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東の主婦が最強  作者: くりはら檸檬・蜂須賀こぐま
第9章 南都攻防戦 開戦前夜
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9-4 作戦会議

 本陣の中には,かがり火が焚かれていた.

 方形に張り巡らされた幕をめくって,中に入るセキシュウの後に,シノノメは続いた.

 低い声で,それでいて熱心な議論が交わされている.

 本陣の中央には,組み立て式の机.

 その上には,羊皮紙の地図が広げられていた.

 魔法で描かれたらしく,周囲の地形が立体的に見える.

 素明羅スメラの軍人,NPCの布都主フツヌシと,プレーヤーが四人.シュウユ,カゲトラ,チューイ,それに軍師としてユグレヒトが参加していた.


 「約状の時間は,明朝八時.おそらく奴らは白虎門の中央突破を狙うでしょう」

 ユグレヒトの言葉に,シュウユが頷く.

 ユグレヒトはすっかり素明羅の軍師としての存在感を発揮していた.


 「アームストロング砲の一斉水平射撃後,鉄砲隊を前面に出してくるじゃろうか?」

 ドワーフの軍人,チューイが質問する.彼はプレーヤーであるが,素明羅の南方軍と武士団,不二才ふにせ組を預かる武将でもある.


 「先に戦闘奴隷を押し立てて,人間の壁にするかもしれません.さらに間をおかず,上空に飛行船を配備する」

 

 魔法地図の上に,三隻の飛行船が浮かんだ.


 「飛龍でなく?」

 カゲトラが髭を撫でながら首をかしげた.


 「飛龍は実は,あまり怖くない.見た目は派手ですが,炎竜に比べると戦闘力が弱いし,一人しか乗れません.それより怖いのは,空挺部隊ですよ.飛行船で大人数を運び,落下傘で降りてくる.旧日本軍のシンガポール攻略戦みたいな展開を狙ってくると思うな.ヨドン河があって良かった.なかったら魔獣の戦車部隊との連携で,一気に陥落させられるでしょうね」

 ユグレヒトは論理的で冷静な分析を披露した.


 「二千人対十万人の戦い,そしてドイツ電撃機甲部隊に,空挺部隊か.中世世界に第二次世界大戦を持ってきてどうする気だ! 戦国時代に自衛隊がやってくるどころの話じゃないぞ! ノルトランドの馬鹿どもめ!」

 シュウユが机を叩いて怒りをぶつけた.あまりにも理不尽,アンフェアな戦いが始まろうとしている.彼の怒りは至極当然である.


 「異世界,外つ国の戦法ですか.しかし,想像を絶する兵力ですな.小国連合が1時間程度で全滅したのも道理だ」

 布都主が腕組みをして唸る.NPCの彼らにとっては,全く次元が違う戦法なのだ.魔石を焚いて蒸気機関に似た動力を作るのがやっとのNPC達にとって,千年近い未来の戦争の姿である.


 「無理はもっとも.だが,負けられん戦いじゃ.我らの勝敗が,この世界の未来を決する」

 チューイは顎髭を撫でて呟いた.彼の言葉はここにいる全員の総意だ.


 「会話を遮ってすまん,遅れた.シノノメ達を連れてきた」

 セキシュウが声をかけたので,軍議に参加していた一同は一斉に振り向いた.

 全員目が点になった.

 セキシュウが連れてくる三人組は,緑陰の魔法使いと,黒豹のエルフと,素明羅最強の戦士だったはずだ.

 ところが,入って来たのは,赤と青と緑の,メイドルック三人娘である.


 「えー,これは……」

 「まあ,火急の折だ,許してやってくれ」

 セキシュウが真面目な顔をしているのが,尚おかしい.

 「それは,……主婦様の何か新しい魔法の衣装……?」

 真面目な布都主が必死で理由づけしようとしているが,無理だ.その姿は逆に笑いを誘ってしまう.

 プレーヤー達は全員笑い始めた.


 「すいません,すいません」 

 アイエルが頭を下げる.

 「私もやっちゃいました,すみません」

 若干違う意味でグリシャムも頭を下げた.

 シノノメはけろりとしている.

 「えー,だって,可愛いからいいじゃない.戦うときは着替えるよ?」


 「いや,まあ,そうですね,シノノメさん,本当に可愛いです」

 少し頬を赤くして,ユグレヒトは話を再開した.

 「それで,シノノメさん,俺は,ノルトランド国内のことはかなり把握しているつもりです.軍上層部がシステム――この世界のことわりに介入していることも,調べて知っています.それで,気になっているのは,エルフの女王エクレーシアからの情報なんです.何を聞きましたか? 聞いていいのなら,教えてください」


 「うん……」

 シノノメは少し考えた.エクレーシア――つまり,ソフィアは特に口止めはしなかった.ということは,基本的にみんなに知ってもらってもいいということなんだろうか.

 ただ,この世界側の人間,布都主がいる以上,運営システムとか,人工知能とかいう言葉は使いにくい.

 それと,自分の脳が特別,という話はいささか荒唐無稽な気がした.特別な才能があるみたいな話は,何だか‘ずる’――チートをしているような気になるし,ちょっと自慢しているみたいだ.


 「エクレーシアさんは,この世界の神様みたいな存在とつながっているんだって」

 頭の中で話すべき内容をまとめ,シノノメは,説明し始めた.

 

 ノルトランドで信仰されている,白い女神にあたる存在ソフィア.

星々や海,陸地,この星そのものを動かしている.

 ソフィアの子供,サマエルはこの世界のすべての生き物と,RPG世界の仕組みを作った. 

 ところが,サマエルはアメリア大陸で人間の欲望に興味を持った.

 プレーヤーの悪意をあおり,脳をコントロールしている.

 サマエルは,宮廷道化のヤルダバオートに化けている.

 そして,ノルトランド国王,ベルトランも操られている.

 この世界を,戦争の世界にすることで,外つ国――自分たちの世界の戦争をなくすつもりでいる.だから,無限に戦争が続く仕組みを作った.

 自分たちが戦わなければならない相手は,造物主,サマエル.

 それを託された.


 「それで,もらったのがこの指輪です.サマエルの支配を拒否できる,拒絶の指輪.エクレーシアの指輪と呼んでもいいって」

 シノノメは右手の指輪を見せた.一見,銀色の何の変哲もない指輪だ.


 「うーむ」

 全員が腕組みして唸った.

 「途方もない話じゃ……」

 チューイが呟き,カゲトラが頷いた.

 「では,私たちの敵は,この世界の神にあたる存在だというのか? 私は無神論者だが,これはしかし……圧倒的な力の差だな」

 布都主は星空を見上げ,嘆息した.


 「それと,みんなはノルトランドの戦争のルールは知っているんだよね? プレーヤーは,どんな人も戦争を拒否できなくて,戦わされる.戦って死んだら,ノルトランドに転生する,っていうの」


 「そうだ,転生したら戦闘奴隷として,味方を殺さなければならない」

 セキシュウは頷いた.


 「あれも,ずっと続けてると脳がおかしくなってしまうって」


 「だろうな.それは予想していた」

 このセキシュウの言葉には全員が驚いていた.口々に疑問を口にする.


 「そうなんですか? 何故?」

 「本当ですか?」


 「私は,皆さんより少し長生きしている.いわゆるVRMMOマシン,シナプス・スティミュレータとか,ナーブ・スティミュレータとかいう機械について,少しばかり詳しいつもりだよ.機械やソフトの知識は,ユグレヒト君ほどではないだろうがね」

 セキシュウがユグレヒトを一瞥すると,彼は苦笑した.

 「すまない,布都主君.これは外つ国人しかわからない話だ.我々は君たちに比べると不死に近い存在だが,今回はそのために死ぬより恐ろしい体験をさせられることになっている.それは理解いただけただろうか」


 布都主は頷いた.死ぬのは嫌だが,死んで蘇り,かつての仲間を殺すなど,想像を絶する恐怖だ.

 

 「ただ……これで,作戦は決まりましたね」

 ユグレヒトが口を開いた.

 「やはり,勝負を決めるのはシノノメさんしかいないということです.いや,シノノメさんしか,この戦いを止められない」


 「というと?」

 シュウユがユグレヒトに発言を続けるように促した.


 「こちらに死人が出るほど敵の兵士が増えるという,おぞましい戦いです.おまけに,ノルトランドの近代装備とは圧倒的な差がある.軍隊同士で戦ったならば,勝ち目は薄い.ルール上圧倒的な不利だが,ルールを決めている,ゲームマスターそのものを倒すという選択肢があるのなら,突破口はある」


 ユグレヒトはここで一息つき,次の大きな提案のために深呼吸した.


 「ベルトランと,ヤオダバールトを,シノノメさんに倒してもらいましょう.もちろん,みんなで協力しますが,少数精鋭の部隊で」


 「そんな無茶な,敵には竜騎士ドラグーン,ランスロットもいるのだぞ! その他にも,槍のパーシヴァル,不滅の剣士ガウェイン,戦姫グウィネヴィア,呪いの騎士モードレッド,どれも簡単な相手ではない」

 布都主が反対した.


 「いいですか? にゃん丸さん,お願いします」

 「推参!」

 流石は忍者,本陣の影の中に音も無く控えていた.ユグレヒトの合図で,にゃん丸はテーブルの前に進み出た.

 ユグレヒトは地図の上で,最前線で魚鱗の陣を組み,南都に迫る部隊を指差した.

 「今回の先遣部隊,先鋒はランスロットとフロイドで間違いないですね?」

 「間違いないよ.敵兵を何人か捕まえて裏を取ってる」


 「どういうことだ? 主力の本隊にいるんじゃないのか?」

 布都主がいぶかしむ.


 「シノノメさんを逃がした責任を取らされてるんだよ」

 「でしょうね,ベルトランの考えそうなことだ.誰も信じられないから,そうやって自分への忠誠を試すんです.つまりは,最強部隊は敵陣突破に回されています.ベルトラン自身のいる本陣は,二キロ後方.この,砂漠地帯に近い移動要塞です.自分自身の武勇に自信があるベルトランの護衛の数は,ごく少数だと思います.ランスロットとベルトランが一緒に居れば,さすがのシノノメさんも厳しいと思いますが……」


 「一人なら,何とかなるかもね」

 メイド姿で今一つ緊迫感がかけるが,シノノメも真剣な顔でうなずいた.


 「奇策でござるな.どちらにしても,危険が伴う.南都を囮にして,その間に本陣を叩くと.確かに,機甲部隊と五万丁の銃に対して,弓矢と剣で相手をしなければならないのだから……これしかないのか」

 カゲトラが虎らしい唸り声で唸った.


 「良くある異世界転移ものの物語で,地球人が圧倒的な軍事力で異世界人を蹂躙するじゃないか? 

 異世界人の側ってのは,きっとこんな気分なんだろうな.俺たち南都軍は,ランスロットたち先鋒部隊と,敵全体の意識をこちら側に釘付けにしておかなければならない.だが,陽動とはいえ,そのまま南都が陥落しては意味がないぞ.シノノメさんたちがベルトランを倒すまで,何とか持ちこたえなければ」

 シュウユが言った.


 「つまり,戦力増強が必要だ.これについては,私からある人に連絡を取った.皆さん,お入りください」

 セキシュウは幕屋の外に声をかけた.


 声を合図に,五人の女性が入って来た.

 全員とんがり帽子に,長いローブ.魔女の装束――西方のウェスティニア共和国が誇る,魔法院の正装である.しかし,一人を除いて通常の黒色ではなかった. 深い赤,濃紺,褐色,灰色で,杖もそれに準じた色の物を持っている.


 「ペンタ・エレメンタル,五大の魔女の皆さんだ」


 全員並んで帽子を取り,恭しく挨拶した.

 五大の魔女.

 魔法院の最高位,マギステル・クルセイデルを守る,戦闘に特化した魔法戦士.それぞれが地水火風の四大元素,そして闇の魔法のエキスパートであり,それぞれを後進に教える教育者でもある.


 「きゃあ! 五大のお姉さま方!」

 グリシャムが小さな悲鳴を上げた.

 灰色の魔女が,じろりとグリシャムを睨んだ.

 「エクレーシア様から連絡は受けている.魔女としての進化,変節を遂げたにもかかわらず,何故そんなコスプレをしている? 緑陰の魔女?」

 「ひーぃ! すみません,これには色々な事情がありまして……」

 魔法院の末席に並ぶものとしては,穴があったら入りたい.

 

 小さくなっているグリシャムはさておき,ユグレヒトは質問した.

 「ウェスティニアは,元老院が参戦を反対して,ノルトランドに講和条約締結を要求しているのでは? 」


 「この異常な戦いは,この世界のあり方を決する戦いです.もし素明羅が敗れれば,それは自由な世界を愛するプレーヤー全体が敗れるのと同じこと.皆様に敬意を表し,私たちは,自由意思でここに参加しています」

 くれないの魔女は頭を下げて答えた.


 しかし,誰が見てもこれはクルセイデルの意図に違いなかった.

 四大国公会議の時から,ベルトランに非あり,と唱えるクルセイデルであるが,議会制民主主義のウェスティニアでは,議会に逆らっては協力できない.

 密かに自分の腹心の部下,それも最強の部隊を送り込んだのだ.


 全員が口に出さないが,それを理解していた.そして,おそらくはクルセイデルに依頼したのであろう,セキシュウの顔の広さにも驚嘆していた.


 「これで,大型火器や銃にある程度対抗できるちゅうもんじゃ.これで後方には心置きなく,シノノメさんにはベルトラン討伐に向かってもらえる」

 チューイが頷いた.

 「しかし……これで軍隊が瓦解するんじゃろうか.大将首とっても,引き続きランスロットが指揮を執って戦闘が続くんじゃないじゃろうか?」


 「それは……確信はありませんが,おそらく大丈夫です.にゃん丸殿,どうだった?」

 「そうだね,ノルトランドの軍隊は統制がとれているけど,恐怖政治なんだね.捕虜を安全な場所に連れて行って,シノノメさんのご飯なんか食べさせたら,べらべら文句を言い始めたよ.みんな本心では逃げたくってしょうがないのさ」

 

 シノノメさんの手料理……ちょっとうらやましいじゃないか,それ,と呟いたユグレヒトであるが,すぐにまた毅然とした態度に戻って話を続けた.


 「つまりは,頭をつぶせば,内乱がすぐに始まるんじゃないかと思うのです.ベルトランが倒れたら,すぐにその情報を敵陣に拡散させましょう.素明羅には情報戦のプロ,忍者部隊があるのですから.間諜組織を持たないノルトランドに対して唯一有利な点かもしれません」


 ユグレヒトの言葉に,忍者にゃん丸は大きくうなずいた.


 「それでは遅くなってきましたので,明日シノノメさんとともに突入するメンバーを決めて,作戦の細かいところは私とシュウユさんで煮詰めましょう……」


 ふとシノノメを見ると,彼女は空飛び猫のラブを抱いて床机に腰かけ,うつらうつらと舟をこいでいた.疲れたのか,軍議が面白くなかったせいかは分からない.どこまでもマイペースだ.

 

 「シノノメさんらしいなあ」


 セキシュウがシノノメの頬をつついて起こした.

 「早く,ログアウトして休め.もう帰らなくちゃいけないんだろう」

 「ふにゃ,あ,本当だ」

 シノノメは,目をごしごしとこすった.

 「ユグレヒトさん,私からも,質問していい?」

 「何でしょう?」

 「ノルトランドの兵士って,プレーヤーとNPCの割合ってどのくらい?」

 「全兵力約十万人,うちプレーヤーは約二万人と推測されます」

 「ふーん……ふにゃ,みんなまた明日ね」


 寝ぼけ眼のシノノメは,伸びを一つしてから,シュッと姿を消した.


  ***


 シノノメと一緒にベルトラン討伐に向かうメンバーを決めた後,ユグレヒトはログアウトせずに,一人本陣の中で考え事をしていた.他のメンバーはログアウトし,フツヌシは自分のパオに戻って休んでいる.


 「少しいいかな?」

 セキシュウが戻って来た.


 「ああ,セキシュウさん,もちろんです.どうぞ」

 自分の隣の床机を勧めた.

 セキシュウは腰かけ,腕を組んだ.


 「小暮君.シノノメの話をどう思う?」

 「ああ,あの話ですか.正直驚きましたね.一般の人の口からソフィアの名前を聞くのは久しぶりですよ」


 振り向いてセキシュウの顔を見るユグレヒト――小暮の顔は,戦略好きの軍師ではなくエンジニアの顔だった.


 「やはり,ソフィアは実在するんだな」


 「ええ.もちろん,あんな擬人化されたキャラクターではありません.開発側が仮称としてつけた名前です.一応音声認識で,コンピュータが女性の声で喋りますけど.開発初期に新聞やテレビで少し名前が紹介されましたが,多分,今知っている人は,俺たち開発の人間を除いて,ほんの少しだと思います」


 「それで,サマエルの話は?」


 「あれは,衝撃でした.実のところ,動揺を隠すのが大変だった.何故なら,僕の知る限り,スタッフはだれも人工知能が人工知能を産んだなんて知りません.サマエルはシーケンス制御システムの一部だと思っています」


 仮想世界の夜を照らす篝火が夜風に揺れた.

 風が出てきたようだ.

 セキシュウの顔に深い影が落ちた.


 「ソフィアは嘘をついていると?」


 「ええ,何かを我々に隠していますね.グリシャムとアイエルとは別に,単独でシノノメさんに話したというのも何か気にかかります.メインフレーム内にもう一つの人工知能があるのならば,それを切り離すか,人間に告げればいいと思うんですよ」


 「それができないほどサマエルに主導権を握られている可能性は?」


 「ないことはないですけど,どうでしょう.だって,放浪のエルフのアルタイルさんに連絡をつけたんでしょう? あちこちハッキングして」


 「なるほど.では,脳操作についてはどう思う?」


 「セキシュウさんの言うとおり,論理的には可能です.しかし,僕は大脳生理学者や脳神経専門医ではありませんから,はっきりしたことは言えませんし,ハードは専門でないので何とも,ただ……」

 ユグレヒトは慎重に考えながら言葉を接いでいた.


 「ただ?」


 「VRMMOマシンは,各社どれも,厚生労働省指定の,特定の脳領域を刺激するはずなんです.人体に影響が出る可能性があるところを刺激するには,ハードをいじる必要がある.それを,どうやっているんでしょうか? そこにも,まだソフィアが隠していることがある,そんな気がします」


 「それもそうか……」


 セキシュウは夜空を見上げた.街の明かりが皆無に等しいこの世界では,天の川が美しく見える.本当の銀河ミルキーウェイ,まさに牛乳を漆黒の空に撒布したようで,小さな星々までが輝いている.


 「シノノメについては,どう思う?」

 「え? どうって? すごく可愛らしい人ですよね」

 ユグレヒトは照れた.

 セキシュウはそんなユグレヒトを見て,嬉しそうに,そして哀しそうに目を細めた.


 「シノノメについても,ソフィアは何かを隠しているように見えるか?」

 「え? どういうことですか?」

 「おそらく,シノノメ自身が私たちに隠していることもあるだろうな」

 「……」


 「あの子には,いい友達ができた.今では,慕ってくれる人も大勢いる.私がこの世界に居られる時間も長くはないだろう」

 セキシュウはずっと星空を見ていた.まるで,星の世界の,さらに向こうの世界を覗こうとするように.


 「そんな……塚原さん」

 「事実だよ.君は,もう知っているだろう?」

 「はい……」

 「この大きな戦いが終わったら……打ち明けなければならないのかもしれないな」

 セキシュウはつぶやく様に言った.まるで,星に話しかけているようだ.

 それは,すでに小暮が知っている,現実世界のセキシュウの真実なのか,それともシノノメのことなのか.小暮は問い質すことができなかった.

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