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東の主婦が最強  作者: くりはら檸檬・蜂須賀こぐま
第18章 壊れゆく世界
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18-9 作戦開始

 再び目を開けると,シノノメはアーシュラのアジト――海蝕洞窟の中にある,小屋にいた.

 アーシュラとヴァルナ,ネム,ハメッド,そして穴掘り師でモグラ人のホリベエがすでに待っていた.

 

 「おー,来たな」

 ヴァルナはいつもの軽装だ.腰につけた武器はグルカナイフ一本.素肌にベストを羽織っている.‘風使い’である彼にとっては,風を肌で感じることが重要なのである.彼の周りにある空気そのものが彼の鎧であるといっても過言でない.


 「じゃ,行こっか」

 アーシュラはいつもの赤いチューブトップに茶色のショートパンツだが,銀の胸当てとショルダーパット,脛当てをつけていた.こうして見ると料理人でなく剣闘士らしいと言えるのだが,剣闘士としては異例ともいえる軽装だった.

 多くの戦士はフルプレートアーマーを身に着けて重装備で消耗戦を試みるが,彼女にとってはスピードこそが身上なのだ.背中には愛用の鯨包丁を背負っていた.


 「シノノメ,カワイイ格好してるネ」

 そう言うネムのニットの魔女服は前回会った時と変わらない.普通の魔女が持っている魔法の杖ではなく,毛糸の糸玉が入ったバスケットを下げていた.


 「ありがとう.これ,芭蕉布なの.現実世界では高くて着れないよ.でも,軽くて涼しいから,カカルドゥアにはぴったりだね」

 シノノメは縞模様の芭蕉布の和服に,黄緑色と桃色のウージ(サトウキビ)染めの半幅帯を締めていた.芭蕉布とは芭蕉の繊維を糸状に割いて加工し編んだ布で,和服の素材としては最高峰の一つである.和柄の紐で裾をからげ,たすき掛けにしていた.肩には頼もしい可愛い相棒である,空飛び猫が乗っている.


 「よろしくお願いします」

 ハメッドは言葉少なに険しい顔で挨拶した.彼は十本の指すべてに輝石の指輪をはめていた.それぞれに特定の魔力が封じ込めてある魔石だ.いくつかは魔力を放った後壊れてしまう使い捨ての物なのである.手には商人が行商の旅の時に突く杖を持っていた.これも先端に魔石がはめ込んである.


 「あれ? ヴァルナの親衛隊と,他の穴掘りの人たちは?」

 「キャティやメリノたちは,もう離宮に潜り込んでるぞ.離宮の落成式で,侍女や給仕として働いているはずだ.どーにか上手いこといって,離宮の中に入れりゃいーけどな」

 やはりヴァルナは行き当たりばったりで作戦など考えていないようだった.


 「昨日穴掘りの仕事の注文があって,オイラ以外の連中はそっちに行ってるんだべ.突貫工事の注文でな.俺は今回,案内人と,最後の壁の穴あけ担当なんだ」

 ホリベエがツルハシを振りながら答えた.


 鍾乳洞の奥は迷路のようになっている.そして,ラージャ・マハール迷宮の‘奥の間’の壁に現在トンネルは突き当たっている.ホリベエは道案内役だった.


 「よし,じゃー,みんな揃ったところで行くか.いいか,お前ら,今回の目的はあくまでクヴェラとマユリちゃんの救出だからな.ほかの子供たちはできれば助ける.五聖賢に会ったら,それで済むなら逃げる.戦闘しようと,ましてや勝とうとなんか思うなよ.欲を出すとゲームオーバー,下手すりゃ人生もゲームオーバーだ」

 ヴァルナが真面目かどうかわからない口調で言った.

 「うん,分かってるよ」

 シノノメは素直に頷いたが,横で腕を組んでいたアーシュラは鼻息を鳴らした.

 「そんなことは分かってるって.アンタが何で仕切ってんの? 大体クヴェラがさらわれたのもアンタのせいでしょうが.アンタみたいないい加減な奴の言うこと聞けないから.今度一人でどこかに行ったら,後ろから刺すからね」

 アーシュラはヴァルナをにらんだ.

 「そんなことしねーよ.じゃあ,アーシュラが先頭に行ってくれよ」

 「いや,アタシはアンタの後ろを見張っとく」

 「仕方ねーな,じゃ,シノノメ先頭な」

 「え? でも,道案内のホリベエさんが先頭でしょ? リーダーとか苦手だよ」


 シノノメはパーティの責任者,隊長や団長にはなったことがない.仕事の手際がいいので,現実世界でも取りまとめ役にされてしまうことはあっても,委員長や部長に立候補したことなどないのだ.どちらかというと,自分から目立つ立場になるのは苦手ですらある.一生懸命行動した結果,いつも目立ってしまうというのは彼女にとっては皮肉な結果なのだった.


 「あ,そーか,そりゃそーだな」

 「ま,そういうことでいいか」

 

 「本当にこんなおおざっぱで大丈夫なんだろうか……」

 ハメッドが呟く.

 「ふわあああ,あたし,眠くなってきた」

 ネムがあくびした.


      ***


 鍾乳洞のあちこちには,発光するキノコとヒカリゴケが生えていた.

 鍾乳石や石筍がしっとりと濡れ,冷たい水滴が垂れる音と,轟轟と洞窟内を川が流れる音が響く.

 ぼんやりと緑色に光る地下の空間を六人と一匹は歩いていた.


 「ここから,隧道トンネルになるべ」

 ホリベエは魔石を灯したランタンを掲げた.

 モグラ人の彼は夜目が利くのだが,さすがに人工のトンネルの中は墨で塗りつぶしたような闇である.

 

 「さすがに真っ暗だね」

 アーシュラも手持ちの魔石ランプを灯した.

 「私もこれを使いましょう.ルーミラ!」

 ハメッドが右手の人差し指にはめた緑色の宝玉に静かにささやく.

 あたりが緑色に照らし出された.

 「こりゃ,オイラにはまぶしすぎるべ」

 ホリベエはサングラスをかけた.

 

 ホリベエを先頭に,さらに闇の奥へ奥へと歩いていく.鍾乳洞の中よりも足元がなめらかで,天井はきれいなアーチ状になっている.穴掘り師の見事な仕事だった.鍾乳洞の地下水脈がたてる,さわさわという音が徐々に小さくなっていた.


 シノノメは道すがらずっと考えていた.

 作戦というほどのこともないが,いかに戦うべきだろう.

 まず,壁に穴が開いたら飛び込んで,一気に魔法で魔神の女神を倒す.

 前の経験では,時間を巻き戻す力を持っているから,その魔力を発揮できないうちに大きな威力の魔法を連続で放って倒さなければならない.

 そこで,ポーションを出して回復.

 地上への回廊が開いたら,一気にラブに飛び乗って地上へ.

 迷宮の地上部分は,巨大な霊廟の建物になっている.トンネルを北上して来たのと反対側,一階の裏門側に出口ができるはず.

 霊廟の周りは少しだけ緑があるオアシスになっている.

 そこから飛び地状になっている隣のオアシスに新しい建物,離宮ができたという.

 砂漠をどうやって移動するか.上空にはロック鳥や絨毯に載った警備の兵士や聖堂騎士団が見張っていることだろう.地上を走れば灼熱地獄だ.

 透明ショールを頭から被って,低空飛行で飛び抜けるか.

 空から見れば空飛び猫だけが砂漠の上を飛んでいる,それはそれで不審な光景ではあるのだけれど.

 だが,これらはすべて単独行動で考えた時のことだ.

 そこから離宮に到達したとしても,中に入って戦闘を続けるには,やはり自分一人だけでは無理だ.アーシュラとヴァルナと一緒に突入しなければならない.

 前庭で大騒ぎを起こして,その間に正門から飛び込むか……いわゆる陽動作戦,囮作戦だ.でも,それが出来る人数ではない.

 考えればきりがなかった.

 だが,考えていなければ別のことが心に浮かび上がってくる.

 

 西の魔女から東の魔女へ……クルセイデルの伝言は,一体どういう意味なのだろう.

 

 ずっと心から離れない.ナーガルージュナが瞑想の時には心の中に浮かんでくることを追わないようにと言っていたが,それができればどんなに楽だろう.

 

 「そういえば,ナーガルージュナさんはどうなったんだろう? 手を貸してもらえないのかな?」

 シノノメはふと思いついて,ヴァルナに尋ねた.

 「それは……無理だな」

 「どうして? すごく強いよ.子供たちを助けてくれないかな? 簡単にとはいかなくても,五聖賢とかやっつけちゃいそう」

 「死ぬ可能性があるとしてもか?」

 「え? 死ぬってどういうこと?」

 脳が傷つく可能性があるというのは知っているが,ヴァルナの口調から単にそういった意味でないことは予想できた.

 「あいつは,NPCなんだ.死んだら二度と生き返ってこれねー.俺たちみたいに,脳が傷つくかもしれないとか,何日かしたらまたログインできるとか,そういうもんじゃねー.それに,あいつはカカルドゥアの良心,慈悲.そういったものを守る存在なんだ.あいつが死んでしまったら,社会的弱者を救済する者はいなくなっちまう」

 

 「ナーガルージュナさんがNPCだったなんて……あ,もしかして,宗主様って……」

 シノノメはようやく思い出した.ナーガルージュナのことを,病に侵されたナディヤが宗主と呼んで敬っていた.

 宗主とは,カカルドゥアにおいて大公の上に位置する存在なのだという.そう言えば,ダーナンが聖なる竜の血族だと言っていた.

 

 「知らねーよ.俺,あいつに直接聞いたことないから.あいつは,自分じゃーそう名乗らねーけど,多分そうなんじゃねーの?」

 「それで不幸な子供たちやお年寄りを助けてるの?」

 「誰があんな存在を設計したかわからないけどなー.あれがマグナ・スフィアのアーキテクチャとして考えられたものだとすると,ずいぶん酔狂なゲームデザインだ.でも,まあ,あーいうのもいていいんじゃね?」


 鷹揚なヴァルナはそれ以上深く考えていないらしい.

 だが,シノノメは少し不思議に思っていた.

 人工知能‘ソフィア’が生み出し,この仮想世界を設計した人工知能‘サマエル’は,人間の欲望に興味を持ち,この世界を人間世界の悪いところが満ち溢れる悪い世界にしようとしている.――と,そうソフィア自身から聞いている.

 ‘サマエル’とは‘神の毒’を意味する言葉で,悪意に満ちた存在のはずだ.だからこそソフィアは,シノノメに彼を殺してほしいと頼んだのだと思っていた.そんな悪い人工知能が,なぜナーガルージュナのような善き存在を生み出したのだろう.

 それとも,誰か別の人間,ゲーム設計者が考え付いたのだろうか.


 「でも,不思議よね.NPCに生き神様みたいなものがいるってことでしょ? 聞いたらなんだか,マザーテレサとか,お地蔵さんみたいな人だよね」

 アーシュラはナーガルージュナに直接会ったことはない.

 「お地蔵様?」

 シノノメは子供の時に‘地蔵盆’で近所の人からたくさんお菓子を貰った事を思い出した.

 「うん,アタシも詳しくないんだけど,お地蔵さまってのは子供の守り神で,人の苦しみを肩代わりして助けてくれる仏様なんでしょ?」


 「NPCでも,意志をもって生きているものには,救いが必要,ってことなんじゃないかナー」

 最後尾を歩いているネムが,ポソッと呟いた.彼女は何か編物をしながら歩いている.ずっと手元が動いていた.


 「救い,か……」

 ハメッドが呟いた.今の彼が最も求めている物かもしれない.


         ***


 「おお,着いたぞ!」

 薄闇の中を二時間近く歩き続けたころ,先頭からホリベエの声が響いた.


 うっすらと輝く石造りの壁が行く手を阻んでいる.

 本来ダンジョンの壁は完璧な魔法障壁で,最深層に横穴を空けて突入するなどという違反チート行為は禁止されている筈だ.


 「この壁,魔法の壁でしょう? 大丈夫なの?」

 シノノメは薄青く光る壁に触れた.土がきれいに取り除かれている.白い大理石を磨いた一枚板である.

 「この位なら,穴掘り師の腕の見せ所ってなもんだべ.あっちの離宮の下に張られている障壁バリアは桁が違うけんど」

 「すごいね! 穴掘り師!」

 「へへっ,よし,じゃあ,みんな準備は良いか? 少し下がってけろ」


 ホリベエはシノノメ達を下がらせ,ツルハシを振りかぶった.


 「てりゃああ!」


 ツルハシが魔法の石壁にぶつかり,火花を散らしたかと思うと,ドカンという爆音が響いた.

 一気に明るい光が隧道の中に溢れた.

 壁の向こうはダンジョンの最深層である.魔石による照明で,日光ではない.

とはいえ,薄闇に慣れたシノノメ達には光の奔流とも見まがう明るさだった.


 「よし,人が通れる分の穴が出来たべ!」

 ホリベエの声が終わるのを待つや否や,シノノメは穴の向こうに飛び込んだ.


 土と石の地面から,磨き上げられた大理石の床へ.

 足の感触が変わる.

 シノノメは足袋越しに鼻緒をギュッとつかむようにして草履を踏みしめた.

 隙を作らないため振り返らないが,後ろからヴァルナ達が入って来る気配がする.

 シノノメの目は部屋の中央に注がれていた.


 穴とは反対側に本来の‘奥の間’の入り口がある.

 入口を睨むように,青黒い岩の塊があった.

 大きさは五メートルほどで,シノノメ達に向けている面は滑らかな卵型をしているが,入口の方にごつごつとした突起が飛び出している.ちょうど入口に向けて握り拳を握ったようだ.手の甲に当たる側には背骨に似た隆起が縦に走っている.手足を畳んで待機体形になった最終敵ラスボスの姿だった.シノノメ達には背中を見せている事になる.


 「初代大公の霊廟みたまやを守る最終敵ラスボス,マハー・カーリマの卵だ!」 

 ヴァルナが叫ぶ.彼も一応クリアした事があるらしい.

 「正真正銘,第十二階層,奥の間に着いたのね! ホリベエ,良い仕事したじゃん!」

 アーシュラが部屋の中を見回した.

 白い大理石に魔石の光が美しく輝いている.

 カカルドゥアに籍は置いているが,彼女は専ら剣闘場コロシアムで戦っていたので,このラージャ・マハールの最深層にまでは来た事が無いのだ.


 「うわー,オイラこんなとこ入ったの,初めてだべ! まぶしすぎる!」

 ホリベエはきょときょとしながら,ずれたサングラスを直している.

 「ゾーリンゲン,双子印のフライパン!」

 仲間達が左右に展開するのを視界の隅に確認しながら,シノノメも銀色に光る武器を構えた.


 「さーて,戦闘開始か」

 アーシュラは口元に不敵な笑みを浮かべ,鯨包丁を構えた.


 卵は見る見るうちに形を変え,足を生やし,六本の腕が宙に突き出た.手の一つ一つに巨大な武器を握りしめ,女性的な腰のフォルムが現れる.

 頭が現れ,優雅な黄金の頭飾りが出現するまで十秒ほど.身長は倍の十メートルに達している.

 

 「轟々!」

 人とも獣ともつかない大音声で吼えた魔神は,フクロウの様にぐるりと九十度首をねじって自分の敵を見つけた.

 通った鼻筋に,くっきりとした美しい眼だ.ただし,額には縦になった第三の目が開いている.三つの目がそれぞれ別々に動き,地を這う侵入者どもを捉,えると,赤い血の色をした唇をカッと開いた.だらり,と長い舌がこぼれ出る.舌までもが血液の色をしている.顔の向きを追う様にして,ぐるりと体が反転した.人間の骸骨で出来た首飾りがカラカラと音を立てる.


 「あのベロがなきゃ,巨乳で美人のおねーさんなんだけどな」

 ヴァルナが軽口を叩く.


 「おおおおおおおおお!」

 ヴァルナの言葉に腹を立てたかのように,魔神は右足を振り上げた.


 「来るぞ! 重振動攻撃だ!」


 足が床を踏みしめると同時に,巨大な振動が着地点から広がって部屋を揺るがせた.

 シノノメとヴァルナは咄嗟に宙に飛んでいる.

 アーシュラとホリベエは,ハメッドの絨毯に乗って宙に逃れていた.

 「こいつの攻撃は研究済みです! カカルドゥアで空飛ぶ絨毯が売られているのは,伏線アイテムなんですよ!」

 だが,その絨毯を三叉戟と半月刀が襲う.

 「オッサン,操縦宜しく!」

 切っ先をアーシュラが鯨包丁で払いのけ,ハメッドは外壁すれすれを飛びながら逃れた.


 「あ! ネムは?」

 着地しながらシノノメがネムを気遣う.

 「おーい,ここにいるよ」

 だが,ネムは無事だった.何か不思議な形の,オレンジ色の毛糸の塊の上に乗っている.どうやら毛糸の塊の上だったので振動が吸収されてしまったらしい.ネムは毛玉に乗りながら編み物を続けていた.


 「よし,じゃあ,一発やっつけるか」

 ヴァルナが指を鳴らした.

 やはりシノノメの予想通り,MPやHPの温存など考えていそうには見えない.

 多分,消耗すればシノノメからポーションを貰えばいい,くらいにしか考えていないのかもしれない.


 「それ! 必殺,死神鎌鼬デスサイズスラッシュ!」

 空気を切り裂く音がした.

 投球フォーム――サイドスローに似た動きでヴァルナが右腕を振ると,炸裂した真空の鎌は魔神の右足を切断した.

 魔神は血液に似た体液を噴出させながら白亜の床に崩れ落ちる.だが,膝をついて態勢を整え,戦輪チャクラムをヴァルナに投げつけて来た.

 慌ててかけつけたシノノメは,それをフライパンで弾き飛ばした.戦輪はクルクルと回転しながら,再び魔神の手元に戻って行く.

 シノノメがヴァルナのステイタスを確認すると,MPが一気に半分になっていた.

 「ちょっと! この後どうするの!」

 「えー? お前,何かドカンとやれよ!」

 「そんなバカな!」

 ポーションだって,無限ではないのだ.それに,シノノメの魔法は射程距離が短い.

 そうこうしているうちに,魔神は戦輪を握った右手を高く差し上げた.


 「あっ!」


 右手の指輪が輝く.時間を巻き戻す,‘時の指輪’の発動である.ブルブルと魔神の身体は小刻みに震え,たちまち右足が接合された.


 「連携がうまくいかないと,すぐ元に戻っちゃうんだよ! MP丸損じゃない!」

 だが,個人プレーが中心のヴァルナにその言葉が届いているとは思えない.

 魔神は虚ろな目でシノノメを見つめている.

 まだ今回の戦いの,ほんの序盤なのだ.


 ここで躓いているわけにはいかないのに……

 どうしよう,一気にフーラ・ミクロオンデを使おうか?

 でも,そんなことしたら回復に時間がかかるし……

 

 この後にはより強大な敵が控えている.

 シノノメが唇をかみしめたその時,魔神の背後から大きな音がした.

 奥の間の本来の入り口,床から天井まである巨大な両開きの扉が大きく開け放たれていた.


 魔神が後ろを振り向く.シノノメも思わず扉の方を見た.

 誰かが立っている.


 「あ,あなたは!」


 懐かしいその顔に,シノノメは思わず叫んでいた.

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