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現実ゲーム  作者: フリー88
最後の選択肢
37/43

初デートでバトルを満喫

「何か話そうよ。ずっとこのままというのもおかしいし。そうだ卒業アルバムとかないの? 昔の神春さんをみたいよ 」


 神春さんの家で初デートをやってるのだが選択肢のせいでどこか気まずい雰囲気の僕たち。初デートが一切の会話なしで沈黙で終わるのは避けたいので話題を作る。

 ちなみに卒業アルバムにしたのは定番だから。


「うん、待ってて今出すから 」

 やっと沈黙の気まずい雰囲気から開放されることにほっとした神春さんはそのまま机の引き出しを開ける。探すほどもなくパッとアルバムを取り出してきて僕の前でひらげた。


 自分から提案しておいてなんだが、昔の神春さんはどんな顔なのか、今みたいに可愛らしいのかと考えるとわくわくして早く見たい!


 そう思って1ページ目をめくろうとしたときまたもや眼前に文字の表示。ところが今度は選択肢ではなくバトル。今更だがバトルって結構レアだよな。そのくせプレイヤー様の気まぐれのせいで1日に2回や3回でHP削りにくるし。


『神春さんよりも早くアルバムに写るすべての神春さんを見つけよ。1つ先を越されるごとにダメージ。ただし写る神春さんの数は9枚』


 なんだよこの○○を探せ的なノリのバトルは。どっかの小学生がやってそうだな、先見つけたほうが勝ちみたいなゲーム。

 でも高校生の僕にとっては真剣な勝負。なにより彼氏なんだから彼女を一瞬で見つけてもおかしくはない。これは僕のHPもかかってるけど彼氏としての力量も試されているわけだ。


「ふぅー 」

 気合を入れなおすようにして息を吐き1ページ目をめくる。どうしたの、と神春さんが聞いてくるけどどうか気にしないでくれ。


「あ、ほらここにいたよ、私。なつかしぃなぁー、修学旅行で集合写真を撮ったときのときだね 」

「ぐはっ、先を越されただと!? 」

「ホントにどうしたの!? 」

「なんでもない 」


 僕の事情など知るよしなどなく1枚目の神春さんを見つけられる。ううっまだ少し幼い顔で今とはまた違った可愛さがあるけど……。集中、集中。

 HPは13減って残り37。計算上後3回も耐えられないだと! 絶望的な状況に思わず「うぎゃーー」と悲鳴をあげる。今の僕って神春さんから見たらただ一人で発狂している頭のおかしい人でしかないけどね。


「つ、次のページにいこうか 」

 1ページ目は卒業式の全体の写真だったので他に神春さんが写っている余地はない。安心して、けれどまた始まる試練に集中力をさらに高める。


「次のページはクラブごとのだったっけ 」

 ページをめくる寸前、神春さんが曖昧な記憶をたどってふとそんなことを言う。


 待てよ、神春さんは自分のクラブを知っているわけでそうなると神春さんより早く見つけるのは困難極まりない。もちろんそんな困難をも乗り越えてこそかっこいいヒーローなのかもしれないが僕には不可能だと知っている。


 じゃあ1つ奇策を繰り出すのも1手か。その名も「ヒーローには運も味方するぜ 」作戦。要約すると開いた瞬間ランダムで指を指して運が味方につけばそれが神春さんで僕の勝ちというものだ。確立論的には低すぎるが賭けにでるしかない!


「これ、神春さんじゃないかな! 」

 ページをめくるやいなや目をつぶってアルバム右ページの中央を指差す。お願い! 神様。


「え? こ、これが私? そんな、大庭くんはそんなこと冗談でも言わない人だと思ってたのに! 」

 ちょっと待て、僕はなにを指差した? これで違う人だったりなにもないところを指差しても傷つくことはなく冗談で済ませられると思ってたのに。冗談で済ませられないもの? 僕はなにをしてしまったんだー!


 恐る恐る自分の右手ひとさし指の先を見る。背は人間、こげ茶色の無数に生えた体毛に屈強な両腕両足は大きく人間離れしている。

 ゴリラ、勇ましそうでハンサムなゴリラだ。正確には本物ではなく背景に飾ってある絵本の表紙の絵。だが紛れもなく僕の人差し指はその絵を指していた。


 うわーどうしよう……。超低確率を引き当てちゃったよ。僕、彼女をゴリラって言っちゃったよ。弁解のしようもないよ。


 と、ここまで焦って僕は一つ重大なことに気づく。神春さんは既に僕のゲームの事情を知っているんだからこのバトルのことも説明してしまえばいいんじゃないか。

 さすればHPを気にしたり、この件について弁解もできる。「あのさ……」と説明しようとしたとき。


『追加。神春さんにこのバトルの件については終わるまで話してはならない。ただしゴリラについては記憶消去術で消し去るので安心してよい』


 この思わぬ落とし穴があったからとりあえず禁止しました感が満載のコマンドはなんですか。ついでにお詫びとしてゴリラ云々については解決しときますんでみたいな微妙な良心。ってか記憶消去術ってすっげぇ怖そうなんすけど。神春さんに後遺症とか残らないですよね。


「あれ? 私なんか変な感じだわ。うーんまぁいっか。それよいほらここに私が写ってるよ。私って手芸部だったの 」

 ちゃんと記憶消去術は施されたようで一応セーフ。ただし代償としてまたもやHPを削られていく。残りHPは24。規則正しく減っていく。まだ7枚もあるのに後1回しか失敗できない!


「次のページいこか 」

 あっさりとページをめくる神春さん。僕としてはもう少し慎重に行きたいんだが。


 さて後1回しか失敗できなくなった今また新たに作戦を練る必要があるのではないだろうか。

 ここからはクラブごととかクラスごとではないだろうからすぐに分かることはないだろうが記憶をたどってなんとなく自分がどこに写っているのかを覚えているかもしれない。それならば100%の負けではないが圧倒的不利なのに変わりはない。


 そしてその作戦は「自分が見つけるより相手をノックアウトさせよ! 」だ。要約しよう。つまり自分がページを開いて数秒の間に見つけるよりは神春さんに見つけさせないようにさせたほうが早いという作戦だ。

 具体的なこととしては神春さんに用事を任せてその隙に探す。完璧!


「あのさぁお茶新しく入れてくれないかな。ほらもう無くなっちゃって 」

「うん 」

 そう言いながらコップに入った満タンのお茶を飲み干す僕。


 神春さんは僕の不可思議な行為に首をかしげながらも持ってきていたお茶のペットボトルを手に取りコップに注ぐ。全然時間稼げないし、すぐそこにペットボトルがあるのに神春さんにお茶入れさすとか僕はどれだけ怠慢なんだろう。


「神春さん! 僕のカバンから携帯取ってくれないかな 」

「カバンなら大庭くんのすぐ後ろだけど 」

「えーっとえーっと僕の変わりにこの宿題やっておいてくれないかな 」

「どうして私が? 」


 あーっもっとマシな建前はないのか。なんとか神春さんに別のことをやらせようと考えるが、いかんせん僕の頭はそれほどよくないのでなにも思いつかない。


 というよりこのちょっとした隙で必死に探しているんだけど全然見つからない。この僕の些細な努力も実らずこのページに神春さんは写っていないらしい。

 さっきから運がない。そう思って次のページをめくろうとした時


「あ! これ私だ!! 」

 そうやって神春さんが指差すのはクマの着ぐるみ。


「これは学園祭のだね。クラスで着ぐるみ喫茶をやったんだ。楽しかったなぁ 」

 分かるかよ! クマの着ぐるみで顔もすべて隠れてるのにどうやって当てろと? 確実に僕のHPが削られていく。

 残りHP11。毎回13ずつ効いているのでもはや1度も失敗できない。うん、ふつーに無理ゲーです。


 結果……

「あ、私これだ! 」


 次の写真も僅かな記憶を持つ神春さんにあっさりと先を越された。そして僕のHPも完全に尽きて終了。まるで目まいでも起きたかのように真っ暗になった。

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