降り積もる後悔の念
1、2人を置いて静かに家に帰る。
2、夢葉の試着室に入る。
3、新田の試着室に入る。
どれを選べばいいのだろう。もし、1を選べば2人からのお叱りの言葉を受けることになるだろうし、2・3を選べば周りからは覗き魔と思われてちょっとした騒ぎにもなりかねない。それに2の妹に対してならまだしも3の同級生に対して覗きは叫び声をあげられるのは目に見えているし、人間的にいけないことだ。
となると1か2なのだが、ここは1にしておこう。2を選んで面倒なことになるよりかは1を選んでちょっとお叱りを受けるほうが得策と考えた。1ならば被害を最小限に抑える方法も思い浮かぶ。
2人には悪いが言葉もかけずに服屋を後にした。
雲ひとつなくよく晴れた朝とは違い、どこから現れたのか雲で一面の空が覆われている。
『新田、夢葉本当にごめん。友達の石動が柔道の大会で決勝まで残ったらしいから今すぐ応援に行かなくちゃいけない。後は2人で楽しんでくれ。』
「送信っと。」
信号待ちをしている間、被害を最小限に抑えるメールを2人に送った。石動は今日柔道の地区大会があるといっていた筈だし、あいつの強さならたかが地区大会で決勝まで残るのは簡単なことだろう。だが、もちろんそんな試合を僕が見に行く訳ない。つまり嘘も方便というやつだ。いきなりいなくなって怒られるのは覚悟の上だが、これで少しはマシになるだろう。
それにしても2人は今頃どうしているだろう。トイレに行っただけだと気楽に待っているのか、あるいは迷子とか悪い人に襲われたかもと考えてショッピングセンター中を走り回って探してくれているのだろうか。
そして、メールを見た2人はどうなるだろう。そんなの関係なく2人でショッピングの続きを楽しんでくれるのか、そういえばこのまま2人が別れて夢葉が家に帰ってきたらどうしよう。そんな簡単なことも考えていなかったなんて。
僕の胸中は折角2人が楽しみにしていた今日を台無しにしてしまったことに罪悪感を感じ、1という最悪の選択肢を選んでしまったことを後悔していた。
「だめだなぁ、僕は・・・・」
青に変わった信号を渡りながらもし夢葉が帰ってきたときの対処法を考えることにした。
「じゃーん!お兄ちゃんどうかな?似合ってる・・・・ってあれ?」
着替え終わりお兄ちゃんに何と褒めてもらえるか楽しみにしながら試着室を出るとそこには誰もいなかった。トイレでも行ってるのかなぁ?それなら一言ぐらい声をかけてくれてもよかったのに。それともそんな余裕もないぐらい漏れそうだったとか?
「あれ、大庭いないじゃん。まあ、戻ってくるまで待つか・・・・」
すぐに新田さんも試着室から出てくる。うわっ可愛い!さっきまでのよりも白で明るい感じのこれのほうが絶対に似合っているわ。この前泊まりに来た時に彼女ではないとお兄ちゃんもこの人も言ってはいたが、やっぱり油断ならない人物だわ。
2人で何も喋らず1分、2分と時間は過ぎて10分経ったがお兄ちゃんは戻ってこない。いくらお腹が痛いとはいえ、これは長すぎではないかしら。
とりあえず連絡を取ってみよう、そう思って携帯電話を取り出したその時不意にメールの着信音が鳴る。驚いて思わず落としそうになる。メールはお兄ちゃんからだ。
「えぇーっと・・・・」
読んでみるとお兄ちゃんは石動さんの大会に向かったと書いてある。許せない!許せない!この日をずっと楽しみにしてたのに。何て褒めてもらえるかすごく楽しみだったのに。それともお兄ちゃんにとって私はそれだけの存在だったの?目からは一滴の涙がこぼれてくる。
「ねぇこれ・・・・」
新田さんは携帯電話の画面を私に見せてくる。どうやら新田さんのとこにも同じメールが届いたようだ。
「私のところにも・・・・」
「そう・・・・どうせだからショッピングの続きをしよ。大庭には後できっちりお返ししてもらうんだから。」
意外にも新田さんは前向きだった。新田さんもお兄ちゃんに裏切られたようでショックな筈なのに。
「はい、そうですね。」
私は涙を拭い、笑ってそう返事した。
あの後、服をあれ意外にもたくさん買ってさらには雑貨屋でアクセサリーを買ったりなど荷物は片手で持てないほどになった。新田さんはお兄ちゃんが間にいたので話す事は少なかったが、いざ2人だけで話してみると話していて楽しい人で、会話は弾んだ。そのおかげで暗い気持ちはすっかり飛んでいっていた。
さて、私はトイレに行きたくなったので外で新田さんに待ってもらっていたのだが。
「あれ?」
トイレから出てくると、お兄ちゃんの次は新田さんがいなくなっている。外には服とかが入った袋だけが置いてあり、中身が出てしまっているものもある。その瞬間嫌な予感が脳裏を走る。
誰か悪い人に襲われたのではないだろうか。ここは別館でショッピングセンターの中で唯一人通りの少ない場所。誰にも見つからずにやることだって可能だろう。
とにかくお兄ちゃんに電話だ。私はお兄ちゃんに電話をかけた。
『プルルル・・プルルル・・』
帰ってきてから1時間ぐらい。まだ後悔の念に浸ってベットに横たわっていたとき突然電話が鳴る。夢葉からのようだ。一体何のようだろう。というより今電話をされて何を話せばいいのだろう。
気づかなかったことにしようかとも思ったが、何コールも鳴り続けるので渋々電話を取った。
「はい。」
「お兄ちゃん!?新田さんがいなくなったの!誰かに襲われたのかも!どうしよう・・・・」
「・・・・警察に電話しろ!」
焦った声の夢葉に対し、そう言って僕は外に駆け出した。僕のせいだ。僕が2人を放っていったから!!
テスト前なのになぜか1日2話も投稿するなんて・・・・
評価を付けてくださるとか、「悪いところ」や「いい所」、「その他もろもろ」の感想などお待ちしております。




