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東の主婦が最強  作者: くりはら檸檬・蜂須賀こぐま
第30章 A Kind Of Magic
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30-6 Fire And Ice

「レラさん,どう?」

「熱波がひどくて使い魔の飛行が安定しませんが……おそらく,間違いありません」


 レラはパイプラインの隙間を縫い,風精シルフェたちを放って確認していた.鳥型の小さな紙片に風の精霊を乗せ,周囲の画像を転送してくる.

 レラは小さなウィンドウを立ち上げ,その画像を確認している.

 折り重なる化学工場プラントのようなこの第七十七階層の,天井に近い部分.

 シノノメがわずかな隙間から見つけたそれは,間違いなく七十八階層に上がる手段だった.


「楕円状の建物の内壁に沿って,斜めに上がっていく乗り物ですね.エレベータというよりも,動力がついたリフトのようです」

「よく分からないけど,登山電車みたいなもの?」

「シノノメ,そっちの方がマイナーだぞ」

「昔,箱根で行ったり来たりする変な電車に乗ったよ」

「スイッチバックのことだな」

「はあ,箱根……冷酒飲みたい」

「頭がぼーっとするネー」


 立ち止まって話しているだけでも,体が高温でおかしくなってしまいそうだ.

 欲望の塔,第七十七階層の大気は猛烈な熱で満ちている.

 巨大な機械プラントと誘導灯の光――そして下層を流れる溶解した金属の川.辺りは赤い光で塗りつぶされた様だ.


「その,リフト乗り場の近くは,どうなってるの?」

「開けたプラットフォームになっています.自走する機械――カブトガニのようなロボットが数台床を動いているのが見える」

「カブトガニ? お掃除ロボットみたいなものかな?」

「当たらずとも遠からず,でしょう.おそらく,炉心をメンテナンスするロボットなんだと思います」

「炉心?」

「ええ,ほぼ中央に巨大な半球状のものがあります.周囲の映像が陽炎の様に歪んでいる――高熱を発しています」


 ランスロットが汗でへばりついた前髪をかき上げた.


「それで,敵の数はどうだ?」

「誰もいません」

「無人? 隠れているんじゃないんですか? そんなのアリ?」

「むっ」


 レラが顔をしかめた.


「どうした?」

風精シルフェが撃ち落とされました」

「プレーヤーか?」

「いいえ,姿は見えませんでした.むしろ周囲の壁と,カブトガニのようだと言ったロボットが何か妙な動きを見せていた」

「……防衛機構か」


 ランスロットの言葉に,副職業サブジョブが“泥棒”である,にゃん丸が頷いた.


「最も重要な部分があると考えれば,警備装置,トラップがあると考えるのが普通だよな」


 ひらひらと紙片が頭上から落ちてきた.

 鳥形をしたそれは,もう一枚の紙を抱くようにしている.


「ご苦労様,風精シルフェ


 レラは紙片をつまみ上げ,鋭い目で観察した.


「焦げてる……」

「ええ,銃ではない.しかも,多方向から攻撃を受けている」

「レーザーか」

「粒子ビームかもしれません.いずれにせよ,これがゴールを守る防御装置でしょう.無人だったのはこういうわけね」

「あの潜水服を着たような機械人でもダメなのかな?」

「自分の装甲が無力だと知っているのでしょう.つまり,高熱高圧に耐える彼らを貫く高出力兵器」


 レラの表情が険しくなった.

 シノノメは両手をパタパタさせ,顔を扇いだ.

 グリシャムは舌を出して犬の様に息を吐く.滝のような汗を流している.


「下は焦熱地獄……上に上がればビームで蜂の巣.次から次へとこんな無理ゲー,ナイわ」

「ほんと,暑くて死にそうだね」

「もう,魔女服脱ぎたい…….生ビールの蜃気楼が見えてきた」

「生ビール?」

「瓶でも,缶ビールでもいいけど」

「あたし,レモンスカッシュがいいナー」

「シノノメ,呑気に飲み物の話をしている場合じゃないぞ.ビーム兵器が危険なだけじゃない.開けた空間ということは,狙撃されたり,集団の敵に襲われたりする可能性がある」


 プラントの中――機械ラインの中をこれまで移動してきた.

 縦横に高熱のパイプが入り乱れる空間は危険だが,しかし集団戦闘になることがない.SF映画の宇宙船の中にも似て,基本的に狭い.

 潜んだ敵がたまに襲ってくるが,数名単位だ.多人数で戦闘可能な場所が無いのだ.


「……つまり,ゴールを目の前にして一層殺し合え,ってことだね」

「超高熱の鉄板の上で,焼肉じゃあるまいし.たまらないなぁ」

「物騒だネー」

「レラさん,それでどうする?」

「先ほどお話した通りです.シノノメ流――シノノメの力を温存せず,活用させてもらいます」

「うん」

「本当に大丈夫かなぁ」

「にゃん丸さんは心配性だね」

「シノノメさんは能天気すぎだよ」

「何とかなるヨー」

「ネムに言われると一層不安になる」

「とにかく我々には時間がない.行くしかない」

「そう.シノノメ,宜しくお願いします.グリシャムも準備は良い?」

「涼しいところに行ったら,シノノメさんにモヒートかハイボール……いえ,生ビール風のポーションを奢ってもらいます」

「え,そんなのあったかな?」

「そうでもと思わないと,やってられないよ,この暑さはナイわ」

「では,シノノメ,開始しましょう」

「う,うん!」


 レラが呪文詠唱を開始した.通常の魔法なら,レラも呪文詠唱など要らない.これから放つ魔法術式がそれだけ繊細で複雑なものである証拠だ.

 シノノメは合図を待ちながら,右手の中指と薬指をたたみ,その他の指をピンと伸ばす.左手は人差し指を曲げる.

 火と風の元素を掌の中にため込むイメージだ.


「シノノメ,今!」

「揚げたてサクサク,ノンフライヤー!」


 シノノメの両手から,猛烈な火と風――高熱の渦が放たれた.油を使わない高温調理の魔法なのだが,狙う先は頭上のパイプラインの束だ.


「……風よ,杖に宿りその大いなる力を見せよ.炎の竜を呼び,貫け天まで! 蒼炎旋龍ブルー・ワール!」


 青い筒状の炎が渦を巻いた.

 滑らかに揺れるその表面は,一見穏やかに見える.

 シノノメの発生させた超高熱を,精密な大気のコントロールにより完全燃焼させた超超高熱の火災旋風ファイヤー・トルネードだ.

 張り巡らされたパイプラインを飲み込んで爆発させ,溶解し,破壊しながら上へ上へと青い炎が登っていく.

 さながら超大型のガスバーナーだった.耐熱であるはずの金属を溶かし,構造体の配列を無視したかのような丸い穴が次々と穿たれていくのだ.

 時折溶けた鉄がボタボタとシノノメ達のいる通路に落ちてくる.

 足元で急速に冷却された金属は跳ねて丸い球になった.

 レラの杖はまっすぐさらにその先,内壁に設えられた斜行エレベータの軌道に向かっている.

 にゃん丸が思わずため息をついた.


「すげぇ……」


 ネムはランスロットの袖を引っ張って尋ねた.


「ネーネー,これ,どういうこと?」

「ネム君,この階層ステージの構造物は壊せるんだ.レラさんはそれに気づいた.ユーラネシアの神殿の壁とかは,通常傷つけられないようにできているだろう?」

「ステージの物ごとぶっ壊すのがシノノメ流ってことだネー」

「というより,敵もパイプラインを破壊しながら攻撃してきただろう?」


 首を傾げるネムに,にゃん丸が補足説明する.


「ここは戦闘バトルの時に,プレーヤーが周囲の地形や物の配置を動かせる階層ステージなんだ.パイプラインを相手にぶつけたり,壊して隠れたりできる.ユーラネシアで言えば,岩を崩して相手の上に落とすのと同じさ」

「さすが二人とも前衛職,なるほどネー」

「もっとも,機械プラントを縦に溶かして移動するなんて,あの二人が超高度な魔法を使えるからこそ,だが」

「抜けた!」


 魔法を送り込む指先が,ふと解放されるような手ごたえを感じた.

 シノノメがレラの顔を見ると,レラもそれを感じ取ったらしく,小さく頷いた.

 炎の塊がふと広い場所まで突き抜けたような感触がある.


「グリシャム!」

「グリシャムちゃん!」

「はい! 万能樹の杖よ! かずらの道を作れ!」


 幾重にも折り重なった蔓草が丸い穴を伝って生えていく.余熱でところどころ焦げながら,互いに絡まり合ってあっという間に蔓の橋――あるいは梯子を作り上げた.


「急ごう!」


 蔓の梯子に飛びつき,全員が登った.

 直線距離ならば,意外に近い.建物で言えばわずかに二階分ほどの高さを突き抜けると,空気の中にさらに異常な熱の塊を感じる.

 最上部のプラットフォームには,人一人分が通れるほどの穴が開いていた.

 まだ穴の縁にうっかり触れると火傷してしまいそうだ.半分はシノノメとレラが作った熱,もう半分は上層の大気そのものが帯びる熱だった.


「うわ……さらに暑い」


 頭半分ほどを出してシノノメが覗くと,レラの言った通りそこはメッシュ状の金属板が張り渡されたプラットフォームになっている.

 奥にパイプが突き刺さった球根のような半球ドーム形の構造物が見える.


「あ,何か丸くてでっかいのがある.大きな玉ねぎに似てるよ.ウイスキー工場みたい」


 シノノメ独特の表現では,何が何だか分からない.全員が苦笑した


「蒸留器の事か? ……炉心だな.シノノメ,危険だから,俺が替わろう」


 ランスロットはヘルムを被り,シノノメを後ろに押しやって頭を出した.


「レラさんの言った通り.炉心を中心に平坦なメッシュの金属板が広がっている.リフトまでは百メートル.目立った敵はいない」

「ランスロット,大丈夫?」

「どうかな」


 メッシュの天板の上にガランガランと鐘を鳴らすような音が響いた.

 ランスロットが兜を脱いで投げたのだ.

 数瞬置いて,空気を裂く鋭い音がする.

 全員が網目メッシュになった天板越しに理解した.

 数十の光線が閃いた.

 ランスロットは素早く頭を床の下に引っ込めていた.


「壁とメンテナンスロボットの尾の部分に無数の発射装置がある.対メデューサ用の鏡の盾があるが,防ぐのは無理だろうな」

「方向の問題だけではありません.盾の融点がビームより低ければ,反射する前に貫通されて殺されます」

「忍術……煙球で隠れられないかな」

「赤外線スコープか,動体センサーか……何らかの装置があるでしょう.それに,この熱で私たち自身機敏な動きが出来るかというと,無理です」

「もう一度シノノメに頑張ってもらうしかないか」


 ランスロットがシノノメの目を見た.


 ……私の事を,すごく心配してる.

 同じ旅団パーティに所属していた時よりもずっと.


 どうしてかは分からない.

 彼が自分シノノメを見る目は,妹を思いやる優しい兄の様だ.機械大陸アメリアとの戦いが始まってから,以前よりも強くそう感じる.

「結婚すべきだ」――そう言われたこともある.だが,彼が自分に注ぐそれは,恋愛感情というよりも,慈しむ友愛の感情だと思っている.


「大丈夫だよ.さっきも言ったでしょ? 力を温存して上に行けるような簡単な場所じゃないもの」


 シノノメは胸を叩き,にっこり笑って見せた.胸がポヨンと揺れる.

 ランスロットもつられたように小さく笑った.


 何か言いたいことがあるの?


 そう聞きたくなる.ずっと彼の胸に秘めた言葉がある様な気がする.


 ……僕はずっと君を守りたかった.


 いつか耳にした言葉だ.

 あれは,ブランコに乗っていた青年.

 確か,背中に幽鬼のような物が憑いていた.

 架空の家を出てさまよっていた時に出会った,夢の中の夢.

 何故今思い出すのだろう?


「シノノメ?」

「うん,うん? ああ,レラさん」

「それでは,次の魔法に移りましょう――ですが,この方法には不安要素があります」

「きっと大丈夫だよ.いずれにしろ急がないと,暑さでみんな全滅だよ」

「……そうですね.では,思いっ切りのシノノメで,お願いします」


 ビームで蜂の巣になってはたまらない.シノノメは両手の指をたたみ,そっと穴の境界に出して叫んだ.


急速冷凍コンジェラトゥール!」


 すかさずレラが杖の先を掲げ,シノノメの手から放たれた超低温の冷気に風を飛ばす.

 空気を対流させ,さらに温度を下げるのだ.


風乱流舞ムーラン・ルーブ! 風よ! 吹雪となれ!」


 白い空気がシノノメの手から広がり,鉄のプラットフォームに結露が広がり始める.

 シノノメの手から雪の結晶が広がり,巨大な花が花開いたように広がっていく.

 カブトガニのような流線型の警備ロボットが雪に埋まり,表面の装甲が白く染まった.

 赤く光っていた電子眼カメラアイが二,三度明滅してくすんだ黒に変わった.

 結露は壁を伝い,上へ上へと昇って行く.

 高熱を放っていたパイプが凍り,氷柱が下がる.

 ぶら下がった配線が凍り付き,樹氷に変わる.

 熱とLEDで赤くにじんだような最上層の大気が,白い雪で覆われた暗い空間に変わっていく.

 炉心に灯る光が雪にうずまり,弱弱しく抵抗するようにぼんやりとした光を放つのみとなった.


「やった!」


 シノノメは穴から飛び出した.

 思わずレラが叫ぶ.


「シノノメ,危ない! 用心して!」


 だが,雪原のようになったプラットフォームは不気味なほど静まりかえっていた.床も壁も,見える範囲は天井まで真っ白に凍り付いている.

 赤い光で照らされていた空間は,真っ暗だ.氷が放つ雪明りに似た青白い光が足元に広がっている.


「成功だよ! 何もかもカチコチに凍ってるよ.ビームは飛んでこない」


 ランスロットが穴の端に手をかけて上がり,レラとグリシャム,ネムを引っ張り上げた.

 全員が思わず辺りを見回す.

 まさに白銀の世界,氷の城だ.


「ムフフ,必殺,雪の女王! って感じかな」

「涼しいネー……ハクション!」

「少しも寒く無いわって言いたいけど,ちょっと,凍えそう……レラ様,これ,何度ですか?」

「推定だけど,マイナス百度前後.シノノメの冷気をさらに空気冷却してあるので……南極なみの気温にしなければ,機械を止められる確信が持てなかった」

「うわーっ,冷え過ぎで食材がダメになりそうだね」

「食材……?」


 シノノメの言い回しに慣れないレラは,複雑な表情になった.

 グリシャムは自分で自分の体を抱きしめた.汗をかいていたので急速に体が冷えるのだ.


「生ビールは撤回,グリューワインが欲しい……」

「猫は寒いところは苦手なんだ」


 にゃん丸はつま先立ちだ.ネムはあわてて自分の服を編みなおしている.


「急ごうよ.また溶けてしまわないうちに行こう」


 鉄の床板の上にできた霜柱を踏み潰すと,ジャリジャリと音がする.

 シノノメはブーツを履いていてよかったと思った.

 にゃん丸が寒そうに白い息を吐きながらぼやいた.


「そうか,携帯端末も外気温が数十度までは作動するけど,氷点下になるとすぐ作動しなくなるからなぁ.大雪の時,外回りしてて困ったことがあるよ」

「高温に特化した機械は,おそらく冷却することに弱いと思ったのです」

「さすがレラ様」


 高温世界に特化した機械人たちも動けなくなったのか,姿を見せない.

 足元にはカブトガニと表現したのとそのまま,緩い楕円形の自動迎撃機が庭石のように転がっている.

 ほぼ無傷でシノノメ達はリフトの搭乗タラップにたどり着いた.

 リフトはリベットが打たれた武骨な四角い箱で,黄色と黒の縞模様になっている.

 金属のドアレバーを握ろうとしたシノノメに,慌ててレラは声をかけた.


「気を付けて.金属のドアに触れると,皮膚がくっついて取れなくなります」

「俺がやろう」


 手甲と一体化した手袋をはめたランスロットがレバーを握り,左に回す.

 ドアを開けたランスロットに続き,全員が中に入った.

 高層建築工事のリフトに構造は近い.

 金網のような金属フレームに,外のプラントと同じようなパイプと,クラシックな計器類がぶら下がっている.

 室内には霜が降り,凍り付いていた.

 どの計器メーターも光を失い,いわゆる“死んだ”状態である.


「低温のせいでリフトも止まってしまう――これが私の不安要素でした」

「だが,この機械自体は単純な構造だ.動かないかな」

「作動スイッチはどれだろう」


 シノノメは目立ったところにある緑色のスイッチを押してみたが,何の反応もない.

 赤いスイッチを押しても同じだ.


「ちょっと待ってよ,これじゃないかな?」


 ぴょん,とリフトから飛び降り,にゃん丸が叫んだ.

 リフトの外に突っ立ったようなポールを見つけたのだ.

 にゃん丸は忍者刀の先でポールに降り積もった雪を落とした.


「うまいぞ.これがやっぱりコンソールだ.しかも,電源は生きてるみたいだ.パイロットランプが点いてる」


 にゃん丸が氷の粒をまき散らせながらボタンを押すと,リフトはうなりを上げて震動した.

 数センチだけ進み,指を離すとすぐに止まった.


「でも,待てよ……これって」


 にゃん丸の視線を受け,レラが頷いた.


「そういうことですね.誰かがスイッチを押し続けなければ,リフトは動かない」

「クマちゃんにやってもらおう」


 ネムはアイテムボックスから青い熊の編みぐるみを出して命令した.

 熊はのそのそと歩いて,にゃん丸の代わりにボタンを押す.だが,リフトは作動しない.


「きっと,プレーヤーを認識するシステムがあるんだな.召喚獣や使い魔,道具を使っても動かないようになっているんだ」

「……つまり,一人ここに残る必要があるってこと?」


 シノノメは自分の顔から血の気が引くのを感じた.見れば,全員の顔色が青ざめている.冷気のせいでないのは明らかだった.


「嫌らしい,非人道的な仕組みです.残る仲間メンバーには当然,あのビーム兵器の雨が降り注ぐ.仲間が上の階層に上がるまで持ちこたえて――強制か自発的にか,いずれにせよ犠牲にならなければならない」

「そんなの酷いよ」


 レラが無表情に言葉を継ぐ.

 シノノメは悟った.レラが無表情になるときは,内面の動揺を押し殺し,冷静になろうとしている時だ.


「殺人ゲームとしては合理的です.ゲームマスターからすれば,ここで大いにプレーヤーの戦力を削ぐことが出来るのですから」

「レラ様,スイッチを押す人間を,リフトから援護すればどうでしょう?」

「リフトに乗る人間も決して安全ではないようです.この機械は,前の様に我々を守ってくれる構造ではありません.窓には硝子も無いし,屋根も薄い.……見て」


 エレベータの屋根や壁には,丸い穴が無数に空いていた.恐らく壁に設置されたビーム兵器が降り注いだ跡だ.無数の銃弾の痕もある.


「そうだ,リフトはあきらめて,あの線路を上ろうよ」


 シノノメは欲望の塔の内壁に沿って続く軌道レールを指さした.続く先の天井には,二枚扉のドアがある.

 かなり急で,狭い軌道を伝っていくのは危険だろうが,出来ない事はないように思える.

 高いところは苦手だが,そうも言っていられない.


「駄目だったら,みんなで飛んで行こう」

「でも待って,シノノメさん.あの天井の扉,自走機じそうきの仕組みに似てる」

「自走機?」

「血液検査の検体とかを運ぶ小さいコンテナよ.病院の天井にぶら下がっているのを見たことナイ? 鞄くらいのモノレールみたいな」

「なるほど,ドアの前に到着すると連動して開く仕掛けか」

「そうでしょうね.このリフトで行くしかないのです」

「冷凍の魔法が効いている間に,急いで上がろう.それしか……」


 シノノメがそこまで言いかけた時,ブウン,という唸り声が響いた.

 真っ暗だった辺りがぼんやりと明るくなり,赤い光で照らされる.

 一旦停止した炉心に,再び灯が点る――再起動の音だった.


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