とある寂れた教会の2人
シスター視点
とある色鮮やかな世界の片隅。
庭園に赤い薔薇が咲き乱れ、正面のアーチに絡む鮮やかな薔薇の棘の蔦。晴れの日にも関わらず、大きなステンドグラスは濁り、陰がかかって本来の輝きをなくしている。この教会は、高貴な純潔さより、どこか退廃したような妖艶さを感じさせた。
そこには若いシスターが1人。そして、
「おはようございます、魔王様」
魔王、1人。
***
この教会には魔王様がいる。
正しくいえば、『元』魔王様らしいけれど。
いつも魔王様と呼ぶと、腰から全身に響き渡って蕩けるような美声で、しとりと訂正される。
『元』をつけると長いので、略させていただいて、あだ名が「魔王様」ということに致しましょう、と告げると、しらりと無い眉をあげて無言で目線を逸らされるのは、私たちの中でよくあることである。
「魔王様、おはようございます」
今日もよく冴えた寒い朝が来た。
ノックして入った暗い魔王様の部屋のカーテンを開けながら、黒い天蓋付きベッドに影を纏い寝そべる魔王様に声をかける。
「今日の朝食はゴンゴラエゾットのソテーとティエのサラダです。魔王様、ティエお好きでいらっしゃいますか?」
そっと近づくと、一度起き上がったのだろうか、黒のシルクに身を落とした魔王様がボンヤリとこちらを見上げている。
思わず笑みが溢れて、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。ベッドに両腕をぺたりと広げるようにつき、目を合わせて笑う。
「魔王様、おはようございます」
返事をするように、ひたりとゆっくり瞬きをなされた。
あぁそれだけで、なんでもない今日を生きる原動力になる、なんて。またそれに答えるように微笑んでから、続いて寝起きの魔王様の負担にならないように小さめの声で問いかける。
「朝食、お召し上がりになりますか?」
「……あぁ、」
寝起きの低音ボイス。いつもの倍に色香を纏う。
はうっと言いたいのをこらえて、身悶えしながらも、立ち上がった魔王様が着替えられるために部屋を出る。
魔王様は魔法で着替えられるから、そんな気遣いは必要ないのだけれど、念のため。そして私の精神安定のため。目の前でマントを解かれたときに、茹で上がって倒れかけたのは懐かしい記憶だ。
魔王様がゆっくり朝食を召し上がる間、私は魔王様の目の前に座ってその姿をさりげなく観察する。今日も今日とて麗しい。
魔王様に食べ物の好き嫌いはあまりないらしい、というのは私が魔王様と暮らし始めてからある程度たった時に立てた仮説である。そしてそれはなかなか覆されない。
もう1つ仮説を立てるとするなら、魔王様は『食』に対して興味を持っていないのではないかと思う。そうと決まればここで仮説検証タイムだ。
「魔王様」
目が合う。きゅん。
「美味しいですか?」
魔王様の麗しい視線がしとりソテーとサラダに落ちる。
しばし沈黙。
うーん。
「ソテーの焼き加減どうですか?」
「…丁度良い」
「サラダはどうですか?」
「…鮮度が良い」
なるほど。どちらも悪くはないのね、と、ほろり笑顔になる。
その笑顔を見て魔王様もそっと手を動かして食事を再開した。ああ、魔王様の食事を邪魔してしまっていた。
ごめんなさい、と心の中で謝ってから、庭から取れた薔薇で作ったハーブティーを淹れる。今日の魔王様のティーセットは、この前かわいいお店で見つけたとっておきのものだ。透明なカップの中でそっと鮮やかな赤が踊る。
丁度朝食を食べ終えた魔王様のところへお茶を差し出して、自分用にも適当なカップに残りを入れる。
魔王様の魅惑の象徴ともいえる唇をカップにつけ、お茶を静かに飲まれてから、音なくソーサーにカップを戻して、口を開く。
魔王様はいつも問うのだ。
いつもこの一言だけ、魔王様から。
その、何も映さないと思っていた王の目に、私だけを映して、魔王様は問う。
あぁ、目が合うと、
私の中が荒れ狂うことをご存知ですか。
何も知らず、知っていても知らぬように、悟らせない目で、魔王は問う。
「…そなたは、何がしたい?」
(私は、ただあなたのそばにいたいだけ)
その答えをまだ私は返せない。
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ゴンゴラエゾット: 白身魚的なもの
ティエ:トマト
【キャラ設定】だいたいこんな感じ
シスター
ヘレン・アンドル
19歳
センター分けに、金髪の癖っ毛ロングヘア
金色の目で可愛らしい顔立ち
常に修道着を着ている
ほんわかしていてまさに慈愛の天使そのもの
魔王様大好き、魔王様のために生きて魔王様のために死にたい隠れヤンデレ
愛が深い、深すぎてたまに痛い
元・魔王様
正式名称は【ベラエナ・ヴィンディガ・シューベニギア・R・キュロス】
11125歳
もう引退した魔王様
褐色の肌に猫目、目は金色、涙袋がきれい、眉毛はない、髪の毛は黒のウェーブ、立派なツノが二本、外出時は口元に銀の甲冑を付けている、アラビアンな超絶美形
わりと温厚、年をとっているのも理由の一つ
でもまだまだ力は現役
睨みだけで大抵のことは乗り越えられる
ヘレンの扱いに困っている
なぜこんなに好かれるのか理解ができない
無自覚のタラシ