初デートは彼女の家で
選択肢はときに残酷だ、だったらまだよかった。でも実際は選択肢は常に残酷だ。だからこそ神春さんの家に部屋に2人きりで気まずい雰囲気をかもし出しているのである。
時はさかのぼって前日の午後5時ごろ。つい数日前に神春さんといわゆる恋人関係になった。そのことを思い出しては浮かれて沈んでを繰り返す時間。数日経ったのにまだこんな気持ちなのかと思われるかもしれないが僕の人生の3本の指に入るそれほどの事件だった。
『プルルルルプルルルル』
突然の携帯電話の音に驚き表示を見ると神春さんでまた驚く。本当は緊張の気持ちのほうが強かった。このまま電話に出れば噛み噛みの裏声にならないか心配だったが待たせてはいけないと急いで出る。
「ひゃい。大庭 希です 」
しまった。予想通りの噛み噛みの裏声になった「ひゃい」に加えて「大庭 希です」と。僕の携帯にかけてきたのに他に誰が出るんだ?
「あのね・・大庭くん 」
神春さんは偉いなぁ。僕のミスにも気にかけずスルーをしてくれた。いや、このときから既に彼女の声は緊張していたしそんな些細なことに気を遣う余裕が無かっただけかもしれない。
「明日暇かな? そ、その・・・・・・よかったら遊びに行かない。デ、デートといいますか。そんな感じです 」
最後のほうは恥ずかしさを紛らわせるためか随分と早口だった。
とはいえ初デートに誘おうというのだから無理もない。ここは男の僕から誘うべきだったのだろう。まったく情けない。
「暇だけど場所は決まってるの? 決まってないのならせめて男の僕に考えさせて欲しいんだけど 」
「はい、ちょうどどこに行けばいいか分からなくて相談しようとしていたところです 」
「そうだね・・・・・・ 」
やっと男らしくデートプランを考えられると思い、彼女の趣味も考慮しつつ行き先だけは考え始める。遊園地は前行って、他は水族館とか、映画館とか・・・・・・。そうやっていくつか例を浮かべていると恒例の選択肢が出現!
1、初デートはホテルでしょ
2、初デートは彼女の家でしょ
3、初デートは交番でしょ
4、初デートはハワイでしょ
えーと、1のホテル即却下ですね。エロいことしか考えてねぇじゃねぇかよ!!
2はうん可能性0ではないが初が彼女の家ってのも偉く大胆ですね。
3は一体なにをしたんだろうね。あえてスルーさせてもらうよ。
4はどこの金持ちだろう。僕たちはただの一高校生だぞ。ってかもしこの選択肢を選んだら強制的にそうなるんだよな。お金がどこから出てくるかはともかくやってみたいなぁ。
結論2しかない。不本意だが、初デートなんてもっとも大事なのにこれを選ぶしかない。
「えーっと選択肢の結果神春さんの家ってなっちゃったけど大丈夫? 」
「え、え~!? ほ、ホントに!? あ、いや大丈夫だよ。あ、明日は両親いないから大丈夫だよ。大丈夫。間違いが起きても大丈夫! 」
僕としてはまったく大丈夫なんかじゃない。両親がいないだって? こうなったら間違いの起きぬよう自制心を今の内に鍛えなければ。
「い、いらっしゃいませ 」
次の日の日曜日。どうしてか店屋のごとく「いらっしゃいませ」と神春さんに出迎えられる。
神春さんの服装は純白のブラウスに下は膝上までの紺のスカート。その服装は落ち着いた性格の神春さんによく似合い可愛いの一言だった。
「どう、かな? 」
「可愛いよ。凄く似合ってる 」
やはり好きな人への見た目にはより一層気を遣うものであるらしい。僕は偽るわけでもなく期待通りの言葉をかけてあげた。
「どうかあがってくださらないでしょうか 」
緊張のあまりか逆にあがるのを頼まれちゃったがここでネチネチ言うのはかっこいい男のすることではない。「おじゃましまーす」の言葉とともに靴をそろえてあがる。
「こっちだよ 」
彼女の後ろを追うようにして2階にあがりすぐ手前の扉が開かれた。
おぉ! 家族である夢葉の部屋を除けば女の子の部屋に入るのは初である。壁やカーテンなどがピンク色で見た目だけでも華やかな部屋。そこには主にベットと机、服を入れるようなのか引き出しが置かれてあり、ベットの上にはいくつかの可愛らしいぬいぐるみ。においもいつもの神春さんと同様まるで何かの花のようなにおいがする。
「適当に座ってくれるかな? 」
その彼女の言葉でさぁいっぱいおしゃべりをして初デートを楽しもう、そう意気込もうとした時だった。ちょうど選択肢の登場。まったくこいつはいつもつも大事なところで。
1、ベットに座って「早速やっちゃおうか。早く神春さんもこっちに」
2、ベットに寝て「早速やっちゃおうか。早く神春さんもこっちに」
って1も2も変わらないじゃねぇか! まったくエロいことしか考えないプレイヤー様だなぁ。もう1でいいよね。
よって僕はベットに座って
「早速やっちゃおうか。早く神春さんもこっちに」
「え、えぇ!? 」
当然のことながら顔を赤らめる神春さん。ただゆっくりと恐る恐るベットのほうへ歩いてきてついに僕の隣に座る。
「ぬ、脱ぐよ。それとも脱がせたい? 」
選択肢のせいなど微塵も思わずやろうとしてくる。うぅっ流されては駄目だ。
「ゴメン選択肢のせいだから。ほんとにゴメン! 」
「ふぇぇぇっ!? 」
というわけで現在に至る。つまり1度やろうとしたことから向こうが一方てきに気恥ずかしくなっているわけだ。




