蓬(よもぎ)
蓬に「何故?」と問われて答えられへん俺。……ほんま、何でやろ?
―――なんで? なんでやろ……?
此処に来た理由を蓬に問われて、俺は直ぐに答えられへんかった。
好奇心? 使命感? それとも何かに惹かれたから? どれも違うな……。
あの時感じたんは焦り、焦燥感やった。
何に対して焦ってたんか、今になってもわからへん。
それに今はその焦燥感すらない。
「……何でやろ?」
だから俺は、素直にそう言い返した。
ほんま、なんで俺、此処に居るんやろ?
再び起こる沈黙。
もしかしたら蓬を怒らせてもーたか?
「……ぷっ……ふふふ……ふふふふ……」
でも予想に反して、蓬は可笑しそうに笑いだした。
今やったら蓬の表情も「笑ってる」って解る。
こうやって見ると、蓬も可愛らしい、年相応なただの女の子に見える。
……まー多分、見た目以上に歳取ってるんやろうけどな……。
彼女が吹き出した事で、この場の空気が一気に和んだ。
ビャクも何処か、毒気を抜かれたみたいや。
「蓬……こそ、なんで此処に居んねん?」
当然の疑問。
それを俺は口にした。
全くの勘で言えば、此処に蓬が居ったから俺は此処に来たんちゃうやろか……そう思え出してきたんや。
「……私……? ……私は……もうずっと……具合が悪くて……人の来ない……静かな……場所を探したら……此処が良い……らしくって……」
その言葉に、俺は少しの違和感を感じた。
「此処が良かった」やなくて、「此処が良いらしい」。
誰かに言われて来たんか?
「なぁ……らしくってって、誰かから聞いて来たんか?」
思ったことは、直ぐに口にしてまう。俺の悪い癖……なんやろなー……。
「……いえ……何となく……でしょうか……。此方だと……何か……良いことが……あると……そう……感じたのです……」
所謂“勘”ってやつか?
まー確かに人間、殆どが勘で動いてるよーなもんや。
それに経験が色付けされて、行動に確実性を増してるんやけどな。
「……卜仙術……」
と、ずーっと黙り込んでたビャクが、呟くよーに何かを口にした。
ボク……何やて?
「ビャク、今何て……」
「タっちゃん、悪い事は言わんから、今すぐ此処から立ち去るニャ」
俺の疑問を遮って、ビャクが言葉を被せてきた。
「おま……何やねん、いきなり……」
「良ーから! これ以上関わったら、絶対碌なことにニャらんから!」
珍しく語気を荒げて、ビャクがこの場を離れるように提案してきた。
いや、提案やないな。
指示? 命令? 兎に角必死や。
「ちょ……ビャク、ちょー落ち着け……」
―――パサッ……。
俺とビャクが言い争ってたその時、蓬の方から、何か軽い物が床に落ちるような音がした。
俺とビャクが同時に目を向けると、蓬がその場で倒れてた。
「お……おい……蓬? 蓬!?」
俺とビャクは、慌てて蓬の元へと駆け寄った。
蓬の呼吸は荒く、心なしか顔色も悪く見えた。
まー化身に顔色があればの話なんやけどな。
「ビ……ビャク……蓬は一体……?」
蓬を抱えながら彼女の顔を覗き込んで、俺はビャクに問いかけた。
残念ながら、化身の体調やら病気に俺は全く詳しくない。
「……侵食が進み過ぎてるんニャ。このままやと、この子は……堕ちるニャ……」
堕ちる……っちゅー言葉の意味は解らんかったけど、何やら不吉な響きだけは感じ取れた。
「ど……どないしたら良ーねん!?」
全くもって情けない話、俺にはこの場でどーするんが最良なんか見当もつかんかった。
「……禊様にお願いするしかニャいニャー……禊様かリューヒ様やったら、この子を何とかしてくれるーおもうニャ」
ばあちゃんか! それにあのリューヒって神様の姉ちゃん。
確かにあの二人が揃ったら、何でもアリの様な気がするわ!
「よっしゃ! それやったらとっとといこか!」
俺は蓬を両手で抱えて立ち上がった。
思った以上に軽い蓬に、ちょっとビックリした。
まー、化身に見た目通りの体重が当てはまるんやったら……やけどな。
「ちょー、ちょー! タっちゃん! 学校どないするんニャ?」
何や知らんけど妙に切羽詰まってる俺は、直ぐにも駆け出そうとしてビャクに止められた。
「どないもこないも、人命救助が優先やろ!」
まー、化身は人や……以下略。
けど、中身はしらんけど、見た目が可愛い女の子……しかも神流とかビャクと同世代なんやったら、放っとく訳にもいかんやろ。
答えた俺に、ビャクは溜め息をわざとらしく、大きく、深ーくついた。
「わかったニャー……ウチが禊様んとこへ連れていくニャー……」
断腸の思いで決断! っちゅーくらいの声音で、不承不承ビャクが引き受けてくれる。
「本当か!? 助かるわー! 流石ビャクやな! 頼りになるわ!」
まさかビャクが、そんな事に骨を折ってくれるなんて思わんかった。
俺がビャクを誉めそやす言葉と同時に、ビャクは本来の姿に変化した。
「タっちゃん、ちょー誉め過ぎニャて。こ、これくらいお安いご用ニャんニャから……」
人の姿になったビャクは、すでに耳まで真っ赤になってる。
誉められるんに、実は慣れてないんかもしれんな。
「俺も学校終わったら、ダッシュで帰るから! 頼んだで!」
蓬を背負ったビャクが地下倉庫を出る。
俺もその後に続いた。
「じ、じゃータっちゃん、先行ってるわ」
最後まで照れ通しやったビャクは、そう言って、俺の前から大きく跳躍した。
後の事はビャクに任した。ビャクが向かった先、ばあちゃんとリューヒなら何とかしてくれる筈や。俺は兎に角、午後の授業を受ける為に、教室へと戻った。




