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東の主婦が最強  作者: くりはら檸檬・蜂須賀こぐま
第19章 現実と幻想の狭間で  
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19-8 希望の光

 ニャハールは太ったお腹に穴をあけてバラバラになりながら,ボヨンとはねて床に落ちた.

 だが,壺越しなのでオシリスの完全な打撃を受けたわけでない.ホモ・オプティマスの打撃といえど,脳死にはなりえないのだ.ニャハールはどこまでもちゃっかりしていた.

 「ゲームオーバーになっただけじゃない!」

 「気分やん,そんなん! 社長,お達者でー! あ,その包丁,サービスで名前入れときましたんでー!」

 ニャハールは本当に今度こそ完全にバラバラになって空気に溶け,後には壺の破片だけが床に転がっていた.

 オシリスが巨体をねじり,シノノメに右拳を振り回してきた.

 

 「えい!」

 シノノメは右半身みぎはんみになってこれをかわしながら,無造作とも言えるフォームで右手を振った.

 黒い刀身が,まるで空気のようにオシリスの腕を通り抜けたかと思うと,ドン,と重い物が落ちる音がする.

 「ぬわっ!」

 オシリスはもんどりうって倒れた.突然バランスが取れなくなったのだ.

 見ると,鋼鉄化した右手首が無くなって置物のように転がっていた.

 先ほどの落下音の原因は,自分の鉄拳だったのだ.

 「鋼鉄が……切れる?」

 慌てて拾って切り口に押し当てると,黒い鉄の手首は溶接したようにくっつき始めた.だが,それ以上に彼は,何ものにも負けないはずの鋼鉄の体がいとも容易たやすく両断されたことに衝撃を受けていた.


 「どれどれ,名前……これね……黒猫丸! ニャハールにしては,いいネーミングセンスじゃない!」

 シノノメは包丁のしのぎに彫られた名前を読み上げ,切っ先をぴたりとシェヘラザードに向けた.


 「どんなに切れる刃物を持ってきても……私には通用しない」

 シェヘラザードは包丁を睨み,それでも口元に微笑を浮かべている.

 

 「そう? この魔包丁‘黒猫丸’は,不登校ふとこう……ダイナマイトっていったっけ……で,できてるんだよ.マグナ・スフィアで一番強い金属なんだよ」

 シノノメもシェヘラザードの真似をして不敵な笑顔を作ってみたが,童顔なのでどうにもさまにならなかった.

 

 「ちげーよ.不撓鋼ふとうこう,マグナタイトだろ.このマグナ・スフィアという世界の中で,最強と設定されている金属.シェヘラザード,それはこの世界の‘外’の物だから,この世界の物は全て切れるんだそうだ.切れ味を試してみるか?」

 ため息をつきながら,シノノメの間違いをヴァルナが修正した.彼も付け髭を外して和装を脱ぎ,いつもの聖騎士パラディンの姿に戻っていた.


 広間に再びどよめきが起こる.

 カカルドゥア最強の戦士,聖騎士パラディン

 シノノメとともに行動していることは,潔白の何よりの証明でもある.

 彼らが政府の中に巣食う悪を倒しに来てくれたものと,NPCたちは確信した.

 「聖騎士だ!」

 「シノノメとともに助けに来てくれたんだ!」

 「ヴァルナ様!」

 「聖騎士様だわ!」

 少なくない歓声が上がった.


 「おーおー,みんな,安心しろよ」

 ヴァルナは早速側室候補の姫や侍女たちに優しい笑顔を送ったので,シノノメが抗議の視線を送った.今はそんな場合ではないのだ.

 

 「この世界の外……?」

 シェヘラザードがうめくように言った.

 慌ててヴァルナはシェヘラザードの方に向き直った.


 「あ……ああ,この物語の外って,お前風に言うか? 俺が思うに多分,これは誰かがのこした,この暴走する世界ゲームを止めるための‘保険’だぜ.お前は世界の傍観者を気取っているが,‘外の物’同士で戦ったときに,ノーダメージってことがあるのかな?」

 ヴァルナはゆっくり歩くと,愛用のグルカナイフを抜いてシノノメの隣に並び立った.だが,ナイフはいつも持っている木の柄のものではなかった.白い象牙のような素材でできている.

 「今度は逃がさねーぜ.こっちも大脳停止ブレインアレストキーの非常使用許可をとってきた.こっちは防衛相お墨付きだ」

 

 シェヘラザードの顔から完全に笑みが消えた.美しい赤い唇を噛み締め,目を細めている.

 それはヴァルナもシノノメも初めて見る,彼女の動揺の表情だった.


 「こちらの世界にさらってきた子供たちとマユリちゃんを返しなさい!」

 「クヴェラも返せ.そして,今回の件をすべて‘上’に報告しろ.さもなきゃ完全に力ずくで拘束する」


 二人は武器を手にシェヘラザードに迫った.

 もちろん油断はできない.この毒蛇の様な女が何かまだ力を隠し持っていいないとは限らないからだ.


 オシリスは鋼鉄の塊になった体で再びシノノメを攻撃しようと体制を整えていたが,シノノメの一つの言葉に引っかかっていた.

 「子供をさらった……?」

 ほんの束の間,意識を失っていたような気もする.

 だが,確かに先ほどあの‘ハメッド’と呼ばれた男もそう言っていなかったか.

 臓器売買のための子供の誘拐をしている,そして何よりも,ジャガンナートはつ国――すなわち,現実世界からも子供を誘拐していると.

 彼は,自分の娘を取り戻すために危険を承知でここに来たと言っていたはずだ.


 私は……もしかして,事情の分からないうちに間違った行為に加担させられているのではないだろうか.

 子供を……傷つけたくない.

 自分を……きっと誤って殺してしまった息子と,分かりあいたい.


 逡巡が生まれたオシリスは,身構えた鋼鉄の拳をゆっくり下に降ろし始めていた.


 「ふっ……でも,まだカードはこちらの方が多いのよ.ジャガンナート! ジャガンナート! いるんでしょう? 助けなさい!」

 シェヘラザードは,突然ジャガンナートの名を呼んだ.


 部屋のどこかから彼がやってくるのだろうか?

 シノノメとヴァルナは視線を送って辺りの様子をうかがった.

 だが,屋内照明の魔石のランプが揺らめくだけで,誰かが入ってくる気配はない.

 ‘それ’に気づいたのは,ネムだった.


 「あー! 影が変だー!」

 シェヘラザードとオシリス,そしてイブリースの足元にわだかまっていた黒い影が,突然大きくなったのだ.三人の形を作っていた影は突然丸く大きくなると,まるで落とし穴か黒い沼のように影の主を飲み込んでしまった.

 三人がそうやって姿を消すと,影は小さな点になって消えた.


 「くそっ! まだこんな奥の手を持ってたのか!」

 ヴァルナは二人が消えた場所を蹴り飛ばした.絨毯の長い毛が数本吹き飛ぶ.もちろん,そこに抜け穴や隠し扉がないのは明らかだった.

 「どこに逃げたんでしょう? ……そうか,上の階だな.子供たちがいるところか.人質の傍にいた方が有利だろうからな」

 ハメッドがやって来て,天井を睨んだ.


 「この離宮は,どうやらとんでもない魔窟だったということだな」

 そう言いながら三人に近づいてきたのは,シンバットだった.

 「聖騎士パラディンヴァルナ,そして,東の主婦殿.感謝する.そして,誠に申し訳なかった.私の暗愚の行い,不調法を許してくれ.そして,カカルドゥアの平和のため,どうか力を貸して欲しい」

 カカルドゥアの最高政治責任者である彼は,丁重に頭を下げた.


 「仕方がねーよ.特に,五聖賢は化け物みたいな奴らだからな.ついこの前まで,俺たちの世界の北半球――えーと,半分を牛耳っていたんだぜ.ま,力を貸すも何も,あいつらは俺たちの敵だからな」

 シノノメもそうだが,ヴァルナも大公を大公とも思わないような言葉遣いである.


 「シェヘラザードは,あの女は何者なのだ?」

 広報官メスメッドも近づいてきて尋ねた.


 「あいつは……何て言ったらいいか……俺と同じ様な組織に属して何か企んでる奴というか,なんというか.だが,二つの世界を自分の意図の下に改変してしまおうとしている奴って言えばいいのかな」

 「まさに……それは,魔神ですな……」

 メスメッドは唸った.人智の及ばぬ存在と表現したかったようだ.

 「それより,メスメッド.早くこの魔物の巣から,皆を脱出させるのだ」

 「外にまだ五聖賢がいるのでは?」

 「彼らの標的は,大臣や商人ではない.それに,この騒動を起こした人々は聖騎士パラディンの仲間達……そうなのだろう?」

 シンバットは考えながらヴァルナに尋ねた.

 「あー……そうそう.そんなもん」

 「って言うより,シノノメの仲間だよ」

 ヴァルナの返事があまりにも鷹揚だったので,ネムが修正した.

 「では,ここにいるよりは安全だろう.敵と通じていた大臣は,追って沙汰を出そう」

 「殿下はどうなさるのですか!?」

 「私には責任がある.剣を取り,奴らを討ち取るのだ.そして,私は……シェヘラザードが言っていた,この国の謎を知らねばならぬ.奴は,わが国千年の歴史を否定したのだ……あれはどういう意味か……」

 シンバットは険しい表情で言うと,壁に飾ってあった宝剣――半月刀を手に取った.


 通常ゲーム世界に合致しない言葉はNPCの記憶に残らないことが多いのだが,シンバットは何故か覚えていた.カカルドゥアに来てから特にだが……何か,この世界のことわりが壊れつつあるのかもしれない.シノノメはそんなことを思った.


 「殿下! それは危険でございます! 殿下がいなくなれば,お世継ぎはおられぬのですぞ!」

 メスメッドが慌てて止めようとする.

 「大丈夫だ.いざとなれば南洋諸島に遠縁の叔父君もおられる」

 「なりません! ドリタラーシュトラ様にはその度量はございません! 病弱でもございますし……」


 「そうなの?」

 シノノメがヴァルナに尋ねた.

 「お前,本当に社会情勢に興味がねーんだな.大公の正室は半年前に出産のときに亡くなったんだよ.赤ちゃんと一緒にな.だから,今回離宮を新築したんだよ」

 「そうなんだ……でも,お嫁さんをいっぱいもらうのは許せないよ」

 シノノメはそれでも一夫多妻制には断じて反対である.頬を膨らました.


 「衛兵はもうすべて奴らの手にかかっておらぬし……いくら聖騎士殿と東の主婦殿が守ってくださるとしても……」

 メスメッドは倒れた衛士たちの遺骸を痛々しそうに見つめた.

 下働きをする下級の廷臣たちが丁寧に壁際に並べ,顔に布をかけてやっているところだった.


 「うん,相手が相手だからね.私たちも,完全には守ってあげられないかもしれない」

 シノノメも遺体を見て眉をひそめた.それにしても,シェヘラザードは何とむごいことをするのだろう.いくらゲームの中の人たちとは言え,彼らにも家庭もあれば,生きてきたという記憶もあるのだ.そして,ふと思った.

 彼ら――NPCは,まるで記憶が欠落した自分の様ではないか,と.


 「私が参ります!」

 聞き覚えのある凛とした声が響いた.

 見ると,シセルニチプ――シセが衛兵の持っていたクリスナイフを腰に差して立っていた.ワンピースの裾をたくし上げ,ベルトに鞘の吊り革を結び付けている.急ごしらえだが勇ましい姿だ.

 「私の部族では,長の家系では女も戦士の手ほどきをうけます.本来の得意は弓ですが,大公殿下をきっとお守りして見せます」


 「おお,なんと勇敢な戦士だ,シセ姫.しかし,夫たるもの,妻に守られるだけではならぬ.私も剣を取り,ともに戦おう」

 そう言うとシンバットはシセの手を取って握り,目をじっと見つめた.凛々しい青年王の情熱的な視線を受け,シセは頬を真っ赤に染めた.


 「なんだかこの人,ヴァルナみたい」

 「どこかだよー.失礼な」

 シノノメが横目でヴァルナを睨むと,ヴァルナは断固否定した.どうやら自覚が全く無いようである.


 「殿下,扉の錠前を外したのですが,外側で何かが絡まっていて開きません」

 下級の文官と思しき廷臣が駆け寄って報告した.

 商人も貴族も,男たちは寄り集まって力を合わせ,引き戸をずらそうとしている.だが,確かに扉は全く動いていない.

 「少人数ずつそっと脱出するためには,人一人分隙間が空きさえすればよいのだが……」

 シンバットは眉を寄せ,腕を組んだ.力自慢の衛士たちも皆殺害されてしまったのだ.


 「おう,じゃあどいてろよ.これ,内側は対魔法素材じゃないだろ?」

 ヴァルナが腕をグルグル回しながら前に出てきた.彼はさっさと早く上階のシェヘラザード達の方に向かいたいのである.

 「ちょっと待ってよ,アーシュラに外の状況を聞いてから……」

 シノノメは慌ててヴァルナを止めようとしたが,言うことを聞くヴァルナではない.

 「鎌鼬かまいたち!」

 ヴァルナが手を振ると,真空の鎌が空気を切り裂く鋭い音とともに,扉が上下真っ二つに割れた.

 広間に外の空気と光が一斉に流れ込んできた.


     ***


 その少しだけ前.

 

 グリシャムとアルタイルは石舞台の上で戸惑っていた.

 「ヴォーダンが中に入っちゃった! どうしよう!? 追う? 中に入る?」

 「ユグレヒトは連絡がつかないな.倒されたか……」

 

 離宮の重厚な扉は完全に閉ざされてびくともしない.しかも,グリシャムが放った暗黒森シュヴァルツヴァルトが絡みつき,さらに熱が加わったために扉は接着されたようになっていた.

 

  「中に入りなさい.こうなったら,シノノメと一緒に彼らと戦うんだ」

 その声の主はセキシュウだった.

 彼は頭にひどい傷を負っていた.かけていたタスキをほどいて血止めの包帯代わりに巻いている.


 「セキシュウさん! そのお怪我は,ハデスにやられたんですか!? でも,ここに来られたということは,ハデスは倒したんですよね?」

 「ああ,何とか勝つことができた.だが,この傷は,突然現れた別の奴にやられたんだ」

 「別の奴?」

 「ああ,途轍もなく早い奴だ.だが,不可解なことに,行動不能になったハデスの身体をどこかに運び去って行った」

 「セキシュウさんにそんな傷を負わせるなんて……そんな強い人がいるんですか!? このポーションを飲んで,早く回復してください!」

 グリシャムは,あれほどアルタイルに飲ませるのを渋っていた日本酒型ポーション,豚印の‘八戒さん’を差し出した.

 「何だよ,俺の時とはえらい違いだな」

 アルタイルがぶつぶつと愚痴っている.


 「ありがとう.でも,遠慮しておくよ」

 だが,セキシュウは少し悲しそうな笑顔を浮かべ,差し出されたポーションを固辞した.

 「え? どうしてですか?」

 「グリシャムさん……私は,もう現実世界の身体の方が良くないんだ.ここで回復させてもらっても,長い時間は戦闘を続けられない」

 セキシュウは再び笑った.だがそれは,グリシャムを安心させようとしているものであることは明らかだった.


 「そんな……」

 グリシャムは一升瓶に似た茶色い瓶を抱きしめた.

 アルタイルはセキシュウとは永劫旅団アイオーン以来の長い付き合いだ.この言葉で全てを察した彼は,思わず視線を地に落として沈黙した.


 パキ,パキ……と,炭になった小枝を踏む音が近づいてきた.

 「そう,中に入って,シノノメさんに合流しよう」 

 燃え残った樹木が立ち並ぶ暗黒森シュヴァルツヴァルトの灰を踏みながらやって来たのは,アイエルだった.

 目立った怪我はないが,頬に涙の跡がある.

 素顔は少し引っ込み思案な少女だが,固い意志を宿した強い目をしていた.

 アイエルはひらりと跳んで,石舞台の上に上がった.


 「アイエル! 無事だったの!?」

 グリシャムの言葉にアイエルはうなずくと,ウェストポーチから唐草模様の巻物スクロールを取り出した.

 「私以外,みんな倒されたけど,ここにユグレヒトの作戦指示が残ってる.これを読む限り,シノノメさんは多分,とんでもない敵と戦ってて,またこの世界を守ろうとしているみたい」


 セキシュウは石舞台の下から彼らの会話を聞き,軽くうなずいた.

 

 塚原セキシュウは,風谷ヴァルナの,防衛省情報部の上官と昵懇じっこんの仲である.

 五聖賢の正体を知り,さらにその中にかつての知人がいることを知った塚原は,防衛省と協力してあらゆるコネクションを通じ,彼らの資産調査や家族の動向を探ったのだ.

 バリシコフや劉恩平の家族に現在でも第三国経由で入金があること,そしてそれが仮想世界のアメリア大陸を通じた資金の流れであること.

 同様の経路で,テロ組織の支援が行われていること.

 死者を仮想世界で甦らせるという,富裕者相手の商売ビジネスを持ち掛ける組織があること.

 さらに,第六世代のVRMMOマシンが洗脳に使われている――特に,米露の軍隊,そして中国の軍閥で使われ始めている情報も得た.

 そして,おそらくそのすべての中にシノノメの敵――サマエル,デミウルゴスの影があることを塚原は感じていた.

 

 シノノメが守ろうとしているのは――本人にはその気がなくても,すでに仮想世界だけではなく我々の現実世界なのかもしれない――.

 誰が知るだろうか.

 世界の運命の一端が,病院のベッドで目を醒まさない一人の小さな女性の肩に背負われていることなど…….

 セキシュウはふとそんな感慨を抱いた.

 

 「世界か何だか知らないけど,アタシもシノノメを助けるよ」

 「俺も手伝うよ!」

 アイエルの後に続いて森を通り,赤髪をサイドテールにした娘と,金毛の大きな人猿がやって来た.

敵には見えないが,こんな時だ.グリシャムはアイエルに尋ねた.

 「その人たちは?」

 「シノノメさんの友達だって.あ,こちらのハヌマーンさんは,友達の友達かな」

 「正確に言うと,勝負で負けた仲です,はい.あ,グリシャムさん! 北東大戦の活躍は拝見してました.この右手治してもらえませんか? それと,友達申請させてください」

 ハヌマーンが手首から先が無くなった右手を見せたので,グリシャムはすぐに日本酒型ポーションを渡した.

 「シノノメさんの友達は,みんな友達です.宜しくお願い致します,ハヌマーンさん」

 グリシャムがぺこりと頭を下げると,ハヌマーンの赤い顔が一層赤くなった.グリシャムは彼の‘友達になりたいリスト’ベストファイブである.


 「おい,俺はその猿以下なのか?」

 アルタイルがまた愚痴った.


 ……気のいい友達たちだ.

 セキシュウは若者たちを見て,口を開いた.

 「シノノメをどうか助けてやってくれ.君たちならできる.私なしでもね」

 セキシュウは,今度は本当の――心からの笑顔を浮かべ,一人一人の顔を見た.


 「友達を助けるのは当たり前です.頼むのは,ナシです!」

 グリシャムは微笑み返した.聡明な彼女は,きっとシノノメの力になってくれるだろう. 

 「腐れ縁だから,付き合うぜ」

 アルタイルが小さな笑みを作る.彼は気まぐれぶっているくせに,本当は義理堅いのだ.人一倍仲間を気遣っているのかもしれない.

 「頑張ります!」

 真面目なアイエルが,少し緊張しながら誓う.一番年下だが,彼女の誠実さはきっとシノノメを助けるに違いない.

 「ハハっ! 頼まれなくったって,当然!」

 アーシュラが口を大きく開けて笑う.

 快活なだ.きっとシノノメの気持ちを明るくしてくれるだろう.

 「セキシュウさん,友達申請させて下さい」

 最後のハヌマーンの言葉で,全員が爆笑した.セキシュウも思わずつられて笑った.


 その時,内側から爆音がしたかと思うと,離宮の扉が上下真っ二つになって開いた.

 薄暗い建物の中に砂漠の太陽と空気が一度に流れ込んだ.


 グリシャムとアイエルは,扉の向こうに,ずっと会いたかった親友の姿を見つけたのだった.

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