16.善人、嫁たちと温泉へ行き、竜と出会う
いつもお世話になってます!
アムが俺の恋人になった、その1週間後。
夜。
孤児院のみんなと夕飯を食べ、子どもたち、嫁たちと風呂に入り、彼女らを寝かせた後、
俺とアム、そしてコレットは、孤児院の裏にある温泉、【竜の湯】へと再び向かっていた。
ここで竜の湯のおさらいをしておこう。
竜の湯は、孤児院の裏から歩いて数分のところにある露天風呂だ。
温泉とは言っても、ここへ来た当初は、何一つ手が加わっていなかった。
遠目に見ると、ただの大きな水たまりにしか見えなかった。
温泉なのにそれじゃあまずい、ということで俺は温泉の大改造を行い、なんとか一般的な露天風呂にすることができた。
この竜の湯には特殊な効能がある。
それは、【完全回復能力】。
文字通りあらゆるものを完全に回復させる能力だ。
たとえばケガや病気は、入れば瞬時に癒える。
さらに体内に宿る魔法の源、魔力すらも、入れば完全回復するのだ。
湯に浸かっていれば永続的に魔力が回復するため、擬似的な【魔力無限状態】になることができる。
俺はこれを利用して、様々な魔法道具を作ったり、地球の物や食べ物を作ったりした。
俺の持つ特殊技能、【複製】には魔力を消費する。
それも複製される物が複雑であればあるほど、消費する魔力量も多くなるのだ。
地球の家電といった精密機器は特に、すさまじい量の魔力を持って行かれる。
しかしこの魔力無限状態になれる竜の湯に入ってさえいれば、消費魔力がいくら多かろうと、問題がなくなる。
魔法でも物でも、なんでも作り放題になるのだ。
俺はこれを利用して様々なものを作った。
塩。電子レンジ。冷凍食品。車など。
地球ではごくありふれたものでも、この異世界ではどれも超がつくほどの貴重品だ。
俺はそれらを活用して、孤児院の生活を向上させていった。
俺たちが豊かな生活を送れるのは、全部竜の湯のおかげである。
なぜ竜の湯に完全回復能力があるのか。
それはお湯の中に含まれる【竜の体液】に秘密がある。
古来より竜の血をあびれば、ひとはあらゆるケガ病気・魔力・そして体力【など】を完全に回復できたという。
血でなくとも体液、つまり汗であっても同様の効果をあらわす。
そしてこの竜の湯には、【天竜さま】というドラゴンが、こっそり入りに来ているらしい。
天竜さまがこの温泉で汗を流すと、お湯にドラゴンの汗、つまり【完全回復能力を持つ体液】がまじる。
結果、竜の湯は回復能力を得る、という仕組みだ。
すべては天竜さまがこの温泉を気に入って、定期的に入りに来てくれるおかげである。
ほんと、天竜様々だ。
しかし俺はここに来てそこそこ経つが、天竜さまの姿を見たことは、一度たりとも無い。
コレット曰く、天竜さまは女の子で、そしてとても恥ずかしがり屋さんらしい。
だから、あんまり人前に出ないのだそうだ。
……前置きが長くなってすまん。
ようするに、竜の湯に浸かれば魔力だけじゃなくて、体力も無限状態になるということだ。
湯船の中でならば、朝から晩まで走り回っても、息が切れることもければ、疲れることもなくなる。そういうチート級の温泉がうちにあるのは、実に幸運なことだった。
☆
コレットとアムと、竜の湯へとやってきた。
彼女たちは俺と別れると、女性用の脱衣所へと、仲良く歩いて行った。
【……やっぱりコレットの胸、間近で見るとほんとおっきいわね。うらやましい】
猫獣人のアムの、くやしそうな声が壁越しに聞こえてくる。
ちなみに俺がいるのは、男性用の脱衣所。
と言ってもここを使うのは俺しかいない。
この孤児院の関係者は、俺以外全員が女の子だからな。
ゆえに男性用の脱衣所は、女性用のそれより狭く作ってある。
【そんな……アムも十分大きいと思うわよ?】
【……爆乳のアンタが言うとイヤミにしか聞こえないんですけど。なによそれ、人の顔よりおっきいじゃない。えいっ!】
【ひゃんっ♡ やだアム、そんなとこ……さわっちゃだめっ】
【だめってわりに声がだめってかんじじゃないのはどうしてなのよ? えいえいっ。怒った?】
【もうっ、怒ってないけど、それ以上すると怒っちゃいますよ……ひゃぅっ♡ もぉっ♡ おかえしよっ。えいえいっ。怒った?】
【んにゃっ……! や、だめだって、そこアタシ弱いんだから】
【あら怒ったの】【怒ってないけどやめてよもぉ~】
女子の脱衣所とここは壁一枚挟んだところにある
つまり筒抜けだ。
壁向こうではすさまじく羨ましい光景が広がっていることだろう。なんとけしからん。
はやる気持ちを抑えながら、俺は服を脱いで、脱衣所を後にする。
女性用の脱衣所を振り替えると、ふたりがまだきゃっきゃっと楽しげにちちくりあっていた。
くっ……! 俺も早くまざりたいっ!
だが我慢だ、我慢。
まずは身を清めておこうと思って湯船に近づこうとした、そのときだった。
「ん……?」
湯気の向こうに、なにか人影を見た気がした。
「なんだ……? 誰かいる、のか?」
しかし先輩は寝てる。子どもたちも同様。
ならばテンか……? と思ったがどうも違いそうだ。
「小さい……子ども?」
シルエットが小さい。
アムよりも先輩よりも小柄で、へたしたら年少組と同じ背丈だろう。
湯船に近づくと、湯気の向こうの人影が、はっきりとしてくる。
少女だ。
全裸の少女が湯船を挟んで向こう側、温泉の縁に立っている。
褐色の肌に、銀の長い髪。
髪質は悪いらしく、剣のようにとげとげとしている。
そして髪の毛は恐ろしく長い。地面に着いている。
少女の特徴としては、側頭部から天に向かってそりたっている、2本のねじれたツノだ。
そう、ツノ。ツノが生えている。
「…………」
ぱっちりとした二重まぶたに、大きくてつぶらな瞳が実に愛らしい。
「…………」きょろきょろ。
少女はあたりの様子をうかがうように、右へ左へと視線を向ける。
「…………」きょろきょろ、きょろきょろ。
左右にせわしなく動く。
「…………」ほっ。
やがて誰もいないと思ったのか、少女は安堵の吐息をはくと、
「…………」やれやれ。
なんか知らないが、外国人みたいなジェスチャーを取る。
「…………」ぶるるっ。
少女は衣服を何も身につけてなかった。
初夏とは言え真っ裸で外にたっているのは寒いのだろう。
「…………」いそいそ。
少女は温泉の縁に座ると、
「…………」ん-! んー!
必死になって、湯船の中に向かって、脚を伸ばそうとしていた。
「なにやってるんだろうか、あの子……」
「…………」ん~~~! ん~~~~!
少女は顔を真っ赤にしながら、湯船に脚をぴーんと伸ばす。
この間、彼女は、いっさいしゃべっていなかった。
しゃべらないので、彼女が何を思っているのかよくわからない。
まあ周りに誰もいないのだから、しゃべらないのは普通か。
「…………!!」ああっ!
少女は足を滑らせて、湯船に頭からドボン! とツッコんだ。
「…………!!」あっぷあっぷ、あっぷあっぷ!
少女が湯船で溺れていた。そう言えばコンたちも微妙に床に足が着かないんだよな。
でも溺れるほどじゃないと思うんだが……。
とか考えていたそのときだった。
「…………」ちーん。
褐色少女は湯船の中で動かなくなっていた。
顔を湯船の中に沈めて、腰を上げるというポーズで浮いてる。
「うぉおおお!! だ、だいじょうぶか今行くぞ!!」
俺は観察を止めて、湯船に飛び込む。
じゃばじゃばと早足で少女の元へとかけより、彼女をザバリッ、と湯船からすくい上げた。
少女をお姫様抱っこするような体勢になる。
「…………」ちーん。
白目を剥いて少女が気絶している。
「これ呼吸してるのかっ! おいっ! だいじょうぶかしっかりしろ!!」
俺は抱っこしている少女の体を揺する。
だが彼女の手足はぶらんと投げ出されて、チカラが入っているようには見えない。
首も据わっていなかった。
「どうする……人工呼吸、か? こういうとき?」
考えるより動いた方がいいだろう。じーっとしてても、どうにもならねえって誰かが言っていたのを思い出した。
俺は少女を連れて湯船から上がり、床に少女を横たわらせる。
「めっちゃまえに会社の研修でやった……人工呼吸の手順を思い出して……」
確か安静な場所に寝かせて、まずは、
「だいじょうぶかっ! おいっ! だいじょうぶかっ!」
と彼女の肩を叩いて意識の有無を確かめる。
「…………」
「返事がない……意識がないのか」
意識がないのを確かめた後は、
「気道の確保だよな」
彼女の首をくいっとあげて、
「そんで鼻を摘まんで」
彼女の小さな唇に、俺は唇を重ねる。
あとは息を吹き込み、胸骨のあたりを手で押さえ込む。
何度かそれを繰り返していくと、
「…………」けほっ。
と少女が息を吹き返した。
「…………」けほっ。けほっ。けほっ。
あおむけに寝ていた少女が咳き込む。
どうやら息を吹き返したらしい。
「良かった」
ほっと安堵の吐息を吐く俺。
「…………」ぽー……。
少女が半身を起こして、俺の顔を見てくる。
熱でもあるように、その銀の瞳はうるんでいた。
「だいじょうぶか?」
「…………」はっ!
少女は正気に戻ると、
「…………」ぺこぺこっ。
びょんとジャンプすると、そのままヒザをついて、ぺこぺこと土下座してくるではないか。
「いや土下座って。こっちでもそういう文化あるのか?」
「…………」ぺこぺこ。
ありがたやー、みたいな感じで、少女が両手をついて頭を下げてくる。
「気にすんなって。……それより、見ない顔だな。このへんに住んでいる子どもか?」
俺はヒザをついて座ると、少女の姿を見ながら言う。
そもそもこの森には人が俺たち以外に住んでいるところを見たことがない。
となると、わざわざ森の外から、この温泉に入るためだけに、少女がきたことになる。
「…………」おろおろ。
「見たところ両親の姿も見えないんだが……お父さんとお母さんはどこにいるんだ?」
「…………」おろおろ。
さっきから質問しているというのに、この少女はひと言も声を発しない。
「えっと……きみ、名前は?」
「…………」あうあう。
ぱくぱく、と少女が口を動かす。
「…………」けへっ、けへっ。
とえづいていた。なんだろう?
ややあって、
「……ぇ、ぃ、ぁ」
とうめくように、少女が言う。
「えいあ? エイアっていうのか?」
「…………」ぶんぶんぶんぶんっ!!
少女が>n< ←こんな顔して、首を横に振るう。
「エイアじゃないのか」
「…………」ぶんぶんぶんっ!!
今度は縦にふるう。
「……れ、ぃ、あ」
少女がまたもうめくように、しかしさっきよりは聞き取りやすく、自分の名前を言う。
「……レイア? レイアっていうのか」
「…………!」びしっ!
正解っ! とでもいいたいのだろう、少女が喜色満面で、俺に指を指してくる。
「レイア。レイアか。いい名前だな」
なんかどこぞの貴族の令嬢みたいな名前だ。
「…………」いやぁ♡
照れますわ、みたいな感じで、レイアが頭をかく。
「それでレイア。さっきの質問なんだが、お父さんとお母さんはどこにいるんだ?」
「…………」しゅん……。
レイアが肩を落として、暗い顔になる。
この反応を見る限り、少女は両親とはぐれたってことだろうか。
それにしてはさっき、のんきに風呂に入ろうとしていたし……。
それにさっきからひと言もしゃべらないのも気になる。
いったいこのツノの生えた少女は、何ものなのだ……?
と思っていたそのときだった。
「ジロくーん。ごめんなさーい」
コレットたちが脱衣所の方から歩いてくる。
「…………」はっ!
レイアは顔を上げて、コレットの方を見やる。
「…………♡」
だだだっ、とレイアがコレットに向かって走って行くではないか。
「あら? 珍しい子がいるわね♡」
コレットはレイアを見ると、笑顔を浮かべる。
どうも彼女は、レイアのことを知っているみたいだった。
レイアはコレットの体に抱きつく。
タオルに隠れていた爆乳に、レイアがすりすりと頬ずりする。
そしてタオルをハズそうとする。
「もぉっ♡ 天竜さまったらえっちなんだから♡」
めっ♡ とコレットが嫌な顔どころか、笑顔でレイアの鼻先に、指をちょんとおく。
「…………♡」えへっ♡
ごめーん、とでも言いたいのか、頭をかくレイア。
と、そこで俺は気づく。
「ん? コレット。いま、なんて言ったんだ?」
レイアを抱くコレットに、俺がツノの少女を指さして言う。
「ん? えっちなんだからって」
「いやそのまえ。コレット、おまえこの子を、レイアを何て呼んだ?」
コレットの胸の中に収まる、褐色銀髪少女を指さす。
「レイア? ジロくんこそ誰のこといっているの?」
はてと首をかしげるコレット。
「いやだから、おまえが今だっこしている女の子のことだよ」
「へぇ! 天竜さま、レイアちゃんって言うのね♡ かわいい名前~♡」
「…………♡」ふふんっ。
どやぁ、と得意げな顔のレイア。
てか、そうだ。
間違いない。コレットは今、レイアをこう呼んでいた。
【天竜さま】
つまり……。
「コレット。じゃあおまえが今だっこしてる、このレイアが【そう】なのか? あの」
コレットはええ、とうなずいてこう言った。
「そうよ、この子が天竜さまよ♡」
「…………」えっへん。
胸の中に収まるレイアが、得意げに胸を反らしたのだった。
☆
天竜さまことレイアとともに、俺たちは風呂に入る。
コレットはレイアを抱っこしたまま、湯船の縁にたち、石の階段をくだって湯船へと浸かる。
「…………!!」くわっ!
レイアがめっちゃびっくりしていた。
「あらどうしたのレイアちゃん?」
「…………!!」びしっ、びしっ!
レイアはさっきの石段を指さして目を剥いている。
「ああそっか。レイアちゃん、温泉が修繕されてからここに来るの初めてだったわね」
「…………!」びしっ!
その通り! とでもいいたげに、レイアがコレットを指さす。
なるほど、レイアは石段ができたことを知らなかったのか。
だから縁から脚を伸ばしていたんだな。
「…………」はぁー……。
便利ー、とでもいいたげに、レイアが石段を見て感心している。
「これ作ったのジロくんなのよ」
「…………?」
だれそれ、みたいな感じで首をかしげるレイア。
「あの男の人よ。そっかレイアちゃんジロくんにあうのは初めてよね?」
「…………」ぶんぶんぶんっ!!
何度もうなずくレイア。
「この人はジロくん。わたしの……旦那さまよ♡」
「…………!」
なんとっ! とレイアが驚いている。
「…………」むむむっ。
かと思ったら、レイアが何かに悩むようなそぶりを見せる。
この子、しゃべらないけど、表情がころころ変わるから、ある程度感情の変化がわかるな。
「…………」じー。
レイアが俺を見据え、
「…………♡」ぽっ♡
と頬を染める。
「なんなんだ……?」
なぜ赤らめる?
「…………」すぃ~。
レイアが湯船の中を泳いで、俺の元へとやってくる。
縁のあたりに座っていた俺のヒザの上に、レイアがやってきて、
「…………」ほー。
と安心しきった、だらけきった表情で吐息を吐く。
「…………♡」すりすり♡
レイアが俺の胸板に頬ずりしてきた。
「あらあら♡ ジロくんってば、レイアちゃんと仲良しさんね」
保護者的笑みを浮かべるコレットとは対照的に、
「……アンタ。こんな小さな子にもモテるわけ……?」
とアムがやや敵対心をレイアに見せながらつぶやく。
「アム。どうした? やいてるのか?」
「はっ、はぁっ!? 違うわよっ!」
ふしゃーっ! とコレットの隣に座っているアムが、シッポをぴーんと立たせる。
「こんなちびっこにアタシが嫉妬するわけないでしょうがっ?」
「…………」むむむっ。
レイアが柳眉を逆立て、ぷくっとほおを膨らませる。
「どうしたレイア?」
レイアはすいーっと泳いで湯船の外に出る。
すっぽんぽんの幼女が、くるりと俺たちの方を見やると、
「…………」すぅー…………。
レイアは息を吸い込んで、
「…………」びしっ!!
なんかカッコいいポーズを取る。
するとーー
ーーピシャアアアアアアアアアッ!!!
「な、なに!? 落雷っ!?」
アムがびっくりしてコレットに抱きつく。
レイアの体が、激しい光りに包まれる。
落雷かと勘違いしてもいいような、激しく、そして一瞬の強い輝き。
そして光りが収まると、そこにはーー
「……………………でかっ」「でけえ」
俺とアムが、そろってレイアを【見上げる】。
そこにいたのは、見上げるほどまでに大きな竜だった。
ダイアモンドのような白銀色の鱗。
鱗は宝石のようにぎらぎらと輝いている。
ばさり……とレイアが翼を広げる。
彼女は腕がなかった。
腕の部分が翼だった。飛龍というやつだろう。
長いシッポ、隆々としたぶっとい後ろ足。
そして側頭部から生えた、大きなツノ。
そこにいたのはまさしく竜。
天の竜にふさわしい威容をたたえたその子が、レイアだというのか。
【…………】どやぁ……。
すげーだろ、とでもいいたいのか、天竜が得意げに笑う。
なんか、うん、威厳が一瞬にして消えた気がする。
「コレット……レイアは本当に竜だったんだな」
【…………】ふふん。
「そうよぉ♡ かっこいいでしょう♡」
【…………】ふふふん。
「ああ……かっこいいな、確かに」
【…………】ふふふふん。
「ほんと……すごいわ。おっきくって……なんだか見てて恐れ多くなるわ」
【…………】ふふふふーん。
俺たちがレイアを口々にほめるたび、彼女の長い胴体と首が、後に反り返る。
とおもっていたそのときだった。
つるんっ。
「あ」
でーんっ、とレイアがそのままひっくり返ったのだった。
体がでかいから、めっちゃでっかい音を立てていた。
【…………】わーん。
じたばた、とレイアが足をばたつかせる。
どうやら起き上がれないらしい。
まああの巨体に加えて、腕がないからな。
「あらまぁ、どうしましょう」
コレットが慌てて湯船からでると、天竜に近づいていく。
「ちょ、コレット危ないわよ」
と言いつつアムも天竜のそばまで駆け足で近づいていく。
……目の前をぷりんとしたおしりと、ぷっくりと張りのあるおしりが、イヤイヤ邪念を捨てよう。
俺も湯船からあがると、レイアのそばまでいく。
【…………】やーん。
起こして~、とでもいいたいのか、レイアが苦しそうに声を上げている。
「どうしましょう。このサイズのレイアちゃんを、わたしたちじゃ起こせないし……」
コレットが不安げに眉を八の字にする。
俺は考える間もなく、あることを思いついた。
「レイア。無理に起き上がろうとするな。まずは落ち着け、な?」
俺の言葉に、レイアがぴたり、と動きを止める。
「どうすんのよ?」とアム。
「いいか、レイア。そのままさっきの姿……子どもの姿に戻ることはできるか?」
俺がそう言うと、レイアはこくこくとうなずく。
そしてびがーっ! と光ると、そこには仰向けに寝る幼女がいた。
俺はかがみ込んで、彼女をお姫様抱っこする。
「ほら、これでもうだいじょうぶだろ?」
子どもの姿の小さな体なら、こうして持ちあげて、体勢を戻すことができる。
「…………♡」ぽ~……♡
レイアは熱っぽい視線を俺に向けてくる。
「どうした?」
「…………♡」ん~……♡
ちゅー、とタコみたいに、レイアが唇を突き出してくる。
「なんだ、タコのマネか?」
「…………」むー。
違うわい、とでもいいたげに、レイアが唇をとがらす。
「…………」ぺしぺし。
胸の中で、レイアが俺の体を叩いてくる。
「どうした? 降りるのか?」
「…………」こくこく。
俺は少女を下ろしてやる。
するとーー
ーーぴがーっ!!
とレイアの体がまた光り、そこにはさっきの巨大な天竜が出現する。
【…………】ひょいっ。
「え? うぁああっっ!!」
レイアは俺の腰に巻いているバスタオルを口で摘まむと、ひょいっと背中に乗せてくる。
「じ、ジロくんっ!」
「ジロ!?」
レイアの行動に目を剥く嫁たち。
レイアは俺を背に乗せると、そのままばあっ! と翼を広げる。
「ちょっとレイア? なんだなにすんだ?」
俺の問いにもちろん答えず、レイアは広げた翼を羽ばたかせる。
ぐんっ、と体が浮く。
そして、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
レイアがなんと、俺を乗せて、空へと跳んで行くではないか。
「ちょっ、レイアっ! おろせってレイアっ!!」
【…………♡】
レイアは目を♡にすると、どこかへ向かって飛ぼうとする。
「おろせって!!ほんとおろしてくれって、レイアぁああああああああ!!!」
☆
その後の顛末について、最後に触れておこう。
あの後俺は、天竜の巣につれていかれた。
そこにはレイア以外に誰もいなかった。
竜の死骸らしき骨がふたつぶんあった。
レイアに両親かと尋ねると、こくりと悲しげにうなずいた。
……どうやらレイアの両親はすでに他界しているらしい。
この子もキャニスたちと同じで、孤児みたいだった。
なるほど、だからさみしくて、父親をここまで連れてきたのか。
俺はレイアに提案する。
孤児院にこないかと。
するとレイアは大きくうなずいた。
レイアの背中に乗って、俺たちは孤児院の裏にある竜の湯まで戻ってくる。
そこには服に着替えたコレットとアムが、心配そうに俺たちを見上げていた。
俺はレイアの事情を説明。
コレットもアムもすぐさま同情し、レイアを置くことを了承。
翌日、
「おーっ! 新しいやつが来やがったですー!」
「ひあかむあ、にゅーちゃれんじゃー」
「はわわっ、ピクシーさんのときみたいに、大人の女性ってかのうせいがあるのでは……?」
年少組は新しく来た幼女に興味津々だった。
「おめー肌が茶色でかっけなーですっ!」
「かっしょくろりか、てんぷれやな」
「おぐしがキラキラしててきれいなのです-!」
年少組はどうやらレイアにすぐにフレンドリーに接してるようだった。
「…………」ふふんっ。
レイアも年少組にほめられて、まんざらでもないらしい。
「さっそく孤児院を案内してやるですっ! いくぜレイアっ!」
「きゃもーん、れいあ」
「レイアちゃん、まずはらびたちのお部屋を案内してあげるのですっ!」
「…………」うむうむ。
獣人幼女たちに手を引かれ、レイアはおれたちの前から走り去っていった。
「良かった、レイアちゃん、すぐになじめそうね」
「そうだな。年も近そうだし、すぐに……」
とそのときである。
「…………」すててててて。
レイアが俺の方へと歩いてくる。
そして俺の体をよじのぼってくると、
「…………♡」んちゅっ♡
俺の唇にキスをして、ひょいっと華麗に着地を決めて、幼女たちの方へと走り去っていった。
「じーろーくんっ♡」
「いやコレットさん。これあれだから、親愛のキス的なあれだから」
「……ジロ。あんたねぇ」
「いやアムさん、相手は幼女だから。俺のことなんて父親としか見てないから」
……結局彼女たちのふきげんは、翌朝になるまで治らなかったのだった。
かくして、わが孤児院に、新たな子どもが加わったのだった。
お疲れ様です!
ということで、今日から4章スタートです!
新キャラ、天龍さまことレイアちゃんを出してみました。やっと1章からの伏線を回収できて、あと公約を守れてホッとしてます(^^;;
孤児院の経済状況が上を向いてきたので、新しい子供を追加しようとは3章から思ってたので、今回ようやく年少組に新しい子を加えられました。
レイアちゃんはあくまで年少組のくくりとしてカウントしてますが、恋愛フラグは一応立ててますので、今後の反応しだいでキャニス側かコレット側かにしようと思います。今のところ年少組として見てます。
また仲間にドラゴンが加わったので、そこを活用していきたいなと思ってます。街へドライブしてビックリされるみたいな。
また地球の便利アイテムに驚くレイアに、得意げに説明するキャニスたち……みたいなのも書くつもりです。
そんな感じで4章もよろしくお願いします!
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ではまた!




