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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
古龍の森

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98/104

新たな幹部は魔王城を案内される

 翌朝。


 夕化への対処にしても、メフィストフェレスの邪魔をするにしても。

 どちらにしても魔王の協力があった方がやりやすい。または、協力する立場であった方がいい。


「……ってことで、魔王に協力してやる」

「は、はあ」


 俺は魔王の座す謁見の間に行って、そう一言告げた。他の幹部はいない。集会を開かせたわけではないから当たり前だ。

 代わりにいたのは確か魔王の玉座の横に立っていた人物。錫杖を持ち抜群のプロポーションを誇る糸目の美女だが、なんだかぱっとしない印象を受ける。傍若無人な魔王と大罪を冠するような厄介な部下に悩まされる中間管理職みたいな感じなのだろうか。

 悪魔らしく角と翼があるが、翼が生えている位置が背中ではなく腰の辺りだ。綺麗に折り畳んであって、黒ではなく暗い紫という色合いだ。角も同じだ。


 そういえば、この人は幹部の一人なんだろうか?


「……あんたって幹部なのか?」

「えっ? は、はい……。そういえば自己紹介はまだでしたね」


 俺が尋ねると、彼女はんんっと咳払いをして居住まいを正す。


「私は魔王軍幹部の一人にして、魔王様の補佐を務める“大罪の体現者(カーディナル・シン)”。『傲慢』担当、アンドリュウズ・エンリウムと申します」

「……『傲慢』か」


 ただ、こいつから『傲慢』という雰囲気は感じない。わかりやすい『憂鬱』、『嫉妬』、『虚飾』とは違うのだろう。例えば『憤怒』と似たタイプか。元『憤怒』担当であるバルメイザは、最初俺と会った時の態度を見るに『憤怒』とは無縁そうに思えた。だが実際にヤツは『憤怒』を解放した状態で妹と戦っていた。『憤怒』解放のキーは強い怒りを覚えて戦う必要がある。なので基本的には怒りを覚えずに戦える人物でないとそもそも力を溜め込めない。

 多分『傲慢』も『憤怒』と同じく、普段から『傲慢』には振舞わない人物でないとダメなのだろう。


「えっと……私が『傲慢』だと、やっぱり変ですか?」


 俺のなんの変哲もないおうむ返しにおどおどしているくらいだ。


「……いや。『傲慢』は多分だが、『憤怒』と同じで普段は『傲慢』じゃない方が力を溜められるんだろ? なら『傲慢』とは遠い方が相応しい」

「っ……!!」


 俺が『観察』した末の推測を述べると、アンドリュウズはわかりやすく顔を輝かせていた。


「見た目に反して随分と口が回るのね。流石は女ばかり連れた女たらしのスケベ野郎だわ」


 だが正反対に冷めた声が背後から聞こえてくる。俺が振り返ると、『嫉妬』の幹部がそこにいた。他の悪魔とは違う鹿みたいな銀の角が特徴的だ。確か、レヴィアとか言ったか。


「……見た目のことは余計だが、まだマシじゃないか。決して一番手にはなれない誰かさんよりは」

「ッ――!!!」


 反論の直後、魔王城が大きく揺れた。俺の視線の先でレヴィアが目を見開き額に青筋を浮かべて真っ赤のオーラを纏っている。……いや、まぁ。絶対にぶちギレそうなラインを狙ったのは俺なんだけど。


「私に、言ってはならないことを言ったわね……!!!」


 彼女が一歩前に出る。謁見の間の床が踏み砕かれて蜘蛛の巣状に亀裂が入っていく。


「あ、あの、れ、レヴィアさん落ち着いてください……っ」


 アンドリュウズがおろおろしている。だが聞く耳は一切持っていない様子だ。……良かったのか悪かったのか、あいつらを連れてこなくて良かった。最近では珍しく独りで行動していたが。もしかしたらレヴィアに対抗していたかもしれない。そうなったら手に負えなかっただろう。


「……ただの推測だったが、当たりだったみたいだな。『嫉妬』をすればするほど力が溜まりやすくなる特性上、魔王の寵愛を一番に受けることはない。その方が魔王にとって都合がいいからだ。例えばの話、お前が魔王補佐を任されることは絶対にない」

「ッ――!!!」

「ひぃ……!?」


 レヴィアの方に向き直って告げると、レヴィアが怒りの形相のままアンドリュウズの方を見た。そのせいで彼女が小さく悲鳴を上げる。


「……だが同時に、そうでなければお前は魔王にとってなんの価値もないただの悪魔だ」

「……?」


 続けた俺の言葉に、レヴィアが怪訝そうに眉を寄せた。完全に敵として見なしているからか、俺の声は耳に届くようだ。


「……補佐には任命せず、一番のお気に入りじゃない。ましてや異世界から来たヤツより期待が低い」

「なにが言いたいのよ!!」

「……それでも、だからこそお前は魔王に『嫉妬』担当として認められたんだろ」


 一番手になれないからこそ、『嫉妬』を与えられる。そして一番手になれないことに『嫉妬』できるからこそ相応しい。


「……普通に一番手になれるんだったら、それこそ幹部にもなれてない。なれないお前だからこそ魔王にとって価値があるんだろ」

「……だから、なんなのよ」


 少しだけレヴィアの怒りが収まっていた。


「……『嫉妬』はしても『憤怒』する必要はないってことだ。一番手になれないってのはお前自身のこの場所での最も重要な価値だろうが」

「……」


 レヴィアが沈黙する。纏っていた赤いオーラが消えていった。俺の後ろから安心したようなため息が聞こえてくる。


「なんか、言い包められたみたいで癪ね」


 レヴィアが一応矛を収めてくれたようだ。腕組みをしてふんと鼻を鳴らす。


「……ああ、最初からそのつもりだったからな」

「はあ?」

「……お前が『嫉妬』担当なことに対して、誇りと同時にコンプレックスっぽいのはなんとなくわかってたからな。『嫉妬』する度にそれ以外の面倒な感情が発生してることも」

「それがあんたになんの関係があるのよ」

「……仲間意識を持てとは言わないが、協力関係にはある身だからな。一々突っかかられると面倒になる」

「だから私をわざと煽って言い包めるつもりだったわけ?」

「……煽ったのは俺の『観察』がホントに合ってるか確かめる意味もあるしな」

「……あんた、性格悪いわね」

「……魔王軍に言われるとは心外だな。そもそも、スキルの都合上まともなヤツなんて一人もいないだろ」

「…………そんなことないわよ」


 じゃあなんだよその間は。


「……なんにせよ、俺が協力する代わりにお前らにも協力して欲しい。お前が一番わかりやすくて病みそうだったからな。利用させてもらうためには、必要なことだ」

「ホントに性格悪いわね、あんた。言っておくけど、私はこれくらいのことであんたのことを認めないから」

「……別にいいが。逆に認めたことでお前の『嫉妬』が弱まったら俺にとっても不利だし」

「ホントに他人をイラつかせるわね。あんたみたいなのが同じ幹部になるとか、最悪の気分よ」

「……そうか。ならそんな俺と愛しの魔王様がお前とはしてないようなキスをしてたら、随分と『嫉妬』が煽れるな」

「っ~~~!!!」


 わざとらしく言ってやると、レヴィアがこめかみをヒクつかせながらイライラしていた。が、なにもしてこなかった。


「ふんっ。まぁいいわ。あんたと話してると、どっちに傾いても利用されてるみたいでイライラするから」


 レヴィアはもう話したくないとばかりに踵を返す。


「――そういえば、一応あんたも魔王軍幹部になったんだから、もうあんな不甲斐ない姿見せないで。次あんな無様晒して魔王様の品格を貶めたら、ただじゃおかないんだから」


 最後にそう言い残して、レヴィアが謁見の間から立ち去った。……あまりのことに呆然として言い返すことすらできなかったな。


「……もしかして俺、励まされたのか?」


 本人がいなくなって、ようやく独り言を口にできた。


 あんなんだけどまさか根は優しい性格とかそういうことなのか? いやいや、人付き合いに慣れてないぼっちは女の子に優しくされたらすぐその子のこと気になっちゃうんだぞ。トゥンク。


 ……冗談はさておき。


「……まぁいいか。アンドリュウズ、魔王はいないのか?」


 俺は後ろを向いて補佐に話しかける。


「えっ? あ、はい。魔王様は基本的に玉座にはいません。あの方は結構自由な方でして、自室にもおられないかと。どこかを歩き回っているか、眠りについているかのどちらだと思います」

「……眠りに?」

「はい。魔王様は今尚封印された状態です。この魔王城の最奥にある封印の間にて、魔王様のお身体は今も封印された状態で眠っておられます」

「……じゃあ俺が会ったあいつはなんなんだ?」

「眠っている本体から力の一部を放出して形にしているそうです。魔王様は姿形を自在に変えられますが、放出する力の大きさに応じて姿が変わります。現状は八割といったところでしょうか」

「……へぇ」


 今で八割とな。一割がどれくらいかよくわかっていないが、なんにせよかなり封印が解かれていっているようだ。


「……魔王の封印が完全に解けるまであとどれくらいかかる想定なんだ?」

「『虚飾』と『憂鬱』を冠するクレトさんが加わったことで、以前よりも封印解除までの時間は縮まっています。『憤怒』がすぐ補充できることを考慮して……およそ数ヶ月といったところでしょう」

「……じゃああんたらから見た、勇者一行がここに到達するまでの期間はどれくらいだと思う?」

「かなり時間がかかるとは思います。なにせ最初の街でかなりの時間を費やしていたようですから」


 それは俺も思った。この世界に作者なんてモノがいたら、序盤でモタモタしすぎじゃね? とツッコミを入れるところである。


「ただ最近はペースを上げてきているので、どうでしょうね。半年から一年はかかると予想していますが」


 なら一応こっちの予測としては魔王復活が勇者の到着に間に合う想定なのか。勇者一行がどういう人物なのか知っている身としては、嘗められないという感じだが。ただ人助けに奔走することは間違いないので、寄り道は多そうではある。……だが問題は魔王を利用してなにか企んでいるメフィストフェレスだ。あいつは魔王の完全復活を待っているのか。それとも完全復活前になにか仕かけてくるのか。その辺を調査する必要もあるよな。英雄の召喚が終わったってことは、あいつは勇者一行に合流するはずだ。ということは、計画の最終段階では必ず勇者一行の一員として魔王の下に来るはず。そこを狙うが、そこまでただ待っているだけではきっとあいつの下準備は終わってしまっている。


「あの……、えっと、魔王様にあなたの案内を頼まれていましたので。話しながら魔王城を回るというのは如何でしょう」

「……ん? ああ、そうするか」


 考え事をしていたが、アンドリュウズに声をかけられて頷く。魔王城の案内をしてくれるのは有り難い。適当に見て回って迷子になったり入ってはいけないところに入ったりするよりはいいだろう。


「あと私のことはアンとお呼びください。アンドリュウズというのは、その、あまり好きではないので……」

「……そうか」


 まぁ確かにあまり女性を思い浮かべるような名前ではないかもしれない。俺としてはどっちでもいいが。


「ではこれから案内をさせていただきます。の前に、折角なのでここ謁見の間から始めましょうか」


 アンからおどおどした様子がなくなる。そういえば最初に魔王を呼ぶ時は凛としていたような気もする。素がどちらなのかは一目瞭然だが、自信を持つこともあるらしい。


「この謁見の間は、魔王様や私達幹部が集会を開く時に使用されます。また、前回の勇者一行を当時の魔王様が迎え撃った場所でもあります。この場所の隠された機能を使わないと魔王様の眠る封印の間に辿り着けないようになっているので、重要な部屋でもありますね」

「……そんな大事なことを新参の俺に言っていいのか?」

「はい。いくらあなたの『観察』が優れていても、この部屋の仕組みを解くことはできません」

「……まぁ、だよな。玉座の下に隠し通路がとか、補佐が持っている錫杖で仕かけを起動するとか、そんな簡単なモノじゃないよな」

「は、はい。当然ですね」


 微妙に動揺が見て取れた。少しは当たっていたようだ。まぁこういうのは『観察』ではなくどちらかというとゲーム脳と言うべきかもしれないが。


「では謁見の間はここまでにして、他の部屋や幹部の方々について案内しますね」


 だがアンは俺の『観察』によって機能が暴かれるのではないかと危惧したのか、やや早口で言い出した。俺は別に暴きたいわけではないので、大人しく彼女の後について部屋を出る。


「道すがら他の幹部について話しましょう。まずは、そうですね。あなたが初めて会ったディルトーネさんにしましょうか」


 アンは道中幹部についても多少話すつもりのようだ。


「“大罪の体現者(カーディナル・シン)”『怠惰』担当、ディルトーネ。『怠惰』は既にあなたも『模倣』できてしまっているでしょうから言いますが、発動後に能力が七割制限され強制的に全力が出せなくなります。そして発動日数と制限された七割を乗算して、解放後に加算されます。単純なステータス強化だけで言えば我々の中でもかなりのモノではないでしょうか」


 『怠惰』の特徴は精神面に関係なく強制的に『怠惰』にさせられることだ。七割の制限はかなりキツく、またステータスだけでなく能力が制限されるというのが肝だ。俺の場合なら例えば、『模倣』で再現する能力が七割減されるとかが考えられる。そうなると戦術にかなりの制限がかかるため、かなり厄介な能力だ。


「ただし制限がかなり強めなので、制限された能力の中で普段過ごせるような、立ち回りの器用な方が適しています。加えて能力が制限されている状態を苦に思わない精神性が必要です。そういった意味で、ディルトーネさんは先代の『怠惰』担当よりも適性が高いのだと思います」

「……確かにな」


 俺はあまり縛られるような状態が好きではない。制限をかけて『憂鬱』さを増すことで相乗効果を得るというなら話は別だが、ストレスが溜まって嫌になってくる気はしている。

 解放したら強いが、それまでの制限された状態を良しとできるかどうかは重要だろう。それこそ、「まぁスキルで制限されてるんだし、仕方ないってことでサボれるか」と思うような『怠惰』な人物とか。


「ディルトーネさんは魔王軍幹部の中でも特に危険で重要な役割を担ってくれています。この暗黒大陸から出て、人間の冒険者として潜入するという任務を行っています。クレトさんが暴いてしまわれたようですので、もう行っていませんね。こっそり覗くくらいに留めているようです」

「……そうか」


 俺があいつの任務の邪魔をしてしまったわけか。まぁあの場で白を切っていれば魔王軍幹部が潜入しているということ自体は隠せただろうが、その場合は容赦なく殺していただろう。任務の重要性もわかってはいるが、同時に自分自身の価値についても理解しているのだと思う。


「そういう意味では、一番『怠惰』から遠い勤勉な方とも言えますね。考え方が単純すぎたバルメイザさんと違って、ディルトーネさんは色々と思案しながら潜入していますので。彼女が持ち帰る情報はとても貴重ですよ」


 確かに、自軍の本拠地から離れて敵軍に潜入して情報を収集するなんて真似、誰にでもできることじゃない。俺の場合は風景に『同化』することによってその場にいても気づかれなくする、ということができるので「お前のせいで任務が滞ってるんだから手伝えよ」と言われたらできなくはない。が、俺の『同化』は若干一名通用しないヤツがいるので、わざわざ自分から近づくことはしたくない。

 その点でも、ディルトーネは俺や夕化に追い詰められたとしても『怠惰』を解放すれば逃げることはできると自負しているのがいいのだろう。


「なのでディルトーネさんの持つ部屋はほとんど使われていないような状況ですね。場合によっては特別な個室を要求してくる幹部の方もいるのですが」


 ディルトーネの存在、便利すぎないか。


 謁見の間のある階から階段を下りて次の階へ。そのまま階段を下りるのではなく、下の階にある部屋を案内するようだ。


「この階には魔王様が以前お使いになっていた私室と、魔王補佐の部屋があります。つまり私の部屋ですね」

「……以前、ってことは今は使ってないのか」

「はい。封印されている状態では、出歩くか眠りに着くかのどちらかをされていますね。まぁ前回の戦闘でほとんど壊れてしまったので、今は家具や装飾品しかない部屋になっています。魔王様が完全復活を遂げた際には、あそこで暮らすのだと思います」


 完全には復活していないので、あまり自由にはできていないのか。


「……そういや偶に聞くが、前回の勇者と魔王の戦いってどんな規模だったんだ?」


 謁見の間やさっきの話にも出てきてはいるが、具体的な被害を聞いていなかったような気がする。


「私も当時からいたではないのですが、前回は強大な力を持つ魔王様が周囲の被害を気にせず全力で勇者一行と戦えば勝てると踏んでいたようです。それまでに幹部含む魔王軍がどれだけ勇者一行を疲弊させられるかの勝負にすると聞いていました。その当時の魔王城は仕かけなどで勇者一行を苦しめる仕組みだったそうですね」


 よくあるゲームみたいな状態だったわけだ。ただ神の加護を得ていそうな勇者サマであっても、完全復活を遂げた魔王サマには勝てないような気がする。当然俺が知っているのは最初の街で鍛錬していた勇者サマなので、ここに来る頃にはもっと強くなっているのだろうが。


「その結果、魔王様と勇者一行の戦いは激化し魔王城が外壁の半分を残してほぼ全壊。大陸そのモノが震動する事態になりました。封印の間が魔王城の地下にあるのも、謁見の間での戦いから全ての床が抜けて地下まで破壊していった結果になります。現在の封印の間は当時の勇者一行が魔王様を封印した時の場所です」

「……封印の間は地下にあるのか」

「はい。ただ空間を断絶しているので、謁見の間の仕組みを使用しなければ辿り着けないようになっています」


 だから簡単に明かしたのか。確かに気配を察知しようとしても地下にはなにも感じなかった。


「ここから下は幹部の個室が続きます」


 そう言ってアンは下へ続く階段を下りていく。俺も後に続いた。


「レヴィアさんのお部屋には……行かれない方がいいでしょう。なので口頭でのみの説明になりますが、『嫉妬』を高めてより解放時のステータスを上昇させるために、魔王様と別の方が一緒にいるところを映し出して保管する装置が置いてありますね」


 映し出して保管……動画か写真かってところか。魔王の役に立つためとはいえ、自分からそういうことをしなければならないのは大変だな。俺はそこまで忠誠心が強くないし、そもそも現時点で発動してすらいない。『虚飾』に関しては『模倣』が使用不可になるので、ほぼほぼ使う気がないような状態だ。俺の主戦力だぞ、あのスキル。頼りにしている『全知全能』さんだって使えなくなってしまう。


「……『嫉妬』の制限の意味がよくわからないんだが、人型になるってのはどういうことだ?」

「…………。既に『模倣』されているのですね。この大陸には、私達のような悪魔、お仲間にもいらっしゃるような魔人など多種多様な種族が共存しています。場合によってはモンスターですら魔王軍に属しています」

「……つまり、元から人型じゃないヤツも魔王軍になる可能性があって、『嫉妬』のスキルはそういうヤツしか得られないってことか」

「お察しの通りです」


 ぶっちゃけた話、『怠惰』は誰でもいい。適性も関係あるようだが、こういうヤツでないとダメというのはない。だが俺の『虚飾』や『嫉妬』に関しては、制限自体が特殊なため該当する者が限られるようだ。

 ということはあのキツめ美少女には真の姿、モンスターの姿があるってことか。鹿の角が生えているという特徴しかないが、翼がないのでなんかそういうヤツなのだろう。よくわからん。というか俺の激怒した状態であってもステータスが半分になっているということは、元々の強さはエグそうだな。今でも素で殴り合ったらどうなるかわからないくらいには強いし。


「魔王軍に加われるモンスターというのは、こちらの指示に従えるだけの知性と我々のために戦いたいという意思が必要です。そして二つの条件を満たすモンスターは大抵、強大です。それこそ同じモンスター達に畏怖されるような存在となります。なのでレヴィアさんも例に漏れず元々人間の軍勢を相手に渡り合えるようなモンスターですね」


 言ってしまえば、それこそ古龍みたいな存在だったってことか。レヴィアがどれくらいの間解放していないのかわからないが、少なくともディルトーネよりは長い。となると解放した時はかなりの強さを発揮してくれそうだな。ただ、俺の立場上あいつの態度が軟化することはなさそうな気がするので、俺のために解放せず取っておいてくれ、と頼むのは難しそうだ。


「こう言ってはなんですが、クレトさんも大概化け物ですよね」

「……なにがだ?」

「『嫉妬』は元々がモンスターなどでなければデメリットになり得ませんが、クレトさんは『模倣』できてしまうのですよね? 私達が授かったスキルをデメリットなしで使用できるなんて、そんなのまるで――魔王様のようです」

「……全てがってわけじゃないけどな」


 今のところデメリットがないのは『嫉妬』だけだ。だから発動してしまってもいいとは思っている。『憂鬱』もデメリットにならないが、『虚飾』と『憤怒』は別だ。どちらも普段は素の力で戦うこと強要される。あまり俺向きではない。

 とはいえ、だからこそ俺が魔王リストに載るんだろうな。俺が魔王だった場合、あいつさえ勇者じゃなければ基本勝てるから勇者一行的に詰みゲーじゃね? ……ただし俺のことだから純粋な力の差を想いの力で覆されて呆気なく負けそうな気はする。そもそも魔王って柄じゃないし。


 あれ? 俺の価値って基本的に能力しかないのでは?


「あとディルトーネさんの部屋もここにありますね。……クレトさん? どうかしましたか?」

「……いや、別に」


 独りで考えて独りで落ち込んでいたらアンになんとなく察されてしまった。思考を止めて平静を装い、アンの話に耳を傾ける。


「レヴィアさん、ディルトーネさんと来たのでなんとなくわかると思いますが、ここは女性幹部の私室がある階ですね」


 男女混合ではないらしい。魔王軍なのにと言うのは失礼かもしれないがしっかりしているようだ。まぁどういう効果内容かわからないが『色欲』はいるはずなので、仕方ないと言えば仕方ないのだろう。


「残る一部屋にいるのが、『強欲』の“大罪の体現者(カーディナル・シン)”、イルミナです。どんな方か覚えていますか?」

「……いや。俺が覚えてるのは今までに聞いたヤツくらいだ」


 『観察』を主とする俺らしくもなく、あまり他人のことを覚えていなかった。それだけの精神状態であったということだろう。


「まぁ二度お会いしたくらいですからね。では『強欲』のイルミナ・トールンさんについて、軽くご説明しましょう」


 アンは大して疑問に思わなかったようで、咳払いを挟み語り出す。


「イルミナさんは魔王軍幹部としては珍しく、悪魔ではありません。クレトさんのお仲間にもいましたが、魔人です。白魔人青種という、非常に珍しい種類ですね。……黒魔人赤種と比べてはあれですが」


 ナヴィと同じく魔人の幹部がいるようだ。……そういやここはあいつの故郷に当たるのか。思うところもあるのか、思い返せば最近ナヴィの印象が薄いな。あいつが俺についてきた理由は、俺が強かったからだ。俺より強いヤツが現れた今、あいつはどうするんだろうな。


「ただ最強ではないからこそ、彼女は『強欲』の“大罪の体現者(カーディナル・シン)”らしく貪欲に強さを求めています。スキルを解放していない状態では、彼女が一番強いでしょうね。それだけ技術の習得に余念がないということです」


 種族に胡座を掻かず、努力を惜しまず、なんらかの制限を受けていても尚強さを求め続ける。

 なるほど、『強欲』に相応しいわけだ。種族に胡座を掻いて技術を習得していないナヴィとは、同じ魔人であってもむしろ真逆。


「日々のほとんどを鍛錬に費やしているので、この時間だと部屋にはいないでしょうね」


 アンはそう言って下りる階段へ歩く。いつか再び顔を合わせる時は、きちんと『観察』させてもらうとするか。


 さて、お次はこの流れだと男性幹部二人の部屋がある階だな。

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