンがあくびまじりに、俺に言う。
「おはよう、コン」
「ふんふん、すんすん」
胸の中に収まるコンが、正面を向いて、俺の首筋に鼻を埋める。
「あいかわらず、けっこーなおてまえで」
「お茶かよ」
コンはふと、「にぃ、それなん?」と俺の右手を見て、シッポで指す。
右手には1つの、銀の指輪が、ひとさし指にはまっていた。
「まさか、けっこんゆびわとか」
ハッ……! とコンがシリアスな顔になる。シッポがぴーんと立つ。
「にんしょーさた? かさす?」
「違う違う」
コンは他の獣人の子らと違い、転生者、つまりもと地球人だ。
ゆえに結婚指輪のことをコンだけは知っている。
「これはもらったんだ」
「やっぱりかさす? りこんべんごしよんどく?」
「呼ばなくていい」
ため息をついてコンに説明する。
「さっき桜華にもらったんだ」
「しまつた、けーたいがない。でんわできない」
まだ俺が不倫していると思ってるのか、このきつね娘。
「なんか桜華がくれたんだ。護身用、だってさ」
護身用と真面目な顔をしてこの指輪を渡された。
どういうことかを尋ねようとしたとき、娘たちに呼ばれ、桜華はそっちへいってしまった。
なので詳しい話は聞いてない。
「うえぽんあーむ? りんぐだがーにでもなるか?」
武器にでも変形するのか、とコンはいいたいらしい。
「いや、それが魔法武器の類いじゃないらしい。本当にタダの指輪だってさ」
「ゆびわでどうたたかえと? そんなそうびでだいじょうぶか?」
だいじょうぶだ、問題ない。とは言えない。
だってただの指輪だしな。
「使い道が不明すぎる……」
ただ桜華は、これがあれば【あの子たち】から身を守れると言った。
身を守る……ねえ。
ーー人食いの鬼。
という単語がよぎり、俺は頭を振って、邪念を払う。
一花や弐鳥、それに桜華もいいやつらばかりだった。
人を食べる悪い鬼には、当然見えない。
ありえない……しかし桜華はなぜ護身用と言って、指輪を渡してきたのか?
……疑念が頭に植え付けられてしまったな。
と、そのときだった。
「あう、にーさん……」
くいくい、と誰かが俺の服を引っ張る。
「ラビ、どうした?」
しゃがみ込んでコンを下ろす。コンはおりようとせず、俺の頭の上に乗った。「そらにそびえるくろがねのにぃ」とかなんとか。
「あうぅ……にーさん、ごめんなさいなのです……」
ラビが半泣きで謝ってくる。
朝ということもあって、俺はそれ以上聞かなくても、ラビがなんで謝ってきているのかを察した。
「やっぱり夜中のトイレは怖いか?」
「はいなのです……」
トイレ事情(ボットン便所だったのを水洗式になおした)を改善した。
とは言え、やっぱり夜くらいなかをひとりで歩いて行くのは、怖いみたいだ。
「気にすんな。じゃあ風呂行ってシャワーを……」
と、そのときだった。
「にーちゃん、にーちゃー……ぁん」
くいくい、と逆側の服を、誰かがつまんできた。
そっちを見やると、短髪の赤鬼・あやねがいた。
「ごみんねー……ぇ、おいらもー……ぉ、おもらししちまったぁー……い」
どうやらあやねもおねしょしたようだった。
「…………」
なぜかあやねの後で、アカネが暗い顔をしてうつむいていた。
あやねたちの使っているベッドは、見事な日本地図ができていた。
「そっか。んじゃふたりとも、竜の湯いって体をきれいにしような」
「あー……それなんだけどー……ぉ」
あやねが俺を見上げて、ふへっと笑う。
「せっかくだから……ぁ、みんなでお風呂行きたいなー……ぁ。おいらみんなとお風呂入りたいー……ぃ」
姉鬼がふにゃふにゃとした口調でそう言った。
「みーも、あるかりせーのはんたい」
はいはい、とコンが手を上げて賛成してくる。
「アカネも来るか?」
俺は妹鬼にそう尋ねる。
アカネはびくっ! と反応した後、無言でうつむいていた。
アカネのズボンは濡れいていた。
姉のズボンも濡れてはいたのだが、前ではなく後が濡れていた。
……なんとなく、事態を察することができた。
ようするに妹がおねしょして、それを姉がかばっているのだ。
自分がしたことにしたわけだ。
「あやね、別にかばわなくても、怒るつもりはないぞ」
「んー……ぅ? なんのことー……ぉ」
ふへっ、とあやねがとぼけた調子で首をかしげる。
「おいらがおねしょしたんだよー……ぉ、あ、そうだ-……ぁ」
ぽん、とあやねが手を叩く。
「ラビちゃぁー……ん、今度さー……ぁ、夜おといれ、いっしょにいかないー……ぃ」
隣で半べそかいていたラビに、あやねが言う。
「おいらもねー……ぇ、夜のトイレこわくってさー……ぁ。いつもアカネちゃんについてきてもらってんだー……ぁ」
「そ、そうなのです?」
ラビが涙を拭いて言う。
親近感がわいたのか、ラビの頬がちょっと赤くなって興奮していた。
「うんー……。アカネちゃんにもうしわけないからー……ぁ、今度からラビちゃんがおといれいくときー……ぃ、おいらを誘ってくれるとー……ぉ、うれしいなー……ぁ」
ふへー、っと笑うあやね。
「い、いいのです?」
「もちろんー……。あー……。ただおいら1度寝るとなかなか起きないんだー……ぁ。だから隣に寝てる人が起きるくらいのー……ぉ、おっきい声だしてくれるとー……ぉ、うれしいかもー……ぉ」
ね、とあやねが隣にたつアカネに笑いかける。
「で、でもそれだとアカネちゃんが起きちゃうのです。いいのです?」
ラビが首をかしげてアカネに尋ねる。
「……べ、別にいいよ。気にしない」
「いいってさー……ぁ。あ、そぉだー……ぁ、だったら3人でおといれいこうよー……ぉ」
「3人です?」
そうそう、とあやねがうなずく。
「ほらー……ぁ、ふたりでいくよりー……ぃ、3人で行った方がー……ぁ、もっと怖くないよー……ぉ」
それに、とあやねが続ける。
「アカネちゃんは強い子だからー……ぁ、おばけがでたらー……ぉ、追っ払ってくれるよー……ぉ」
なるほどっ! とラビが納得を示す。
てててて、とラビがアカネに近づいて言う。
「アカネちゃん、ごめいわくをかけるのです。でもおねがいしたいのですっ。よなかいっしょにトイレにいってほしいのですっ!」
ぺこっ、と頭を下げるラビ。
「お、お姉ちゃぁ……ん」
アカネが申し訳なさそうに、眉を八の字にする。あやねはポン、と頭を1回だけなでて、ふへっと笑った。
「…………。わ、わかったよ」
アカネはすぐに表情を引き締めて、ラビに言う。
「め、めんどくせーけど、ついていってやるよ」
「ほんとうなのですかっ?」
ぴょんっ、とラビが飛び跳ねる。
「ありがとうなのですっ、アカネちゃんっ♪」
わー、とラビが両手を挙げて喜ぶ。
そしてラビがアカネの手をぎゅっと握る。
「よろしくなのですっ♪」「う、うん……。よろしく」
ラビの逆側の手を、あやねがぎゅっと握った。
「おいらもよろしくねー……、ラビちゃん」
ふへーっと笑うあやねに、ラビがよろしくなのですっ! と応じる。
「おいらたちはおねしょ仲間だー……ぁ、チーム・おねしょだー……ぁね?」
「チームっ! かっこいいのですっ!」
ぴょんっ、とラビが飛び跳ねる。
「アカネちゃんは違うけどー……ぉ、司令官的な立ちいちって必要だと思うんだー……ぁ」
「たしかにそうなのですっ! アカネしれーかんなのですっ!」
「お、おう……。べつになんでも、いいんじゃね?」
顔を紅くして、アカネが頬をかく。まんざらでもない様子だった。
「チームおねしょ結成だぁ……ねぇい」
「けっせいなのですー!」
仲よさげに、3人でぴょんぴょんと飛び跳ねるラビと鬼姉妹。
俺は3人の興奮が収まるのをまって、みんなで竜の湯へと朝風呂に向かったのだった。
お疲れ様です!
すみません、昨日言ったとおり、今回で区切れませんでした……。
次回で五章終了となります。
また伏線回収ができなくてすみません……。次回で回収します。
次回は伏線を回収して、鬼娘たちに【食われそう】になるみたいな話になります。
ただこの食われそうってのは、人食じゃなくて、別の意味で【食う】って意味ですので、ご安心を。
エロはあるけど、本番はバンされますので、ギリギリを攻めてこうと思います。
指輪の伏線も次回回収されます。
おそらくノクターンを読んでる方がいれば、あれだよなと気付けるかと思います。
そんな感じで次回もよろしくお願いします!
ほんと予定通りいかなくてすみません!
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励みになりますー!
ではまた!




