軟弱者(へたれ)
俺はショックがでかすぎて、兎に角この場から、学校から早く帰りたかった……。
―――放課後。
授業が終わると、俺はそそくさと帰り支度を済ませ、いつもよりかなり早いタイミングで校門を出た。
走ってないだけで、まるで逃げるように下校してるんは、
―――これ以上、吉田勝人の顔をみたくない。
―――今、利伽に会いたくない。
この二つの理由からやった。
出来るだけ自然に振る舞って、不審がられんように学校を出たつもりやった。
「ちょー! タツー! タツってー!」
でも、自然と早足になってたみたいや。
でもまーそれはしゃーない。
達観やら、しったかぶりしてるように見えるけど、実際はただの小賢しい16才や。
動揺すれば不自然な行動を取ってしまうんもしゃーない話や。
「ちょー! タツ! 聞こえへんかったん!?」
俺の隣に追い付いてきた利伽が、俺の顔を覗き込みながら不満げな声で聞いて来た。
―――聞こえてた……。
十分聞こえてたけど、足止められへんかったんや。
「……ああ、悪い。考え事しとってん」
「……ふーん……」
俺のぶっきらぼうな物言いに、利伽は怪訝な顔で相槌を打つ。
明らかに俺の態度がいつもと違うちゅーのはバレとんな……。
「そうや! それより、昼間タツが連れてきた吉田君やねんけど……」
利伽が、殊更声を大きくして、俺に話題を振ってきた。
多分そんな事はないんやろーけど、俺には利伽が嬉しそうに話してる様に見えた。
俺は徐々に歩く速度を上げていった。
「今日、吉田君に初めて会った時な……」
「……たない……」
「……え?」
「……聞きたない……勝人の話も、お前の話も、今は聞きたないんや!」
女々しいゆーんは十分解っとる。
自分が情けないだけやなくて、利伽へ八つ当たり気味になっとるんも、重々承知の上や。
―――ただ……。
―――少し気持ちを整理する時間が欲しかっただけや……。
「ちょ……何なん、それ? 吉田君に会った時……」
「だから聞ききたない言ーてるやんけ!」
つい……語気が荒くなってもーた…。
ここまで来れば最低や……。
「……ちょー……タツ……あんた何を……」
「……すまん。先行くで……」
「あっ! ちょ、タツ!」
背中から掛けられた声を無視して、俺は早足から駆け足になった。
まだ利伽が俺の名を呼んでたけど、俺は立ち止まりも、振り返りもせんかった。
利伽の話を聞くくらいやったら、今の俺にも出来るかも知れん。
けど何か言う事になった時、俺は感情的になって思ってもない事を言ーかも知れん。
それが俺には、ものごっつー嫌やったんや……。
一気に走って、毎朝神流達と別れるT字路まで来た。
そこでは、いつもの様に神流が俺を待ってた。
ここは朝、神流と別れる所であり、夕方、神流と再会する所でもある。
「あ、お兄ちゃん、お疲れー」
いつもの様に、神流は俺に声を掛けた。
けど今の俺は、真っ直ぐ神流の顔を見られへん。
「……悪ー……先帰るわ……もうすぐ利伽が来るから……」
神流と視線を合わせること無く俯いたまま、俺は不知火神社の方へと再び駆け出した。
「お、お兄ちゃん!?」
最愛の妹が驚き、俺を呼び止める声が聞こえた……。
けど、今の俺は誰とも話す気分や無かったんや……。
何もかも考えられへんよーになるまで、俺は走る速度を上げていった……。
―――自分でも、もーちょっとしっかりしてると思てた。
―――もーちょっと、現実を冷静に受け止められると思てた。
―――まさか自分が、こんなに軟弱者やとは、思いもよらんかったわ……。
情けない限りや……。でも、今はどーしょーもないんや……。




