迷いこんだ世界
化身を目の前に、禊の話を聞く龍彦達。その禊から告げられた話とは……。
(それでおばあちゃん、これからどうしたら良えのん?)
さっきから無言で化身の光を目で追ってる利伽が、 俺の方を覚めた目で見ながら ばあちゃんに聞いた。
利伽の目は「あんた、緊張感無さすぎやで」と、言外に非難してるもんやった。
確かにそうやったかも知れん……。
でも、目の前におるんがあんな小動物やったら、誰でも気ー抜けるやろ?
―――まー、利伽は気ー抜けてなかったけど……。
(そやね―――……どのみちこのまま放っとく訳にもいかんしな―――……あんた達、ちょっと戦ってみるか―――?)
そやな……このままやと埒があかんし、一回戦ってみるか……って、おい!
(ばあちゃん、いきなり戦うってなんやねん! あんな得体の知れんもんと、戦えるわけないやろ!?)
ばあちゃんのいきなり発言に、利伽は不安気な目で俺を見る。
それを受けて、俺もばあちゃんに猛抗議にした。
現実的に考えて、そんな簡単に化身とかゆーもんと戦える訳がない。
―――まー、すでに現実的やないけれども。
(大丈夫やで―――。修行でも地脈の力を利用する「接続の義」ってやったやろ―――? あれをやったらえーんやで―――)
確かにそんな修行をしてるけど、あれは単に儀式的なもんやと思ってた。
(でも、おばあちゃん。私達、修行でそんなんやったけど、何も変わった事なんか起きひんかったで?)
同じ疑問を持った利伽が、ばあちゃんに尋ねた。
(そら当然やで―――。簡単に地脈の力を利用出来てもーたら―――世の中パニックになってまうで―――。正しい修行して―――儀式を終えた者が能力を解放されて―――よーやく使えるようになるんやで―――。あんた達が真面目に修行しとったら―――「接続の義」で化身と対するだけの力が得られるんやで―――)
ばあちゃんの話を聞き終えて、俺と利伽は互いに顔を見合わせた。
正直、信じられへん。
でも、今はやるしかない。
利伽の顔には不安の色がありありと浮かんでる。
多分俺も、似たような顔してるんやろなー……。
これからやるんは未知の部分が多すぎる。
しかも化身と戦うやなんて……。
何が起こるか解らんけど、やるんやったら俺からや。
危険かも知れん事を、利伽からのやらせる訳にはいかん。
(……よっしゃ! 俺からやったるわ!)
(「接続の義」をやったら―――あんたの霊体が地脈に繋がるんや―――。そしたらそこから勝手に力が流れてくるからな―――)
ばあちゃんの説明を良く理解して立ち上がり、利伽から少し離れた俺は意を決して両手で“接続の印”を結んだ。
そして祝詞を唱え、一気に集中力を高めていく。
確かに今まで修行してた時には感じひんかった、不思議な力の流れを感じる。
―――俺の中から、余計な雑念が消えていった……。
―――周囲からはなんも聞こえへん。
―――聞こえるんは、うるさいくらいに鼓動してる自分の心臓だけや……。
「あら―――いらっしゃい―――」
と思ったら突然、すぐ近くで女の声がした。
俺は慌てて目を開き (目ー閉じてたつもりはなかったんやけど)、声の方へ視線をやった。
―――女性がおる……。
何にもない……真っ白な空間に……巫女服、緋袴を綺麗に着こなした、髪が長くて立派な角を二本生やした、ごっつい美しい女性が俺の方を向いて微笑んでた。
―――角ー!? 角やてー!?
俺は大声でそう叫んだつもりやったのに、何でか声が出ーへん。
「フフフ―――……ここは―――精神の―――世界―――。声やなくて―――念で―――会話する―――世界なんよ―――」
確かに目の前の女性は、微笑んだまま口を動かさずにそう言った。
つまりあれや、念話の要領やな。
「ここは……何や?」
「せやから―――精神の世界―――言ーてますやん―――」
―――なんなんやー! 押し問答やんけ!
俺が軽いパニックになる前に、女性は言葉を続けた。
「ここに生を保ったまま―――人の子が来るんは―――本当に久しぶりやわ―――。お姉さん―――めっちゃ嬉しいわー」
なんや、どことなくばあちゃんに似てるな……。
「……何で俺、こんな場所におんの?」
「あら―――? 貴方が望んで―――ここに来たって―――思たんやけど―――……違ううの―――?」
違うの? って聞かれても困るわ……。
俺が? 望んで? そーやったっけ……?
いやいや、違う違う!
「俺は地脈の力を得る為に“接続の儀”をしたんや。そしたら、気が付いたらここに……」
「せやからここに―――来たんでしょ―――?……貴方ひょっとして―――何も聞いてないん―――?」
「またそのフレーズかい! 何も聞いてないし、知らんもんは知らん!」
今日はなんや聞いてないんとか知らんのとか、やたらと俺の予想外な事ばっかり聞かれてだんだん腹立ってきたわ!
「またあの子は―――……本当に―――悪戯好きなんやから―――……」
目の前の女性は頬に手を当てて、溜め息混じりにそう呟いた。
どうやら目の前の女性が言う“あの子”は、こう言う事の常習者みたいやな。
「ばあちゃんか……」
俺の呟きに、目の前の女性は楽しそうに微笑んだ。
「じゃーまずは―――自己紹介からやね―――。うちは―――“リューヒ”ー言います―――。で―――ここはある一族だけが―――来ることの出来る精神世界で―――“フリュークス”言います―――」
謎の女性リューヒとの邂逅。それが龍彦に、新たな力をもたらす?




