女性連続失踪事件
朝、穏やかな陽射しが窓から差し込む中、龍彦と利伽はテレビのニュースに気を留めていた。
『……行方不明なのは、……田……子さん……才、今も警察は捜索範囲を広げ……』
初夏の光が窓から差し込んできて、まだ早朝やっちゅーのに随分と気温が高くなってきた気がする。
それでもここは、周辺を木々に囲まれとる。
吹き込んでくる風はひんやりしてて、それだけやったら汗をかくっちゅー事はない。
「おいおい、また失踪かいな……なんやこんだけ頻発しとったら、事件の臭いがすんなー」
「今月で三人目やったっけ? ……本当、事件やったら怖いなー……」
早朝のテレビニュースを見ながら、俺の呟きに利伽も相槌を打った。
その顔には、不安がありありと浮かんでる。
今ニュースでやっとったんは、この街で起こってる“連続失踪事件”の報道やってんけど、失踪者が全員女性ともなれば利伽が不安に思うんもしゃーない話や。
「ま、まだ捜査は始まったばっかりやからな。本当に事件やったら、警察がすぐ解決してくれるやろ」
俺の根拠のない励ましに、利伽は不安気な表情のまま「うん……」とだけ呟いた。
動機も不明、年齢も十代から二十代後半、住んでる場所にも統一性がない。
誰が聞いても、無差別な事件やと想像がつく。
無差別っちゅーことは、いつ利伽や神流がターゲットになるか解らんっちゅーこっちゃ。
「龍彦様も利伽様も、本当にただの“失踪事件”ニャて思ってるんですかー?」
不意にテレビの前に立ち尽くす俺達の背後から、少し幼さの残る女性の声が掛けられた。
同時に振り向いた俺達の目に飛び込んできたんは、白巫女衣装に緋袴と言う、神社には在り来たりな衣装やっちゅーのに、かなり涼しげな格好の「ビャク」やった。
袖は肩口から無く、ノースリーブみたいに見える。
袴も太ももから生地がなく、まるでミニスカートみたいや。
そー言えば利伽が会った“リューヒ”も、ヒラヒラのフリフリな衣装を着てたって言ーてたな……。
あっちの住人は、そーゆー衣装が好きなんか? もしくは流行ってるんかな?
俺がそんな事を考えながら、なんとはなしにビャクへと視線を向けてたら、なんや嫌な視線を感じた。
「やっぱり……タツはこーゆー格好が好みなんやね!」
「龍彦様もお好きですニャー。何でしたら、もーちょい刺激的な格好でも良いですニャ」
―――なんや凄まじい誤解で、一言も発してないのにいきなり針の筵状態になってた……。
「あんた! 化身の分際で、なんでタツに色仕掛けしてるんよ!」
「嫌やニャー。こんなん、色仕掛けでも何でもないですニャん。なんやったら利伽様もこの格好したら|良ーんちゃいますかニャ?」
「はっ! ふざけるんも大概にしーや! そんなふざけた格好、する訳ないやん!」
「ふざっ……! ふざけてるっちゅーんは聞き捨てならへんニャ! この格好は地脈を守護する者の由緒正しい格好なんニャ! リューヒ様も、おかんも、先祖代々この正装で地脈を守護してきたんやニャ! なんぼ利伽様でも、言ーて良ー事と悪い事がありますニャ!」
「へー……代々珍妙な格好の一族なんやねー……」
「……なんやて……!」
「……なんやのん……!」
……なんでこーなんねん……。
俺は呆れながら、その様子を他人事に思って見てた。
「龍彦―――? 何やってんのや―――?」
いつの間にそこに居ったんか、ビャクの更に背後でニッコリと微笑むばあちゃんが立ってた。
ええ!? 俺!? この原因って俺ー!?
バッと騒いでた二人に目をやると、いつ収まったんか二人とも明後日の方向に目をやってる。
っちゅーか、この場に三人しか居らんのに、他人の振りもクソもないやろ……。
「ほら―――龍彦―――。それに利伽ちゃんにビャクも―――。サボってんと―――早よ続きしーや―――」
「ちょ、ばあちゃん! ちょっと休憩してただけやん!」
実際、今までのやり取りに費やした時間は五分と経ってない。
そう。
なんでかテレビが置いてあるものの、ここは道場で今は朝の修行中やった。
僅かな休憩の合間に、俺達は逃避してたんや……現実から……。
「そんだけ元気あったら―――もー十分やろ―――。さ―――次行くで―――」
一人元気なばあちゃんの号令で、俺達の僅かな休憩は早々に切り上げられた。
そしてまた、道場内には一人の男性と、二人の女性の悲鳴が響き渡った……。
「大丈夫やで―――。結界張ってるから―――外に声は漏れへんから―――」
響き渡る叫声……禊の特訓は続く……




