告白その1-神春ー
「はい、じゃあ席につきなさい。今日は転入生がいる。といっても皆がよく知っている人だがな 」
生徒会長当選が決まった日の朝のホームルーム。先生が入ってくるなりそんなことを言い出すが、僕にはその転入生がだれだか予想はできる。
一方で教室は騒がしくなり一体誰なのかの憶測が飛び交う。モデルとか役者をやっている有名人だとか、先生のハッタリだと疑う生徒など。
「じゃあ、入りなさい 」
そんな騒がしい声を制して先生が転入生を教室に招き入れた。
周りの反応を気にしながらおどおどして教室に入ってくる。長い黒髪で赤ふちの眼鏡をかけた少女。先生の紹介どおりこのクラスで彼女を知らない人はいないだろう。
皆も彼女を見た瞬間意外そうな顔はしたがすぐに納得した顔になる。
そう彼女とは神春憂奈、名目上は家庭の事情、実際はあのゲームマスターのわがままのせいで転校する羽目になったのだが、今日僕が生徒会長に当選して天童先輩からのミッションを達成したので戻ってきたのだ。
「一言もらえるかな? 」
「神春憂奈です。この前家の都合で転校したばっかりですが、また戻ってこられることになったので戻ってきました。また皆さんと仲良くできることを期待しています 」
神春さんの声だ。懐かしい。実際に声を聞くことで実感が沸いてこれからまた神春さんと過ごせる日が楽しみで仕方がない。
そういえば、最後分かれる前に遊園地に行ってキスをされったっけ。あのときは次の日にいなくなってしまったのであのキスの真実を知ることができなかったが帰ってきた今ではすぐに知ることができるだろう。
とはいっても今まで夢葉に以外モテたことのない僕が恋愛的な好きと言う意味でされたとは思えない。外国とかでされるようなお別れのキスぐらいのものと考えるのが1番妥当だろう。
「じゃあ、席に着きなさい 」
「はい 」
神春さんは先生に指示されるわけではなく自ら僕の後ろの空いている席に座る。友達の僕に一言ぐらい言葉があってもよさそうだが、授業中ということやスイッチが入るまでの彼女は大人しいという特性のせいか無言だった。
1時間目の古典の授業が始まった。当然のことながら授業に集中することはできない。頭の中では始めの一言目はどのタイミングになんと言ってどんな顔をすればいいか、そんなことを考えていた。
ここは次の休み時間ぐらいにでも「久しぶり、元気にしてた? 」とオーソドックスに決めるべきだろうか。いや、ありきたりすぎるのも面白くない。じゃあ、意外性をついて「好きです。付き合ってください 」だろうか。それとも面倒な挨拶は無しでいきなり神春さんがいなくなった理由やこの数週間のことを話すか。
授業中ながらも色々そんな考えを巡らせていると背中につんつんと突かれている感触がした。反射的に後ろを振り返ると神春さんが人差し指で背中を突いている。
「どうして、何も声をかけてくれないんですか? 普通男の子から声をかけるものじゃないですか? 楽しみに待っていたんですよ 」
一応先生には聞こえないように小声で話しかけてくる。それにしても意外だった。まさかあの神春さんが授業中にひそひそ話しをするなんて。
幸いにも先生はずっと黒板のほうを向いて授業に集中しているのでこの程度の話し声ならこちらに気づく気配はない。
「休み時間にでもゆっくり話そうと思って。ついでだから聞くけど今回の事件・・神春さんが急に転校する羽目になったことの真実は知ってる? 」
「はい。このしばらくのことは今日の朝にあの北条さんに大体聞きました。でも不思議なことにこの数週間の記憶がないんですよね。だからどこで何をしていたなのかはさっぱり・・。気がついたら今日の早朝にベットの上で寝ていたんです 」
改めて疑問に思うのだが、マスターとは一体どれほどの力を持っているのだろう。こういうゲームを作って色んな操作をしたり、先ほどの神春さんの言っていたように記憶を改ざんしたり。またそんな凄い奴かと思えばいい加減だったり風邪を引いたりで。
「それだったら・・」
親の記憶はどうなてるのか、そう尋ねよとした時、例のごとく選択肢が登場する。
1、立って、「好きです。付き合ってください 」と大声の告白をする。
2、立って、「胸のサイズって何カップ? 」と大声で尋ねる。
3、立って窓の近くまで行き「付き合ってくれないならここから飛び降りる! 」と叫んでそのまま飛び降りる。
相変わらずというかまったく前後の会話との脈絡がなく、僕をおとしめるものばかり。とにかく一つずつ検討してこう。
まずは1番。公開告白という超恥ずかしい事態。これで振られでもしたら今後どうやって生きていけばいいのか分からない。
次に2番。まぁ、変態です。それ以外に言いようがない。
3番。この3階から飛び降りたらただ単に骨折で済めばいいほうでおそらく死が待っている。それに振られている前提というのが謎だ。
「それだったら、何ですか? 」
ええいっ、もうこうなったら僅かの確立にかけるしかない。
、「好きです。付き合ってください 」
立ち上がって大声でそう叫んでやった。




