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現実ゲーム  作者: フリー88
最後の選択肢
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告白その2-新田ー

「……くん。大庭くん 」

 聞き覚えのある声がする。僕を呼ぶいかにも心配そうな声。


 パチリと目を開き見えるのは覗き込むように見る可愛らしい神春さんの顔。ほんの数センチしか離れていないのでまじまじと見つめ合って、垂れる黒髪からはシャンプーのいい香りも漂う。

 僕はどうしてこんな状況だ? 足を引っ掛けて上に乗っかかるようになっちゃた系の超絶ラブコメイベントでも発生中なのかな? 待て、記憶をたどろう。確か最後の記憶は……。


 そこまで考えてやっと理解した。写真のバトルでHPがなくなったんだ。前回HPが尽きたときも意識を失ったし間違いない。


 とりあえずいくつか確認。画面左下の表示は『残りライフ1』。前回、ライフが3から2になったときはしばらくの間選択肢なりの数が増加した。今回はどんな試練が待ってるかは分からない。ただあのプレイヤー気まぐれで前回も結局しばらくすればいつも通りに戻ったしなぁ。

 次に他の異常。見たところ異変はなく場所も神春さんの部屋のままで時間もそれほど経っていなさそうだ。


「ごめん、ちょっと色々あって。ところでどのくらい意識なかった? 」

「ほんの10秒程度だよ。でも安心したよぉ。もう頭の中真っ白で 」


 現時点で僕の命がなくなるとかそういうことがなくて安心するが逆にいえばこれからは崖っぷちの状況にずっと立たされるわけだ。なにせもう残りライフは1で次尽きたら終わりだからなぁ。もし0になったらどうなるのか。

 そういえば北条が1回死ぬごとに世界がゲームになるとか言ってたっけ。その真意はいまだによく分かっていないがヤバいのは確かだ。


「もう今日はこのくらいにして帰る? 疲れてるみたいだし。ほら目の下にクマができてる 」

 倒れたのを気にかけてそう心配してくれる。クマができてるのは昨日夜更かしをしたせいだが、今のはゲームのせいで倒れただけ。「大丈夫」と断ろうとしたとき選択肢のご登場。


1、そうさせてもらうよ

2、そうさてもらうヨー、ヨー

3、そ、そうするわ。べ、別にあんたのために帰るんじゃないんだからね。


 すべて同じ意味。しかもとことん僕と反対の意思を示す。まぁせっかくなのでそれぞれに解説を加えていこう。

 まず1。超ノーマル。

 2、ラップ気味のいいかた。なんかウザイ。

 3、ツンデレ風。いや、これは神春さんの家から離れるんだから単に捨てゼリフのほうが適切か。


 吟味した結果やっぱノーマルが1番だよね、とうことで非常に残念だが「そうさせてもらうよ 」といって神春さんの家を出た。




 次の日の朝、僕は元気に学校に登校した。不思議なこともあるもので増加するはずの選択肢はあれから1度も出てこなかった。もちろんバトルやミッションも。なにか裏事情があるに違いないのだが悩んでいても仕方が無いのでこうしていつも通りなわけだが。


「おはよう、大庭。好きだよ 」


 教室に入って新田が開口一番、爆弾発言を浴びせてきた。なんだっていうんだ。新田が僕のことを好きというのもありえない話だが、それ以前に告白チックなセリフを挨拶代わりに皆の前で言った。

 始めは突然の告白に戸惑いと驚きで固まっていた僕だったが徐々に冷静になると理解する。からかっているんだな。クラスみんなで打ち合わせして僕のアタフタする様子を楽しもうということか。たちの悪い悪戯だからこそここは思惑には乗るまい。


「あぁ、はいはいそうですか 」

 僕は適当にあしらってる風を装って自分の席につく。経験上こういう悪戯は相手にするから面白がってもっとやってくるものだ。つまりそれを逆手に取った興味ない作戦。


 決まった、と確信してチラリと新田のほうを見る。

「うぅっ、バカ! 」


 涙目になりながら教室を出て行く。他のクラスメイトを見てみても状況を把握できずポカーンと口をあけているだけ。あれ、もしかして悪戯じゃなかった?

 今になって気づくがもう後の祭り。だからこそ今の自分にできることをやるまでだ。僕は校内に響き渡るチャイムの音など無視して教室を飛び出した。


 中庭や体育館裏と1人きりになるのに適した場所をまわって最後にたどりついたのが屋上。そこには隅のほうで小さく体育座りをする女の子の姿があった。


「あのさ新田 」

「気にしないで、教室に戻ってよ。生徒会長なら遅刻は駄目でしょ 」


 もう泣いてはいなかったがそれでもいつもの明るい顔ではない。なんと言われようとこんな悲しそうな女の子を放っては置けないしなによりこれの原因を作ったのも僕なのだ。


「1つだけ確認させて欲しい。さっきのは本気だったのか? もしそうなら謝らせてくれ。いきなりなものだからてっきり冗談と思ったんだ 」


 新田は僕のほうをじっとみつめながらじっくり考える素振りを見せて

「それがよく分からなくて……。アンタが急に入ってきたと思ったら勝手に体と口が動いて。もうなにが何だか分からない 」


 勝手に動く? もしそうなら教室で皆の前での告白は納得がいく。でもどうしてそんなことに。唯一心当たりがあるとすればあのゲーム。でもあれは今まで僕にしか干渉はしてこなかった。いや、昨日バトルで負けたことが関係しているのかも。


「ごめん、僕のせいかも。言いたくないことをあんなところで言わせちゃって 」

「何で大庭のせいだし。もし悪いなら私のどうかしてる精神でしょ 」

 事情を知らない新田は変な責任感を覚える僕に笑ってそういう。

 だがその笑顔が刹那、真面目な顔へと変わって大きく深呼吸する。


「勘違いしてるみたいだからこれだけは言っとく。ってかここしばらく、あんたが神春ってやつに告白してからずっと言おうと思ってたことだから 」


 次の1瞬、まるでビデオのスロー再生のようにゆっくりと新田に口が開く。否、実際には僕がそう感じただけだ。


「好きです。なんかあのとき勝手に口が動いたって言ってそれは本当だけどでもあのとき伝えた気持ちは確かに私の気持ちだよ。アンタが神春のことを好きで付き合ってることくらい知っている。でもここで伝えておかなくちゃ後悔するって思った。私が今いってることだって聞き流してもらってもいい。でももう一度、もう一度だけ言うだけ言わせて。私は大庭のことが世界で1番大好きだぁーー!! 」


 新田は彼女のすべてを吐き出すかのようにそう叫んだ。

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