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東の主婦が最強  作者: くりはら檸檬・蜂須賀こぐま
第25章 魔法共和国の終焉
204/334

25-15 逆転する世界

 ウェスティニア共和国の首都であるミラヌスは,同心円状に作られた都市で,三つの壁で仕切られている.

 最外周部は一般市民の住居で,繁華街でもある.

 内周の一層目は,元老院議員をはじめとする貴族の邸宅だ.

 最内周は枢軸区と呼ばれる一帯で,議事堂や大図書館,公会堂など政府の中枢機能を担う建物が集まる官庁街である.

 戦争や不慮の災害が発生した時,市民を枢軸区に収容して守るのが本来の役割だ.魔法院の魔力の粋を凝らして作られたものなので,強力この上ない.

 それが今ウェスティニア共和国を分断する壁となっていた.

 ガイウスは一般市民を早々にミラヌスから退去させたので,今枢軸区に立てこもっているのは守旧派の貴族たち,そして執政官オクティヤヌス一派だ.

 中には数万人の市民が避難できる設備があるので,その気になれば半年でも籠城できる.

 強力な魔法兵器,そしてメムの兵器によって,枢軸区は難攻不落の要塞となっていた.


「行けっ! 今だ! 進め! 進め!」


 ガイウス軍の兵士が隊列を組んで枢軸区正門に向かって突進した.

 竜車に取り付けられた大砲が火を噴いた.だが,防御魔法がかけられた扉は揺れるだけだ.

 ガイウス軍はこの正門に戦力を集中させていた.後方から次々と援軍が続くが,壁と門は一向に破れなかった.

 攻めあぐねていると,壁の上から政府軍の兵士たちが武器で狙い撃ちしてきた.魔法障壁は外側からの攻撃は完全に排除するが,内側からは攻撃できる.

 彼らが手にしているのはノルトランドから調達したらしい長銃,そして魔法武器だった.

 炎を吹く銃と,黄色い光の球を打ち出す大型のスリングショットである.

 当たればバタバタと人が倒れ,物が轟音を立てて消し飛んだ.

 

「怯むな! 進め!」

 それでもガイウス軍の勢いは止まらない.何度も波状攻撃を仕掛けている.


 ……ギチギチ.ギチギチ.


 だが,突然響いた不気味な音に,攻め手の兵士たちの表情が凍り付いた.


「来た! あいつだ! 逃げろ!」


 大砲を引いていた竜が怯えて逃げ出した.それまで勇猛果敢に攻撃を仕掛けていた兵士たちが,武器を放り出して走り出した.

 壁の向こうからゾロゾロという音を立て,不気味なものが姿を現した.

 ムカデ――というよりも,巨大なヤスデの形をしたものだ.

 円筒状の胴体に数えきれない足がついている.

 ギチギチという方は頭の部分についた巨大な顎足の立てる音だ.


「隠れろ!」

「ぎゃああっ!」


 MEMマギカ・エクスマキナの操る兵器だった.壁の内側からぞろぞろと長い体を伸ばしている.頭の部分には人間が登場するための膨らみと,鋼鉄のリベットで覆われた装甲がついていた.

 人造の怪物は不気味な顎足を動かし,兵士を上空に咥え上げ,振り回して叩き落とした.

 銃で狙い撃ちしても,槍で突き刺しても硬い甲皮には歯が立たない.


「撤退! 撤退!」


 集結した軍隊は後退を素早くできない.

 不気味な毒虫の形をした兵器は何匹かの竜を穴だらけにして噛み殺し,鎌首をもたげて次の犠牲者を探している.隊列など気にしていられない.兵士たちは一斉に正門前から蜘蛛の子を散らすように逃げていく.

 わずかに踏みとどまっているのはプレーヤーだ.だが,あっという間に巨大な毒虫の餌食となってログアウトしていった.


「魔女様! 魔女様!」

「お願いします!」

 正門前から友軍の方へ――後退というよりも散り散りに逃げる兵士たちの間を割って,黒い服の集団が前に進む.

 先の尖った帽子に,黒いローブ.魔法院の制服をつけた魔法使い達は,逃げ惑う兵士たちのほぼ中央に集結していた.

 逃げる兵士たちを遡上する魚の群れだとすると,魔法使い達の集団は,波を受けても動じない盤石の黒いいわおの様に見えた.


「進め!」

 先頭に立つのは褐色の服をまとう魔女だ.

「舟形陣形を組め! 防御と攻撃二人一組になれ!」

 クマリの指示にしたがい,二人一組で前後に並び,全体は正門に向かう船の様な形になった.

「形からして,南の森林地帯に住む巨大昆虫型の魔物を改造したものだ.攻撃組は火の元素系の呪文詠唱開始!」

 防御係の陰に隠れた魔法使いが,一斉に同じ呪文を詠唱する.神秘的な呪文の言葉が共鳴し,合唱している様な錯覚を覚える.

「来るぞ!」

 壁の上から魔法兵器の光球と銃弾,そして火矢が飛ぶ.

 前方に並んだ魔法使い達が,一斉に防御魔方陣と土壁を展開した.


「呪文詠唱よし!」

「行け! メガフレーマ!」

 クマリの頭上に巨大な火球が出現したかと思うと,毒虫めがけて飛んで行った.

 腹部――喉元を狙ったものだったが,巨大なヤスデは身をうねらしてかわした.背中側の甲皮に火炎がぶつかり,空気を震わせる爆発が起こった.

 火炎は飛び散ったが,壮絶な威力に,ダメージを受けないはずの壁の中の兵士たちも,慌てて首をひっこめた.


「HP減少! 通常のモンスターで考えると,あと四分の三ほど!」

 防御系の魔法使いがダメージを推測した.

 MEMの機械兵器はモンスターではない.あくまで”物質”である.果たして攻撃を続ければゼロになるのか,本当に減っていくのか,誰にも分からなかった.


「詠唱継続! ……くそっ,ヴァネッサか……フィーリアがいればもっと簡単なのに」

 クマリは歯噛みした.

 フィーリアはともかく,ヴァネッサには別の任務があると,レラから聞かされている.

 魔法院のトップとして,魔法使いだけでの怪物討伐モンスター・ハンティングの経験はもちろんある.

 だが,魔法というものは,その威力に反して呪文詠唱に時間がかかるため,決して容易ではない.敵を釘付けにして動きを止める陽動係――前衛がやはり欲しい.特に,今相手にしているのは,人間が操縦する機械仕掛けの魔物と,魔法兵器を持った戦闘集団なのだ.

 攻撃力が足らない.

 基本的に,クマリが得意とする土の魔法は防御系で,造形術などを主体としている.

 したがって,勝敗の鍵になるのは,門か壁を壊すことだと考えていた.なるべく敵の戦力をこの場所に集中させ,別部隊のリリスたちに壁の防御魔法を解除してもらう.

 だが,闇魔法使い達たちからの連絡は,一向に来なかった.


「これなら竜退治の方がよほど簡単だ」

 クマリは巨大なヤスデを睨んだ.

 体をよじらせて火炎を振り払い,毒虫は顎を左右に開いた.


「何とか動きを止めなければ――植物使いたち,行けるか?」

「はいっ!」

 深緑色の魔女服を着た金髪のエルフが応えた.

「グリシャム,頼む」

「行きます! 万能樹の杖! イバラの縛鎖!」

 グリシャムは数人の魔法使いと一緒に,土壁の隙間から杖を地面に突き立てた.

 三条のつるがメキメキと音を立てて土を割り,ヤスデに絡みつく.ヤスデは身体をねじって逃れようとしたが,丈夫な荊が比較的柔らかい腹部に突き刺さっていった.

 植物使いを自認する魔法使い達は,次々に呪文詠唱を重ねる.

 蔓は大木となり,グリシャム得意の絞め殺しのイチジクは,ついにヤスデの頭を捉えた.半機械の毒虫がもがくたびに枝がきしみを立てる.政府軍の兵士は慌てて援護射撃を開始し始めた.


「うまいぞ! 第二波詠唱開始!」

 土壁を補強しながら,クマリは早速指示を出した.

 再び頭上に炎の球が出現し,赤々と燃えながら回転を始めた.

「行けっ!」

 クマリの号令とともに火の玉が再びヤスデに向かって飛んで行った.

 だが,直撃すると思った瞬間,空から飛んできた黒い影がそれを遮った.

 頭に二本の角を持ち,黒い甲殻で覆われた人間に近い形の物だ.

 背中にはコウモリの羽根と鈎爪のあるサソリの尾を持っている.

 誰が見ても古代の魔神が復活した姿だ.


「な,何だ,あれは?」

「あれもメムの兵器……?」

 防御班の魔法使いが眉をひそめた.


「ひるむな! 第三波の準備!」

 指示を出しながらクマリは舟形陣形の先頭で敵を睨んだ.

 人間と竜を混ぜたような顔の魔神は,口を開いて吼えた.口の中には不揃いな長い牙が生えている.

「ひっ」

 ひるまないという方が無理だ.甲高い威嚇音に,何人かの魔法使いが思わず呪文詠唱を止めていた.


「なんて化け物を作ったんだ……マギカ・エクスマキナめ……」

 トロルの骨格を基本に甲虫の殻を取り付け,さらに黒竜の鱗と牙,爪で武装している.形から分かるのはそのくらいだ.いずれも現実世界で言えば,カーボンファイバーやタングステンに匹敵する強度の素材である.ミスリルやオリハルコンの剣でも簡単に刃が通る代物ではない.

 より強力な兵器を作りたいという願望というよりも,呪いに近い執念が感じられた.

 見る見る間に両手首の先から黒く長い触手が伸びてきた.表面にはびっしりと細かい歯が生えている.魔神は触手を掴み,八の字に振り回した.先端は音速を越えているのか,空気を切り裂く破裂音がした.


「クラーケンの触手を鞭にしたのか!」

「あれって,一撃で商帆船ガレオンを切断するものだよ!」


 悲鳴が上がる.

 ブン,と黒い鞭が一閃されると,先頭の土壁が上下二つに分かれて崩れ落ちた.


「みんな,恐れるな!」

 身を隠すものが無くなったが,クマリは仲間たちを励ました.

 だが,鞭の軌跡を追うように人造の魔神は魔法使い達の方に進んで来る.逆関節になった獣の脚が地響きを立てた.

 二本の鞭が再び唸ると,空気とともに石畳を切り裂き,防御の土壁ごと二人の魔女が体を切断された.

「タムナス! スー!」

 クマリの防御魔法は一瞬間に合わなかった.鞭のたったひと振りで,細かいピクセルになった二人はログアウトしていった.

 魔神が土壁に爪を立てる.

 クマリはすぐに補強したが,鈎爪はチーズを切るように土の塊を削り取った.


「うっ! うわああ!」

 魔法使い達は無意識にじりじりと下がり,舟形の防壁の後ろに身を寄せていた.さすがに逃げ出すことはなかったが,何人かは呪文詠唱を止めてしまった.

 たちまち宙に浮かんでいた炎が小さくなる.


「おのれっ! トゥファニ・ウ・ドンゴ!」

 クマリは手で地面を叩いた.

 土石流が魔神の足元で発生した.だが,足首を飲み込むと思った瞬間,コウモリの羽根を羽ばたかせて上空に逃げた.

「ランス!」

 土石流の先端が鋭い槍となって追撃したが,魔神はそのまま空に舞い上がり,雲の上に姿を消してしまった.

 クマリは目を細くして姿を追ったが,もはやどこにも見えない.


「ふうっ」

 何とか攻撃をやり過ごし,魔法使い達はほっと胸をなでおろした.

 だが,正門前を見ればヤスデ型の魔法機械はいなくなっていた.絞め殺しのイチジクとイバラのつるが引きちぎられ,辺りに散乱している.

 どうやら毒虫はすでに壁の中に姿を消してしまったようだ.


「逃げられたか……」


 そう思うのも束の間,すぐに壁の上からの銃撃が始まった.メムの兵器が敵軍と魔法院を圧倒したので勢いづいたのかもしれない.


「くそっ……これではきりがない」

 クマリは慌てて半球状の土壁を展開した.一般の兵士が持つ銃や魔法兵器なら何とかしのげる.

 だが,MPをかなり消耗し,しかも二人犠牲者が出た.ガイウス軍の被害には比べるほどでもないが,あまりに過酷な任務クエストだ.


「一刻も早く枢軸区の中に入らなければ,犠牲者が増えるばかりだ」


 クマリのつぶやきに,周りにいた魔女たちが頷いた.

 NPC同士の戦闘は,プレーヤー達のものより凄惨だった.彼らにとって,この戦争はあくまで現実だ.投降しない限り,敵を皆殺しにしなければ終わらない.

 プレーヤーなら特殊能力スキルで相手を傷つけずに倒すことが出来る.平和な魔法立国ウェスティニアを早く取り戻したい.ここに参加している魔法使プレーヤー達の多くがそう思って集まって来たのだ.

 だが,強力な武器を手にしたNPC達は危険で,手加減をする余裕もなかった.


「どうすればいい……?」

「一旦裏通りに退避して作戦を練りなおすのはどうですか? 暗くなってきたし,別動隊もいます.それもアリだと思います」

 グリシャムが挙手して提案した.魔法院の中でも戦闘経験は豊富な方だ.

「……なるほど,さすがはグリシャム.シノノメ殿と戦ってきただけのことはある」

「ありがとう……ございます」

 五大の魔女に褒められのは,魔法使いにとって素晴らしい名誉だ.だが,こんな状況では素直に喜べなかった.これからどうなるのだろう.あまりに不安だ.


「そうだ,リリスの魔法解除はどうなっただろう」

 そう言ったのとほぼ同時に,クマリの影がゆらめいた.

 池の中から浮かび上がる様に,とんがり帽子が姿を現す.

 影の中から現れたのは,疲れ切った表情のリリスだった.


「すごい…….影の中の移動って,リリス様も出来たんですか?」

 グリシャムは,カカルドゥアで見たジャガンナートの影使い能力を思い出していた.

「闇の粒子のある所で,知った人物がいるなら,このくらいはできる」

 黒より深い漆黒のローブをまとった魔女は,静かに答えた.


「リリス,どう?」

 クマリがそう尋ねるのと同時に,轟音が響いた.

 ひときわ大きい魔法弾の着弾があったらしい.

 クマリが作り出した防壁がゆれ,パラパラと砂粒が零れ落ちた.

「歴代の魔女たちが魔法の粋を尽くして作った防壁だが……時限発動する符術を何とか仕込んで来た」

「さすがリリス……よし,みんなこちらに一旦避難しよう」


 クマリは大通りのはずれへ土壁を繋いで通路を作り,仲間を退避させていった.


「リリス様?」

 グリシャムがいぶかしむほどリリスの足取りは重い.魔法院最高の魔女,五大の魔女の堂々たる風格はどこにも見られなかった.


「……アモンとラミア,ルサルカも死んだ」

 リリスは黒い唇を引き結び,目を伏せて言った.

「それは……」

 ゲームオーバーにすぎない,と言って慰めようとしたクマリは,リリスの表情を見て言葉を飲み込んだ.

「正々堂々の魔法勝負や,誇りや勇気をかけた対決じゃない.普通の兵士が持った銃で,蜂の巣の様になって殺された」

 かつて自分がオルレワン暴動で感じたのと同じことを,リリスも感じているのだ.クマリはかける言葉を失った.


 路地裏まで逃れたところで,クマリたちは最寄りの空き家に入った.

 壊れて穴だらけだったが,貴族の邸宅だったらしく,全員が入って一服できる広さがある.

 それぞれが腰を下ろして休憩し始めた.

 とんがり帽子を脱いで仰向けになる者もいる.

 回復魔法の得意な者は負傷者の手当てを始めた.持参のポーションを飲む者もいた.

 全員が疲れを見せていた.

 すっかり辺りは暗くなっていた.

 美しい天窓がついていたはずの屋根は被弾して穴が開き,そこから月光が静々と降っていた.

 リリスは半壊した柱にもたれかかかり,夜空を見上げた.


「これでは……まるで近代戦争の中に紛れ込んだ魔法使い……幻想世界と現実世界が逆転した様ね」

 小さな声が魔法使い達全員の耳朶を打った.


 ***


 その頃.

 レラの部屋の壁をぶち抜き,魔法院を飛び出したシノノメは,空飛猫ラブにまたがって一路首都ミラヌスの上空を目指していた.

 焼け焦げだらけになってしまった見習い魔法使いの制服を脱ぎ,卒業式の女子大生のような恰好――振袖にはかま姿になった.裾をからげてたすきをかけ,白いエプロンを付けた.和風カフェの店員のようだが,シノノメにとってはしっくりくる戦支度いくさじたくだ.

 やがてミラヌスが見えてきた.

 燃え盛る炎や黒い煙が空から見える.

 本来は人々の生活の証,美しい街の灯が見える時刻である.

 しかし,眼下に広がっているのは,どこまでも黒い街の中に赤い炎の舌が閃いている不気味な光景だった.

 中央の枢軸区上空は,巨大なドーム状の魔法障壁バリヤーで覆われていた.最内周を守る壁から発生しているのだ.複雑な幾何学模様を浮かび上がらせたオーロラの様に見えるが,時々大砲の球が着弾しているのか,ところどころで緑色の火花を発生させていた.


「なんて大きな魔法障壁なんだろう……」


 大通りに繋がる門ではそれぞれ激しい戦闘が行われているらしい.だが,最も激しく火花と轟音,そして黒煙が上がっているのは東の正門だった.

 魔法障壁にぶつかれば,空飛び猫とてひとたまりもない.ぐるりと回避しながらシノノメは高度を落とし,正門の方向に飛んで行った.

 ふと見下ろせば嫌でも目に付くのは,破壊されたミラヌスの街並みだ.

 オレンジ色の屋根瓦は吹き飛び,寺院の鐘楼はへし折れて家の上に突き刺さっている.

 どこの通りを見ても,倒れている人――死体があった.

 シノノメは北東大戦の時のことを思い出していた.攻め寄せるノルトランドの軍隊は近隣の町々を蹂躙し,方々で悲惨な光景が繰り広げられていた.

 ところどころに青や緑色の円が見える.あれはプレーヤーが死んだ痕跡だろう.プレーヤーは死ねば消失して,また何時間かすればログインできる.

 だが,NPCが死ねば,死体が残るのだ.

 思わず顔をしかめた.

 それにしても,発光する円の数がびっくりするほど多い.

 メムの魔法具を手に入れることにより,NPCとプレーヤーの武力――能力スキル差が無くなってきているのかもしれない.‘二種類のニンゲン’を分ける物は死ぬ・再生するという違いだけだ.

 これまで,ユーラネシアンと自称するNPC達にとって,つ国人――プレーヤーは不滅の生命を持つ超人だった.

 やがてプレーヤーが一兵卒や盗賊にすら勝てなくなる時がやって来るのだろうか.そして,強力な力を手に入れたNPCのヒト族は自ら魔物を退治し,亜人を駆逐してその版図を広げることだろう.

 この世界はどんどん文明化されて現実世界と変わらなくなってしまうのかもしれない.


「これじゃもう……ファンタジーじゃなくなっちゃう……」

 風を切って飛ぶシノノメの肩もとを,一羽の夜鷹が横切った.


「シノノメ……この世界を導くんだ」

 夜鷹はヒトの声でささやいてきた.


「あっち行け! しっ!」

 サマエルだ.

 シノノメは慌てて手で追い払った.


 大通りから二つほど入った路地で,とんがり帽子の魔法使い達が丸いドーム状の家に出入りしているのを見つけた.

 建物のバランスが明らかにおかしい.貴族の邸宅にくっつけるように,急ごしらえの土魔法で作ったものに違いない.

 何より,丸っこいフォルムに見覚えがあった.


「クマリさんたちだ」


 シノノメはゆっくり高度を落としていった.

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