13.善人、魔法道具を作成し、孤児院を修繕する
お世話になっております!
大賢者ピクシーが、俺たちの孤児院に居候することになった、その数時間後。
時刻は昼。
ちょうど昼めし時だったので、ピクシーの紹介もかねて、みんなで昼食を食べることになった。
リビングにはテーブルが2つ。
どちらも俺が前世でひとり暮らしの時に使っていたものだ。
リビングにはコレットと獣人の子どもたちが集まっている。
特に幼年組は新しく来た先輩に興味津々だった。
というか……。
「きょーからここがおめーの家でやがるですっ!」
「えとえと、さみしくてもだいじょうぶなのですっ。ままもにーさんもやさしいひとなのですっ」
「うぇるかむとー、じゃぱりぱー」
いぬっこキャニス、うさ耳のラビ、きつね娘のコンが、先輩の周りに集まって歓迎ムードをかもしだしている。
そう、年少組はどうやら、先輩を新しく孤児院に来た子どもと勘違いしているみたいだった。
まあ先輩は妖小人。
背が小さく、ともすればキャニスたちと同じくらい幼く見える。
「ありがとう、キャニス、コン、ラビ。歓迎してくれて嬉しいよ」
先輩はにこりと笑うと、子どもたちの頭を撫でる。
幼女扱いされたのに、先輩は怒ろうとしてなかった。
「ただねみんな。私はみんなより年上なのだよ」
「いやぁ……ねーです」「それは、ぎゃぐか?」
「はわわ、そうだったんですかっ。ご、ごめんなさいなのですっ!」
懐疑的な2名と違って、ラビは素直に謝った。
「良いんだよラビ。私はどう見ても幼女だからね。勘違いしてもしょうがないさ。でも間違ったらきちんと謝れるなんてえらいね」
よしよし、と先輩がラビの頭をなでる。
同世代の幼い子ども同士が仲良くしてるようにしか、やっぱり見えなかった。
「しかしまちやがるですコン。みやがるです、このおねーちゃん、メガネをかけてやがるです!」
「まじ、でじま?」
キャニスとコンが、先輩のかけている赤いメガネを見て、耳をぴーんと立たせる。
「やべーです……こいつメガネをかけてやがる……! きっとあたまいいやつですっ!」
「あたま、よしこちゃん」
「きっと暗算とかめっちゃできるに決まってらぁですっ!」
「すげえな、すごいです」
どうやらキャニスとコンのなかでは、メガネをかけてる=頭良いという図式が成り立っているのだろう。
実に子どもっぽい。
「ありがとうふたりとも。これで私が年上だってことも信じてくれたかい?」
「それはねーわです」「みためはこども、ずのーはおとな」「ふ、ふたりとも失礼なのですよ……」
あわわ、とラビがふたりの口を押さえようとする。
「はっはっは。いやまったく楽しいところじゃないか、ここは。なあジロー」
「そうっすよ。だからここに永久就職したんです」
俺がそう答えると、隣に座るアムが「!」ぴーんっ、とシッポをおったてる。
「永久……ねえジロ、本当っ? ねえ本当っ?」
俺が何気なく返した言葉に、猫獣人のアムが食いついてきた。
「ずっとここにいるのっ?」
「え、ああ」
「そ、そうなんだ……。ふ、ふーん……。ちなみになんで?」
「いやまぁうん、楽しいし。それに」
俺は左隣に座るコレットを見やる。
コレットは俺と目が合うと、にこりと微笑んだ。
その左手の薬指には指輪がはめられている。
「ふむふむなるほどなるほど。ジロー、だいたいここの関係図がわかったよ」
年少組に「めがねー」「ぐらっしーずー」「はわわ、メガネをとろうとしちゃだめなのですー」ともみくちゃにされながら、先輩が楽しそうにうなずく。
「さて。そこのお嬢さん。アム?」
「えっと……なんでしょう? ピクシーさん」
先輩に言われて、体を緊張でこわばらせるアム。
「敬語はいいよ。それに呼び捨てでいい。しばらくの間やっかいになる仲間なんだから」
「そ、そう……。結構気さくなのね、伝説の大賢者様っていうから、もっと」
「偉そうなのを予想してた?」「い、いやそんなこと思ってないわよ? ほんとうよ」
アムがぶんぶんと首を振るう。
「アムはずいぶんと優しい子なのだね。気が使えるし、とても良いこだ」
うんうん、と先輩がうなずいて言う。
「い、良い子じゃないしっ。ふつうだしっ」
ぷいっ、とアムがそっぽ向いてしまう。
「そうかそうか。……さてジロ-? ところでアム。ひとつ確認なんだけど、結婚指輪って知ってるかい? いや言わなくて良い、もちろん知らないよね?」
先輩がアム、というより俺を見ながら言う。
「? なにそれ」
「だろうね。獣人には結婚指輪を贈るという習慣がないんだ。知らなくて当然だろう。だから左手の指輪の意味に気づいてないよ、ジロー」
「? なんのことだ?」
俺がそう答えると、先輩は「やれやれ」と首を振る。
「きみは昔からにぶいところがあった。だがここまで君の目が節穴とは。もうちょっと自分に向けられてる好意に気づいた方がいいよ。ね、アム♡」
急にアムの方を向いて、先輩がほほえみかける。
「なっ……!!! なにいってんのよ……!!!!」
アムが自分の髪とおなじくらい、顔を真っ赤にして吠える。
「いやなに見ていてもどかしくてね」
「よ、よけいなお世話よっ!」
「そうだったね、野暮だった。ごめんよアム」
「べ、別にいいけど……」
などとアムと先輩との間で謎のやりとりが行われている。
「なあ先輩。俺話しについてけないんだけど」
「……ねえ、ピクシー。ジロって昔からこうなの?」
「すまない、昔からこうなんだ。友人として謝罪するよ」
「いいわべつに。悪いのジロだし」
「まったくもってそのとおりだね」
ふたりともが同じタイミングでため息をつく。くすっ、とふたりはおかしそうに笑った。
なんか意気投合してるな、アムと先輩。
「ところでジロの……」先輩はちらりとアムを見やり、「コレット」
俺の左隣に座るコレットを、正面に座る先輩が見て言う。
「な、なにかしら?」
にこやかな表情を浮かべるコレット。
だが緊張しているのだろう。テーブルの下で俺の手をにぎろうとしてきた。
「いやそんな緊張しないでくれよコレット。私とジローは本当にただの友人だよ。なあジロー?」
「ですね」こっちではね。
「そ、そうなんだぁ……。良かったぁ……」
ほーっとコレットが安堵の吐息を漏らす。
「なるほど、コレットは私がジローの浮気相手か何かかと思ったわけかな?」
「いえそんな……! そんなことは決してそんな」
ぶんぶんぶん、と強く反発するコレット。
そこに真実が滲み出ていた。
「気にせずとも私とそこの鈍感男とはただの友人さ。ここではね」「えっ? それって……」
「まあ、その話しはあとでゆっくりするとしようか。それよりせっかくのチャーハンが冷めてしまうよ」
テーブルの上には、人数分の冷凍チャーハンがのっていた。
フライパンで炒めてもオッケーなタイプのものだ。
が、今回は耐熱皿に乗せてチンしただけである。
「これは誰が作ったのかい?」
先輩が幼年組を見て言う。
「みー」
コンが立ちあがって両手を挙げる。
「そうかい。見事な腕前だ」
「おぬし、けーがん」
びしっ、とコンが先輩を指さす。
「おにーちゃんのはぼくが作ったですー!」
「ら、らびはままのつくったよー」
年少組が全員はいはいはい、と両手を挙げる。
「スゴいなキミたちは。シェフじゃないか」
「いやぁ♡」「てれるなぁ♡」「はわはわっ」
えへー、と笑う子どもたち。
「なるほど電子レンジがあれば、この世界でこうして子どもでも料理が作れるんだね。冷凍食品はキミが出したんだろ? 今度やきおにぎりのやつ出してくれよ。私あれ好物でね」
「わかりました。出しときますよ」
あとで出しておかないとな。
「しかし洗濯機に冷蔵庫、電子レンジに冷凍食品か。この世界にないもののオンパレードだな。すごいね、ジロー」
先輩がチャーハンを食べながら言う。
「ここに私という歩く魔法の教本が加われば、物体だけじゃなくて魔法でもチートっぷりを発揮するわけだ」
先輩は妖小人であり大賢者だ。
あらゆる魔法に精通している。
このひとを通せば、彼女と同等の存在、つまりあらゆる魔法を使える大賢者と同じになるのだ。
「特殊技能はやっぱりすごいね、桁違いだ」
「ですね。……あれ、そう言えば先輩も転生者ですよね」
俺が言うと先輩はうなずく。
「なら俺と同じで、特殊技能をもってるはずですよね?」
転生者あるいは転移者は、全員が何かしらの特殊技能をもっているはずである。
「先輩ってどんなスキルもってるんですか?」
「ん。企業秘密」
だめー、っとスプーンを口にくわえて、先輩が腕で×を作る。それをみて年少組もまねして腕を×にしていた。
「おしえてくださいよ」
「そうはいかないよ。奥の手は隠しておくからこそ価値があるのさ」
そう言って先輩は、俺にスキルを教えてくれなかったのだった。
☆
コレットたちと食事を取ったあと、いよいよ孤児院の修繕に着手することになった。
ちなみにコレットとアムは用事があると言って出かけていった。
そう言えばコレットって、結構な頻度でどこかへ行くんだよな。
なんでも、他の孤児院の手伝いに行っているらしい。
ここ以外にも獣人の孤児院はあるのだそうだ。
それはさておき。
先輩と一緒に竜の湯へとやってきた俺。
「とりあえず役立ちそうな魔法から使っていこうか」
俺と先輩はともに竜の湯に足をつけて、向かい合っている。
俺は魔法の複製に、魔法の使用した経験を必要とする。
これは別に魔法を会得してない状態でも、先輩に俺の魔力をわたし、先輩が魔法を使うことでも、【魔法を使った】とカウントされるのだ。
先輩に後を向いてもらい、俺は先輩の背中にてを乗せる。
「じゃあさっそく。【筋力強化】」
先輩が無属性中級魔法【筋力強化】を使用する。
ぐんっ、と俺から魔力が奪われ、先輩の体が淡く光る。
温泉の縁においておいた大きめの岩を、小柄な先輩がひょいっともちあげる。
「簡単に言えば身体強化の魔法だよ。どんな重い荷物でも軽々と持てるようになるよ」
先輩が平易な言葉で、使用効果を解説してくれる。
「しかしすごいな。ジロー。本当に魔力無制限になってるじゃないか」
俺の魔力量は一般人よりややおおい程度だ。
本職の魔法使いからしたら、無いに等しい魔力量だろう。
だがこの湯に浸かっている状態ならば、俺は大賢者さながらの魔力量で、大賢者が使うような様々な魔法を使える。
「じゃあとりあえずいくつか使おうか」
そう言って先輩は、以下の魔法を使った。
・【武器切断強化】
・【無限収納】
・【飛行】
・【高速化】
・【状態異常回復】
「とりあえずこんなところかな」
ふう、と先輩が吐息を着く。
「しかし身体強化以外、上級魔法だよ。ここ以外でどうやって使うんだい?」
魔法には消費魔力量が設定されている。
低級だとコストは1。けど上級となるとコストは100倍となる。
そう、温泉の中でなら、魔力が無限状態なので魔法を打ち放題。
が、一歩外に出ると俺の魔力量は並に戻る。
「温泉の外で作業をしながら魔法は使えないよ? どうするんだい」
先輩の疑問はもっともだ。
「その辺はいろいろと考えてます」
俺はそう言うと、両手をパンっ! と胸の前であわせる。
先輩はおお、と感嘆の声を上げる。
左手から生成される物体と、右手から出る魔法とが混ざり合い、魔法道具を作り出す。
魔力が混じり合い、そこには一振りの斧が出現する。
先輩は斧を手に取ると、
「ふむ。斧に無属性魔法【武器切断強化】が付与されてる。なるほど、エンチャンターのまねごとができるのか」
感心したようにつぶやくと、俺に斧を返す。
俺はいくつかの魔法道具を作る。
その間先輩が、俺を見て言う。
「これ私いらんこじゃないか」
「いや、俺にできなくて、先輩にしかできない付与術ってありますから」
「そうかい。じゃあそのときには私に声をかけてくれよ。私は子どもたちと遊んでくる」
そう言って、先輩は竜の湯を出ると、その場を後にする。
その後時間をかけ魔法道具を作り終えると、湯からあがって、孤児院へと向かうのだった。
さて、孤児院の修繕だ。
☆
まずは裏の森へとやってきた。
家の壁や屋根の素材を取るためだ。
「おにーちゃん、森で何してやがるですー?」
とことこ、と孤児院の中から、いぬっこキャニスがやってくる。
ピンと尖った耳。ふわふわのシッポは、前世にいたシベリアンハスキーを彷彿とさせる。
まあ髪の色は茶色なんだが。
「ちょっと孤児院の壁とか直そうと思ってな」
「おー! おー……? じゃあなんで孤児院のなかじゃなくて外にいるです?」
はてなと首をかしげるキャニス。
と、そのときだった。
「ここにいたのかい、キャニス」
そう言ってやってきたのは先輩だった。
コンを肩車し、ラビの隣にたっている。
「コン、ラビ。それに先輩も。どうしたんですか?」
「いやなに中でままごとやってたんだが、父親役のキャニスが気づいたらいなくてね。探しに来たんだよ」
どうやらすっかり、子どもたちは先輩と仲良くなったようだ。
そう言えば俺の時も、秒でキャニスとコンは仲良くなったよな、俺と。
「コン。おまえはどうして先輩に肩車されてるんだ?」
ふたりとも同じくらいの背丈なので、子どもが子どもを肩車しているみたいで違和感がある。
もっとも先輩は【筋肉強化】の魔法を使っているので、コンをラクラクと持ちあげていた。
「らべんだーの、ふれぐらんすなかおり」
すんすん、とコンが先輩のアメジストの髪に鼻を埋めて言う。
なるほど髪のにおいをかいでるから肩車しているのか。
「それでジローはこれから何をするんだ?」
「とりあえず木を切ろうかと」
俺が先輩に答えると、キャニスが首をかしげる。
「木を切るのに、どーして手ぶらでやがるんです?」
「手ぶらじゃないぞ。これこれ」
「はわわ、ちいさい袋なのです。これがどうかしたのですか、にーさん?」
ラビが首をかしげる。
俺は腰につけた小さな革袋に、手を突っ込んだ。
そして中から斧を取り出す。
「な、なんじゃそりゃーですっ!」
「ばかな、まじしゃんやん」
「あわわっ、あんな小さいふくろから、あんなおっきい斧がにゅっと出てきたのですー!」
わー! と大きな声で驚く子どもたち。
先輩は反対に、
「なるほど革袋と【無限収納】を合成させたのか」
と冷静に分析する。
「【無限収納】は何もない空間にものを保存しておく魔法。だがアイテムを出したり入れたりするたび魔法を唱える必要があって、消費魔力がそのたびかかる」
だから、と先輩は続ける。
「道具やアイテムに【無限収納】を付与することで、魔力量を抑える。これが本来のその魔法の使い方……ああ、ごめんみんな。難しかったね」
ぽっかーんとする幼少組たちに、先輩が苦笑して謝る。
「ようするにあの小さい袋にでっかい斧が入るようになったてことだよ。それで魔力をきにせず道具を出し入れできるようになったってことさ」
「なるほどっ!」「さっきとちがって、わかりやすい」「そ、そんなすごい袋を作るなんて……にーさんすごいのですー!」
きゃっきゃっと幼少組たちがめいめいに騒ぐ。
「で、おにーちゃんは斧でなにをしやがるんです?」
はて? とキャニスのシッポが?の字に曲がる。器用だな。
ちなみにそれを見たコンもシッポを?にした。兎のシッポは短いのでシュン……っとできなくて落ち込んでいたところを、残りふたりがポンポンと肩を叩いて慰めていた。
それはさておき。
「この木をこの斧で切るんだよ」
俺は袋から【軍手】も取り出す。
軍手を両手にはめて斧を持つ。
「「「いやいやむりむり」」」
そろって首を振るう幼少組。
「こんなくそでけー木たおせるわけねーです」
「こだいこうこく、ないようにいつわりあり」
「えっとえっと、にーさん、さすがにそれは難しいような……」
子供らは俺の言葉をまったく信じてないようだ。
俺は斧を持って近くの木まで歩く。
そこそこ以上に太い幹。
斧を手に持ち、横に構え、そのまま、
ーーすこん。
と、いっさい木にひっかかることなく、斧は左から右へと一刀両断。
「あんなふてーのがすぱってきれやがったですー!」
「ばっとーさいやんけ」
「わあ……! すごいですっ! って、木が倒れてくるですー!!」
わあわあ、と騒ぐ子どもたち。
俺は木が倒れる前にすばやく幹に触る。
俺の両手にはめられていた軍手が光ると、そこにはーー
「はわわっ、木がなんかかくばった木になったのですー!!」
「きっとまるた、つよいぶきのあれよ」
コンがうんうんとうなずいている。
「残念。あれは木材だ」
ほえー? と首をかしげる子どもたち。
「原木が木材、資材アイテムに? ああ、なるほど。軍手に【素材化】の魔法が付与されてるんだね」
木は切ることで【原木】というアイテムになる。
アイテムになったことで、【素材アイテム】にかえる魔法が使えるようになるのだ。
俺はあらかじめアイテムを素材に変える魔法、【素材化】を軍手と一緒に生成することで付与した。
これなら触るだけで、切り倒した木がすべて木材になる。
俺は木材に向かって腰の袋を、口を広げて向ける。すると、
「なんじゃりゃー!!!」
「しゅるんって、しゅるんって」
「すいこまれていったですー!!!」
無限収納の魔法が発動し、木材は袋の中へと収納されていったのだ。
「なるほどこうやって資材を集めるんだね」
「ああ。あぶないからみんな下がってな。先輩、子どもたちを」
「ん、りょーかい。みんな、ちょっと下がろうか。ジローが作業するからね」
子どもたちが離れるのを確認すると、俺は斧を持って先ほどの作業を再開するのだった。
☆
森で木材を集めまくった。
木はポ○キーのように折れやすくなっていたので、ばしばしと切っていく。
袋の口を開けておけば、軍手で木を触りアイテムになると同時に、袋の中に吸い込まれていく。
孤児院の近くに生えている木からどんどんと刈っていく。
残っている木の根っこは【筋力強化】した腕ですこんすこんと容易く抜ける。
こっちは木材に使えないので、1カ所にまとめてあとで【廃棄】の魔法を使いチリにする。
孤児院を中心に同心円状に木を切っていく。
根っこを抜いたあとの土は、袋から取り出したスコップで埋めていく。
木をきりすぎたせいで、その後始末も結構な量になっていた。が、まあ平気だった。
「あんなにあった穴がもう全部埋まっているですー!!!」
ちょっと離れたところで見ていたラビが、驚愕に目を見開く。
「おにーちゃん、そんなにうめうめして疲れねーです?」
「ん、まあな」
俺、というか、
「そうか。スコップに【状態異常回復】と【筋力増強】の魔法が重ねがけされてるんだね」
先輩がいちはやく見抜いてそう言う。
試してわかったのだが、複製合成には、魔法が重ねがけできるらしい。
つまり、物体1にたいして、魔法を2つかけることもできるのだ。
身体強化術を使うとコストがかかる。疲労回復の魔法も同様。
しかしこうして道具に直接付与すれば、その道具を触っている間魔法が発動し、力は強くなり、疲れなくなるのだ。
「なんか周りの森が、すげーきれーになってるですー」
「へいちさぎょー、まいくらでだいじ」
「これで孤児院のしきちがひろくなったのですっ」
鬱蒼とした森の中に孤児院が建っている。
その敷地面積は森のせいであまりに狭かった。
が、こうして木を切って整地すれば、敷地面積は増えるというわけだ。資材集めにもなって一石二鳥。
一連の整地作業を見ていた先輩が、感心したようにつぶやく。
「なるほどね、こういうふうに自分に魔法をかけるんじゃなくて、複製合成で擬似的な魔法道具を必要に応じて作っていくのか。これなら温泉で道具作成できるから、魔力を無視していいってわけだね」
とにかく俺は魔力量が並だ。
いくら使える魔法が増えても、魔力量が少ないので温泉外では魔法が打てない。
ならば温泉で魔法付与された道具を作り、それをもって作業すれば良い。
魔法道具は作るのに魔力を消費するが、使うのには魔力を消費しないのだ。
さて、じゃああとはサクッと修繕していこう。
☆
その日の夕方。
「ほえー……別人みたいでやがるですー……」
「まるでべつじん、せーけーしたの?」
「すごいです! ちがうおうちみたいなのですー!!」
孤児院の前に立つ幼少組が、感嘆の吐息を漏らす。
「屋根に穴がねーですっ!」
「かべのとんねる、へーさのおしらせ」
「はわわ、壁がきれーに色が塗られてるのですっ!」
修繕された箇所を、幼少組が指さし、目をきらきらさせて言う。
「全部にーさんがやったのですか?」
「犯人はおにーちゃんに決まってらぁです!」
「しんじつはいつも、じっちゃんのなにかけて」
まあ俺以外に作業していたひといなかったしな。
天井は【飛行】が付与された靴を作って空を飛んで屋根に乗り、袋から取り出した木材で穴を塞いだ。
壁の穴も木材を当ててふさぐ。
ペンキは車で近くの街まで買いに行って、飛行を駆使して壁にペンキを塗った。
ちなみになぜ飛行で街まで行かなかったのかというと、この魔法は飛行速度がかなり遅いのだ。
なら自動車を飛ばせばすぐに街へ行って戻ってこれる。
「それに庭もなんかきれーでやがるすっ!!」
「すごいきれいに刈り取られてるのですっ!」
「くさかり、まさお」
雑草まみれの荒れ放題だった庭は、【武器切断強化】がかかった鎌でならした。
ちなみに鎌は街で買ってきた。前世で使ったことなかったからな。
「めちゃんこはやかったなー、コン」
「ざんぞーみえた、ざんぞーほうしだ」
「すっごくすっごく早かったです-!!」
草刈りはかがんで草を刈って……と動作が遅くなりがち。
だから【高速化】を靴にも付与しておいたのだ。【飛行】と一緒にな。
さらに俺の来ている服には【状態異常回復】が付与されている。
いくら動いても疲労を感じない。汗もかかない。
最初は道具ごとに【状態異常回復】をかけていたのだが、途中で服にかければいいじゃんと思ってかけなおしたのだ。
「みなのしゅー、てーへんだてーへんだ」
いつの間にか孤児院の外からいなくなっていたコンが、ドアを開けてキャニスたちを呼ぶ。
「うちのなかのゆかまで、あながない」
俺は子どもたちと先輩と一緒に孤児院の中へと入る。
穴がそこらにあいていたので、木材でふさいだ。雨漏りも同様。
これらすべての作業を、数時間で終われたのは、【高速化】のおかげだろう。
単に足が速くなるんじゃなくて、動作自体も早くなるのだ。
「ジロー。なんかビデオを早回しで見てる感じがあってちょっと気持ち悪かったよ」
「的確な表現ありがとう、先輩」
とまあ、軽く修繕を行った。
内装(ふかふかベッドとか明かりとかクーラーとか)は、また今度にしよう。
日が暮れてきたしな。
ややあってコレットたちがドアを開けて帰ってくる。
コレットは「もうびっくりしちゃったわ」と俺を見るなりそう言う。
「庭はキレイになってるし、敷地は広くなってるし、穴だらけの建物はふさがってるしで……もうほんと別の場所に来ちゃったかと思ったわ」
すると年少組がコレットに抱きついて言う。
「おねーちゃん、これぜぇんぶおにいちゃんがやっりやがったんですっ! すげーだろー!」
「にぃのぱねぇさかげん、まじぱねぇ」
「すごかったのです! ばばばば、びゅーんってものすごいスピードで孤児院がきれーになってたのですー!」
わあわあわあ、と年少組が口々に俺を褒める。ちょっと照れくさい。
「ジロくんありがとう♡ だいすき♡」
コレットは俺に近づくと、感極まったのか抱きついてきて、チュッ♡ と俺に軽くキスをしてきた。
いつもどおりの軽いスキンシップ。だが「………………っっっ!?!?!?」となんだかアムが目をものすごく見開いて、アゴをすこーんってさせていた。
とまあ、こうしていちおう、最低限の修繕は終わらせた。
あと内装をいじったり、さらに外装を強化、耐震強度を上げたりなど、していく感じになると思う。
「さっ、みんな! 晩ご飯にしましょう! 今日はジロくんからならったカレーライスよー!」
「「「わー!!」」」
喜ぶ子どもたちは、コレットにくっついてリビングへと向かう。
「………………」
アムだけが、その場に残って地面を向いていた。
「アム? どうした?」
「…………………………」
アムは何も言わず、ふらふらとした足取りで歩く。
「おい、リビングそっちじゃないぞ」
「………………。寝る。食欲ない」
そう言ってアムは、自分の部屋へと戻っていった。
「なんだ、どうしたんだ……?」
気になった俺はアムのあとに続こうとした、が。
「にーちゃん早くするですー!」
「にぃがいないと、めしにありつけない」
「にーさんはやく! いただきますできないのですー!!」
と呼び止められる。
アムの異変が気になった。
俺は急いでアムの部屋に行った。
部屋の中から「別になんともない。疲れてるだけだからほっといて」と言われた。
俺は疑問はあったけど、その場を後にして飯を食いに、リビングへと向かうのだった。
お疲れ様です!すみません、また車の燃料問題あとまわしになってしまいました!尺の都合で次回になります。
次回は最後の方に出てきた伏線を回収する感じになります。コレットとの関係に気づいたアムちゃん。
ショックで家を飛び出してしまい、主人公は車で探しにいく。長い時間かけてアムちゃんを見つけるが燃料がきれて……で、そのときに燃料についても触れるかと思います。
そんな感じで次回もよろしくお願いします!
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以上です!
ではまた!!




