23-6 試練の舞台
「試練の舞台よ,その姿を現わせ!」
鉄格子の向こうに立つリリスが右手を振ると,シノノメの足元で石畳が動き始めた.石の列はまるで巨大な蛇かアルマジロ――鱗を持った生き物が体をよじらせる様にぞろぞろと動き,海に向かって丸く膨らんだ石舞台を形作った.
気付くと,シノノメは石に運ばれて飛びだした舞台の中央に立つ形になっていた.さらに足元の石畳がもそもそと動き,グリシャムはその縁に運ばれる.
魔法院の窓にはとんがり帽子を被ったシルエットが並んでいる.全員が固唾を飲んで見守っているのだろう.
日が落ちて水平線の向こうに夕日の残滓を残すばかりとなった.紫色の空は星空に変わろうとしている.
「闇の元素よ!その体を縮ませろ!」
リリスは左手に持った黒い杖を指揮棒の様に振った.
すると魔法院を囲む一体の空気が光を帯び,そこだけが昼の様に輝いた.
「闇の魔法使いなのに……これは?」
シノノメの呟きにリリスが黒い唇を動かして答えた.
「闇――虚無は光を飲み込む.その活動を極小化すれば,それは逆に光が強まるという事に他ならない.闇を支配する者は光をも支配するのだ」
「リリス様! こんなのナイよ.これじゃ,シノノメさんが敵みたいじゃない! ステイタスを見れば誰かなんて分かるのに」
グリシャムが抗議したが,リリスは一瞥しただけで高らかに叫んだ.
「試練の舞台は整った.魔法院の門をくぐるにふさわしいものである事を,証明して見せよ!」
シノノメは光を帯びた空気に包まれた魔法院を眺めた.
城塞都市と教会を模した魔法院は荘厳な建物だ.空から降りて来た光の虹に包まれると,本当に天上の教会――天国の様だ.
「きれい……」
シノノメは黒い鉄の門扉の向こうに立つリリスの顔を見た.
闇魔法使いというと,黒魔術や呪術といった禍々しい印象が付きまとう.実際,ノルトランドで出会った魔法使い――邪眼使いのモルガンは不吉な雰囲気をその身にまとわりつかせていた.
だが,彼女にはそれが無い.彼女が側近としてつき従うクルセイデルの意図に沿うものなのだろうか,濃紺のローブや漆黒の髪は,むしろ神秘的で理知的な深い暗黒――幽玄を醸し出していた.
……自分が‘誰か’と問われたならば.
それは,名前とは違う,自分の存在を示せという事だ.
単なる名前やレベルなら,グリシャムの言う通り,ステイタスウィンドウを見れば一目瞭然だ.
自分が何を考えている,どんなことができる存在なのかを見せなさいと,リリスはきっとそう言っているに違いない.
言葉ではなく,自分のスキルでそれを示せと.
そうでなければ魔法院の門をただ潜っても,信頼を勝ち得る事ができないと.
だからこそこの石舞台は,‘試練の舞台’なのだろう.
だが,どうすれば?
自分は記憶を無くし,もとの世界に戻ることすらできない仮想世界の迷子だ.
こうやって考えているのが本当に自分の意識なのか,それとも電子情報なのかもあやふやな存在だ.
ふと思った.
私が私である事.
あの温もりがあれば,きっと闇夜の空でもまた光の花を咲かせる事が出来るだろう.でも,それは失われてもう無い.
闇の中の光……
シノノメは先程のリリスの言葉を思い出し,彼女の顔を見つめた.
一瞬目が合うと,リリスはわずかに頷いた様な気がした.
そこには敵意はなかった.自分を静かに見極める観察者――審神者に似た凛とした佇まいがあるのみだ.
きっと彼女の存在こそ,ヒント――自分のすべきことを示唆するものに違いない.
シノノメは目を瞑った.
シノノメに,グリシャムの属する魔法院への敵意などあろうはずはない.
しかも,その長クルセイデルは祖母と夫,自分の記憶の鍵になる物を持って待っているのだ.
失われた大事な記憶の事を考えると,また胸が痛くなる.
でも.
こんな自分でも,出来る事があるとしたら.
曖昧な記憶と自我で,手探りで進んできたこのマグナ・スフィアの冒険を糧とするならば.
この世界を好きであること.
そして,今の私でも出来る事……
私にしかできない事.
それは……
シノノメはもう一度目を開けて,魔法院を見た.
夜空に浮かぶ虹色の光に包まれた尖塔と,オレンジ色の窓に浮かぶ魔法使いたち.
まるで夢の中の遊園地のようだ.
そうだ……
シノノメは左手を頭上高くに掲げた.
左の薬指――拒絶の指輪が光の中でも一層際立つ青い光を放った.
「フリゴ!」
波間を割いて,海の中から巨大な四角い金属質の塊がせり上がってきた.形を除いてその登場の仕方はほとんど原子力潜水艦である.
「な,何!?」
グリシャムが目を丸くする.
三階建ての住居ほどもある四角いそれは,銀色の光を放っており,磨き上げたような光沢を放っている.グリシャムには見覚えがあった.
「これ……冷蔵庫? 前より大きくなってる?」
ノルトランド王,ベルトランと対決したときに出現した業務用の冷蔵庫だが,それにしても前見たときよりもはるかに大きい.シノノメの呼びかけに呼応して,地面の中からどこからともなく現れる――生えてくるといった方が良いのか――魔法の冷蔵庫なのだ.もちろん,電源がどこから来ているのかはさっぱり不明である.
「おお!」
「アイテム?」
「いや,物質具現化魔法だ!?」
「あんな巨大なものまで!」
窓から身を乗り出し,魔法使い達が叫ぶ.
シノノメはいつの間にか右手にフライパンを持っていた.
「マルミット!」
フライパンで石舞台の中央を叩くと,今度は巨大なずん胴鍋が現れた.
「おお! あれはデ・ダナン神族の三種の神器,豊穣の鍋だぞ!」
「一軍の兵士の腹をすべて満たすという! 東の主婦はあんなものまで持っているのか!」
魔法院の魔法使いは各国の魔法を研究している.さすがに詳しかった.
これぞ,トゥアサー・デ・ダナンの鍋.調理した食品を無限再生して提供する伝説の鍋だ.魔法使いの言う通り,本来は戦略ゲーム用兵站アイテムなのだが,シノノメにとってはたくさん料理ができる便利な鍋に過ぎない.
「グリルオン!」
シノノメは右手を振った.
毎度の炎の呪文とともに,青い炎――爆炎が鍋を包む.
丸い石舞台はまるでガスコンロのようになった.
「ひえーっ!」
「グリシャムちゃん,気を付けて!」
間近で見ていたグリシャムの帽子のつばを爆炎がチリチリと焼いた.超至近距離で高熱のキャンプファイヤーが発生したようなものだ.
あわてて石舞台の縁ぎりぎりに退避したが,かかとの後ろはもう海だ.
「し,シノノメさん何する気……」
そう言いかけて見たシノノメの顔は,紅潮していた.熱のせいだけではない.口元にはいつもの笑顔が浮かんでいる.
……イライラは料理で解消だっけ.いつものシノノメさんに戻ったみたい.
生気を取り戻したその表情に,グリシャムは少し嬉しくなった.
初めてシノノメの炎の魔法を見た魔法使い達が再びどよめいていた.
「無詠唱!?」
「超高速の呪文詠唱?」
「青色の炎!? 超高熱ってことか!」
「東の主婦とは,一国の軍隊に匹敵するという戦力の持ち主というが……恐るべし!」
好奇心に駆られた魔法使い達は今や窓とは言わず,門や櫓の上にまで登って見物し始めていた.
「開け!」
フライパンを振ると,巨大冷蔵庫の扉がバタンと開き,シノノメはそのまま中に飛び込んでいった.
「えーい!」
声とともに一抱えほどもある黄色い塊が鍋の中に飛んで行く.形からして,フライパンですくって放り投げたものらしい.
シノノメはその塊を追うように,ぴょんと冷蔵庫の保冷室の中から飛び降りてきた.
「野菜室!」
シノノメの声に呼応するように下の段の扉が開くと,そこから黄色い小さな粒が砂嵐のように噴き出し,鍋の中に吸い込まれた.
流石のグリシャムも,この目まぐるしい動きには圧倒されていた.リスのように石舞台を所狭し,と飛び回るシノノメ,そして冷蔵庫と鍋を行き交う謎の物質.首を左右にして行方を交互に見守るばかりだ.
次に,シノノメは抜群の跳躍力で回転しながら鍋の上に飛び上がった.さっと手を振り,虚空から取り出した白い粉を鍋の中に放り込む.
「よし!」
シノノメは両手を腰に当て,ふん,と鼻息を一つ出して叫んだ.
「クヴェルクル!」
左手を天に掲げる.
すると,空から銀色に光るこれまた大きな円盤が落ちてきた.
円盤は鍋の上に落下し,高い鐘のような音を立てた――つまり,鍋の蓋が閉じたのだ.
鍋を加熱する青い炎が轟々と音を立てる.
冷蔵庫は再び潜水艦のように海の中に沈んでいった.
シノノメはじっと黙って鍋を見守っていた.
ときおりフライパンで鍋の腹を叩くので,カンカンという音がする.
飛び跳ね回っていたシノノメが打って変わって静かな動き――鍋の周りをうろうろと歩き回っているだけになったので,逆に魔法院の建物からはざわめきが聞こえ始めた.
グリシャムが聞き耳を立てると,嘲笑や疑念,非難が入り混じっているように思える.
魔法を見せよ,と言われてシノノメがやったのは巨大な調理器での料理である.
炎の魔法一つとっても魔方陣や呪文の詠唱も使わない,確かにどれも普通のプレーヤーにできることではない.グリシャムにとってはまぎれもなくいつもの主婦魔法なのだが,これが果たしてリリスの課題――‘シノノメ自身を示す’ということに合致しているのか分からなかった.
そっとリリスの表情を窺ったが,彼女は淡々とシノノメの動きを観察しているように見える.
すでに数分が立っただろうか.
じっと鍋を見つめて立っているだけのシノノメの様子に,魔法院のざわめきが静かになっていった.ある者は呆れて見物をやめて去り,ある者はただ黙って注視しているようだ.
潮騒の中,青い炎が立てる音だけが響くようになった頃,シノノメがぽつりと言った.
「そろそろだよ」
「え……?」
グリシャムが一瞬聞き間違いかと耳を疑ってすぐ,凄まじい爆音が辺りに響いた.
「きゃっ!」
バンバンバン.
まるでどこかで礼砲を連射しているのか,それとも戦争が始まったのか.
金属を撃つけたたましい音が鍋から響く.
「うわあっ!」
「何だ?」
「東の主婦の攻撃か?」
「敵襲!?」
魔法院から驚きの声が響いた.見物から中座していた者達も,突然の爆音に驚いて一斉に戻ってきた.
「シノノメさん,これ,もしかして……」
グリシャムの呟きに,シノノメが振り返った.
悪戯っぽい満面の笑顔を浮かべている.
「そうだよ.グリシャムちゃん.じゃあ,行くよ! トゥアサー・デ・ダナン! ボナペティート!」
カーン,と高い音を立て,シノノメはフライパンで魔法の鍋を叩いた.
蓋が開き,鍋の中身が一斉に空に飛び上がる.
パン,パン.
輝く空気の中に,音とともに白い無数のふわふわしたものが一斉に舞い上がった.
空高くに噴き出し,跳ね上がったそれは次に白い雪のように魔法院の上に降り注いだ.
パラパラパラ.
とんがり帽子のつばに,肩に白い小さな塊が降り積もって軽い音を立てる.グリシャムはそれを一つつまんで,口の中に放り込んだ.
舌の上で溶けて,噛むとポリっという音がする.
予想通り,程よいバターの風味と塩味が口いっぱいに広がった.
「美味しい!」
思わず笑顔になったグリシャムの表情を見て,シノノメが笑った.
鍋から弾け出たポップコーンは,花火のように後から後から空に舞い,魔法院にポップコーンの雪を降らせたのだ.
魔法院に笑い声が満ちる.
魔法使い達のとんがり帽子の上に,屋根に,尖塔の天辺がポップコーンの雪で白く染まる.ローブを広げ,空から降って来るポップコーンをいかに多く受け止めるかの競争を始める者がいた.かと思えば,制帽であるとんがり帽子を脱いで山盛りに集めたポップコーンを頬張っている者がいる.
降雪機のようにポップコーンを降らせる魔法の鍋を横に見ながら,シノノメはゆっくり魔法院の門の方へ歩みだした.
グリシャムも後に続く.
黒い鋼鉄の門扉の向こうには,相変わらず無表情なリリスが立っていた.
リリスの周り,そして濃紺のローブの上には白いポップコーンの雪が降り積もっている.
シノノメは,じっとリリスの目を見つめた.
リリスは氷のような表情を崩さないまま,黒い唇を開いた.
「……これが,あなた自身を示すものだと?」
「……うまく言えないけど,そう.私の魔法――すべてのスキルは,みんなを笑顔にするためのもの」
微笑を口に浮かべるシノノメを,リリスはしばらく黙って見ていた.
「リリス様……」
これが本当に彼女の試練――審査の答えたるものなのか.
グリシャムは不安に思いながらリリスを見ていたが,彼女はゆっくり自分の左肩に手を伸ばした.
肩に降り積もったポップコーンを一粒つまんでしげしげと見つめた.
「人工の仮想世界にあって,人々に夢を与えようとする者――確かに,東の主婦シノノメ.クルセイデル様のお眼鏡にかなう存在.しかとその証明,受け取った」
リリスは右手を掲げ,門の上の魔法使いに呼び掛けた.
「ウォーロン,門を開け.クルセイデル様のお客人,シノノメ殿だ!」
鋼鉄の門が重々しい音を立て,左右に開いた.
ゴロゴロと滑車が地面を滑る音の間に,ポップコーンを踏み潰すポリポリという音がするのが滑稽だった.
シノノメは導かれるまま,魔法院の中に足を踏み入れた.
門の奥へと続く道には,シノノメを近くで見ようとする魔法使いたちがすでにたくさん集まっていた.
大小のとんがり帽子の列が揺れる.
みんなポップコーンをポリポリと食べながら,笑っている.
それは,まさにシノノメの愛する幻想世界の風景だ.
「シノノメ,シノノメ!」
列をかき分け,ニットの帽子とローブを着けた魔法使いが駆け寄ってきた.
「ネム!」
カカルドゥアでともに戦い,シノノメを助けた編み物師のネムだった.寝ぼけ眼の魔法使いは栗鼠のようにポップコーンで頬を膨らませたままシノノメに飛びついた.
ネムを抱きしめながら,シノノメはリリスの方を振り返った.
「入れてくれてありがとう.あなたはヒントをくれたのね」
闇の力を制することで光を操る――リリスはそう表現していた.
電脳の仮想世界にあって,人々に夢と幻想を与えること.
それこそクルセイデル率いる魔法院の理念であり,理想だった.
「私はクルセイデル様に命じられた通りのことをしたまで」
リリスは静かに答えた.
クルセイデル――リリスは,試練という形にすることで,シノノメの莫大な力を魔法院の魔法使い達に披露し,そしてさらにシノノメがクルセイデルの理想に沿うものであることを証明させたのだ.
魔法院の一員でないシノノメを受け入れることには様々な反対意見や懸念があったのかもしれない.だが,シノノメの‘誰しもを笑顔にする魔法’はそれらすべてを払拭するものであると――おそらく,クルセイデルは確信していたのだろう.
自分の居場所は自分で見つけるしかない――かつて,シノノメがカカルドゥアで言った言葉と同じことを実行させたことになる.
「クルセイデル様はお仰せになった.貴女ならできると」
「そう……」
子供のような姿に,どれだけの深い叡智と思慮深さを秘めているのだろう.
シノノメは数度しかあったことのないクルセイデルに強い絆を感じていた.
その大きな信頼は,どこから来るのだろう.まるで,シノノメのことをずっと前から知っていたようだ.
クルセイデルは,もしかして……お祖母ちゃん?
あり得ないと思いつつも,ふとそう思った.
「こら,寝坊助ネム,シノノメさんは疲れてるの!」
ネムがあまりに激しくシノノメに頬ずりしているので,グリシャムが引き離した.
「えー? いいよネー?」
「いや,ネム,ポップコーンの入ったほっぺがゴリゴリするよ」
「ほら! 困ってるじゃない!」
「大丈夫だよネー?」
「私のほっぺが削れそうだよ」
巨大な物質の造形魔法と,無詠唱の炎の魔法,そして発想力.
それらは攻撃魔法ではなく,人々を喜ばせるために――お菓子の雪を降らせるために使われたのだ.
圧倒的な魔法の使い手が見せる無邪気な様子に,魔法院の誰もが笑っていた.
……自分は魔法院に受け入れてもらえたんだ.
仮想世界の迷子のようで悲しかったけど,ここにはこんなに自分の好きな幻想世界をともに愛する人たちがいる.
一度に沢山の友達ができた.
居場所ができた.
シノノメの心の中に温かく深い安堵が生まれていた.
「その通りだな.ネムもグリシャムもおふざけはほどほどにせよ.客人はお疲れのご様子.客間を使っていただこう.すでに現実世界は深夜.年少者は特にそろそろ退出するように」
リリスの言葉で,魔法使い達はバラバラと散り始めた.
それぞれが持ち場に戻るか,ログアウトしていくのだろう.
ポップコーンを食べながら消えていく人がいる.
シノノメに手を振って去って行く人もいる.
誰もがシノノメを新しい仲間と認めた様子だった.
……これも全てクルセイデルの意図の内だったのかもしれない.
シノノメはてきぱきと指示を出すリリスをもう一度見た.
クルセイデルの側近中の側近は,依然として無表情のままだ.
「闇の元素よ,元に戻れ」
リリスが右手に持った杖を振ると,空気は輝きを失い,辺りは月光に照らされた夜闇に変わった.
あたりに降り積もったポップコーンが,まるで本物の雪のように見える.
やがてそこにいるのは,シノノメとネム,グリシャムとリリスだけになった.高位の魔女であるリリスがいるとばつが悪いのか,ネムとグリシャムは大人しく並んで気を付けをしていた.
「それにしてもこれは……掃除が大変だな」
杖を下ろしたリリスは淡々と辺りを見回していた.
……審査者として厳しい目で自分を見ていたこの魔女も,自分を受け入れてくれているのだろうか.
リリスは自分をじっと見ているシノノメの視線に気づくと,二度瞬きをした.
だが,やはり表情は変わらない.黒いアイラインで縁取られた眼からは何の感情も読み取れなかった.
リリスはふと左手を動かし,自分の右肩に手を伸ばした.
肩にはまだポップコーンが積もっていた.バターで少し黄色がかった粒を一つつまみ上げると,口の中に放り込んだ.
黒い唇を動かしてポリポリと噛み砕いた後,リリスは口を開いた.
「塩バター味か.私はキャラメル味の方が好きだ.次は,甘いので頼む」
「喜んで!」
シノノメは笑った.
リリスの口元がほんの少しだけ笑っているように見えた.
お知らせ:次回より新章になりますが,多忙のため1-2週間お休みをいただきます.残念ながら夏休みではありません.檸檬もこぐまもどうやってもスケジュールが立たなくなってしまいましたので……
悪しからずご了承ください.




