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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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12.善人、伝説の大賢者の元へ行き、彼女を家に置くことになる

遅くなってすみません。あと自動車再現(燃料問題)は、次回になります。




 前回、電化製品を作った。


 冷蔵庫のほかに電子レンジ、洗濯機、掃除機という、生活が便利になる電化製品を、次々と複製した。


 これで家の中の生活力はだいぶ向上するだろう。


 なら次は、家の外に着手するべきだ。


 電子レンジの件があった翌朝。


 コレットたちと食事を取った後、俺は裏庭へとやってきた。


 孤児院は古い教会をつかっている。


 2階建てではあるが、だいぶぼろぼろだ。壁にも屋根にも穴が散見できる。


 孤児院の建物自体も荒れているが、その周囲もだいぶひどいことになっていた。


「荒れ放題だなー」


 この間バーベキューをしたスペース以外は、雑草まみれだった。


 コレットとアムが定期的に抜いてるみたいだが、女の子ふたりじゃ、この量の雑草は手に負えないだろう。


 抜いても抜いても、新しい雑草が生えてくるんだ。


 さらに彼女たちは他にやらないといけない仕事が山のようにある。


 こうして荒れ果てた庭が完成したわけだ。


 腰の高さまである雑草。よくわからない謎の枝。わき出る虫。


 さらに加えて、孤児院から数歩離れれば、鬱蒼とした森が広がっている。


 子どもたちが外で遊びたくても、庭は荒れているし、森は危ないしで、外で遊べないのだと以前キャニスたちが不満を漏らしていた。


「とりあえず建物の改修と、庭の整地だな」


 家の中の充実はあとだ。穴のあいた天井をまずなんとかしないと。


「さて……」


 俺は庭から森へ向かって歩き出そうとした、そのときだった。


「社長、お出かけですか?」


 振り替えるとそこに、前髪で顔を隠したスーツの女性、鎌鼬かまいたちのテンがいた。


「いや、出かけるんじゃなくて、ちょっとそこの森で資材関係のことを考えようと思ってさ」


「私もおともします。社長のボディガードですから」


 髪で顔が隠れてるので、テンの表情はうかがえない。


 声色も平坦なので、何を考えてるのかいまいちだ。


 せっかくスタイルが良いのだから、顔も出せばいいのに。さぞモテることだろう。


「あうあうあう…………」


 テンの顔が真っ赤になる。


 そう言えばこのひと、相手の心が読めるんだったな。


「しゃ、社長……おたわむれはおやめください」


 わたわた、とテンが手を振る。


「すまん、別にからかうつもりはなかったんだが」


 本心を述べただけなんだがな。「はぅうう…………」あ、ごめん。


「そ、それで社長は森へ行って何をするのですか? 資材……とは、まさか木をご自分で切ってそれを孤児院の修繕につかうと?」


「まあそのつもりだ」まあ今は無理だろうが。


 テンとともに裏庭と森との境目へと向かう。


 見上げるほどの大きさの木が、いくつも佇立している。なかなか立派な原木だ。


「おそれながら、木こりでもない社長では、このような大きな木を切り倒すことは不可能かと存じます」


 テンが目の前の木を見てそう言う。


 ぶっとい木だ。一般的な木よりも、ふたまわりくらい大きい。


 斧で切り倒すことは、難しいだろう。


「そうなんだよなぁ」


 木を切り倒して【原木】にすれば、【素材化マテリアライズ】の魔法を使って資材アイテムに変えることができる。


「けどその前に切り倒さないといけないんだよな」


 俺は適当に銅の剣を出現させ、力を込めて木に向かって剣を振るう。


 がっ……!


 と木の幹に剣が浅く刺さっただけ。


 当然両断はできない。


「ジロさまは【筋力強化ビルドアップ】や【武器切断強化シャープエッジ】などの無属性・強化魔法は複製できないのですか?」


 テンはある程度俺の事情を知っている。。複製スキルのこともだ。


 クゥを経由し、社長秘書のこの子にも伝わっているのである。


「残念だが習得してないんだ」


「そうなのですか? 聞いたところに寄りますと、社長は【大賢者】様とお知り合いであったと聞き及んでいますが」


「大賢者……? ピクシーのことか?」


 彼女とは古い知り合いだ。


「そう、そうです、その大賢者ピクシー様っ!! 古代いたとされる魔王、それを倒した勇者! その勇者パーティにて、付与術とあらゆる魔法でパーティを支えた! あのピクシー様ですっ!!」


 いやに興奮気味にテンが言う。


「はっ! ……こほん、失礼いたしました」


 と思ったらすぐに普段のトーンに戻った。


「すみません、お見苦しい姿をお見せして」


「いや、別に気にしてない。むしろテンにもそういう一面があったんだって新鮮だったよ」


 人には誰しもスイッチがあるからな。


「それで……そんなピクシー様と社長がお知り合いと風の噂で聞き及んでいますが、それは事実なのでしょうか?」


 たぶん風の噂=クゥだろう。


「まあ、うん、ちょっとあの人と俺って特別な関係でさ。それでまあ他の人よりはピクシーとは仲が良いんだよ」


 冒険者になってからもちょいちょい手紙でやりとりしている。


「と、特別な関係……!!」


 わたわたとテンが慌てる。


「ま、まさか大人の関係……?」


「違う違う。阿澄せんぱ……いや、ピクシーはなんだろう、おなじ学校の先輩だったんだよ」


 事実でありウソじゃ無い。


 が、まあ真実でも無い。


 阿澄先輩は別に言っても良いとはいっていたけど、それはそれで混乱を招くからな。


 俺と先輩だけのひみつにしておこう。


「で、なんだっけ? なんかおまえがピクシーの話しをいきなりだしてきたんだっけ?」


「そうです。大賢者さまとお知り合いなら、無属性魔法や、属性魔法を複製し放題だったのではないでしょうか?」


 確かに俺の無属性魔法や魔法は、あのとき先輩にコピーさせてもらったものだ。


 が……。


「いくつかはコピらせてもらったんだが、全部は無理だった」


「それはどうしてですか?」


「俺が使えるのが、魔力消費の少ない、低級の魔法だけだったからだよ」


 魔法にはランクがある。


 低級、中級、上級、超級、超上級、超常級。の6段階だ。


 ランクが上の魔法は、それだけ効果が大きい。


 そして消費コストも大きくなる。


 たとえば無属性魔法【スリップ


 これは低級の魔法に属する。


 低級魔法の消費魔力コストは1だ。


 俺の総魔力量は5であり、スリップを含めた低級魔法は5回打てる。


 これが中級魔法になると、消費魔力はなんと10。


 上級は100。超級は1000……とコストはクラスが上がるにつれて10倍になる。


「俺の総魔力量だと中級以上の魔法はそもそも使えないんだよ」


「なるほど……確か社長は魔法を複製するためには、その魔法を1度使った経験が必要ですからね」


 この使ったというのは、何も習得してなくていい。


 スクロール(1回しか使えないが、自分が習得してない魔法でも使える)や、


 杖(スクロールの上位版。複数回使える。が、使いすぎると壊れる)。


 さらに魔法を習得している人に魔力をわたし、代わりに魔法を使ってもらうだけでも、使用したとカウントされる。


 などの方法を用いて、魔法を使っても、俺はその魔法を複製、つまり習得が可能。


 しかしスクロールにしろ杖にしろ、使用するのに魔力を消費する。


 俺の魔力量では、どんな手段を使っても中級以上の魔法を会得できないのだ。


「たしか魔法の仕組みを丁寧に教えてもらっても複製できるのではなかったですか?」


 テンが首をかしげる。


「そうなんだが、中級以上の魔法になると、知っておく情報量が多くなりすぎてな。それを暗記しないと魔法はコピーできないんだよ」


 低級の、無属性魔法なら魔法の教本もあるし、先輩も教えるのがうまかったしで、習得はさほど難しくなかった。


 ただやはり消費魔力量の大きくなる中級以上の魔法となると、


「なるほど、社長のスキルがいくらすごいからといって、本人の魔力量は並」


「そういうことだ。複製に必要な経験が足りなくて、会得できないってわけだ」


【筋力強化】や【武器切断強化】といった中級無属性魔法は、習得したくても魔力量が足りなくてできなかったというわけだ。


「しかし社長。それなら」


「そう、そうなんだよ。今なら」


 今なら、俺は魔力量を無視して魔法を使える。


 今ならば、あのとき習得できなかった【筋力強化】などの便利な無属性魔法が、使えるようになるのだ。


「この荒れ果てた孤児院を建て直すためには、木を切って資材にしたり、さらに屋根の上に資材を運んだり、裏庭の草刈りをしたりするためにも、【筋力強化】や【武器切断強化】が必要」


 だから、と俺がテンに続ける。


「ちょっと俺、大賢者のところへいって、魔法を習得してくる」



    ☆



 大賢者ピクシー。


 彼女と俺はとある共通点がある。


 その共通点のおかげで、彼女とは話が合い、友人関係へと発展していったのだ。


 そんな阿澄先輩……じゃなかった、ピクシーがいる場所は、ここから割合近い。


 俺たちのいる【ズーミア】から、先輩のいる【白馬村】までは、直線距離で50km。


 時速20kmの馬車なら2時間半くらいでつく距離だ。


 ただ問題がある。



 途中で槍ヶ岳という、険しい山道を通る必要があるのだ。


 馬でそこを通るのは難しい。


 ルートはズーミアから北へ直進するだけだが、その急な山道を経由する関係で、白馬村へ行くなら槍ヶ岳を迂回する道を通る必要がある。


 もっとも、それは馬車での話しだが。


「わっ! わっ! 社長っ!! すごいですっ! 早いですっ! めちゃくちゃはやいですー!!」


 助手席に座るテンが、窓から首をいや、体を出して、興奮気味にそう言う。


「危ないから窓から顔出すな。それと、ちゃんとシートベルトをしろ」


「わかってますっ! ですが早いっ! なんですかこの馬車!! めちゃくちゃ早すぎます!!」


 びゅんびゅんと変わる景色に、テンの目がキラキラと輝いている。


 窓から吹きすさぶ風で、彼女の隠れていた前髪がはだけてるのだ。


「すごいですっ! この【ジドーシャ】とかいう鉄の馬車、とても早いです!!」


 すっげー! と大興奮のテン。


 クールな人かと思ったけど、結構子どもっぽいところあるんだな。


「自動車な。自動車という名前の馬じゃ無くって」


 そう……俺が今乗っている、いや、運転しているのは、前世で乗っていた4輪自動車だ。


 俺は生前(前世か)、自動車に乗るのが好きだった。


 電車よりもだ。


 だって自分の意思で好きな場所へ、たとえ遠くだっていけるんだぞ? 


 車の運転はちょっと……というひとは少なくない。


 が、俺は運転が好きだった。


 なのでローンを組んでマイカーをもっていたのだ。


 まあ、恋人も家族もいないひとり暮らしは、金が貯まるんですよ。


 俺は大賢者のもとへ行く手段として、馬車ではなくこのマイカーをつかうことにした。


 竜の湯で車を複製。


 懸念されていたとある問題はあったけど、なんと【満タン】の状態のまま複製できたのだ。


 なので俺は懸念されていたあの問題を気にすること無く、こうして車を飛ばしている次第である。


「すごいすごいです! 社長っ!! こんな馬に初めて乗りましたっ!!」


「馬じゃないんだけどな」


 子どものようにはしゃぐテンを助手席に乗せ、俺はズーミアを出て北上、白馬村へと向かう。


 高瀬川を横目に北上し、槍ヶ岳を越えて、オーマティー、イーナオなどの街を経由し、

俺たちは目的地である、白馬村へとやってきたのだった。


「こ、ここが白馬村……なんという、絵に描いたような寒村ですね」


 車から降りたテンが、あたりを見回し率直な意見を言う。


 あばら屋が建ち並んでいる。


 が、人の気配がまったくしない。


 ときおり年寄りが散歩している。


 出店などはなく、商売をやっている店もはたしてあるのかどうか……?


「大賢者様はどちらにいらっしゃるのですか?」


「この村を抜けると、白馬山っていう、白馬ユニコーンの住む神聖な山があるんだよ。そこの山の入り口に住んでいるんだ」


 なぜこんなへんぴな村の、へんぴな場所に住んでるかと尋ねたことがあるんだが、


【なんとなくだ】


 と先輩は笑ってそう答えた。


「変わった方なんですね」


 テンを助手席に乗せ、村を車で通り過ぎ、山の入り口まで向かう途中。


 俺が先輩のことを話してやると、テンが感想を述べた。


「昔から変わった人だったんだよ。頭は良かったんだけど、ちょっとひととは感性が違う。天才っていうんだろうな、ああいうの」


「ほうっ! ほうっ! 昔からとっ!!」


 きらんきらんとテンが目を輝かせながら、俺に言う。


「そんな昔から、大賢者さまと社長はお知り合いなんですねっ!!」


 なんで昔からの知り合いであると、そんな尊敬のまなざしを向けるんだろうか。


 わからん。


「まあ、昔からっていうか、前世からっていうか……あ、着いたぞ」


 しばらく車を走らせていると、目的地である、大賢者ピクシーの住む小屋が見えてきた。


「あれが大賢者様のお家ッ!!うわーどんなお屋敷に……………………」


 車を先輩の家の前で止めると、テンの顔が硬直する。


「おりるぞ」


「えっ……? ここ……なんです?」


 俺はうなずいて運転席を降りる。テンも助手席から降りて、


「これが……これが?」


 と目の前のボロボロの小屋を見て、目を点にしていた。


 朽ち果てた小屋、と表現するしかない小さな小屋だ。


「そうだ。ええっと……先輩っ! 阿澄加奈子先輩! 俺ですっ! 上田治朗ですっ!!」


 大きな声を張り上げる。


「あすみ……かなこ? うえだ……じろう?」


 となりでテンが、なんのことだと首を捻る。


 そう、これはジロとピクシー、じゃなくて上田治朗と阿澄加奈子の間にしか通じないセリフ。


 果たして……。


「やっ、ジロー。久しぶりだね。元気だったかい?」


 ボロ小屋だと思っていたその小屋、いや、景色が、ぐんにゃりと歪む。


 空間が歪み、さきほどまであったボロ小屋が消え、あとには立派な、日本式のお屋敷が出現する。


 座敷童でも住んでそうな武家屋敷の前に、俺とテンがいて、


 そして門のところにーーーー小さな女の子がたっていた。


 身長はかなり低い。130センチくらいだろう。いや、下手したら120後半かもしれない。


 ふわふわとした髪質の長髪を、三つ編みにして肩から提げている。


 赤いメガネと、白い白衣。そして髪はアメジスト、というこの世界では変わったかっこうをしている。


 だが俺は、その格好に見覚えがある。


 もっともこの世界では、ではない。


 大学時代、つまり前世では、彼女はいつもその格好だった。


「なんだ車じゃないか。ついに魔力問題をどうにかしたんだね」


 その人間……しにしては小さすぎるその人は、俺の乗ってきた鉄の車を見て、驚きもしなかった。


 むしろ懐かしさすら覚えてるようだった。


「あれ、この車って大学時代から乗っていたやつかい?」


「違いますよ。これはその次。社会人になってから買ったやつです」


「なんだ。あの空色の小さな車、アタシはすきだったんだけどね。残念」


 俺と先輩との間で繰り広げられる会話に、テンがまったくついて行っていない。


「しゃ、社長。あのう、この方がやっぱり……」


 テンが俺に尋ねてくる。


「社長? おいおいジロ-。いつからキミはそんな偉くなったんだい? 社畜冒険者だったくせに」


「社畜は死ぬ前ですよ、大賢者科学者」


「いいね、大賢者で科学者。今までにない単語……っと、失礼した、鎌鼬のお嬢さん」


 テンより遙かに年下である見た目のその子は、テンを見上げて、ぺこりと頭を下げる。


「ピクシーだ。まあ、ちまたでは大賢者なんて呼ばれている、ま、ただの年増だよ」


 にこやかに阿澄先輩ことピクシーが、テンにあいさつをしたのだった。



    ☆



 ようするに大賢者ピクシーは、俺と一緒で転生者なのだ。


 それも死ぬ前、阿澄加奈子ピクシーは同じ大学の、同じ研究室の先輩だった。


 先輩も死んでこの世界に転生してきた。


 それも、俺が転生してくる、ずっと前の時代にである。


 俺がこの世界でジロとして転生し、冒険者となって間もない頃、俺はピクシーとなった阿澄先輩と再会を果たした。


 最初俺は、目の前のこの小さな女の子が誰かとわからなかった。


 が、向こうは俺が一発でわかった。


 なぜか?


 生前と今とで、俺の姿が一緒だからだ。


「それでジロー。車に乗ってここへきたということは、私に魔法でも複製コピーさせてもらいにきたのかな?」


 屋敷に入り、客間に通される俺たち。


 上座に座る先輩が、直球で俺の要求を言い当ててきた。


「さすが先輩。話が早い」


「まあダテに長くは生きてないよ」


「あ、あのぅ……」


 俺の隣に座るテンが、おそるおそるといった感じで手を上げる。


「どうしたんだい、テンくん? 何か質問でもあるなら、遠慮なく言ってくれ」


 先輩がにこやかにそう言う。


「えっと……大賢者さま……なんですよね。あの魔王退治についていった、伝説の?」


「ふむ、なつかしいね。数百年前だったな。うん、よく覚えてるよ」


 にこっと笑って先輩が首肯する。


「それにしては大賢者様は……お年が、そのお若く見えるのですが……」


 テンの疑問はもっともだ。


 先輩はどう見ても、人間の子どもにしか見えない。まあちょっと耳が尖ってるけど。


「それは……おいジロー。ヒマなら答えてあげてはどうだい? 私ばかりしゃべるのはフェアじゃないよ」


「なんすかフェアじゃないって……まあいいや」


 俺は先輩を指さして言う。


「あのひとは人間じゃないんだ。妖小人ハーフリングっていう亜人なんだよ」


 グラスランナーともハーフフットとも、そして現世ではホビ○トとも呼ばれていた種族だ。


 背は山小人ドワーフのように小さいが、手先の器用なドワーフと異なり、


 ハーフリングはその秀でた頭脳と魔法適性、そしてなにより、【付与術士】のスキルを持つただひとつの種族なのだ。


 そしてハーフリングの特徴に、長命、そして全員が幼い容姿をしていることがあげられる。


「つまりこの人、幼女に見えて中身は数百歳の化け物なんだよ」


「はっはっは。おいジロー。化け物とは失礼じゃあないか。仮にも大学時代の先輩だぞ? もっとうやまいたまえよ」


 そうは言っても、本人は敬われることを嫌うのだ。


 このひとは、他人から距離を置かれるのが嫌いなタイプなのである。


「すんません」


「ま、いいよ。それでジロー。何の魔法を習いたいんだ? 中級以上も習得可能になったのだろう?」


 そうですね……と答える前に、テンが口を挟む。


「あのぅ……どうして大賢者様は、社長の用件をご存じなのです? 社長が中級以上の魔法を習いに来たというのは、社長は言ってないですよね?」


 確かにそうだ。


 が、この人は多分。


「なるほどテン、キミの疑問はもっともだ。だから解説しよう」


 先輩が教師のように指を立てると言う。


「ジローが車で来ていた時点で、車を複製できるだけの魔力を手に入れたことはすぐに推察できた。私はキミが過去魔力量で悩んでいることをすでに知っているからね。それが解消された上で、魔法の知識に優れた私の元に来る理由は、魔力が足りなくて使えなかった中級以上の魔法を教わりに来たのだろう。ジローの知り合いに高位の魔法使いはいないからね」


 立て板に水とはこのことだろう。


 先輩はいっさいどもることなく、よどみなくそう答えた。


「はぁー…………なるほど。さすが大賢者様……」


 感心したようにテンが先輩と、そしてあとなぜか俺を見て、感嘆の吐息を漏らした。


 先輩にならわかるけど、なにゆえ俺にも?


「そんな大賢者様とお知り合いの社長……すごいです……♡」


「おやこの子は心でも読めるのかい?」


「ええ。そういう術の使える忍者なんだそうです」


 なるほどなー、と先輩が得心いったようになずく。


「私でもしらないことがあるみたいだ。世界は広いねまったく。さて、じゃあ行こうか」


 先輩はすくっと立ちあがる。


「そうですね」


 俺も立ち上がり、テンに言う。


「じゃ、帰るぞ、テン」


「えっ、へっ? えっ?」


 テンが俺たちの行動を理解できないみたいに、首をかしげまくる。


「ああ、うん。ごめんテン。説明するとな、ここでは俺、魔力量が無限にならないだろ?」


 俺が魔力無限でいられるのは、あくまで竜の湯に浸かっている間だけだ。先輩は解説する。


「魔法を習得……複製するためには、魔法を実際に使う必要がある。私にジローの魔力を分け与え、そして私が魔法を使うことでジローは魔法を習得できる。裏を返せば、ジローが中級以上の魔法を使用するのに必要な魔力量を捻出するためには、私ごとキミたちの家に行く必要がある。だから私は立ちあがって出て行こうとした、というわけさ」


 俺たちは廊下を歩き、門のところまで到着する。


 先輩はパンッ! と両手を叩くと、武家屋敷はさっきのボロ小屋に戻った。


「認識阻害の結界だよ。私と私が許可した以外の人間にはボロ小屋に見えるようになっているし、そもそもあの家には入れないようになっているんだ」


 先輩が俺に解説しながら、後ろに着いてくる。


 俺の車の後部座席に先輩が座る。


「テン、帰るぞ」


「は、はい……」


 テンがワンテンポ遅れて、助手席に座る。

「あの……大賢者様? どうして社長の家に?」


「ん? ああ、ジローが自動車を複製できたのに、彼の帯びてる魔力量は昔と変わらずだったからさ。だから魔力が増えるアイテムなり何なりがあるんだと思った。でもアイテムだとしたら、そんな貴重なものは自宅に厳重に保管しているだろう。よってジローの家へ私もともに向かう、というわけさ」


 やはりよどみなく長いセリフを述べる先輩。


「さすが先輩。ご明察で」


「なに、長生きしてれば誰だってこれくらいわかるようになるさ。さて、出発してくれ。キミの運転は承知してるからとやかくいわないけど、まあ安全運転でよろしく」


「了解」


 こうして俺は、大賢者を連れて、孤児院へと帰ったのだった。



    ☆



「決めたよジロー。私もここに住む」


 先輩の家を出て数時間後。


 孤児院の裏にある、竜の湯にて。


 俺は先輩を連れて竜の湯へ行き、簡単に俺の知ることと、その効能を説明した。


 魔力量が無限になり、それと組み合わせれば、俺はあらゆるものを作れるようになるということを説明。


 すると先輩はうなずいて、先ほどのセリフを言ったのだった。


「ええええええ!? だ、大賢者様が、社長の家にっ!?」


 隣にたつテンが、実に良いリアクションを取る。


「どどどど、どうしてですか?」


「ん、そりゃこの湯の秘密を知りたいからに決まってるじゃないか」


 先輩は湯の縁にすわり、湯の中に手をつける。


「不思議だ。この湯は実に不思議だ。ケガ病気はなぜ完全回復する?」


「いやそれは竜の体液が含まれてるからですよ」


 ちゃぷ……っと先輩が湯から手を抜いて、俺を見る。


「では竜の体液がなぜ完全回復をもたらすんだと考えたことはないのかい?」


「それは……」


 言われてみれば、考えたことなかった。あまりにも便利すぎて。


「私は知りたい。竜の湯もそうだし、竜の体液というものに興味がある。聞けば竜がこの湯に湯浴みに来るそうじゃないか。それも実に興味深い」


 きらきらとアメジストの目を輝かせながら、先輩が俺に笑顔を向ける。


 そうだった。この人、研究室時代から、学者バカ、研究バカだった。


「竜はそんな頻繁に来るわけじゃないのだろう?」


「そうっすね。俺ここに来てそこそこたちますけど、1回も見たこと無いです」


「なら、それこそ住み込みで見張らないと竜に会えないじゃないか。そういうわけだ、ジロー。私もここに住むぞ」


 もう決定事項のように先輩が言う。



「代金としてきみにあらゆる無属性魔法・属性魔法を教えよう。さらに私は付与術士エンチャンターだ。なにか付与したいものがあるなら私が無料でしてあげる。これでどうだ?」


 願ってもない申し出だった。


 これがあれば、車のあの問題が解決される。


 車の、燃料切れの問題がだ。


 ただ問題は……。


「じーろくんっ♡ どちらさまー♡」


 すっごい笑顔のコレットを、どうやって説得するかだった。


 ……結局、懇切丁寧に、俺と先輩とはただの友人であることを説明したら、コレットは許してくれたのだった。


 こうして、伝説の大賢者が、うちに居候することになったのだった。



おつかれさまです!!遅くなり申し訳ございませんでした!!


残業があって書くのが遅れてしまいました。ほんとすみません!


あと車作りというか、車の燃料をどうするのかは次回やります。新キャラのエンチャンターに助力を借りて、なんとか燃料をどうにかします。


あと獣人ちゃんたちが出番なかったんで、次回はがっつりだそうと思います。孤児院を修繕しつつ、きれいになってく孤児院に子供達が驚くみたいな。そんなテイストにしようかなと。


そんな感じで次回もよろしくお願いします!次回の投稿はもうちょい早くできそうです!


あとよろしければ下の評価ボタンを押してくださると嬉しいです!励みになります!


ではまた!!!

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― 新着の感想 ―
普通よりやや多い魔力量の主人公が一度も発生させられないものを、中級とは言わんやろ( ̄▽ ̄;)
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