その2
通学途中に待ち合わせる相手。それは……。
境内を出て、鳥居を潜り、短い参道に敷き詰められた石段を下る。
その石段の中程で何の気なしに振り返って、俺達のご先祖様達が代々守ってきたっちゅー神社を眺めた。
さっきは“小さい神社”なんて思ったけど、こうやって改めて見ると中々どーして、結構雰囲気出てるやん。
“ちょっと変わった”小さい山の中腹に建立された、ちょっと場違いやなって感じの、少し立派な神社ってとこか。
「もう、お兄ちゃん。どーしたん?」
石段を先に下りきった神流が、不思議そうに声を掛けてきた。
その仕草もまた可愛い!
―――因みに俺はシスコンやない。ほんまや。
―――ただちょっと、他の奴より妹贔屓なだけや。ほんまや。
「おー、なんでもないわ」
そう返事して、俺は神流と合流すべく石段を下りた。
山裾をぐるっと回り込み―――ちゅーても、直径二百メートル程の小さい山やけど―――いつもの待ち合わせ場所で、いつもの相手と合流する。
「あっ! 利伽姉ちゃんー!」
幼馴染みの利伽を見止めた神流が、手を振りながら駆けていく。
そんな後ろ姿を見ながら、俺は速度を速める事なく二人の待つ場所へと歩み寄った。
「利伽姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう、神流ちゃん」
麗しい少女二人の、爽やかな朝にちょーお似合いな挨拶が交わされてる。
神流が仔犬の様に駆け寄っていった相手は、“隣山”の「八代神社」神主の長女で、俺と神流の幼馴染みにもなってる「八代利伽」や。
贔屓目に見て、利伽も可愛い。
昔から伸ばしている美しく長い髪が特徴で、ほどけば太腿の辺りまである髪は、今はポニーテールにしているけどそれでも背中に掛かるほどや。
容姿も端麗で、今は可愛いが先行してるけど元が“あの”おばさんの娘。
将来は間違いなく美人さんになるやろう。
スタイルもえー。
高校生活も二年目に突入ともなれば、少女も女性に様変わりするんやろなー……。
ぶっちゃけた話、俺は利伽に惚れてるかもしれん。
高校二年生ともなれば、思春期真っ只中や。
隣に住んでる幼馴染みの可愛い女の子に初恋を奪われたって、そらしゃーないってもんやで。
でもそれはちょー極秘や。
理由は色々あるけど、兎に角隣同士家族ぐるみの付き合いとなったら決定打を出すのにもタイミングが重要や。
勿論、利伽の気持ちもある話やけど。
そんなこんなでヘタレな俺は、当分この関係でえーと思ってる。
「お……おはよう……神流ちゃん……」
そして、今まで利伽の陰に隠れて気配を消してた真夏が、オドオドオズオズと神流に挨拶した。
こいつの名前は八代真夏。
利伽の弟で、神流の同級生や。
まークラスは違うみたいやけど。
利伽のとこは“うちと違って”兄弟でえらい性格が違う。
快活で明るい性格の利伽に比べて、真夏は引っ込み思案で臆病や。
「おはよう、真夏! ……あんた、今日も冴えてへんなー……」
そんな真夏に、神流はいつも強気な態度や。
多分、弟感覚なんやろな。
二人で行動する時はいつも神流がイニシアティブを取ってるし、真夏の性格がどこか放っとかれへんのやろな。
「お兄さんも、おはようございます……」
ノロノロと合流した俺に、真夏が挨拶をくれた。
こんだけ長い付き合いやのに、こいつは俺にいっつも敬語や。
生意気に図々しくタメ口きかれるんも腹立つけど、ここまで卑屈になられるとなんか俺が悪者みたいに感じてまう。
「おう、おはよう」
だけど俺も、愛想の良い方やない。
だからつい、ぶっきらぼうな返事を返してまう。
そしたら、更に真夏は恐縮する。
―――ほんま、悪循環やで……。
利伽の様子が何か……変?