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現実ゲーム  作者: フリー88
最後の選択肢
42/43

夢葉ハッピーエンドはバッドエンド

「……くん。大庭くん 」

 聞き覚えのある声で目を覚ました。それは僕を呼ぶいかにも心配そうな声。


 パチリと目を開き見えるのは覗き込むように見る可愛らしい神春さんの顔。ほんの数センチしか離れていないのでまじまじと見つめ合って、垂れる黒髪からはシャンプーのいい香りも漂う。さらには頭部の下には何だか柔らかい感触。


 僕はどうしてこんな状況だ? 足を引っ掛けて上に乗っかかるようになっちゃた系の超絶ラブコメイベントでも発生中なのかな? 待て、記憶をたどろう。確か最後の記憶は……。


 そこまで考えて初めて違和感を覚えた。確か最後の記憶は夢葉と共に寝たあの昨夜で間違いない。ところが隣には夢葉はおらずそれどころか神春さんがいる。それにこういう状況をどこかで体験した覚えもある。


「ねぇここってどこ? それと今日は何曜日だっけ? 」

「よかったぁー気がついて。急に倒れちゃって大丈夫? 病気とかじゃないかな? それとも寝不足みたいだからそのせい? 」

 神春さんは安心した様子で僕を見つめる。目には涙がたまっているようにも見える。どうやら僕は気を失っていたらしいがこれもどこかで体験した覚えがある。


「あっうん僕は大丈夫だよ。ちょっと寝不足だったみたい。それよりここがどこで今は何曜日か分かるかな? 」

「なにを言ってるの? ここは私の家で今日は日曜日だよ。あっもしかして今気を失っちゃったせいで記憶が変になっちゃったとか!? それなら早く病院に・・ 」

「本当に大丈夫だよ。どのくらい気を失っていたのかを確認したかっただけ 」


 僕はここが神春さんの家、今日は日曜日ということを聞いて時間が戻っていると確信していた。そう今はついこの前の日曜日の昼、神春さんとのデートの真っ最中。ちょうどバトルでHPがつきて気を失っていたところらしい。もちろん夢という可能性も考えたがあの膝枕の感触は本物だ。

 こうなった原因は正しくは分からないがこんなことができるのはあのゲームしかない。もっともそれが分かったところでどうして時間をまき戻される羽目になったかは予想もできないのだ。昨夜は新田に告白され、夢葉と寝てただそれだけだった。強いてあげるなら新田の告白の返事を先延ばしにしたこと、夢葉がもう少し成長するまで誰とも付き合ったらいけないのかな、何て考えたことぐらい。

 とにかく今は普通どおりに勧めてこうなった原因を突き止めなければならない。


「ねぇ寝不足ならもう少しこのままでもいいよ 」

 ふと神春さんが恥じらいながらそう言う。前回このシチュエーションのとき「もう今日はこのくらいにして帰る? 」と提案され選択肢のせいで無理矢理帰らされたはず。ところが今回はもう少し膝枕をしないか、という逆の提案だ。

 僕の言動の違いがあるからそのせいで変わったのかもしれない。


「じゃあよろしくしようかな 」

 まぁ焦る必要もないよね、ということで大人しく膝枕をされることにした。あぁ、やっぱり気持ちいい。一昨日、いやこのいいかたではややこしいので前回の今日とするがそのとき味わったこの感触をもう一度味わいたいと思っていたのだ。


「変な感じしない? 硬いとか痛いとか寝心地悪いとかない? 」

「あ、うん。すっごい気持ちいいよ。ずっと寝ていたいぐらいだ 」

「流石にずっとは無理だよぉー 」

「ハハ、冗談だよ 」

 うん、膝枕って最高じゃん! もういっそのことずっとこの時間にまき戻ってもいいぐらい。もちろんこれも冗談だからね。


「ね、そういえばすっかり忘れてたけど大庭くんからちゃんと好きっていってもらってないよね。ほんとに私のこと好き? 」


 神春さんは軽い感じでそうたずねた。そう、それはまさしくいちゃつくカップルがしそうな会話で神春さんにとってはほんのたわいもない僕が必ず「YES]と答えてくれると信じている質問だったのだろう。


 だが僕は少しの間答えることができなかった。ついさっき夢葉がもう少し成長して彼氏ができるぐらいまでは僕も彼女を作ってはいけないと考えたばかりではないだろうか。そのために「安心しろ。誰とも付き合ってないさ 」と言って神春さんと別れよう、新田の返事も断ろうと苦渋の決断をしたのではないか。


 さらに僕は本当に神春さんのことが好きなのだろうか。あのときは選択肢のせいで勝手に、という告白だった。今ですら気持ちの整理がついていない。彼女ができて嬉しかった、前回の今日はこのデートを楽しみにしていた、今の膝枕は凄く心地よい、しかし本当にそれは好きなのだろうか。


 ただ僕は彼女を悲しませたくなかった。


「好きだよ 」

「ならよかった。もう少し寝ててもいいよ 」

「うん 」

 優しい彼女との言葉とは裏腹にその表情はどこか寂しそうだった。



「じゃあまた明日学校でね 」

「バイバイ大庭くん 」

 あの後膝枕を数十分ほど続けてもらい少し話をすると今日は帰ることになった。手を大きく振る神春さんに見送られながら僕は帰路につく、のが普通だが今日はそうはいかない。タイムワープ事件の真相を知るべく天童先輩のところへいくのだ。


 僕はいつもの交差点へいくべく歩いていたのだが途中の曲がり角を曲がったところで見知った人影を発見した。

「やぁやぁ大庭さん。偶然ですねぇ 」

 こいつは北条琉璃。あのプレイヤー様の手下の一人で故にわざわざ天童先輩のところまで会いに行く必要はなくなったわけである。

 それにしても本当に偶然かどうかは怪しいものである。どうせ天童さんのところに行くのを見越して待ち伏せでもしていたのだろう。


「で、今回はお前が情報をくれるのか? それならそうと早くしてくれないか 」

「まったく会って早々情報情報とはいかに現代が情報社会とはいえもう少し会話の作法というものを 」


「今更そんなことどうでもいいだろ。で早くタイムワープの件について知っていることを教えてくれ 」

「はぁ・・もういいです。でも教えると言っても制限がありますしヒントだけですよ。このゲームは恋愛シュミレーションゲームであなたがやろうとしたことを考えてみてください。私から言えるのはここまでです 」


 このゲームは恋愛シュミレーションゲーム? そんなことは分かっている。

 僕がやろうとしたこと? ただ夢葉のためにしばらくの間誰とも付き合わない。神春さんとも別れるし、新田とも付き合わない。ただそれだけ・・・・・・、いや違う。とんでもない勘違いじゃないか!


 恋愛シュミレーションゲームで先延ばしにして誰とも付き合わない、そんなのただのバッドエンドだ。そしてバッドエンドになればセーブポイントまで戻る。このゲームは何とも単純なゲームなのだ。

 僕はやっとこのゲームの本質を理解した。

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