超グッドエンドを目指して
「お帰りお兄ちゃん 」
神春さんとの2回目のデートを終え家についた。いつものごとく夢葉が出迎えてくれる。
「どうかなこのコスチューム。可愛い猫さん妻でお兄ちゃんを悩殺だよ 」
そう言う夢葉の格好はエプロンを着ているのはいいとして猫耳と猫しっぽをつけている。もし感想を述べるならもちろん悩殺されました、とかいうことはなく単純に驚きと疑問の2つだ。こいつ兄のお出迎えになんで悩殺しようとしてるんだよ。
「はいお兄ちゃん感想を述べましょう。はっもしかして見とれて言葉もでなかったり? 」
「はいはい可愛い可愛い。ところでお風呂は沸いてる? ちょっと疲れちゃって 」
「うわっあっさりと受け流した。驚くだけでもいいから反応してよね 」
「え? なにその服装、超驚いた。それでお風呂沸いてるかな? 」
「お風呂は沸いてるけどさぁ、どうしちゃったのお兄ちゃん。いつもならもう少しまともな反応してくれるのに 」
うんうん、いい感じ。すべては僕の作戦通り。
このゲームをクリアするために誰か女の子と恋愛をしなくちゃいけないということだ。となると少し無慈悲と思われるかもしれないが夢葉には完全に諦めてもらうしかない。
そのために決行したのがこの作戦でつれない対応をする。真面目に対応をするからこそどうしてか妹からの好感度が上がってしまうわけでつまり素っ気無い対応なら好感度が下がってくれるだろうということだ。今のところは僕のこの態度に不満を持ち順調と言えるだろう。
さて、疲れたというのはつれない対応をするための咄嗟の嘘で実際には神春さんの膝枕で大分疲れはとれていたが宣言したからには入るしかない。服を脱いで僕は風呂場に入った。
「さぁさぁ座ってお兄ちゃん。私が洗ってあげるよ 」
そこには誰かがいた。いや、誰かなんて表現はしたけど宇宙生命体とかじゃなくってただのわが妹、夢葉だ。とりあえず頭の整理のためにそのまま風呂場の外へ出ようとしたが夢葉に腕を掴まれ無理矢理座らされる。
ちょっと落ち着け。どうして夢葉がここにいる!? あの僕が風呂に入るまでの数秒でいつ追い抜かれた?
「ふふん。疲れたとか言ってるし、さっきも変な対応だったからよっぽどの疲れがたまってるのかなって思ってね 」
「思ったからってどうしてここにいる? 」
聞くだけ無駄な質問だったと発言してから気がついた。今までの経験から返ってくる答えは決まっている。
「ほら、お背中を洗ってあげるってのは妹の務めといいますか当然の展開じゃないですか。もちろん私としてはお背中だけじゃなくってもいいんだけどね 」
やっぱり、予想通りのお背中洗ってあげるですよね。ついこの前もまったく同じ展開で選択肢のせいで背中だけ洗わされたっけ。あの時確か自分で言い始めたのに恥ずかしくなって気まずい雰囲気になった気がする。少しは反省してもらいたいところだ。
「出て行ってくれ。毎回毎回うざいから 」
僕はあえて突き放すようにキツイ一言を浴びせた。流石にここまで言えば出て行ってくれるだろうし、僕のことを恋愛対象として好きだなんて思わなくなるのではなかろうか。
「うん、そう・・だよね。じゃあ出て行くよ 」
しばらくの沈黙の後、夢葉は案の定そういって風呂場から出て行った。
ただその時の夢葉の顔は後ろを向いていて見えなかったが、凄く寂しそうな声でその声を聞いた僕は酷く心が締め付けられるような感じがした。
「これでいいんだよな 」
1人だけになった風呂場で誰に問うでもなくボソッっとそう呟いた。
「ふぅ。やっぱ風呂上りは牛乳に限るな 」
長めの風呂から上がると日課のように牛乳を飲む。リビングには誰もおらず夢葉は自部屋のようだ。時間的には夜ご飯の用意を始めてもいい時間だがまだでてこないのはそれだけ傷ついているということだろう。
これも無慈悲と思われるかもしれないが、すべてはゲームを攻略するため、あるいは夢葉をまっとうな妹に戻すためだ。夢葉もしばらくすれば元気になるだろう。
『こんばんは。7時のニュースです』
テレビをつけると旅番組をやっていたので暇つぶし程度に見ていたがいつのまにか7時になっていた。直も夢葉が部屋から出てくることはなく、ご飯の用意がされることはない。
「ご飯どうしよっかなぁ 」
ボソッと呟きながら心の中では夢葉の心配をする。ここは僕が様子を見に行ったほうがいいのだろうか。いや、それでは突き放したのが無駄になる。
はぁ・・インスタントラーメンでも作るか。
「いただきます 」
3分を待ってずるずるとラーメンを食べ始める。インスタントのせいかもしれないがひどくまずいラーメンだ。どうしてか苦くてどこかしょっぱい。本当に僕は何がしたいのだろう。
「やぁやぁ、久しぶりだね大庭氏 」
ふと、どこからか声がする。どこかで聞いたことのあるような声だがこの家には夢葉と僕しかいない。夢葉の声では明らかなかったので空耳だとは思うが念のため後ろを振り返ったが誰もいない。
「なんか色々考えてたら疲れちゃったのかな。明日も色々あるはずだし早く寝るかな 」
「僕っちはここだよ。ほら、下 」
いや、間違いなく空耳なんかじゃない。それに思い出したがこの声と口調はあいつだ。
後ろを向いて視線を下に落とすとやはりあの犬がいた。そう、プレイヤー様の手下の犬でトイプードルとマルチーズの雑種のような犬種のやつだ。
「お前どうやってここに!? 」
「どうやってって、正当に鍵を開けて入ってきただけだよ。もちろん窓ガラスを割ったりとかはしてないから安心してよね 」
人の家の鍵を勝手に開けるとかこいつらからすれば当たり前すぎて今更驚きの感情が出てこない自分にむしろ驚く。それに鍵を開けて入ってきたってまったく正当じゃないし犯罪だからな。
ところでどうしてこいつはわざわざ僕の家を訪問してきたのだろう。少なくとも無理矢理僕の家に入り込んでくるなんてことは1度もなかったし、特にこのゲームについて聞きたいこともない。
「その顔はどうしてここまできたんだ、って顔だね 」
「ハハ、犬のクセに鋭いな 」
「まぁね。そこらの駄犬とは一味も二味も違うからね。さて、こうやって長居させてもらうのも僕っちとしては構わないけど妹さんに見られたら面倒だからさっさと用件だけ言おう。今日僕が来たのは他でもないだたのアドバイスをするためだよ 」
「なんだそれ。前の傘の借りがまだ返せてないってか? それともこれもプレイヤー様の目論見なのか 」
「いやいや。このままじゃあまり面白くないからね。プレイヤー様がもっと喜んでくださるためにも僕っちがこうして献身的に働くわけだよ 」
「どうして僕がプレイヤー様のためにお前のアドバイスを聞き入れなきゃいけないんだ 」
「もちろん無理矢理聞き入れる必要はないけどこれは大庭氏の本心でもあると思うよ 」
なんだかプレイヤー様に喜ばれるためというのを聞くとしゃくだが僕の本心だというこいつのアドバイスを聞くだけ聞いてみるのもいいかもしれない。ちょうど夢葉のことで悩んでいたところだ。
「大庭氏はこれが恋愛シュミレーションゲームだと知っているはずだけれど一体どの子を選ぶつもりだい? 夢葉氏、新田氏、あるいは神春氏。もちろんその一人を選ぶのも立派なグッドエンドだけど元ゲーマーの大庭氏なら分かるはずだよ。恋愛シュミレーションゲームにおける超グッドエンドを 」
「超グッドエンドって・・。そんなの現実世界で通じるはずが・・・・・・ 」
「その辺りは君の頑張り次第だけど不可能ではないはずだよ。じゃあ僕っちはこれで帰らせてもらうよ 」
それだけ言うとその犬は姿を消した。そして変わりに画面が切り替わり選択肢が登場していた。
1、そのまま自室に行って寝る。
2、夢葉の部屋に行く。




