座学3 そして聖洞会
竜洞会に対立する組織“聖洞会”。その目的は?
人間の形成してる世界に、「善悪」なんちゅー単純な図式は、殆ど存在してない。
対立してる二つの組織があっても、どちらが正しいかとかやなく、どちらがより“支持”を集められるかでその時点での優劣が決定し、優勢な方が劣性な方を“悪”と断じるのが一般や。
劣性な方も、相手を罵るやろうけど、支持を受けてない……それか支持が少数派の声は殆ど拡散されへん。
所謂「負け犬の遠吠え」になってまうんや。
「“聖洞の……清き力……を解放して? 世界に真の……?” 長っ! 長いわっ! 覚えられへんわっ! もう“聖洞会”で良ーやん!」
「そら―――無理なんやわ―――。彼等はその名称―――使われへんねんで―――」
一瞬……ばあちゃんに、邪悪な……いやいや、意地の悪い気配を感じた。
「……おばあちゃん……それって……まさか……」
利伽も何かを感じ取ったみたいで、その顔には驚愕が浮かんでる。
「そやで―――利伽ちゃん―――。竜洞会の全勢力を以て―――彼等が付けそうな名称―――先回りして悉く登録したったんよ―――」
「ばあちゃん達、何やってんねん!?」
思わずツッコンでもーた……。
それは巨大な権力を無駄に最大限駆使した、最悪な“嫌がらせ”やで……。
「あの時の―――彼等の悔しそうな顔を思い浮かべたら―――……」
そう言うばあちゃんの表情は、この上なく嬉しそうやった……。
「でも、おばあちゃん。それやったらその“聖洞の清き力を解放して、世界に真の繁栄をもたらす会”が言ーてる事にも一理あるんとちゃう?」
確かに、地脈を塞いでコントロールする理屈も解らんでもないけど、地脈を解放したままコントロール出来るんやったら、そっちの方が良ーに決まってる。
すぐには無理かも知れんけど、繁栄に向かう努力やったらトライする価値はある。
少なくとも、竜洞会よりは前向きに見えた。
しかし利伽は、あのクソ長い名称を一発で覚えたんやな……。
「もー略称で良えで―――。利伽ちゃん―――本当に名称通りの事を望んでるんやったら―――うち等も―――リューヒも―――協力は惜しまんねんで―――」
その言葉で、俺と利伽はハッとさせられた。
もっともらしい、耳障りの良ー言葉で相手の警戒心を解く……詐欺の常套手段やんけ。
「“聖洞会”は―――地上に住んでる全ての人達に―――地脈の力をとことん使わせて―――行き着くとこまで行かせるんが目的なんよ―――」
行き着くとこまで……行ったら……その後は……どうなるんや……?
「おばあちゃん……行き着くとこまで行った人達は……どうなるん?」
俺と同じ疑問を、利伽はばあちゃんにぶつけた。
「それは誰にもわからんねんで―――。誰も試した事ないし―――途中で大抵破滅か―――崩壊してまうからな―――……」
ゴクリ……と、俺も利伽も喉を鳴らした。
漠然とやけど、“聖洞会 ”の言ってる様な行き着くとこまで行く行為……破滅や崩壊の先にある物が、至上の幸福とは思えんかった。
「あるかどうかわからん至上の幸福か―――現状維持の為の封印か―――……。どっちが正しいなんてうち等には解らんけどな―――。少なくとも今の幸福と―――それよりちょっとだけ得られる幸せの方が貴いと思って―――うち等はうち等のやり方を通してんねんで―――」
俺は、少なくともばあちゃんの意見に賛成やった。
現状維持が、一概に悪いなんて言われへん。
維持する為にも、多大な労力が必要なんやから。
「だいたい彼等は―――行き着いた世界がどーなっても良ーって集団やからな―――。その考えもうちは好かんのや―――」
地脈を利用して、兎に角行き着くとこまで世界を向かわせるんが目的の集団……。
確かに、そんなとこに地脈を利用される訳にはいかん。
……まあ、だから俺に何が出来るって話やないけど、少なくとも俺はそう考えたんや。
竜洞会と聖洞会。どちらが正しいかではなく、どちらを選ぶのか。少なくとも聖洞会に同調は出来ない龍彦達に、不知火山と八代山の更なる秘密が語られる。




