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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
古龍の森

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ぼっちは気晴らしに出る

 ネオンにゴーレムの造り方を教わってから、俺はひたすらゴーレム造りに勤しんでいた。


 最初は石。石で問題なく造れるようになったら鉄や鋼などの金属でも生成する。こうして徐々にゴーレムの素材のランクを上げていって、最高の鉱石とされるオリハルコンでゴーレムを造る。

 ここまで来るのは結構大変だった。オリハルコンのゴーレム化はゴーレム造りの第一人者であるネオンがいても難易度が高い。誰かの『模倣』は得意なのだが、自分でなにかを発見することはやや苦手だ。ネオンですら苦戦することを、俺がすぐにできるわけではなかった。


 ネオンが苦戦する理由は簡単で、魔力の保有量だ。

 オリハルコンは最高の鉱石として名高いようだが、そう呼ばれる理由の一つが膨大な量の魔力を蓄積できるという点だ。なのでオリハルコンでゴーレムを造るには、膨大な量の魔力を注入してオリハルコンの球体を魔力で満たす必要がある。一回の挑戦に膨大な魔力を消費してしまうので、ある程度魔力量が高いネオンであっても一日に数回が限度のようだ。


 その点で言えば、神のダンジョンコアよりも魔力保有量を多くできる俺でなければ練習を繰り返すことすらできないということだった。


 流石に四六時中やっていると魔力が枯渇していってしまうが、休憩を挟みながら暇さえあればオリハルコンゴーレムを造っていく。

 そして練習に取りかかって一週間が経過し、ようやくオリハルコンでのゴーレム造りが完了した。


 造ったのは二十センチくらいの人型ゴーレムだ。実際に動かしてみて、オリハルコンで造ったゴーレムに秘められたパワーの違いに驚かされた。

 まず、本体の性能だけでネオンのゴーレム達をボコボコにできる。魔力の回復がてら外でネオンのゴーレムと戦わせてみたのだが、ほとんど相手にならなかった。古龍の試練の時猛威を振るった小さなゴーレムをかなり強化した状態であっても簡単に吹っ飛ばすくらいだ。


 ……ネオンが割りとガチで凹んでいたのはちょっと申し訳なかったが。


 まぁその後籠もって意地と情熱でオリハルコンのゴーレムを完成させたのは流石だった。

 俺もその間オリハルコンでのゴーレム造りを確実にできるように練習を重ねていたが、色々な形を造っていたのでなんだかんだ楽しかった。俺がオリハルコンを操る元になったオリハルコンカイザードラゴンの姿を思い出して同じ姿になるように造っていたが、我ながら結構カッコ良く造れたと思う。イメージなので想像力が必要だというのもプラスに働いたのだろう。

 手で形を整えるように造るんだったら技術を『模倣』できなければ俺には無理だった。


 だが問題はダンジョンコアを使ってのゴーレム造りだ。


「オリハルコンを含む鉱石のほとんどは、魔力を込めて魔力を均等に満たすのじゃ。じゃが、ダンジョンコアは元々魔力を持っておる。それがどういうことかわかるかの?」


 オリハルコンでのゴーレム造りがかなり板についてきた頃。ネオンは神妙な様子で告げてきた。


「……普通の鉱石とは感覚が違うってことか?」

「そうじゃ。ほとんどの鉱石は元々魔力を持ってないからの。魔力を注いで自分の魔力で満たせば良いのじゃ。ただし、魔力を持ったモノをコアとして使うにはまた違ったコツが必要になるのじゃ」

「……」


 ふむ。となると魔力で均衡に満たす練習としてゴーレムを造っていたが、完全な無駄とは言わないまでも最適解ではなかったということだろうか。


「安心するといいのじゃ。オリハルコンでの練習は無駄にならんぞ。容量の大きいコアを造るのはコツが必要じゃからな」

「……そうか」


 まるで俺の心を読んだかのようなセリフだった。流石に表情を読まれたわけじゃないだろうが。


「そして! 安心するがいい!」


 更にネオンは不敵な笑みを浮かべて平らな胸を張った。


「練習の次の段階に必要なモノは既に用意してあるのじゃ!!」


 どんと胸を張るだけはある。きちんと計画を練ってゴーレム造りの練習をさせていたのか。難しい鉱石をひたすら練習させて数をこなして根性で頑張れみたいな無計画な感じなのかと思っていた。


「それがこの魔力を持った鉱石、ミスリルじゃな!」


 どどんとネオンが取り出したのは白銀の鉱石だった。確かに魔力が鉱石自体に感じられる。


「……けどどうやってコアにするんだ?」


 ネオンの話では、鉱石を魔力で満たすことでゴーレムのコアにできる。だが魔力は鉱石を球体に加工しながら注がなければならなかった。実際、球体にした後で魔力を込めようとしても魔力が定着せずコアにはならなかった。もう魔力を持っている鉱石に魔力を込めても同じようになるんじゃないかと思うんだが。


「いい質問じゃな。注ぎ込んだ魔力をミスリルの持つ魔力に溶け込ませて、満たすのじゃ」

「……そんなことができるのか?」

「うむ! …………理論上は」


 理論上は?


 ぼそっとつけ足した言葉に俺が眉を寄せて首を傾げると、ネオンはさっと気まずそうに顔を背けた。


「……ま、まぁ成功したことがないだけじゃ。理論上はできるはずじゃよ、理論上は!」


 理論上でしか成功しないモノを、机上の空論って言うんだよ。


「……とはいえ、他に方法もないか」

「う、うむ。一応たくさん用意してあるが有限じゃからな。なくなる前にまた採集しに行かないといけないのじゃ」


 そうか、自在に増やせるオリハルコンと違ってミスリルには限りがあるのか。流石に俺の持っているスキルじゃミスリルは量産できないからな。


「と言ってもクレトならわしよりも適性があるじゃろうな。鉱石を自在に操れるなら、ミスリルの魔力に自分の魔力を溶け込ませる感覚も掴みやすいはずじゃ。……わしがやるとどうにも溶け込ませられなくての。感覚的にヒトの魔力と鉱石の魔力は全くの別物なのじゃ」


 なるほど。確かに俺なら普通の人よりもやりやすいかもしれない。だがあくまで「かもしれない」の域だ。ガイアから『模倣』したスキルがかなり役に立つかもしれない。試行錯誤は苦手な部類だが、やってみるしかないか。


「……わかった。とりあえず、やってみる」

「うむ。ミスリルの在庫はわしの方でも気をつけておくのじゃ。クレトは作業に集中してくれれば良い」


 そう言ってネオンは立ち去っていった。通常のゴーレム造りも神経を使う作業だが、より繊細なコントロールを要求されるのかもしれない。ただ他に用事があったから出ただけかもしれないが、ネオンも造る側なので出て行ったとも思える。


「……さて」


 フィランダも外へ出ているので、地下研究室には俺独り。静かな場所で作業に没頭するというのも楽しいモノだと、ここ数日でわかっていた。なんだかんだこういう地味な作業は嫌いじゃないみたいだ。思えば外で遊ぶよりも折り紙とか好きだった気がする。いやまぁ、小学生の頃の話だが。

 ネオンが置いていった、ミスリルが山ほど入った箱を眺めた。ファンタジーではレアな鉱石とされることも多く、最高峰のオリハルコンですら持っていない特性を持つ鉱石だ。これほどの数を集めるのはかなりの労力が必要だろう。ネオンはこれまでも何度か挑戦しているようだったし、彼女が集めた在庫のほとんどを提供してくれたんじゃないだろうか。


 利害が一致しているからとはいえ、有り難いことに変わりはない。呪いを解いたことと今回のゴーレム造りのことを天秤にかけて、協力関係としては上々だろうか。


 ともあれ、無駄にしないように一回一回考えながら作業していかないとな。


 ミスリルを左手に持ち、目を閉じて意識を集中する。ミスリル内の魔力を感知した。生物が持つ魔力は体内を流動しているが、鉱石の魔力はその場に停滞している。しかも満ちていない。ぽつんぽつんと複数箇所に分かれて置いてある感じだ。


 まずは一個無駄にする覚悟で、これまで通りの方法で魔力を注ぎ込んでみる。ミスリルが元々持っている魔力も合わせて均等になるよう込めながら、『母なる大地』によって形を球体に変えていく。だが魔力は定着せず、コアにもならなかった。

 ネオンの言う通り、他の鉱石とは異なるようだ。


 その後も何回かネオンの言葉を反芻しながらコアの作成に取りかかっていたが、どうしても上手くいかなかった。


 時間を忘れて試行錯誤している内に、俺はあることに気がつく。


 ……これ、俺なら簡単じゃね?


 そう。すっかり「魔力を溶け込ませる」ことに集中していて忘れていたが、今回のコア造りは俺の得意分野――注ぎ込んだ魔力をミスリルの魔力に『同化』させてしまえばいい。

 なんかいいスキルないかなと思ってステータス画面を開く前にハッとなって気づいたが、今までピンと来ていなかったのが恥ずかしいぐらいだ。


 ともあれ解決方法がわかったのなら悩む必要はない。早速実践しよう。ミスリルを球体に変えながら魔力を込めるまでは手順を変えずに、完成間近で俺の魔力をミスリルの魔力と『同化』させた。魔力を別物の魔力に『同化』できることは確認済みなので、そこは問題ない。だが上手くいかなかった。

 原因を考えて対策を練る。次は元々ミスリルの魔力に『同化』させた魔力を注ぎ込んでいくとしよう。


 成功した。……できてしまえば呆気ないモノだな。まぁ今のところ俺にしかできない力技での達成になるので、ネオンが技術として活かすことはできないが。

 ミスリルでゴーレムを形勢して、問題なく動くことを確認しておく。成功はしたがこの方法ではネオンができない。ここまで色々やってもらって、自分のスキルがなきゃ達成できない、じゃ自分勝手が過ぎる。それに貸し借りはできるだけなくしたい。ゴーレムの造り方を教わったのが呪いを解いた返しだと考えて、ミスリルを用意してもらったこととネオンの立てた理論は間違っていないという証明。これで貸し借りなしと考えていい。貸し借りが残っていると後々禍根を残す。早々に真っ新な関係にしておくのが吉だろう。


 ということで、次のミスリルでは魔力を注ぎ込んでミスリルの魔力を介す時点で『同化』させていく。ネオンの言っていた「魔力を溶け込ませる」という行為を『同化』のスキルによって無理矢理実行した形だ。これでコアが出来るのなら、ネオンの理論は間違っていなかったという証明になるだろう。

 色々手伝ってもらった礼としては充分だと思いたい。


「……」


 最初は自分の魔力として注ぎ込み、ミスリルの魔力を介す時に『同化』させミスリル内を均等に満たしていく――失敗した。単純に俺が均等にし切れなかっただけのことだ。今までは自分のためにやっていたから平気だったが、他人のためになるようにしようと思うと微妙に緊張するな。ああもう、ぼっちの弊害か。

 なぜか妙な部分で悪戦苦闘してしまい時間はかかったが、遂にその方法でのミスリルコア作成に成功した。……妙に疲れる作業だったな。クソ、もう二度とやらないからな。


 どっと疲れがやってきたので作業の手を止めて天井を仰ぐ。


 ミスリルのコア作成ができるようになれば、後はダンジョンコアを残すのみ。だがダンジョンコアは他と違って一つしかない。失敗すると魔力への抵抗力? みたいなのが上がるらしく二度目ができなくなるのだ。だから使い捨て、一回きりの挑戦で成功させなければならない。そう考えると気が重くなる。入念に練習して、極限まで集中しないと成し遂げられないだろう。……自分のためとはいえ、面倒だな。


「……もう少しやるか」


 失敗したら二度目はない。となると失敗する想像しかできなかった。

 悪いイメージを払拭するにはひたすら成功を積み重ねるしかない。


 というわけで、俺は一心不乱にミスリルの在庫が尽きるまで作業を続けゴーレムを造り続けるのだった。


 ネオンの用意していたミスリルが尽きたので、作業をしようにもできなくなってしまう。ずっと同じ姿勢で作業していたので身体も固まってしまっているし、外に出て休憩するか。あと他人に言っておいてなんだが自分も作業に集中しすぎてずっとここにいた。多分臭い。……先に身体を清潔にしておくか。


 ネオンに言った手前自分が身体を綺麗にしておかないとならない。座り込んで作業していた体勢から立ち上がり、首や肩を回して身体を解した後外に誰もいないことを確認してから地下室を出る。さっさと浴室で身体を洗ってさっぱりした。意識していなかったからわからなかったが、こうしてさっぱりすると自分がどれだけ汚れていたかわかる気がする。獣人とか鼻が良さそうだし、汚いまま会ってニアとミアに避けられたら立ち直れない。念入りに身体を洗ってからシャツとズボンだけの簡単な恰好でうろちょろしてみることにした。


 家の中にはあまり人がいない。ほとんどが出かけているのだろうか。拠点内にいたのはエルサだけだった。今日の掃除当番は彼女らしく、拠点内の清掃を行っている。


「あんた、今までずっと研究室に籠もってたの?」


 近くを通りかかった時に声をかけられたかと思うと、咎めるような目で尋ねられた。


「……ああ」

「ふぅん? ちゃんと身体洗ったんでしょうね」


 やはりそこか。事前に洗ってきたので頷いておく。


「ならいいわ。それより三日(・・)も籠もり切りで心配したんだから……言っておくけど他の人が、よ! だから心配かけさせないようにしなさい」


 エルサはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。……三日? 三日も作業してたのか。これは本格的にネオンのこと言えないな。時間を忘れて熱中してしまっていたみたいだ。


「……そうか、悪いな」

「私は心配してないって言ってるでしょ! 勘違いしないでよね!」

「……悪い」


 心配は兎も角なにかしらの面倒は被っていると思うので謝ったが、キツい口調で断言されてしまった。まぁエルサとはそこまで話したこともないし、利害の一致もないしな。こんなモノか。

 掃除の邪魔をしても悪いので、エルサから離れて他の場所を見て回ることにした。後ろでなにやらゴンと壁に硬いモノをぶつけているような音が聞こえたが、壁を殴りつけて俺への怒りを露わにしていたら気まずい。聞かなかったことにしよう。


 というか三日もと聞いたら急に空腹を感じ始めたな。厨房の方に行ってみようか。


 厨房には誰もいなかった。造りだけは立派な厨房だが、調理器具は元々旅で使っていたモノしかないのであまり種類が豊富ではない。メランティナは少しだけ気にしているかもしれないが、逆に言えば一通りは揃っているのでこれ以上無理に増やす必要もないだろう。

 誰もいないはいないのだが、食卓の上に料理が置いてあった。メランティナの字で温めて食べるようにと書いてある。しかも俺宛てだ。俺が出てくるタイミングを予測されていたというよりは、毎回作っていつ俺が出てきてもいいようにしていたんだろうな。その分食糧が無駄になっていたかと思うと少し申し訳ない。せめてこの料理は有り難く食べるとするか。


 ただ、当たり前だが電子レンジはない。温めて食べるには熱を操る術を以って慎重に行う必要がある。まぁ鍋にかける方が簡単だろうが。

 『神炎魔法』でじっくり温めていった。電子レンジと同じ要領で皿を回しながら全体的に温めていく。……意味あるのかこれ? まぁいいや。美味しく食べる工夫の一つとしてとりあえず試してみよう。


 とりあえず全ての料理がいい感じに湯気を出すようになってから食べ始めた。温め直しても美味しいもんだな。メランティナの腕前か。

 食べ終わった食器を洗って乾かすように立てて置いておく。水は湖から引いているわけではないので、魔法で生み出した。誰もが使えるわけではないので分担が必要になる。使った水は蒸発させ、生ごみはネットにかけて別途処理する。地球ほど環境汚染が進んでいないので、全て焼却でもある程度問題ないだろう。というかどういう風にごみ処理してるんだろうな、この世界。詳しく知ろうと思ったことなんてなかった。多分燃やすか埋めるかのどっちかだとは思うが。


 ともあれ、ごみは決まったところにまとめておく必要がある。ごみを散らかして古龍から「森を汚しやがったな?」と喧嘩を売られても困るのだ。


 腹を満たしてから拠点の外へ出る。息抜きの散歩がてら、他のヤツがなにしてるかも見かけたら確認しておくか。別に一々把握しなくてもいいし、する気もない。というかこれまで放っておいているので今更の話だ。

 ただまぁそれでも気になってしまうのがぼっちの宿命と言うか。陰口とか聞きたくないけど気になってしまうのだった。……ホントに言われてたら心折れるから聞かないようにはするんだけど。


 拠点の周囲を歩いていると、ネオンとリエルが話しているところを見かけた。別に声をかける必要はないのだが、ゴーレムのこともある。向こうが直前で気づいたら話しかけよう。


「む? クレト、外に出てるということはゴーレム造りは休憩かの?」

「……ああ。ミスリルがなくなったからな」

「なんじゃと!? ……わしが苦労して集めたミスリル達がもう……」


 ネオンが集めていたらしい。肩を落とした様子に、少し申し訳なさが湧いてくる。だがそんな俺の感情を吹き飛ばすかのように、リエルがすぱんと頭を叩いた。


「ネオンだけで集めたわけじゃない。皆で集めて、皆で話し合った結果」

「わしが貰ったんじゃからわしのモノじゃろ?」

「ネオンが寝てる間に集めた分が七割。ネオンが届けるって言ったから渡しただけ」

「……」


 ネオンはさっと目を逸らした。そんな様子を見て言い負かせたリエルが嘆息している。


「それで、ゴーレム造りは順調?」


 改めてリエルから尋ねられる。


「……まぁ。ミスリルでの作成には成功したから――」

「成功したのかの!? どうやってじゃ!?」


 気まずそうにしていたのはどこへやら、ネオンが食いついて迫ってきた。顔が近い。身体を後ろに反らして離れようとすると、リエルが襟を掴んで思い切り引っ張り遠ざけさせてくれた。


「……ネオンの言った方法でも成功はした。俺は便利なスキルがあるからそっちでやった方が簡単だが」

「わしの推論は正しかったのじゃな!? なら良し! わしのミスリルを全て使ったことも許してやろう!!」

「ネオンのじゃない」


 テンションの上がったネオンの調子がいい言葉に、ちゃんとツッコむリエル。“水銀の乙女(ワルキューレ)”は皆仲良く活動しているのだと思うが、この二人は中でも親密と言うか付き合いの長さを感じる。あまり突っ込んだ話はしないようにしているのだが、少し気になって聞いてみることにした。


「……二人は付き合い長いのか?」

「ん? そうじゃぞ、それはもう小さい頃からの付き合いじゃな」

「ネオンは今でも小さい。幼い頃の付き合いの方が正しい」

「なんじゃと!?」

「悔しかったら大きくなってみれば」

「リエルもわしとそう変わらんじゃろ!」

「全然違う。十センチも違う」

「背の高さはそうじゃろうが、胸の大きさはほとんど一緒じゃろう!」

「むっ。そんなことない。私の方が大きい」

「一緒じゃぺったんこめ!」

「ネオンだってつるぺたの癖に」


 なにやら二人で言い合いを始めてしまった。互いに睨み合っているので俺そっちのけだ。……こういう時はこっそり離れるに限るな。俺のこと眼中にないみたいだし。必要な話はしたし、これ以上残っていても仕方がない。

 というわけで、俺は空気と『同化』して静かにその場を立ち去った。


 そして遂にネオンが口調だけののじゃだと判明してしまったな。見た目に反して年齢の高い幼女にも会ってみたいモノだ。折角のファンタジー世界なのだし。因みにクリアは論外。


 下らないことを考えながら歩いていると、今度は戦闘音が聞こえてきた。なにかを破砕する音や木の折れる音、金属がぶつかった時の音などだ。激しい足音も聞こえている。魔力を感知した限り、ナヴィとセレナが戦っているようだ。……珍しい組み合わせだな。

 気になって近づいていくと、手合わせなんだよな……? と思うほどに激しい戦いが繰り広げられているのが見えた。ナヴィは黒魔導を使っているし、セレナも『神意顕現』を発動した状態だ。つまり、本気も本気の戦いである。


 ナヴィが地面を殴れば土が抉れて砂煙が舞う。セレナが剣を振るえば周囲の木々が細切れになった。


 巻き起こる衝撃波に目を細めながら二人の戦いを眺めているとセレナが突っ込んでこようとしたナヴィを手で制止する。足を止めて地面を滑り止まったナヴィへと、彼女は俺の方を差した。余程戦いに集中していたのか、ナヴィは俺の方を見て目を丸くしている。


「なんだ、師匠じゃねぇか。なんか用か?」

「……いや、別に。気晴らしに歩いてただけだ」

「じゃあ師匠も混ざってくれよ!」

「……疲れるから遠慮しとく」

「そっかぁ」


 ナヴィは手加減ってモノを知らないからな。彼女と手合わせするとなったら俺も相当ちゃんとやる必要が出てくる。面倒だ。その点セレナは上手い具合にやっているのかもしれなかった。

 ナヴィは肩を落としていたが、しつこく迫ってこないのが幸いか。


「……しかし、珍しい組み合わせだな」


 俺の率直な意見に、セレナが苦笑する。


「そうだな。彼女の方から手合わせを頼んできた時は少し驚いた」

「ああ、ナントカってパーティで一番強そうなのがあんただったからな」

「“水銀の乙女(ワルキューレ)”だな。いきなり本気で戦って欲しいと言われた時はなにかと思ったが」

「本気じゃなきゃもっと上にいけねぇだろ?」


 ナヴィは当然のように首を傾げるが、一体どれほどの人が常に本気でいられるのだろうか。だからこそセレナも邪険にせず付き合っているのかもしれない。


「……邪魔して悪かったな」

「いや。私としても手伝ってくれるなら助かるから、いつでも来てくれ」

「師匠と手合わせできる時を待ってるからな!」


 面倒だから二度と来ないけどな。セレナと交代でナヴィと戦うなら兎も角、三つ巴の手合わせになったら厄介だ。いくらステータスが高いとは言っても精神的な面で面倒だと思う気持ちは変わらない。


 二人のいる場所から離れるように歩いていると、森の中でユニとアリエーラが談笑しながら歩いているのを見つけた。果物や山菜などを採っているようだ。確かに二人は回復役という印象が強く、戦闘力が高いとは言えない。アリエラーは完全に支援主体で、魔法による攻撃ができるくらいだ。ユニに関してはこれまで戦ってこなかっただけで、獣人らしく身体能力が高いとは思うのだが。自分で戦おうと思わなければ俺の抱いている印象は払拭されないだろう。まぁ無理に戦おうとしなくても、他のヤツらが強いからな。

 仲良く談笑しているようだったので、邪魔しないように話しかけはしなかった。


 次に見かけたのはクリアとミスティだった。……ミスティのヤツ、作業には必要ないからって剣自体を部屋に置いてきたってのにこんなところにいたのか。まぁ暇だろうからな。

 クリアとミスティが戦っていたのは湖の上だった。精霊だから溺れる心配もなく、自然を破壊しない。魚がいるのかはわからないが、小さな生物にとっては地獄のような状況だとは思うが。


 クリアが大量の水を操って攻撃しているのに対して、ミスティは紋章のような翼を生やして両手にそれぞれ剣を持ち飛び回っている。片方はミスティが宿っている剣だが、もう片方はレーヴァテインの見た目をしていた。炎と刃を巧みに操ってクリアの水を相殺しつつ接近しようと機を窺っている。

 こうして傍から見ているとわかるが、やはりミスティは飛ぶのが上手い。俺が飛びながら戦おうとすると意識を持っていかれるので、ミスティほど自由に飛び回れないのだ。なので基本的には飛行操作を任せてしまっている。俺の頭の中を読み取った上で合わせてくれるので非常に有り難かった。


 クリアの方も順調に力を取り戻していっているようだ。というかほとんど全快なんじゃないだろうか。確か古龍の森の立地がいいとかそんな話をしていたような気がする。

 結構真剣に戦っていそうなので、こちらも邪魔しないで立ち去るとするか。


 メランティナとニアとミアの姿が見えないな、と思って少し探してみると森の一角で確認できた。


 ここまで来たら全員確認しておこうと思ったのだ。フィランダは自室で休憩中らしく会っていない。俺の作業を邪魔しないように席を外してくれていたようなので詫びでも入れようかと思っていたが、無理に会う必要もないだろう。


 三人は森の一角で鍛錬をしているようだった。

 流石に実力差があるのでナヴィとセレナの手合わせのような人外戦闘を繰り広げてはいなかったが、目を見張るモノがある。ニアとミアは冒険者として登録しており、実戦も行っている。その成果が確実に出ているのだろう。元々獣人なので身体能力が高いこともあるが、身軽さを活かして戦うようだ。森という木々が生い茂る立地でありながら、素早く駆けてメランティナに攻撃を仕かけている。

 木々の合間を素早く駆けたり、木の幹を蹴って空中で方向転換したり、身のこなしは抜群に良かった。俺もステータス的には可能な動きだが、立体的な動きに頭がついてこない。


 ニアとミアはどうしても攻撃の軽さがあるが、動きの素早さや撹乱によって格上にも対抗し得る実力を備えているようだ。……まぁ、メランティナはそれらを全て簡単に弾いてみせてるんだけどな。まぁ獣人内ではほぼ最強と言っても過言じゃないので、仕方ないと言えば仕方ないか。


 遠目から鍛錬の様子を眺めていて、折角頑張っているようなので邪魔しないようにと離れていった。多分メランティナには気づかれていたと思う。獣人の五感は鋭いからな。メランティナほどの実力なら結構離れていても捕捉されてしまうだろう。


 とそこでそういえば遊具を作る約束をしていたことを思い出した。

 自分の作業ばかりで二人のお願いを忘れるなんてどうかしている。ブランコぐらいならすぐに作れるだろう。早速取りかかるか。戻ってきた二人が喜んでくれるといいな。他にも滑り台ぐらいは作りたい。


 というわけで多くなったスキルを総動員して遊具を三つくらい作ってみた。

 他のヤツから若干引かれていたような気がしなくもないが、二人が喜ぶ姿が見れたので良しとしよう。


 近い内に、ダンジョンコアを使ってゴーレムを造りここともおさらばすることになるだろうけどな。

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