高校風景
神流達と別れた俺達は、清蘭高校でいつもの1日を送る……予定や。
「それじゃあ、利伽姉ちゃん……と、お兄ちゃん……またねー」
清蘭高校の校門に向かう道と、神流達が通う公立星鈴中等学校との別れ道で、神流が話しにくそうにそう俺と利伽に声を掛けてきた。
俺としてはさっきも思い至った通り、いつまでもグジグジと悩んどくつもりはない。
ビャクとの会話のお陰で、かなり気分転換出来たんも事実やしな。
「おう、またな」
「うん、またねー」
利伽は兎も角、俺がいつも通りの返答をしたのに神流は一瞬驚いた顔になったけど、ようやく微笑んで軽い足取りで登校していった。
相変わらず俺には無口な真夏は、会釈だけして神流の後を追って行きおった。
驚いたんは利伽も同じみたいで、ビックリ顔を俺の方に向けてる。
「……なんやねん?」
「う……ううん……別に……」
それだけ会話して、俺達も校門へと向かっていった。
まー、高校生活ゆーても部活もしてないし、朝の修行とか夜通しの見廻りなんかで、殆ど毎日が睡魔との戦いで終わる。
いくら家の都合やっちゅーても、勉強を疎かにしたらアカンみたいや。
まー俺は昔から学力に難ありなんやけど、利伽と神流は逆に成績優秀組をキープしとる。
この違いはどっから来るんやろ……。
人付き合いに関しては普通……以下やな。
別に俺が、コミュ障って訳やない。
これは本当。多分……恐らく……。
なんせ放課後に何か約束して出掛けるなんて、殆どありえへんからなー……。
活発な奴等との交流はない。
部活繋がりもない。
自然と寄ってくる顔触れは、俺と似たような奴らばっかりや。
「おー……龍彦ー、おはよー」
気だるく顔を向けると、俺と似たように気だるそうな顔をした知人、吉田勝人が俺に近付きながら挨拶を寄越してきた。
因みに俺は、学校では机に突っ伏したりはしない。
少しでも寝ようもんなら、その日1日、目が覚めへんことは確認済みや。
「おー……おはよ」
俺は吉田に、誰が聞いても愛想のない返答をした。
こいつが友人親友悪友やなく“知人”なんは、本当にこいつとは友人付き合いをしてないからや。
こいつが俺に話し掛けるんは、所謂「同族意識」。
こいつんちも“お寺やさん”みたいで、朝は勤行……つまり“お勤め”で朝は早いみたいや。
早朝から読経やら掃除やらをやってるみたいやな。
つまり仏門と神職って違いはあるけど、兎に角朝から元気がないっちゅーとこだけは同じって訳で、そこにシンパシーを感じてるみたいやな。
仏門言ーても剃髪してる訳やないし顔立ちは整ってるから、もーちょいシャンとしたらもてるんやろーけどなー……。
「なんや、朝から不景気な顔してまんなー」
こいつの特徴は、兎も角俺で時間稼ぎっちゅーか暇潰しをしに来る処と、わざとコテコテの関西弁を吐くっちゅーところや。
今時語尾に「まんなー」なんて付ける奴、ギャグとか冗談以外ではおらんなー。
「不景気はお互い様やろ……」
まー下らん話しかせーへん仲やけど、こっちも時間潰しにはなる。
けど、今日の勝人は何や様子が違った。
何処と無くソワソワしてキモい。
「それより龍彦、お前D組の八代さんと幼馴染みなんやてな?」
下らん話を唐突にする奴やとは思とったけど、今日の勝人は輪をかけて唐突や。
「なんや、今更……」
改まって聞かれるまでもなく、そんなんは学校中、少なくとも俺と利伽を知ってる奴らは周知の事実やった。
「やんなー。で、お前ら、付き合っとるんでっか?」
「なんや、勝人。お前今更なんが多いで。」
そして俺達が付き合ってないっちゅーことも周知の事実や。
「やんなー。じゃー、八代さんに彼氏っていてまんのんか?」
「なんや、お前、利伽にアプローチするつもりかいな。仏門と神道やと上手く行かんと思うけど……まー頑張れや」
これも俺のスタンスや。
俺の気持ちは兎も角、利伽に言い寄る奴をいちいち敵に回してたら切りがない。
俺がモタモタして、誰かに利伽を物にされるんはしゃーないと諦めてるから、応援はせーへんけど、邪魔もせんて決めてる。
「それでやなー、お前に仲介して欲しいねんけどー……どないや?」
こーゆー頼みは久しぶりやな。
勝人は明らかに後発組や。
利伽に言い寄る男はウジャウジャおったし、俺に仲介頼む奴もぎょーさんおった。
でも、それも一年の時で頭打ちになって、今では殆どいてない。
「お前な……人に助けてもらわな切っ掛けも作られへん奴に、利伽が靡くと思うか?」
まー実際は、何人か仲介したっても、全員玉砕やったんやけどな。
「そやかて、彼女とは何の接点もおまへんやん? 友人を助けるー思て……頼む!」
そう言って勝人は俺に向かって合唱して、頭を深々と下げてきた。
いつから友人になってん……。
けどまーこいつには可哀想やけど、玉砕覚悟なんやったらしゃーない。
結果の解りきった事に付き合わされるんも面倒な事この上ないけど、本人が納得するんやったら別に良ーか。
「……昼休みでえーんか?」
「お、おお! それでよろしおま! 本当に、恩に着るわ!」
別に俺は、何か手伝ったる訳やないけどな。
ただ勝人を、利伽の前に連れていくだけやし。
要件を済ませた勝人はさっきまでの気だるさを一転、ウキウキしながら席に戻っていった。
そのやり取りを俺の足元に寝そべりながら興味無さげに聞いてたビャクは、大きなアクビを一つついた。
久しぶりに面倒な事を引き受けてもーた俺は、勝人を連れだって利伽の元へと向かう。




