告白の返事その1-神春ー
「好きです。付き合ってください 」
先生は黒板に向かってひたすら文章の解説を、あるクラスメートはそれを真面目に聞いて、またある生徒は他の科目の宿題を隠れてやって、さらにある生徒はノートを写しているフリをしながら落書きをしていた。
やっていることは違えど、その静かな中でその大きな声は一際際立つ。皆がいっせいにこちらを振り向き不思議そうな顔で見ている。突然すぎてまだ理解が追いついていない。
一方肝心の神春さんはといえば
「え、えぇと・・・・・・分かりました 」
あまり迷わずにそう言った。もしかしたら突然すぎてこんがらがっているのかもしれない。あるいは僕ならこんな非常識な真似もすると読んで返答を考えていたのかもしれない。いや、普通に考えて前者だけど。
とにかくOKをもらえる僅かな確立にかけたと思っていたのも表面上でしかなく実際にOKの返事をもらっちゃうと今度は僕のほうが理解が追いつかなくなる。
『パチパチパチパチ』
「ひゅーひゅー 」
「よっお似合いカップル! 」
先生よりも一足先に理解不能の呪縛から解けた生徒たちは次々に冷やかしの言葉を入れる。
続いて先生が我に返って
「き、君たち!! いや、大庭!! 廊下に立ってろ!! 」
顔を真っ赤にして先生は怒鳴る。まぁ妥当かな。元よりあの選択肢を選んだ時点でろくなことにはならないと知っていた。
ただ結果として神春さんにOKされたことはよかったことなのか。僕の告白が選択肢に強要された真のものじゃないし神春さんの返事だって咄嗟のもので実際の気持ちは程遠いものかもしれない。いっそのこと断られて終了のほうが気が楽だった。とりあえず昼休みぐらいにでもゆっくり話をするか。
その前にこっぴどく叱られそうだが。ってか僕これから生徒会長になるのに大丈夫か?
「それで・・・・・・ 」
場所は屋上。是が非でもついてこようとする邪魔な石動には腹パンチによって中庭で眠ってもらいここにいるのは神春さんと僕。
もちろん話題は今朝の告白のこと。
「私は本気だよ。大庭さんは選択肢のせいで本気じゃなくてもです 」
選択肢のことを知っていてあの不自然な告白を目撃すれば大方選択肢のせいだと予想はつくだろう。さらに彼女は動揺して心にもないことを言ってしまったのでもない。
彼女はあの中で唯一冷静に本気で答えていた。
「私は本気で大庭さんのことが好きです。あの日大庭さんと別れなくちゃならないのが辛かった。頑張って大庭さんの涙を見ないようにはしましたけどそれでも辛かった。だから今日もう一度会えてとても嬉しかった。もう離れたくもない。そんな私を好きになってくれませんか? 付き合ってくれませんか? 」
泣きそうになりながら否、最後のほうは目が潤んでいるようにも思えた。とにかく神春さんはそこまで必死で僕のことを思ってくれるか弱い女の子なんだ。
彼女は僕が泣かしてしまった。もう彼女を悲しく泣かしてはいけない。そんな無責任な責任と罪悪感から僕は「付き合おう」と答えようとした。
しかしこんないい雰囲気を平気でぶち壊したがるのがプレーヤー様で選択肢だ。僕のあらゆる言葉さえ遮って選択肢は登場する。
1、「僕明日には転校するんだ。これでまたお前はひとりぼっち。ざまぁ! 」と言ってまじで転校。
2、「僕ここから死んでやる。これでまたお前はひとりぼっち。ざまぁ! 」と言って飛び降り自殺。
3、「パンツ見せてくんない? 」と急な話題転換しつつスカートをめくる。
4、「胸のサイズって何カップ? 」とさっき聞けなかった質問をしつつ神春の胸を揉む。
5、無言で立ち去りこの後1週間なにも話さない。もちろんメールや筆談なども駄目だよ。
うーん、選択肢の数はいつもより増えて選べる余地ができたわけだが今回のも酷くねぇか? 今朝のも酷かったしちょっとあのプレイヤー様本気出してんのか?
とりあえず今はこの絶対に選ばなければならない選択肢を選ばなくては。
まず1と2。今の僕と別れて辛かったという話の流れから「これでまたお前はひとりぼっち。ざまぁ!」がついているのは明らか悪意しかない。それだけなら選択肢のせいだと言って最悪は逃れられるが転校しちゅのかよ。2なら死んじゃうよ。
もしこれで死んだら死んだ理由は・・・・・・クラスメイトを陥れるために自分が死にましたってか。なんか支離滅裂だな。
続いて3。話題転換は確かに話題転換だけどさ、話題転換しすぎだろ! どうして告白の返事からパンツ見せてくれになんのかな。おまけにスカートをめくりにいくなんて。
4について。さっき聞けなかった質問って別に僕は聞きたいわけじゃないぞ。もうくどいので「おまけに胸を揉むなんて」と突っ込まなくてもいいよね。
最後の5。パッと見一番ましだがこの精神的苦痛に1週間も耐えるのは死ぬよりも地獄だと思う。告白の返事をせずに無言だよ。で、メールや筆談なども駄目の制限をしっかりつけるのは用意周到だ。
さてどれにするかだがまぁこれが一番ましかな。
「パンツ見せてくんない? 」
それだけいうと僕は相手に考える間も与えず神春さんに向かって低姿勢で光速移動。かるたでも取るかのような手でスカートを払う。ふわりとスカートはめくれて視線はパンツではなく後ろを振り返る。よし完璧だ。
「なっなっ! 何を!? 」
当然のことながら頬を真っ赤にさせる。すぐに弁解をしよう。
「これは選択肢のせいで・・大丈夫見てないから、見てないから! 」
「う、うん 」
「それでさっきの続きだけど 」
選択肢のせいで妙な雰囲気になたが仕切りなおしだ。咳払いをいれて
「付き合おう」
「はい 」
今度こそ何の邪魔も無く言えた。そして神春さんからは素敵な返事が返って来た。




