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現実ゲーム  作者: フリー88
生徒会長選挙編
22/43

お大事に。

 その日の授業は何一つ頭に入らぬまま終わった。石動に昼ごはんを誘われたりはしたがそんな気分ではないので断ったし、向こうもそれ以上は話しかけてこなかった。

 放課後に靴箱のところで靴を履き替えるときも、帰り道にいつもの弾丸トークが聞こえてこなかったときも神春さんがいないことの実感がさらに増して後悔の念が積もってゆくだけだった。僕にはどうすることもできないし、親の都合ならしょうがない。


 そうは思いつつも家には入らず、僕はいつのまにか天童先輩と会った場所にきていた。なぜここに来たのか自分でもよく分からない。もしかしたら彼女に話して少しでも楽になりたかったのかもしれないし、彼女やプレイヤーに聞けば解決してくれると思ったのかもしれない。

 来てみたはいいが、いつもどおり天童先輩はそこには見当たらない。そういえば、前に大声で叫んだらマンホールの下から出てきたことがあったっけ。それならば今回も試してみる価値はある。

 そう思って思いっきり叫ぼうとしたとき。


「あれ?希くんじゃない。どうしたの?」

いつの間に。後ろを振り返ると天童先輩はいた。

「実はですね・・・。」

本来なら「どこから出てきたんですか。」とか「驚かさないでください。」とか余談を挟むところだが今の僕に余談を挟むような余裕はない。僕はいきなり本題に入ろうとした。

「ちょっと待って。」

そんな僕を制し、続けて

「希君の言いたい事はすでに知っているから。」

といった。

 始めから知っていて「どうしたの?」と聞いてきたのは反則のような気がしたが、今は手っ取り早くて結構だ。


「それなら話が早いです。何か解決策はないのですか。」

「う~ん・・・あるよ。」

それはあまりにも意外な答えだった。てっきりこの転校にゲームは関係していないとばかり思い込んでいたが、「ある」と答えられた以上あのプレイヤーの仕業と思うのが普通なのかもしれない。

「えーと、プレイヤー様曰く今から私が発令するミッションをクリアすれば戻ってくるらしいよ。」

「ミッション?」

 ミッションとは初めてのものだ。ただ、よくあるゲームなどの例を見るとおそらく、クエストは自分の意思でその依頼を受けるもので、ミッションは自分の意思に関係なくしなければならないといったものであり、根本は変わらないのだろう。

「今回のミッション内容はずばり、生徒会長になれ!です。つまり次の生徒会選挙に立候補して会長になればクリアということです。」

神春さんが転校したのだから神春さんと、どうこうしろというものなのかと思っていたが予想は大きくはずれた。なぜ生徒会長なのかつっこみたかったが、プレイヤーを楽しませるためなのだから何でもありなのかもしれない。


「それではミッション発令です。」

画面には『ミッション生徒会長になれ!が発令されました』と表示された。


 聞きたい事は聞けたし、夢葉を待たせてはいけないのでさっさと天童先輩と別れ再び帰路についていた。問題解決の糸口は見えて一時よりは安心したがこの僕が生徒会長になるのは至難の業だ。なにしろ、勉強はいまいち、素行も別段すばらしいと思われているわけでもなければ、友人関係が豊富なわけでもない。どうやって生徒会長になればいいのかと考えているとあっという間に家についた。


 扉を開けると頬を膨らませ怒った顔をした夢葉がいた。

「まったく何をしてたの、お兄ちゃん。」

「悪い、居残りさせられてて。」

これ以上詮索されないような嘘をつくのがベストだ。下手に「何もなかった」などとごまかすと、かえってどんどん質問されて本当のことをいいかねない。

「早く手洗ってね。もうごはんできてるから。」

長く待たせてしまってずいぶんと怒っているのかいつもとは違いそっけなく言われた。


 今日の夜ごはんはカレーライスだ。さっきまで不機嫌だった夢葉もごはんを食べていつもどおりになった。

「なあ、生徒会長になるにはどうしたらいい?」

一人で考えても仕方がないと思い、妹に助けを求めた。

「お兄ちゃんが生徒会長?いきなりどうしたの?」

当然の反応だ。僕が生徒会長をやること自体想像できないし、いつもそう言うことには無関心の僕がいきなりそんな事を言えば驚くのも無理はない。

「え~っと・・・新しい事をはじめようと思って。」

「やっぱ変だけどまあいいや。それで生徒会長になりたいの?」

僕が新しい事を始めるのは変とはっきり言われては流石に傷つくがここはおとなしくしておこう。

「そうだね・・・まずは公約とか決めるんじゃないの。」

確かに僕だって誰を選ぶかを公約で判断する事は多い。ならばどんな公約がみんなからの票を集めやすいのだろう。

「私もよくは分からないけど具体的かつみんなが喜びそうで実現可能なのにしたらどうかな?」

流石わが妹、的確なアドバイスだ。だが、みんなが喜びそうといわれてもパッとは思いつかない。風呂に入ってじっくり考えようか。


 結局風呂に入って考え付いたのは「定期考査をなくす」とか「授業時間の短縮」などというろくでもないことだった。こうなったらだめもとで石動に電話しよう。あいつのことだから僕と同じようなことしか思いつかないとは分かっていても今頼れるのはあいつしかいないので電話をかけた。

「はい、石動だけどこんな時間にどうしたんだ?」

「えーっと・・・」

今回の騒動のいきさつについてすべて説明した後何かアイデアがないかを尋ねた。


「そうだな・・・焼きそばパンの増量とかどうだ。人気のくせしてもとの数少ねぇからよ。」

案外まともな答えが返ってきた。今まで食べられなかった人も食べられるようになれば喜ぶだろうし、実現も可能だろう。これは採用しよう。

「他にはないのか?」

「すまん、これ以外は思いつかねぇ。そうだ、明日クラスの奴にアンケートとったらどうだ?色々出てくんじゃねえか?」

これまたナイスアイデア。風邪でも引いて、いいほうに頭がおかしくなっていたりするのだろうか。いや、そうに違いない。彼のいつもの頭の悪さから勝手にそう決め付ける。

「ありがとな。じゃあまた明日。そうそうお大事に。」

彼の風邪(僕の妄想)が早く治るよう願った。








1話辺りの字数を1000字程度から2000字程度に増やして、1日1話以上更新は難しくなりましたが2日に1回ぐらいは更新するので安心してください。これからもご愛読のほどよろしくお願いします。

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