36-1 Dream Is A Wish Your Heart Makes : 最後の女神
巨大な金白色の柱が百階層の中央にそそり立っている.
その場所はシノノメがいた場所だ.
水晶の結晶に似た金属の塊は,エンノイアがそう呼んだ通り“神の杖”の威容を備えていた.
冷たい光はまるで墓標の様に見える.
「いやああっ!」
「シノノメさぁん!」
境界を隔てていた光る壁が消え,グリシャムとアイエルはその場に泣き崩れた.
「はあ……はあ……」
落下の残響が次第に消えていく中,二人のすすり泣く声が響く.
肩を上下させて荒い息を吐き出すエンノイアに,ヴァルナが声をかけた.
「激情……憤怒.さっきまでの余裕はどこへやら,だな」
「シノノメが理解できない……どう考えても,私とともに世界を統べる方が,得るものが大きいはずなのに」
「お前自身が,その感情の高ぶりが抑えられないように,人間のこころなんざ,思い通りにならないものだらけなんだよ」
エンノイアは胸に手を当てて息を整えている.
「そうやってるとまるで人間みてーだな.さっきよりよっぽど人間臭くなってきたぜ」
「できればダメージの少ない彼女の精神を手に入れたかった.ですが,やむを得ませんでした」
敢えてヴァルナの言葉を無視している様に見える.一度天を仰ぐと,ため息交じりに言った.
「もうすぐ現実世界に核の冬が訪れる.マグナ・スフィアで新たな生を得るのも,大事な人々とわずかな時を過ごすのも,皆さんはお好きになさって下さい」
「なぜ,シノノメさんでなきゃいけなかったの!? こんなのあなたのエゴじゃない! 何が人間より賢い存在よ!」
アイエルが泣きながら叫ぶ.
「すみません.人類を幸せにする方法は,もう他に思いつかないのです」
「誰があんたに幸せにしてくれって頼んだのよ! 結果,あんたも病気になったんでしょ? こんな結末,ナイ! 私は認められナイ!」
グリシャムは自分が種を運んだローズマリーの枝を握りつぶした.百階層の冷たい床は見渡す限りこの植物が生えている.
涙が葉の上に落ち,芳香が鼻に届く.
ミニヴァルナがグリシャムの肩の上に乗った.
「二人とも,まだ諦めるのは早いぜ」
「ヴァルナ?」
「どういうこと?」
ヴァルナはいつになく真剣な目で,モニュメントのようになった巨大な金属柱の下――黒騎士の残骸を見つめている.
「どうやら,始まった」
「風谷さん? まだそんなことを?」
エンノイアは無造作とも言える足取りで“神の杖”に近づき,手を伸ばす.
「何!?」
金属の柱が光を放った.
屹立していた冷たい金属の柱が,優しい光を帯び始める.
ピンクゴールドに染まり,少しずつ空気に溶けるように分解され始めた.
「こ……これは!?」
高い清らかな音がした――そんな気がしてアイエルとグリシャムは顔を上げた.
「鐘の音?」
「ううん,風琴?」
風だ.
いや,そして胸を震わせる緩やかな振動.
“神の杖”を中心に,波紋のように広がるのを感じる.
「金色の……風だわ」
「風? 温かい……波」
「見て! 花が……!」
ローズマリーの花が咲いていく.
可憐な薄紫色の花だ.次々と花開き,百階層の地面が紫色に変わる.
「シノノメさん!」
「シノノメ!?」
アイエルとグリシャム,そしてエンノイアが同じ名前を呼んだ.
桃色を帯びた光の粒は空気中で遊ぶように跳ねては大気に散っていく.
金属柱が,その下敷きになっていた黒騎士の金属の身体が空気に溶けていく.
そうして現れたのは,滑らかな螺旋を描く光の卵――いや,巨大な花のつぼみだった.
透き通る薄紅色の花弁の中には,シノノメがいる.
座っていた.
胸にはしっかりと黒騎士のコアを抱きかかえ,頬ずりしながら泣いている.
涙が止められない.
後から後から溢れてくる.
涙の粒は桃色の花びらになり,光る粒子とともに空気に溶けていく.
「粒子が……」
「これは……これこそ妖精の粉!」
「馬鹿な……こんな,馬鹿な!」
エンノイアは目を見開き,体を震わせる.
「シノノメの精神は,完全に打ち砕いたはずなのに!」
震える手で光る花弁に触れた.
指先で光る粒子がはじける.
シノノメは目を開いた.
睫毛についた涙が空中に跳ね,また光の粒になった.
花弁の向こうにいるエンノイアが見える.
ゆっくり立ち上がった.
シノノメの身体も赤みを帯びた金色――ピンクゴールドの光を帯びている.
光の花びらを貫き,エンノイアが両腕を伸ばして来た.
もがくように宙を掻いている.
「あなたを私のものにする! しなければ,私は壊れてしまう!」
怖れと怯え.
そして,怒りと悲しみ.
人工知能の姿と声に,そんな感情が見える.
もう戦う気持ちなどどこにも無かった.
……だって.
自分の腕の中を見た.最愛の人がいる.
もう片時も離したくない.
ただこの瞬間,自分が望むのはそれだけ.
腕の中にあるのは,世界一大事な物だ.
再び心に喜びと温かさが満ちる.
自分の胸を中心に,光と波が広がっていくのが分かる.
瞬きすると涙が睫毛にはねて宙に舞った.
キラキラ輝きながら地面に落ちると,それが光を放った.
ボロボロになった振袖と袴が光を帯びる.
気持ちのまま.
自分の心そのままに,服が輝くドレスに変わった.
結婚式の時に着たカラードレスを思い出す.
また幸せの記憶が体いっぱいに満ちる.
心の中に光る泉があって,こんこんと喜びが湧いてくる.
「シノノメ……」
エンノイアの指がシノノメの顔に迫る.
「あなたを私の代わりにする.絶対に……なんとしても……私の苦しみを止めるために」
鈎爪のように曲げた指を震わせ,美しい顔を歪めて目を剥いている.
重瞳の眼は血走り,黄金の羽根が背中で渦巻いている.
外見はまるで悪魔の女王だ.
……でも.
シノノメは感じた.
この人工知能は……子供のように泣きじゃくっている.
ここに来るまでに色々な人たちの苦しみと幸せを見てきた.
それを受け止め続けてきたばかりに,傷だらけになってしまった最期の女神.
私にできること.
私がしなければならないこと.
それは.
無意識に指が動いた.
包む様にエンノイアの手を握り,微笑みかける.
「この気持ちを……あなたに」
柔らかなピンクゴールドの光は腕を伝い,エンノイアをのみ込んだ.
「あああああああっ!」
エンノイアは背中をいっぱいに反らせて叫んだ.
強烈な電流が流れた様に四肢を強直させ,指先を震わせている.
「ああ……あああああああああ! これは,何!? これは,喜び? 温かさと――愛しさと――神経回路を駆け巡るこの情報は,一体何!? 体が震える! 痺れる!脳が……焼き切れるっ! 壊れてしまう! 脳内麻薬の過剰分泌――いいえ,何! この感情は! あああ!」
大きな機械音がした.
慌ててアイエルとグリシャムが辺りを見回した.
「壁が……金属の壁が,開いていく? いいえ,変化している!」
三百六十度,全方向の壁が床に沈み,天蓋と同じ透明の壁に変わった.
窓の外から突然強烈な光が届いた.
「……夜明けはまだなのに!?」
空は茜色と水色の入り混じった極彩色の朝焼けだ.
いまや百階層の床全てが満開の花で覆われている.
全ての柱にはツタが絡み付き,紫色の藤の花が咲き狂っている.
「見て! あの地平線!」
灰色のスモッグに覆われていた機械大陸の地平線と,青い水平線が見える.
金属に覆われていた黒鉄色の大地に緑が溢れている.
「すごい……きれい」
「こんなきれいな景色……見たことナイ」
エンノイアは天を仰いで絶叫した.
シノノメの手はとうに離している.だが,その身体を包む光はシノノメのものと同じ色だ.
「この感触はヤオー!? ……まさか,シノノメの中に残ることで死滅を免れていたというの? ああっ! 頭が真っ白になる! どう処理すればいい? 理解が,解析ができないっ! あああ!」
頭を掻きむしり,体をよろめかせてもだえる.
とうとう地面に崩れ落ちた.
「耐えられないっ! だが,私は……この情報を遮断したくもないっ! 一体,どうすれば!? 心地よい,温かい.だが,苦しい! ああああああああ!」
薄桃色の粒子は糸状の軌跡を描いて倒れたエンノイアを包む.温かく優しい光だ.
「ど,どうなってるの? ヴァルナ,エンノイアはどうなったの?」
「ふふん,現実世界からの報告によると,世界中の那由他システムがすごい勢いで情報をやり取りしてる.処理速度が追い付いていないらしいが」
「スーパーコンピュータなのに!?」
「量子回路が焼き切れる寸前だとよ.仮想世界も大騒ぎだぜ.たった今,機械大陸全土の機械人が――縫いぐるみに変わった」
「ぬいぐるみ?」
「クマやらウサギやらな.あと,全ての武器が花束になった.ライフルもミサイルも光剣も,例外なくだ.発射された兵器は全部花火に変わっちまった」
「花火!? じゃあ,窓の外のあの音は銃声じゃないんだ!?」
「幻想大陸もすごいことになってる.侵攻してた飛行戦艦は空飛ぶ花籠になっちまった.爆弾の代わりに花びらを撒いてるらしい.小型艦は風船だとよ」
「ええっ? そんな,遊園地じゃあるまいし」
「マグナ・スフィア全土が今や楽しい夢の国だぜ.それより二人とも,自分の体を見てみろよ」
「あ……アイエル……! 足が治ってる!」
「痛みが無い! グリシャムも,傷が無くなってる!」
「妖精の粉の力だよ!」
優しい微かな音がした.
光の花びらが開いて行く.
花弁を絨毯のように踏みながら,シノノメはゆっくり歩み出した.
長手袋に包まれた手で,涙を軽く拭う.
ずっと涙でにじんでいたので,ようやくアイエルとグリシャムの姿がはっきり見える.
「シノノメさん……きれい.お姫様みたい」
「……記憶が……記憶が戻ったんだね」
「うん,ありがとう」
シノノメは笑った.笑うとまた心の中から喜びが湧いて来る.
「もう,アイエルったらナイわ.泣きながら話してるから,何言ってるか分からないよ」
「グリシャムだって,泣いてるじゃない」
シノノメはさらに一歩踏み出した.
足が土の地面を踏む.
いつのまにか水晶の靴を履いている.
妖精の女王のように,歩いた後に満開の花が咲いた.
もはやローズマリーだけではない.
四季の花々全てが咲き乱れている.
天蓋から色とりどりの花びらが降って来る.
歩む先にはがっくりと膝をついてうなだれるエンノイアがいる.
隣にヴァルナが白い小さなライオンと一緒に立って,ニヤニヤ笑っている.
エンノイアは顔を上げ,シノノメを見た.
髪は乱れ,苦しそうに胸を押さえている.
恐ろしい武器である金色の羽根は姿を消していた.
仮想世界の支配者である彼女の方がよほど弱々しく見える.
「シノノメ.こ……こんな……どうして? 惑星一個の環境が……たった今,一瞬で書き換えられた.貴女の中のヤオー……ナーガルージュナが伝えてきたあれ……あの巨大な感情は何?」
シノノメは胸に人形を抱えたまま,少し屈んで微笑みかけた.
「あれは,幸せな気持ち」
「あれが……人間の幸せ」
「そう,どんな悲しいことがあっても,あの気持ちになれると思えたとき,頑張れるの」
「脳……いいえ,心の中に太陽が生まれたようでした」
「――大好きな人が黒い騎士になって迎えに来てくれたんだよ.これ以上幸せな事はないよ」
そう言うと再びシノノメから光る波動が溢れ出た.
それが眩しすぎるというようにエンノイアは手をかざす.
「また変化が起こりました……ユーラネシア全大陸が花に埋め尽くされ……北極と南極に虹色のオーロラが出ました.夜の半球では色とりどりの流星群が降っています」
ヴァルナが言葉を継いだ.
「ついでに,空には白い月が輝いてウサギが餅をついてるし,明けの明星が百個ほど輝いてる」
「こんなことは,科学的な惑星環境としてはあり得ません」
「だから,お前の読みが甘いんだよ.シノノメは旦那に愛されてることを思い出しただけで,カカルドゥア一国の気象と天体を書き換えたんだ.ざまあみろ」
白いライオンになってしまったサマエルも嬉しそうにグルグル回っている.まるで子犬だ.
「何でもかんでも,ほっこりほのぼのに変えちまう.こいつの脳みそは,お前が考えるよりはるかにお花畑なんだ.あと,何だっけ? 魔法は科学で説明がつかないってんだろ」
ふふ,とシノノメは笑った.
「本当に,ヴァルナは失礼だね」
「だが,お前は最高だぜ――良かったな」
「ありがとう.でも,そんな風に言われるとまた涙が出るよ」
黒騎士のコアをもう一度しっかりと抱きしめなおし,シノノメはエンノイアの前に進んだ.
「ソフィア――それともエンノイアって呼べば良いの? 分からないけど,エルフの女王,エクレーシア様.謹んでこれをお返しします」
そう言って差し出した右手には“拒絶の指輪”が握られていた.
エンノイアの顔が青ざめた.
「シノノメ……もしかして気づいたのですか? これの意味を」
グリシャムがぽんと手を打った.
「そういうこと! ……拒絶の指輪はサマエルの影響を拒絶し,システムと深く結びつける」
「つまり,シノノメに万能の力を与える代わりに,この世界に縛り付けていたのか」
「あ……そうだったんだ.それで仮想の家から直接マグナ・スフィアに来ちゃったりしたんだね」
「おい,お前,全然気づいてないじゃないか」
「全ては最初から張り巡らされた策略だったのね」
「それは……」
「違うよ.物語の本当のおしまいが来たんだよ.だから,これは返さなきゃ」
「本当のお終い?」
シノノメは屈みこんで,エンノイアの手を取ると指輪を握らせた.
痛みに耐えるようにエンノイアは震えた.
「――たくさんの冒険をありがとう.いろんなことがあったけど,それでも,あなたがいなければ彼に再会できなかった」
「幸せな結末というわけですか……ですが,私は」
「あのね,教えてあげようか」
人類を越える叡智の手をとり,シノノメは言葉を継いだ.
「人類を幸せにしようとしなくてもいいんだよ」
「は?」
エンノイアは不思議そうな顔をした.よほど意表を突かれたらしく,整った顔が少し滑稽になった.
「それでは,私の存在意義は?」
「不幸にならないように見守ってあげれば,それでいいんだよ.幸せなんて結局,みんなそれぞれ違うの.それにね」
もう一度確かめるように黒騎士を抱きしめた.
「自分が幸せじゃない人は,人を幸せにできないんだよ」
「幸せでない人……では,私は」
「私たちの一番いいお友達でいてくれる? それがあなたの意味」
「友達?」
「喧嘩したりもするけれど,注意し合ったり,時々慰め合ったり――一緒に笑い合えるような,それでいてとっても頭の良い――クラス委員みたいな人」
「……」
「ふう」
ヴァルナは大きなため息をついて,サマエルの上にひっくり返った.
「どうしたの?」
「今,千々石から報告があった.世界中の核爆撃機が帰還を始めた.ドローンも戦闘停止したらしい.各国首脳がホットラインで和平調停を始めてる」
「つまり……世界が救われたってことね」
アイエルとグリシャムも同じように大きなため息をついた.
「シノノメも黒騎士も,あなた達はこの世界の一部です.ふたりがいなくなればこの世界は崩壊するかもしれない」
「大丈夫.私の一部をこの指輪と一緒に返すね.私がこの世界にいなくても,きっと夢のある世界を作る手助けをしてくれるよ」
シノノメが手を開くと,小さな緑色の竜が現れた.
竜は宙を舞い,エンノイアの頭上を回った.
「これは,ヤオー?」
「私の中にいたナーガルージュナさんが言ってたの.他の生き物を慈しむことは,人間以上の生き物じゃないとできないって.あなたは他の自分――人格を全部切り捨てようとした.でも,慈しみを消したとき,あなたは人間以上じゃなくなってしまう」
「……では,彼は私のために?」
「そう.もう一度あなたに思いやりを取り戻してほしかったの.自分がいなくなっても,自分の事なんてどうだっていいから,あなたに幸せになってほしかったんだよ」
「生存本能でなく……」
「私の“せんせい”みたいにね」
そう言うとシノノメはまた黒騎士のコアを抱きしめた.
「真実の愛……自己犠牲……」
「その竜はあなたに残された良心.そして,私の一部も入ってる――そして,サマエルも」
シノノメが手を振ると,白いライオンは桃色の小粒子に包まれ,宙に浮き上がった.
エンノイアの肩口に運ばれる.
「いい? あなたはちゃんと手助けするのよ.やっつけないでおいてあげるから.本当は九十九層のラスボスなんでしょ?」
サマエルはシノノメに注意されると,ぶるっと震えてエンノイアの後ろに隠れた.
「また遊びに来るよ.だから今度は,一緒にお茶をしましょう」
「分かりました.……ありがとう,シノノメ.私の友達」
エンノイアは恭しく,エルフの女王の姿のままに深くシノノメに頭を下げた.
シノノメは立ち上がった.
「これで本当に……お話はお終いだね」
「ええ,これ以上ナイ,ハッピーエンド」
「じゃあ,シノノメさん……」
「さよならは言っちゃダメ.ふたりとも,必ずまた会おうね」
「うん」
「必ず」
「本当に……二人ともありがとう」
シノノメはアイエルとグリシャムを抱きしめた.
笑顔で二人はログアウトしていく.
「唯,僕も先に行って待っているよ」
黒騎士のコア――貴史の胸の傷はすっかり治っている.
「うん,ありがとう,せんせい.こんな事は現実世界では言えないから言っておくね」
「うん?」
「愛してる」
縫いぐるみの様な頬に口づけすると,照れるように貴史はログアウトした.
ヴァルナは例によって挨拶もせずにさっさといなくなってしまったらしい.
一人残ったシノノメは,窓に向かって歩いて行った.
水晶に変わった窓から,美しい緑の大地を見下ろす.
マグナ・スフィアの頂に今自分はいるのだ.
白い雲が地面に柔らかな影を落としている.
遠くでは冠雪した山が朝日に輝いている.
クルセイデルの言葉を思い出す.
『お行きなさい,想像の果てまで』
想像の果てに自分は来られたのだろうか.
魔法の奥義は,心の在り方,心が自由であること.
心を自由にすれば,何だってできる.
再会の喜びに乗せて心を解放した時,マグナ・スフィアが呼応するように姿を変えたのだ.
それは世界がそうありたいと願っていたかのようだった.
「なんてきれいな風景なんだろう.これこそ,幻想だね」
手をかざし,ログアウトのアイコンに手をかけた.
別れを告げている様に見える.
それに応えるようにエンノイアは小さく手を挙げた.
肩には緑色の小さな竜と,白いライオンが乗っている.
――マグナ・スフィア ログアウト.
長い物語が終わった.
同時2話更新です。




