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現実ゲーム  作者: フリー88
最後の選択肢
39/43

ゲームの目的を教えてください

(僕はどうすれば・・・・・・)


 1時間目の授業の半ば。先生の話などこれっぽっちも頭に入らない状態で新田のあの告白にどうするか悩んでいた。


 あの後戸惑う僕をよそにすっきりした顔で「教室に戻ろっか」と言われ、先生から少なからずなにをしてたのか詮索される羽目になるも無事授業をうけている。

 僕には神春さんという立派な彼女がいる。それならば新田の告白にはちゃんと断るのが当然としか思えないのだがどうしてか妙に心が突っかかる。それでもやっぱり・・・・・・。


「大庭、遅れてきた罰としてこの問題を解いて見せなさい 」

「ふぇっ? 」


 突然僕の名前を呼ばれたかと思うと先生にそう言われた。黒板に書かれた問題は因数分解の練習問題で授業を真面目に聞いてさえいれば瞬間的に解けるであろう簡単な問題なのだろうが残念ながら上の空で何一つ聞いていない。故にパッと見た限りその数式にどこから手をつければいいのかも分からない。

 とりあえず当てられたからには正々堂々「授業を聞いていませんでした! 」と言えるはずがなくゆっくり席を立ってゆっくり黒板の前へ行く。


「んーっと 」

 チョークを持ちつつ15秒ほど硬直する。背中越しながら「こんな簡単な問題になにしてるんだ? 生徒会長だろ」みたいな無言の目線が突き刺さるのが分かる。


「もういい。お前はなにを聞いていたんだ! 今教えた公式を使えば瞬殺だろ。まったく席につけ 」

「はい 」

 直も冷ややかな視線を浴びつ席に戻る。途中新田の何事もなかったような平気な顔や神春さんのこちらを見て笑った顔も目に写る。まったく朝から最悪だ。



 その後も不幸なことは続く。体育では徒競走でずっこけるし、美術ではカッターで指を切る。おまけに化学では抜き打ちテストが行われ散々な結果だった。ともかくそんな不幸な学校生活一日を終え放課後の帰り道となった。


「じゃあね大庭くん。また明日だよ 」

「うん。また明日 」

 今日も和やかに神春さんと話しをした後別れて一人となる。神春さんと話しをしていると今日の不幸なんて一切忘れられて爽やかな気分になれるのは不思議だ。


「やぁやぁ新田氏の告白に答えられないへたれな大庭氏よ 」

(なんだ?)

 公園を通りかかったところでふとどこからともなく声が聞こえる。隣や前にはもちろん知り合いはいないし後ろをふりかえっても誰も居ない。幻聴ではないよな。


「ここだよ。大庭氏 」

 声のするほうを単純に見る。だがそこには人影はない。そこにいるのはただの犬、犬種でいうならトイプードルとマルチーズの雑種と珍しい組み合わせ。あれ、そういえばこの犬どこかで見た気がする。


「もしかして、あの雨の日に濡れてたやつか 」

 詳しい日にちは忘れたが生徒会選挙中の放課後の帰り道にダンボール箱に入れて捨てられていた犬に間違いがない。あの日は雨が降っていて仕方なく僕のさしていた傘をそいつにさしてやり、僕自身は酷い目にあったがどうやら無事今日まで生きていたらしい。

 それにしてもこれほどの期間放置されて保健所に連れて行かれてないなんてある意味で運がいいのかもしれない。もっとも誰にも拾われず僕の願いも叶わなかったり、もとより捨てられていた時点で不幸で可哀想な犬なのだが。


「あぁあの時はどうもありがとう。傘ならあそこの隅においてあるよ 」

「はい? 」

 犬の口が開いたかと思えばでてきた言葉は「ワン」でも「バウワウ」でもなく先ほどから話しかけてきた謎の声色で日本語を話した。まさに信じ難い出来事であるが口を開いて発する場面までしっかりこの目で捉えたのだから信じるしかない。この犬は日本語で僕に話しかけた。

 ふと犬が見ている公園の隅のほうを見ると確かにあのとき僕がさしてあげた黒の折り畳み傘が閉じた状態である。


「君って犬だよね? どうして喋ってるの 」

「あれ、まだ分からない? 僕っちの名前はp22。プレイヤー様によって作られたコンピューターだよ、大庭氏 」

 なるほど納得だ。この現状喋る犬が出てきたらそれ以外考えられないじゃないか。これでどうして折り畳み傘が折りたたまれて置いてあるのかも説明がつく。プレイヤーの手下なら犬で器用な手足がなくとも折りたたむことはできそうだ。


「それで君は何のようなの。まさかお礼だけなんてオチはないよね 」

「そのまさかだよ。普通ならこんなことはしたくないし、プレイヤー様に怒られかねないけどあの時のお礼として君にとっておきの情報を伝えにきたんだよ 」

「とっておきの情報? プレイヤー様は誰か教えてくれるとかこのゲームの目的を教えてくれるとかか? それなら超ありがたいんだけどな 」

「随分と鋭いね。プレイヤー様からはにぶにぶの察しの悪い子と聞いていたんだけどね、まぁいいや。今日僕が提供する情報は君がさっき言ったとおりこのゲームの目的だよ 」

「まじか! 」

「まじだよ 」


 これは今まででもかなり決定的な情報だ。目的さえ分かれば今日までの課せられた選択肢なりバトルをこなしていくだけの意味もない日々から脱出して目的に向かって行動できる。すなわちこのゲームをクリアできる日も一気に近くなるわけだ。


 そうそうこんなテンションの上がる話の前に一つ悲しい事実もあるんだよ。先ほどから僕を冷ややかな目線で避けて通ってゆく人々。傍から見ればこの犬の喋っているのは日本語ではなく犬語にしか聞こえていないだろうから僕が一人で犬と会話する残念な構図が見事にここにある。もうこの際だから他人のそれも見知らぬ人の目なんて気にしてもいられないか。


「それで早速聞かせてもらうがこのゲームの目的はなんだ? 」

「じゃあ率直に端的に言わせてもらおう。このゲームの題名は現実ゲーム。ジャンルは恋愛シュミレーションゲームだよ 」

「恋愛シュミレーションゲーム? というと俗にいうギャルゲーってやつだよな? 」

「そうともいうね 」


 恋愛シュミレーションゲームとは自分がそのゲームの主人公になりきって何人かの女の子を攻略していくというゲーム。

 もちろんこのゲームを始めるまではゲーマーを名乗っていた僕もそういう系のゲーム何十本とやってきたがこの現実ゲームが恋愛シュミレーションゲーム? 確かに神春さんと付き合うというそれっぽい経験はしているがとてもじゃないけど変なバトルがあったりとこれを恋愛シュミレーションゲームというにはおかしな部分もある。


「その顔は疑問の顔だね。でも僕っち嘘は言ってないよ。ほら君はこれまでの人生の中でもありえないほど女の子とのイベントをこなしてきた。例えば新田氏とだったり妹の夢葉氏とだったり、ほら神春氏とのもそうだよ。それにこのゲームを買うときパッケージを見てこういうギャルゲーのようなゲームかなとも思ったはずだよ 」

「そういえばそういう感じの絵でそう思ったなぁ。でもそれならどうしてバトルとか変な要素を入れたんだ? 」

「このゲームは試作品第一号でね・・簡単な話プレイヤー様も作りなれていないというかよく知らなかったという感じなんだよね。だからこのゲームにそういう要素が入っちゃったのさ 」


「で、恋愛シュミレーションゲームというのは理解したが結局どうすればいい 」

「一人の女の子を攻略すれば終わる。どこまでいけば攻略といえるのかはプレイヤー様に流石に怒られるから控えるけどその代わりにアドバイスを送るよ。新田さんの告白にちゃんと考えて答えてあげて。そうすればきっとうまくいくから 」


 犬はそれだけいうと姿を消した。「うまくいく」の意味はよく分からなかったがしっかり考えて答えなければいけない。改めてそう思いなおしゆっくりと家に帰った。

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