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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

分かれ道

作者: 芦屋奏多


 この世界にはもしもがたくさん溢れている。

 もしも昨日、髪を切らなかったら世界の何かが変わっていたかもしれない。

 君の手のひらに私の手を重ねられたかもしれない。そんな風に幾つものもしもが重なり合っている。

 もしも道端に咲いている花が色褪せていたら、桜並木を歩く小学生はもっと笑っていたかもしれない。

 だってとか、それよりとか、そんな言葉は風に乗って飛んで言っちゃえばいいのに。

 私はいつも弱虫だった。周りに嫌われているかもしれないって思っては、泣いてばかりいた。

 今日だってみんなの中に溶け込むので精一杯だった。みんなって言うものがそびえ立っているから、私はその陰で息をひそめて隠れていられる。でも、そんな自分を変えたくて決意した事もある。

 昨日告白したのも、その返事が望んでいたものとはほど遠いものだったことも、世界っていう生き物に食べられたみたいにありきたりな事なんだろう。

 彼は私にこう言った。

「ごめん。そういう目では見られない。本当にごめん。でもさ、勝手な言い方だってわかってるんだけど、これからも友達でいてくれないかな。って無理かな。……はは」

 彼はそう言って顔をくしゃりと歪めて笑った。気まずくならないように、適度に困った振りをして、笑った。

 私もそれに応えるように笑った。平気だよ。大丈夫だよ。だって、私は友達だから。どんなに『もしも』を積み上げても、友達だっていう事は変わらないし、その結末は避けようがない。

 もしも、彼の利き腕が右手だったら、何か変わっていたかもしれない。

 もしも、彼の隣にいるのが私の親友じゃなかったら、何か変わっていたかもしれない。

『もしも』は幾つも重なって、世界を形作っていく。

 もうすぐ閉じる世界なんか気にしていたって仕様がない。

 私は右手にカッターを構えた。そのカッターを左腕にあてがう。少しだけ血液が滴っていく。その流れ落ちる滴を見て、口の端が持ちあがる。

 今度はもう少し深く……。

「きゃっ……、な、何……して、るの?」

 夕暮れの近付く教室の中、親友は私のカッターの先を見て息を飲み込んだ。

 私の左腕にぐったりと横たわる彼は、左腕から赤を流している。

「あなたが、私から奪ったんでしょ? だから、私が刻んであげるの」

 親友の彼は、今まさに私の手の中にいる。決して消えない彼の左腕の証を残していく。

「だ、だから、ごめ、んって。わ、わ、私たち、親友で、でしょ?」

 私は彼を腕から解放し、ふわりと立ちあがった。親友は足をがくがくと震わせ、その場にへたりこんだ。私は右手に持ったカッターを強く握りしめた。

「や、やめて……。ごめ、ごめん。許して……」

 もしも昨日、髪を切らなかったら、こんな世界は来なかったのかな。


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