22.善人、鬼族を迎え入れる
いつもお世話になってます!
鬼族孤児院の院長、桜華さんと邂逅を果たした、翌日のことだ。
俺たちの孤児院、そのリビングにて。
獣人の子どもたちが、鬼族孤児院の子どもたちと、顔を合わせていた。
「知らねー顔がいやがるです……」「しんきゃらとうにゅう、てこいれか?」「はわわ、みんな頭にツノがあるです」「れいあといっしょね」
獣人の子どもたちが、鬼の子どもたちを遠巻きに見る。
視線の先にいるのは、2人の鬼だ。
キャニスたちと同年代だろう。
どちらも赤い髪の少女だった。
ひとりは長髪、もうひとりは短髪。
長髪のこはツインテールに、短髪のこは後でしばっている。
そしてふたりとも、顔が瓜二つだった。
目の形や鼻の形までそっくりで、違うのは髪型くらいだ。
「アァ゛? なにみてやがるんだ、てめー?」
ぎろ、と長髪ツインテールの赤い鬼の子が、キャニスたちをにらみつける。
「みせもんじゃねーぞこらぁ?」
長髪の子は気が強そうだ。
「アカネちゃー……ん、だめだよー……ぅ」
後に控えていた短髪の赤い鬼が、くいっと長髪の女の子をひっぱる。
「ままがねー……ぇ、けんかしちゃだめってー……ぇ、いったじゃんかー……ぁ。言いつけやぶるのー……ぉ?」
短髪の鬼の子が長髪の赤鬼をたしなめる。
どうやら長髪の子が【アカネ】という名前らしい。
「うっせーぞ姉貴! こいつらが先にアタシらにがんとばしてきたんだろうがっ! おいそこの犬っ!」
どうやら長髪の子アカネが妹で、短髪の子がその姉らしい。
アカネがキャニスを指さす。
「なんでやがるですか、てめー?」
むっ、とキャニスが眉をぴくりと逆立てる。
「犬っころてめぇ、アタシら鬼がそんなに珍しいのかア゛ぁ? バカにしてるのかア゛ぁ?」
長髪の子アカネは、どうやら好戦的な性格みたいだ。
ラビは「ひぃっ」とおびえ、コンが「でーじょぶだ、ごくーがきたらもうあんしん」とラビをよしよしとしている。
キャニスは物怖じせず、長髪赤鬼のアカネに詰め寄る。
顔同士がくっつく距離でにらみあう、いぬっこと長髪の赤鬼。
「めずらしーとは思ったです。けどべつにおめーらをバカになんてしてねーです。言いがかりでラビをおびえさせんなやです」
キャニスが犬耳とシッポをぴーんと立てる。
「なんだ後のウサギはおまえのしゃてーか?」
「しゃてーじゃねーです、かぞくでやがるですっ! そっちこそ後のそっくりさんはしゃーてーです?」
「ア゛ぁ? っちげーっよ! うしろのボンヤリしたやつは、アタシの姉貴だっ!」
「こんにちわ-……ぁ」
えへえへ~、と短髪の赤鬼があいさつをする。
てててて、と短髪の子がラビに近づく。
「おいらねー……ぇ、あやね、ってゆーのー……ぉ。よろしくねー……ぇ」
にこー、っと短髪の赤鬼、【あやね】がそういった。
「さっきはアカネちゃんがー……ぁ、びっくりさせてー……ぇ、ごみんねー……ぇ」
姉がラビに謝る。
「アカネちゃんねー……ぇ、ほんとうはとってもびびりやさんなのー……ぉ、でもびびってるとばれるのが嫌だからー……ぁ、ああしてケンカふっかけてるだけなのー……ぉ、ゆるしてあげてねー……ぇ」
「そ、そうなのです?」
ラビがおそるおそる長髪のアカネを見て言う。
「び、びびびびびってねーぞごらぁ!」
かーっ! とアカネが歯を剥く。
だが動揺は容易く見て取れた。
「ほらねー……ぇ、めっちゃびびってるでしょー……ぉ、うける~……ぅ」
けらけら、と姉のあやねが笑う。
「ちげーよ姉貴ぃ! 変なことを教えてんじゃねーぞごら゛ぁ!」
妹のアカネが顔を真っ赤にして、短髪鬼の胸ぐらを掴んでがくんがくんとゆする。
「アカネちゃんもー……ぉ、もうちょっと素直になれば良いと思うよー……ぉ」
「す、すなおってなんだよっ!」
にこーっと姉が笑って妹に言う。
「ほんとはー……ぁ、同世代のお友達ができてー……ぇ、めっちゃ嬉しいんでしょー……ぉ?」
獣人たちが「え?」とアカネに注目を集める。
「バッッッッッッ!!!!」
妹が姉の胸ぐらを掴んだまま、獣人たちの方を急いで見やる。
「そうなんでやがるです?」「ほう、つんでれか」「はわわ、らびといっしょですっ。お友達できてうれしいのです」「なーんだ怖いのはみためだけなのね」
獣人たちがめいめいに、妹鬼の感想を述べる。
「姉貴ぃいいいいいい!!! てめぇえええええ妙なこと言ってんじゃねえええええええ!!!」
がくがくがく、とアカネが姉の胸ぐらを揺する。
姉はにへーっと笑いながら、
「あっはっはー……ぁ、みんなー……ぁ、アカネちゃんとー……ぉ、仲良くしてねー……ぇ」
とのんびりとした口調でたのむ。
気の強い妹アカネと、おっとりとした姉のあやねか。
アカネは姉の胸ぐらを離すと、キャニスに近づく。
「おい犬っころ!」
「なんです?」
キャニスのアカネへの敵意は、薄れているようだった。
さっきのアカネと姉とのやりとりで、アカネが悪いやつじゃないとわかったからだろう。
「な、名前っ! しょたいめんなのに名前を名乗らないとか、どういう了見だぁア゛ぁっ?」
ガンを飛ばすアカネ。
「キャニスちゃー……ん、アカネちゃんはねー……ぇ、【あなたのお名前なんていうの? 教えて☆】って言ってるだよ……ぉう」
「姉貴ぃいいいいいい!!!」
アカネが顔を真っ赤にして怒鳴る。
あやねはアッハッハーとのんきに笑っている。
「あのクソ姉貴の言うことは全部うそっぱちだかんなっ!」
「そーゆーことにしてやるです」
んふー、とキャニスが笑みを浮かべる。
「ぼくはキャニスってゆーです。よろしくです、アカネっ」
にぱーっ、とキャニスが白い歯を見せて笑う。
「お、おう……。キャニスっていうのか。かわい」「かわい?」「へ、へんてこな名前だなぁごらぁ!!」
アカネがウガーっとほえる。
「みんなー……ぁ、アカネちゃんはねー……ぇ、本当はかわいい動物とか大好きなんだよー……ぉ。だからキャニスちゃんたちのことがー……ぁ」
「あーーーーーーねーーーーーきーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
アカネが顔を真っ赤にして、キャニスたちの前から離れ、姉のもとへと駆け出す。
「余計なこと言うんじゃぁねぇええええええええええええ!!!」
「あっはっはっー、あっはっはっはー」
がくがくと姉の胸ぐらを掴んでゆするアカネ。
そんなアカネのことを、獣人たちは楽しそうに見やる。
「なんだおもったよりいいやつそーでやがるです」
「う、うんっ。らびもそうおもうのですっ」
「アカネはべじーたやな、こわもてつんでれ」
「べじーた? つんでれ? コンあんたたまに変なこと言うわよね」
獣人の子どもたちは、鬼族の姉妹へ心を開いているみたいだった。
それも全部、あのおっとりとした姉、あやねのおかげだろう。
彼女がいたおかげで、妹がそんなに怖くないってわかったからな。
「ねー……キャニスちゃん。おいらたちー……ぃ、ここ来たばかりだからー……ぁ。案内してほしいなー……ぁ」
姉のあやねがキャニスに笑ってそう言う。
「って、アカネちゃんがさっき言ってたよー……ぉ」
「言ってねえよッッッ!!!」
「え~……言ってたじゃん。アカネちゃんは嘘つきだなー……ぁ。案内して欲しいけど恥ずかしいって」「わっ、わーーーーーーーーーーー!!!!」
アカネがあやねの口を塞ぐ。
「ゆかいなやつらでやがるです」
けらけら、とキャニスが笑う。
「よしっ、いーですっ。案内してやるですっ。アカネ、あやね、ついてこいやですっ!」
元気よくキャニスがそう言う。
もう鬼の姉妹にすっかり警戒心を抱いてないみたいだった。
「ありがとー……ぉ、ほら、お友達が案内してくれるってー……ぇ、よかったねぇー……いアカネちゃん?」
「はんっ! 別に良くはないし」
「アカネちゃんがありがと~……ぉだってー……ぇかわいい獣人ちゃんかわいいって~……ぇ」
「姉貴もうおまえだまれよぉおおおおおお!!!!」
わいわいきゃあきゃあと、子どもたちが孤児院の奥へと消えていった。
☆
昨晩のことを少し触れておこう。
桜華たちと出会った俺たちは、いったん俺たちの孤児院へと戻ることにした。
桜華たち鬼族孤児院は、大雨による川の増水で、流れてしまった。
彼女たちは寄る辺が他にないらしい。
だから俺は、鬼たちを孤児院へと連れて帰ることにしたのだ。
桜華たち鬼族の構成員は、
・母が1(桜華)
・娘が5(桜華の産んだ子どもたち)
・孤児が6(アカネ、あやね+乳幼児が4)
合計12人の大所帯だ。
俺は幼い子ども6人と桜華を車に乗せて、先に孤児院へと戻る。
5人の娘はコレットやアムと同年代らしい。
車の後を追うといって、先に桜華たちを孤児院へ送る。
送り届けた後、そのまま返す形で、5人娘たちのもとへと車で迎えに行く。
で、彼女たちを乗せて孤児院へと戻ってきた。という次第。
鬼族孤児院のあった天竜川と俺たち獣人孤児院とはそこそこ離れていた。
ので、2往復するころには、すっかり夜が明けていた。
そして昨日の雨がウソであるかのように、朝はきれいに晴れていた。
桜華や子どもたちは長時間の移動で疲れ切っていた。特に子供は、キャニスたちと少し遊んだあと、電気が切れたように眠ってしまった。
鬼族の子どもたちにはキャニスたちの部屋を貸してやり、桜華と乳幼児には、俺たち大人の部屋を貸してやった。
鬼族たちが眠っている頃、俺、コレット、アム、そして先輩が、リビングにて集まり、話し合いをした。
「しかし鬼族か。とっくに滅びたと思ってたのだが、まさか生き残りがいたとはね」
先輩が興味深そうにうなずいている。
「先輩、鬼ってやっぱ、【人食い鬼】のことですよね。1回滅んだっていう」
俺もこの世界で30年以上生きているため、【人食い鬼】のことは知っている。
「そう、人食い鬼。鬼族とは古来より人を食う化け物として恐れられていた」
ちゃきっ、と大賢者が知識を披露する。
「特にオス鬼は非常に好戦的だ。知性を持っているはずの亜人種のくせに、人を好んで食った。人食い鬼の悪評は、全部オス鬼のせいだと言われている」
確かに鬼が村を襲った、という話しは何回か聞くが、そうか全部オスがやったのか。
「メス鬼はあのアカネやあやねを見ればわかるように、非常に性格が穏やかだ。人間となんらかわりない見た目、性格、思考回路をしている」
しかし……と先輩が続ける。
「オス鬼の人食い鬼としての悪評がたたっただろう、鬼族は人類の敵と判断されてしまった。オスだけでなく、穏やかな性格のメス鬼たちもだ」
「なんでだよ、あんなにかわいくて穏やかな子らをどうして? メスは関係ないじゃないか」
俺の質問に、先輩が首を振るう。
「知らなかったのだよ、人は」
「知らなかった?」
「ああ。オス鬼が【鬼族】の全てだと、人は思ってしまった。レッテルを貼ったわけだ。雄も雌も関係なく鬼は鬼だと。人食いの化け物だと。ゆえに……」
「滅ぼされた……と」
先輩がうなずく。
なんともかわいそうな話しだった。
オスだけが悪いのに、なぜアカネたちメス鬼が……。
「鬼は全員滅んだ……とされていたが、あのウワサは本当だったみたいだ」
「あのウワサ?」
先輩がうなずく。
「鬼族はオスが全員滅んだ。メスの数もあと12人で全滅……というところまできた。そこにある日突然、1人のオス鬼が、天から降ってきたと」
「天から、降ってきた?」
なんだそりゃ。
「私も眉唾だと思っていたが、現にああして滅んだと思った鬼があそこまでたくさんいたところを見やるに、その天から降ってきたオス鬼って話しは本当だったみたいだね」
「そのオス鬼とメスの12人とが繁殖して、あそこまで増えたってことか?」
そう、と先輩がうなずく。
「記録では確かに鬼は全滅している。が、現に彼女らは数を増やしてるうえに、桜華はさらに子どもまで産んでいるところを見やるに、オス鬼が来た話しの信憑性は高いだろう。まあ、その天から降ってきたって話しは、未だに信じられないがな」
「オス鬼が降ってきたって話しは、何年前の話しなんだ?」
「だいぶ昔だよ。百年単位で過去の話さ。つまり鬼族孤児院の子どもたちは、オス鬼がその12人の女と子作りして作った子どもの子孫……ということだろうね」
……1度滅んだはずが、またその数を増やした、か。
その天から降ってきたオス鬼ってやつのおかげで。
「そのオスって今はどうしてるんだろうな?」
「さぁ? 何せスゴい古い話だ。鬼族は長命だから……今でもどこかで生きてるかもしれない。人間に殺されてるかも知れない。それはわからないな」
「人間に殺されてるって……もう人は鬼を殺してないんじゃないのか?」
だって全滅したってさっき先輩は言ってたし。
「いや、人食い鬼への憎悪を抱く層は一定数いる。現に鬼ごろしを専門とする冒険者は、鬼が滅んだ今でも存在する。きみも【小鬼殺し】は知ってるだろう? やつも鬼狩りだ」
小鬼ことゴブリンも先祖は鬼族だという。
小鬼は鬼族が滅んだ今でも、おおくこの世界に住んでいる。
ゴブリンたちの異常なまでの繁殖力が、人が小鬼を殺すスピードを上回っているからだ。
ちなみに小鬼殺しとはゴブリンへの過剰な憎悪を抱いている、有名なS級冒険者だ。
そして女である。
「鬼狩りは鬼族が全滅したといっても、いやまだ鬼はいる、というか小鬼はまだいるじゃないか、と鬼へ過剰に執着を持って鬼を今日も狩り続けている」
「そんな鬼狩りがいるんじゃ……桜華たちは……」
「……まあ、平穏なんて縁遠いだろうね」
どうして桜華たち鬼族が、森の中の、あんな川のそばなんて危ない場所に住んでいるのか、わかった。
危ない場所に好んで住んでいるのではない。
人の立ち入らない、危ない場所でしか、彼女たちは暮らしていけないのだ。
でないと、鬼狩りに見つかって殺されてしまうから……。
「それでも……桜華たちは、コレットを手伝いに来てくれてたんだな。自分たちがいつ鬼狩りに殺されるかも知れないというのに」
そう考えると、コレットの受けた恩は、とてつもなく大きなものであった。
自らの危険をかえりみず、他人であるコレットを助けてくれたのだから。
その姿は、コレットに、コレットの教えに通じる物があった。
「なあコレット。そもそもおまえと桜華は、どうやって知り合いになったんだ?」
そう、不思議だった。
ただのハーフエルフのコレットが、どうやって鬼族と知り合いになったのか。
コレットは俺を見て言う。
「桜華さんはここの孤児院の出なの」
「ああ、OGってことか。クゥと同じパターンか」
そう、とコレットがうなずく。
「わたしが来たときには桜華さんは孤児院を卒業して自分で孤児院を開いていたの。でも卒業後も定期的にここ獣人孤児院へ手伝いに来てくれたのよ」
なるほど……。
「それって何年前のことなんだ?」
「桜華さんがここを出て行ったのはだいぶ前だと思うわ。その後結婚して子ども作ったって言ってたから」
そんな前からこの孤児院はあったのか。
「桜華さんみたいなパターンは結構多いのよ」
「孤児院を出て、自分でも孤児院を開くってパターンのことか?」
そう、とコレットがうなずく。
「わたしが知っているだけでも鬼族の他に、人魚族、山小人族、そしてエル……」
最後にコレットが、沈痛な顔になる。
エル?
エルってなんだ? 何を言いかけた?
「コレット?」
「……ううん、なんでもないわ」
コレットがごまかすように首を振るう。
「とにかく桜華さんはこの孤児院を出て行った後、自分でも孤児院を開いた。それでわたしが困っている時期、定期的に手伝いに来てくれたの」
「そっか……」
コレットの言葉を聞いて、俺は腹が決まった。
鬼狩りに命を狙われている中、コレットを手伝いに来てくれていた桜華。
その桜華が、今、住処を失い困っている。
なら……どうするべきかなんて、決まり切っていた。
俺はそのことをコレットほか嫁たちに相談した。
彼女たちは承諾してくれた。
俺は桜華たちが起きるのをまった。
☆
「……ほんとうに、ありがとうございます」
夕方。
疲れ切って眠っていた桜華が目を覚まして、リビングへとやってきた。
リビングには孤児院の代表コレット、そしてその夫の俺がいる。
先輩とアムは、キャニスたちの面倒を買って出てくれた。すまない。
そして鬼族孤児院代表は、開口一番、そう言って頭を下げた。
……でけえ。
俺の目の前に座る桜華を見て、俺は改めて思う。
でかいそれ。なんだよあれは。でかすぎる。
……しまった俳句を読んでしまった。
動揺するほどまでに、桜華のバストはでかい。
コレットもでかい。十分以上にデカい。
だがそれを倍……3倍? いや倍だろう。
倍以上大きくしたのが、桜華の乳房だ。
なんかデカすぎてびびる。
目がそっちにばかり行ってしまう。
桜華は美人だ。長く艶やかな黒髪を、かんざしでアップにしている。
口元と目元のほくろが実にセクシーだ。
やや垂れ下がり、常時なきそうな表情が、また庇護欲をそそられる。
そして全ての男を野獣にするだろう、魔性の乳。
「ジロクンヤ、イイカゲンニシヨウカ」
隣に座るコレットが、俺の耳をつまんできゅーっと引っ張る。
「男の人の視線って、わかるもんだよ」
え、そうなの?
「…………すみません、無駄に大きくて」
桜華が申し訳なさそうに肩をしぼめて、体を小さくする。
胸が。やばい。腕で挟まれて、とんでもないことになっている。
「ジーロきゅん♡」
げしっ。「痛ぇ」ごめん。
「桜華さん、うちの旦那がごめんなさい。あとでグーで殴っておきますね♡」
スゴい笑顔でコレットが言う。
「……いえ、わたしがいけないんです。……すみません、気持ち悪いですよね。こんな胸……なくなってしまえば良いと何度思ったか」
愁いを帯びた表情で、桜華がつぶやく。
「そんなもったいな」「ふんっ!」「痛え! ごめんって!」
コレットが頬をハムスターみたいに膨らませて、俺の腹を殴ってきた。
「こほん……。では、桜華さん。今後について話し合いましょう♡」
「……そう、ですね」
桜華は視線を落として、辛そうにつぶやく。
「……でも、正直これからどうしていいのか、わからないんです」
本気で未来の見通しがついてないのか、桜華が沈鬱な表情で言う。
俺は口を開く。
「あの孤児院以外に寄る辺ってないんですか? 鬼族は桜華さん以外にも生き残っているんでしょう?」
「……生き残りは、います。ですが、この国のあちこちに散らばってますし。……なにより所在がわかりません」
「交流はない……と?」
「……ありません。わたしがこの孤児院を出てから今の今までずっと」
桜華の子ども以外の孤児、つまりアカネやあやねは、孤児として森に捨てられていたらしい。
それを桜華が拾って育てているだけであり、アカネたちの親鬼と、桜華は交流がないそうだ。
「……資金も住む場所も、すべて無くなってしまいました。……もうわたしたちは、どうしていいか……わからなくて……」
ぽと……っと大粒の涙が、桜華の黒い眼からこぼれ落ちる。
「コレット」「うん」
いいよ、とコレットがうなずく。
俺も彼女もまた、あの言葉によって救われてきた。
情けは人のためならず。
恩を受けたのならば、恩をもって返すのだ。
「桜華さん、顔を上げてください」
「…………」
涙に濡れた人妻の目が、俺の目とあう。
「桜華さん、ウチに来ませんか?」
桜華の目が……きょとん、と丸くなる。
そしてかぁ…………っと頬が赤くなる。
「……だ、だめです。お、夫はずいぶん前に死にましたし、今は独り身ですけど、その、わたしには子どもたちがいて、その、あの……」
となんか動揺している。
「あの……桜華さん?」
「……そ、それにあなたはコレットさんの夫ですし、ああでも、ああ、どうしましょう、ああ……」
いやんいやん、と桜華が身を捩っている。
なんなんだ?
「ジロくん。あとで。泣かす」
ごごごごご、とコレットが背後にオーラを出しながら、笑顔で言う。
な、何怒ってるんでしょう、コレットさん?
「えっと桜華さん……。ウチに来ないかっていうのは、鬼族孤児院のみんなで、うちの獣人孤児院に住みませんかっていう提案なんですけど」
「…………………………」
桜華がきょとん、とふたたび目を丸くして、
「……ああ、わたしったらなんという勘違いを。……はしたない妄想を。……ああっ」
とまた悶えていた。コレットが腹をつねってきた。痛え。
「それで……どうですか? ウチは前と違って資金が潤沢にあります。家は狭いですが、鬼族のみんなが暮らせるよう、改築することは可能です。それに食い物にも困りません」
複製スキルのことはあとでまた説明しよう。
「……でも、12人もここへ厄介になるなんて、ジロさんやコレットさんに迷惑なんじゃ」
眉を八の字にして桜華が言う。
「迷惑じゃないですよ。それに聞けばコレットは桜華さんの世話になっていたって言うじゃないですか」
俺は嫁を見やる。
嫁が子どもたちの面倒を見てここまでやってこれたのは、桜華のサポートがあったからだ。
「なら今度はその恩をこっちが返す番ですよ」
「……でも、それじゃあ釣り合わないですよ。わたしたちが迷惑をかけすぎることになります」
たぶん逆パターン、つまり桜華たちの孤児院に、コレットたちの獣人孤児院がまるごとやってきて厄介になるパターンを、しなかったことにたいして、負い目を感じてるみたいだ。
「気にしないでください。迷惑なんかじゃないです。孤児院同士、一緒に手を取り合って、寄り添って生きてきましょうよ」
ね、と俺とコレットが笑う。
「…………」
桜華は目を伏せて、逡巡する。
だがやがて、
「……お願いします」
ぺこり、と桜華が頭を下げた。
む、胸が。
テーブルに押しつけられて、自分の胸に顔が埋まってます、桜華さん。
「ジロクン、アトデ、シケイ」「ごめんって……」
目のハイライトが消えたコレットに、俺が謝る。
とにもかくにも。
こうして我が孤児院は、鬼族たちを迎え入れることになったのだった。
お疲れ様です!
そんな感じで桜華さんたちが孤児院で暮らすことになりました。
桜華さんの娘さんたちの描写ができなくてすみません。それよりまず鬼が悪い子たちじゃないよ、ということを書きたかったので、アカネとあやねを先に出しました。
次回からは本格的に、新しいメンツを迎え入れるための準備をします。建物を新しくしたり、住環境やインフラを整えたり、
もちろん桜華さんや娘さんたちとのイチャイチャや、新しく来た鬼の子たちとの暮しも描写していきます。
そんな感じで次回もよろしくお願いします!
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以上です!
ではまた!




