24.善人、赤ちゃん用品を届けに行き、長女と次女に出会う
いつもお世話になってます!
鬼族たちの住む場所を用意した、その1時間後。
夜も更けてきた、21時頃の話しだ。
鬼族たちの孤児院を【複製】によって作った俺は、獣人孤児院へと戻っていた。
そろそろ子どもたちを寝かしつける必要があった。
普段は20時にはベッドにて寝かしつけているのだが、今日はアカネ、あやねの鬼姉妹がいるためか、キャニスたちはまだ起きていた。
子ども部屋へいくと、そこには獣人4人+赤鬼姉妹がいた。
「くらいやがるですー! まくらぼんばーっ!」
キャニスが手に持っていた枕を、赤鬼の妹・アカネに投げる。
「はっ! そんなもんくらうかっつーの! ………………へぶっ!」
いぬっこの投げた枕が、アカネの顔面にもろで当たる。
「お、おねぇ……ちゃぁー……ん」
さっきまでの勝ち気はなりをひそめ、アカネが姉に抱きつく。
「あー……ぁ、痛かったねー……ぇ」
よしよし、と姉のあやねが、妹の頭を撫でる。
「よー……ぉし、アカネちゃんのかたきわー……ぁ、おいらがとるぞー……ぉ」
そう言ってあやねは枕をふたつ手に持つ。
「やばし、キャニス。やつはにとうりゅうつかいだ。きりとさんや」
キャニスの隣で枕を持っていたコンが、あやねを見て目を見開く。
「ならこっちは4とうりゅうでやがるですっ! レイアっ! がったいですー!」
「まかせてっ!」
そう言って竜人のレイアが、キャニスの背後に回る。
そして後から重なり、両手をひろげる。
「みたか、こっちはよんとうりゅーやで。かいりきーやでー」
コンがきらん、と目を輝かせる。
「やるねぇー……ぃ、でも負けないよー……ぅ」
手に持った枕をぐぐっ、と引くあかね。
「来やがれですっ!」「がったいのチカラ見せてやるわ!」
キャニスたちが枕を投げようとしたところで、俺は彼女たちから枕を取り上げる。
「おにーちゃん、なにしやがるですー」
勝負を中断されたからだろう、キャニスが不満げに唇をとがらす。レイアもぶーっとほおを膨らませる。
「にぃ、けーわい」
コンがシッポで俺を指す。
「悪いな。だがもう夜だ。寝る時間だぞ」
「「「えー」」」
獣人+鬼族の子どもたちが、いっせいに不満げに声を上げる。
「あそびたりねーですっ!」「てつやでからおけとかしたい」「アタシはこの犬っころをぶちのめすまで寝ないかんなっ!」
ぶー、っとブーイングを送る子どもたち。
「あぅー……。うぅ~…………」
その少し離れたところで、眠たげに顔を擦る子どもがひとりいた。
俺は彼女に近づいて、持ちあげる。
「にぃー……さぁー……ん」
ラビがすごく眠そうに、目を擦っていた。
「ほら、ラビが眠いってさ。おまえらが起きていると、いつまでもラビが寝れないだろ?」
するとキャニスとコン、そしてレイアが、
「じゃーしゃーねーです」
「らびはおこちゃま、みーはおとなだから……ふぁぁ~…………」
「ちょっとコン、立ったままねないのっ。れいあによりかからないでっ!」
と言う。コンも眠そうだった。いつもぴんと立っているしっぽが、くったりとしなびている。
俺はコンを抱き上げて、コンのベッドに寝かせる。その隣にラビをおいて、ふたりに布団をかぶせる。
「あかねたちはこっちで寝たいのか?」
俺は鬼の姉に尋ねる。
「んー……ぅ、というかー……ぁ、アカネちゃんがー……ぁ、もうねんねしてるからー……ぁ、あっちいくのは、むりー……ぃ」
「ぐー……………………」
いつの間にか妹は、姉に寄り添うようにして眠っていた。
涎を垂らすアカネの、口元をぬぐってやるあやね。
「そっか。じゃあレイア。悪いがキャニスと今日は一緒に寝てくれ」
「ん、しょーがないわね、がまんしてあげるわ」「そりゃーこっちのせりふでやがるです」
いーっ、と歯を剥くキャニスとレイア。
「ねるまえにしりとりするです」「いいわねっ、まけないわよっ」
と楽しそうにベッドに登り、ふたりが横に寝る。
「いくでやがるです、りんごっ」「ぐー」「もう寝てやがるですー!」
瞬殺だった。
レイアはベッドに入った瞬間、電池が切れたように眠ってしまった。
「これじゃあー……………………しょーぶに………………ならねー………………ふ」
キャニスもすぐさまうとうとしだし、結局レイアが寝て数秒後には、ぐーぐーといびきをたてていた。
「じゃああやねはアカネと一緒に、このベッドを使ってくれ」
レイアが元々使っていたベッドを、鬼姉妹にあてがうことにする。
あやねがアカネを背負うとしたので、妹を俺が持ちあげる。
そしてベッドに寝かしつけて、布団を掛ける。
「ありがとー……ぉ」
あやねはベッドによいしょっとのぼると、ふへーっと笑う。
「にーちゃん、にんげんなのにー……ぃ、とってもとってもー……ぉ、やさしー……ぃ♡」
頬を少し赤らめながら、柔からそうな頬をたるませて笑う。
「おいらしょうらいー……ぃ、にーちゃんのー……ぉ、およめさんになるー……ぅ♡」
両手を挙げてそう宣言する姉鬼。
「そっか、ありがとな。嬉しいよ」
俺はあやねの赤髪を撫でてやった。
「じょーだんじゃー……ぁ、ないよー……ぉう、こっちはー……ぁ、ほんきだよー……ぉ?」
ぽわぽわと笑うあやねがかわいらしくて、俺は「あんがとな」と言って頭を撫でる。
「ほんきにされてないかんじー……ぃ、はらたつー……ぅ」
けらけら、とあやねが笑った。この子はいつも笑っているなと思った。
「じゃあ、あやね、おやすみ」
俺は立ち上がり、あやねを見下ろして言う。
彼女はアカネの布団に潜り込む。妹が足を布団からぴょこっと出していたので、姉がそれを中にしまう。
「にー……ちゃん」
ふぁぁ……とあくびまじりに、あやねが言う。
「おいらー……ぁ、ここ、いっぱつで好きになったよー……ぉ」
ふへっとあやねが笑う。
「おともだちいっぱいいてー……ぇ、やさしいにんげんがいっぱいいてー……ぇ、おなかもいっぱいになってー……ぇ、とってもすきになったよー……ぅ」
そりゃ冥利につけるというものだ。
「ありがとな、あやね」
「んへー……ぇ♡ おやー……みぃー……」
そう言ってあやねは目を閉じると、くーくーっとかわいらしい寝息を立て始める。
俺は明かりを消して、子ども部屋を後にしたのだった。
☆
子どもたちを寝かしつけた後、俺は鬼族孤児院へと向かった。
彼女たちの寝る環境は整えたが、おそらく使い方がわからないものが多いだろう。
というのと、さっき俺が作ったものを、桜華たちに手渡しに行こうと思ったのだ。
孤児院を出て歩いて数分、竜の湯に到着した……そのときだった。
「んー? なんだい? 誰かそこにいるのかい?」
「え、だれ~?」
温泉に誰かがいるようだった。
湯気の向こうに、裸身の女性がふたり、立っている。
「誰かと思ったら院長の兄ちゃんじゃねーか」
ひとりは長身の女だ。
毛の質感がごわごわとしている。長い髪を武士のようにひとつに束ねていた。
「あ~~♡ おにーさんだぁっ♡」
ひとりは小柄な女の子。
ミディアムの髪を頭の側面でふたつにしばって、短めのツインテールにしている。
長身長髪、短躯短髪の少女には、見覚えがあった。
「えっと……たしか桜華の娘さんの」
桜華の連れてきた5人の娘のなかに、彼女たちがいたのを、俺は思い出す。
「なんだいおぼえててくれたのかい。うれしーねぇ、な、弐鳥」
「うんっ、そうだねイッちゃん♡ あ~、でもおにーさん、のぞきはよくないと思うよ~♡」
長身がイッちゃん(愛称だろう)で、短髪が弐鳥というらしい。
「なんだい、弐鳥。別に見られてもへるもんじゃあないじゃないか。むしろ兄ちゃん、もっと見るかい? ほれほれ」
長身の鬼がグラビアアイドルのような、扇情的なポーズを取る。
「べつにー、あたしべつにおにーさんになら見られてもいいもん♡ むしろ見てみて~♡」
弐鳥も前屈みになって、胸を強調するようにして俺に言う。
……で、でかいな。
桜華の血を引いてるからだろう、ふたりともかなり胸が大きかった。
長身鬼はとくに大きく、桜華に匹敵する巨乳だ。
一方で弐鳥も小柄な体つきに似合わないほど、乳房のサイズが大きい。
「やっぱり兄ちゃんは胸か。胸が好きなんだねぇい」
「もー♡ おにーさんのえっち♡ でもいーよ♡ もっとみて~。なんなら……きゃっ♡」
長身鬼も弐鳥にも、男に裸を見られているというのに、恥じらう様子はまるで無かった。
むしろ嬉々として俺に肌を見せてくる。
さ、最近の女子高生ってそんな感じなのだろうか……。
「それより弐鳥……と、えっと……」
そう言えば長身の鬼は【イッちゃん】という愛称しかしらなかった。
「ああ、一花。アタシ一花っていうんだ。よろしくっ、兄ちゃん♡」
一花がニィッと笑う。どちらかというと上品さはなく、好戦的な性格が見て取れる表情だった。
「あたしは弐鳥~♡」
はいはい、と弐鳥が手を上げてアピールする。
「そりゃさっきあんた言ってたじゃあないかい」
「えへっ♡ おにーさんに早く覚えて欲しくって♡」
「はっ、弐鳥はほんと欲しがりだねぇい」
一花が弐鳥を見下ろして、にやりと笑う。
「イッちゃんこそ〜♡」
弐鳥もにやっと影のある感じで笑う。
「欲しい?」
何の話をしているのだろうか。
「あー、うん。こっちのはなしさ」「そうそう、こっちのはなし~♡」
ねー♡ と顔を見合わす一花と弐鳥。
「そう言えばおまえらは姉妹なんだよな」
桜華の娘は、18歳がふたり、17歳がひとり、16歳がふたりという構成らしい。
ふたりはどのポジションなんだろうか?
見た目からして高身長の一花は18か。弐鳥は小柄だし、16だろうな。
「アタシらはふたりとも18だよ。このおちびさんとは二卵性の双子さ」
「も~、ちびとかひどい~。イッちゃんよりあたしくらいのほうが、後ろからハグしたときに、ちょうどいいんだってば~」
そうなのか。一花はなんとなく18だと思っていたが、弐鳥までもとは。
「一花が長女で、弐鳥が次女か?」
「そうさ。あとは三女の美雪。四女の肆月。五女の風伍」
一花(1)に弐鳥(2)。
美雪(3)に肆月(4)。
そして風伍(5)か。
まだ顔を見たことが無いので、名前を全部覚えるのは難しそうだ。
「ま、そーあせらなくてもいいさ。じっくり、アタシらの違いを覚えていけばいいよ。見た目とか、そのほかもろもろをね」
ぺろり、と一花が舌なめずりする。
「ところでおにーさん。温泉に何の用事~? あたしたちに何かよう?」
弐鳥が俺に問うてくる。
「え、ああ。そっちの孤児院の様子が気になってな。ちゃんと上手くやれてるかって。それに渡したいものもあるし」
「「渡したいもの?」」
一花と弐鳥が湯からあがり、裸のまま、俺のもとへと近づいてくる。
……近くで見ると、本当に美人だな。
桜華もたいそうな美人だ。
ツノを隠せば、どこのモデルですかといいたくなるほど、顔も体も抜群に良い。
その娘たる長女と次女も、負けず劣らずの超絶美少女だ。
一花は長身でプロポーション抜群。切れ長の目と総髪が、女武者のような野性的な美を。
弐鳥は幼い見た目に反してその胸と尻は大きくぷりっとしていて、幼い中に妖艶な美を。
2人ともが異なる美しさを内包した、美少女だ。
「あんちゃんどうしたんだい?」
「あ、すまん……」
一花に声をかけられ、俺は正気に戻る。
「あ~、おにーさんあたしたちのおっぱいみてこーふんしてたんでしょ~♡ も~♡」
ニコニコ笑顔で弐鳥がそう言う。
「そんじゃあ孤児院へ行くんだろ? ならアタシらもついてくよ」
そう言うと、一花と弐鳥は脱衣所へと向かう。
少しして、ふたりは肌着(麻の浴衣のようなものを着てる)に着替えて、こっちへとやってくる。
一花からは南国を彷彿とさせる甘酸っぱいニオイが、弐鳥からは蜂蜜のようなあまったるい芳香が、それぞれ髪や肌から伝わってくる。
弐鳥が俺の右腕を、そして逆側の腕を、一花が取る。
両手に花状態で、俺は鬼族孤児院へと向かうのだった。
☆
長女の一花と次女の弐鳥とともに、鬼族孤児院へと向かった。
出入り口を開けて少し歩いて、リビングのドアを開く。
「……あっ! だ、だめですっ!」
俺が入るとすぐ、桜華が悲鳴を上げる。
「な、なんだどうし」た、と言う前に、声を失う。
……………………でけえ。
目の前に上着をはだけた桜華がいる。
腕には乳児を抱いて、おそらく授乳をしている最中だったのだろう。
それにしてもでかすぎる。でかすぎだ。でかすぎだろ……。
抱っこしている子どもより、桜華の乳房は大きいのだ。どういうことだよ。
「……あ、あの」
しかし柔らかそうだ。肌なんてぴっちぴちで、プリンのようである。
「……そ、その」
右胸のあたりに、ほくろがひとつある。それがまた色っぽい。
「……じ、じろーさんっ」
桜華が声を張る。俺はようやく正気に戻った。
……状況を考えろ。
授乳中とはいえ、他人の女性の乳房を見てしまったんだぞ。
「す、すまんっ!」
ばっ、と顔を背ける俺。
「随分と間があったじゃないか。もしかしてわざとかい?」
一花がくすりと笑う。
「からかわないでくれよ……」
いやしかし良い物を見れた……じゃなかった。悪いことをしてしまった。
「かーちゃん、良かったじゃん。あんちゃんめっちゃガン見してたさね」
と一花がからかうように、桜華に報告する。
「……も、もうっ。一花っ。わたしはあなたをそんないじわるな子に、育てた覚えはありませんっ」
桜華にしかられても、一花はかっかっと笑っていた。
弐鳥はトコトコと俺に近づいて、眼前でにっこりと笑って「触る♡」
俺はたわけたことを言う、次女鬼の頭をぽかり、と軽く叩く。
ややあって「……ど、どうぞっ」と桜華のうわずった声が背後からする。
振り返ると桜華が、先ほどの赤ん坊を腕に抱えて立っていた。
真っ赤になって、消え入りそうな声で、
「……さっきのは、忘れてくださいまし」と頼んできた。
……くっ、魔性の乳に目がいってしまう。
いやあんなの反則だろ。あんな見事な乳を生で見せられて、正気でいられる男がいるとは思えない。
いかん、ダメだ。邪念を捨てよう。
嫁を脳裏に思い描きながら、俺は桜華に尋ねる。
「赤ん坊にはそうやって、母乳をあげてるのか?」
というか子どもが大きいのに母乳ってでるんだな。
鬼の体質だろうか。
だとしたら一花や弐鳥も?
「でるさ」「でるよ~♡」
「……ば、ばかぁ。この子たちったら、もうっ、もうっ」
赤ん坊を腕に抱きながら、桜華がぽかぽか、と一花と弐鳥をたたく。
「……母乳が出るのは、その、わたしだけです。経産した鬼は、そういう体質になるんです」
つまり子どもを産んだことのある鬼だけ、桜華みたいに、出産後そこそこたつのに母乳が出るようになるのか。
「じゃあ4人の赤ん坊のご飯は、全部桜華があたえてるのか?」
「……はい」
とこともなさげに桜華が答える。
「大変じゃないか?」
ひとりひとりに授乳を行い、ゲップをださせて……それを4回繰り返すのは、非常に大変そうだった。
「……大変じゃないですよ」
真顔でそう言う桜華。
むしろなんでそんな、当たり前のことを聞くの?
とでも言いたげな表情だった。これが母親ってやつか。
「……でも、時間はかかります」
桜華の顔に影が落ちる。
苦とは思ってないだろうけど、苦労はその表情からしっかり見て取れた。
なら【これ】を作ってやっぱり良かった。
「だろうな。だからと思って、これを用意してきた」
俺はそう言ってリビングのテーブルに、【無限収納】が収納された革袋を置く。
そして、中からドサドサドサっ、と作ってきたものを置く。
なになに、と鬼たちがテーブルに集まってくる。
「まずはこれ。ほ乳瓶と粉ミルクだ」
水筒ほどの大きさのビンと、そして円柱状の管を手に持って言う。
「「「?」」」
案の定、鬼たちはそれを見ても何であるかをわかってないようだった。
俺はリビングでお湯を沸かし、ビンにいれた粉ミルクを溶かす。
流水をビンにさらしながら、温度が下がるのをまつ。
「なんだいそりゃ? 牛の乳みたいじゃないかい?」
一花が俺の背後に立って、手元を見て言う。
「みたいなもんだ。ただ乳幼児が飲みやすいよう加工はされている」
俺はほ乳瓶からミルクを数滴、手のひらに出す。
流水で温度を調整し、ぬるいと冷たいの中間くらいになったのを確認する。
「食事がまだの赤ん坊は?」
「今ベッドにいるよ~。そろそろぐずりだすころだから、迎えにいってくるね~」
弐鳥がリビングを出て行き、すぐに戻ってくる。
赤ん坊が「ふぇ……」っと泣きそうだったので、俺はその子を受け取り、抱っこする。
ほ乳瓶の先を、赤ちゃんに近づける。
「……あの、じろーさん、いったい何を……?」
オドオドとする桜華。
そりゃそうだ、心配だよな。得体の知らないものを子どもに飲ませようとしているんだから。
「すまん、毒じゃ絶対にない。これはその……最先端の赤ちゃんのご飯なんだ」
異世界のこととか説明しても、理解されないだろう。少なくとも今は。
だから言葉を選んでそう言う。
「んー、どれどれ~?」
弐鳥が俺からほ乳瓶を「ちょっと貸してね♡」と言って受け取る。
そして一口ぺろり、と舐めてる。
「うん、毒じゃ無いよ、おかーさん♡」
にこーっと弐鳥が、母親を安心させるように言う。
いやいくら子どもが毒味したって、それを真に受けるほど……。
「……そう、良かった」
予想に反して、桜華は妙にあっさりと、ミルクを信用してくれた。
もっと警戒されると思ったのだが。
それにこの子はどうして、ひとくちなめただけで、ミルクが毒じゃないとわかったのか?
まあもともと毒ではないんだが、それにしても未知のものを食べて、どうしてそれを安心だと判別できたのだろうか。
「それは~、ひ・み・つ♡」
きゃっ♡ と弐鳥が恥ずかしそうに顔を手で隠す。
「別に【鬼術】のことはあんちゃんに教えてもいいんじゃないかねぇい」
一花が弐鳥と桜華を見ていう。
きじゅつ?
「ま、そのへんもあとで教えて上げるさ♡ じっくり……ね♡」
一花が俺に寄り添って、つつつ、と首筋を指でなぞる。
「それでそのミルク、どうするんだい?」
ぱっ、と一花が離れて言う。
「赤ん坊は母親の乳以外は飲まないさね」
「わかってる。だがこれはだいじょうぶなんだよ」
そう言って俺は、ほ乳瓶を赤ん坊に近づける。
桜華がはらはらと経過を見守っていた。
果たしてーー
ーーちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。
「わっ、すっご~。飲んでるよ~♡」
「ほー、こりゃまたすごい勢いさな。ごくごく飲んでるよ」
一花と弐鳥が、感心したように声を上げる。
「……すごい、この子あんまり母乳を飲まない子なのに」
桜華が驚きに目を剥いていた。
その間にも赤ん坊が、美味しそうにミルクを飲んでいく。
ややあってほ乳瓶の中身が、カラになってしまった。
「桜華、ゲップを頼む。一花、弐鳥、俺を手伝ってくれないか」
俺は鬼の娘たちと協力して、赤ん坊用のミルクを作る。
一花たちに水道や火の沸かし方を教えながら、準備を進める。
「ひねると水が流れるのかい? こりゃあ……、……すごいな」
「わっ、火がすっご、ひねるとぽんっでるよっ。便利~♡」
娘たちは若いからだろうか、すぐにコンロや水道の使い方を覚えた。
桜華が残りふたりの赤ん坊を連れてくる。
俺と桜花とで手分けして、赤ん坊にミルクをあたえた。
「ほら、このほ乳瓶とミルクを使えば、ひとりずつじゃなく、子どもに食事をあたえられるだろ?」
「……ほんとうです。すごい、すごいです、じろーさん」
きらきらと目を輝かせながら、桜華が言う。
「いやいやおかーちゃん、すごいのはそんだけじゃさいさね」
「そうだよ~♡」
ひょいっ、と一花と弐鳥が会話に割って入る。
「水道ってのはすごいさね。いつでも飲みたいときに水が出る。しかも水流で洗い物までできるときた」
「このコンロってすごいんだよ~♡ 木でこすって火をつけなくても、かちっとひねってすぐに火がつくの♡ すっごい便利~♡」
どうやら鬼たちは、すっかり地球の道具の便利さに驚いているようだった。
「いやぁ、改めてあんちゃん、あんたすさまじいな♡」
赤ん坊にミルクをやっている俺に、一花がぐいっと腕を回してくる。
一花は俺より背が高い。俺の頬に彼女のぱっつんぱっつの胸が当たって気持ちが良かった。
「こんなすごいもんまで作れるだなんて、ほんとスゴいオスだよ」
「ほんとほんとっ♡」
弐鳥が同意して、俺の腰に抱きついてくる。
張りのある乳房が腰に当たって、こっちも気持ちが良い。
「おにーさんはかっこよくって頼りになって、しかもこんなすごいものまで作れちゃうなんて♡ もうほんと、優良物件どころじゃないよ~♡」
ぐりぐり、と一花と弐鳥がそれぞれ、胸を俺に押しつけてきた。
「い、一花。弐鳥、ちょっと離れろ。赤ちゃん抱いてんだぞ」
「おっとそうだね」「ごめ~ん♡」
ふたりがパッと離れる。
……あぶない。
桜華ほどじゃないにしても、ふたりはそうとうの巨乳だ。
巨乳で、しかも18歳の女子高生たちに胸を押しつけられたら、そりゃどうにかなりそうになってしまうだろ。
「ねー、おかーさ~ん♡ 良いでしょ~♡」
「おかーちゃん、最高の相手さね。良いだろ?」
娘たちが、桜華に尋ねる。
ねだるように、確認するように言う。
「……ふ、ふたりとも自重なさいっ」
めっ、と桜華がすごむ。
まったく怖くなかった。むしろかわいい。
「ちぇっ」「む~、わかったよぅ」
すごく不満そうに、一花と弐鳥が言う。
「……あの、よくわからないんだが」
さっきから置いてけぼり感が半端ではない。
「まっ、そのうちそのうち♡」
一花がニカッと笑う。夏の日のようにからっとした笑みだったが、目だけがじっとりと湿り気を帯びていた。
「そうそうっ、そのうちそのうち~♡」
弐鳥がにこーっと子どものように純粋無垢な笑みを浮かべる。ただ隠しきれない色気のようなものが、醸しでていた。
よくわからないが……ともあれ。
こうして俺は地球の粉ミルクを、鬼たちに紹介したのだった。
赤ん坊の食事はこれでいいとして、次は着るものだ。
特に【あれ】は必要になってくるだろうから、作っておいて正解だろう。
お疲れ様です!
そんなわけで粉ミルク回と、桜華の娘さんその1とその2の紹介でした。
粉ミルクをどうして作れたのか、の説明は、すみません、次回になります。
ほんとは今回粉ミルク以外も出そうと思ったんですが、キャラ紹介に予想外に尺を取られてしまいまして、どうやって作ったかの説明ができませんでした。
次回冒頭にて解説が入ります。といってもさほどヒネらず、ストレートな作り方をしてます。
本編のヒント通りです。
次回は赤ちゃん用品を披露して驚く鬼たち……みたいな話になるかなと。あといちおう前回今回の複製も回収するつもりです。
あと5章ですが、いつもだとここで区切るのですが、次回で区切れるか微妙です。長くなるかもしれませんし、いつも通り区切るかもしれません。
そんな感じで次回もよろしくお願いします!
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毎回毎回書いてすみません、でも、励みになるのは事実ですっ!
ので、今回も是非!
以上です!
ではまた!




