表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第一章 最初の街
9/104

エセ勇者は躊躇なしにモンスターを狩る

遅れました


寝落ちです

 ……。

 …………。


 俺は周囲を常に『観察』しながら、森の中を進んでいた。


 森には猿の化け物みたいなモンスターが蔓延っているのだ。一瞬でも油断すれば、俺みたいなただの高校生は一溜まりもない。


 しかしあれだな。変装してるのって『観察』すると偽造って分かるんだな。俺ってば高遠の変装マジ丸分かりじゃん。あとはベルモッドとかな。どんな変装名人でも俺の前では意味を成さない。……ヤバい。ちょっと特技の人間観察スキルがカッコ良くなってきた。


 『同化』のスキルを使っているため俺の存在は風景と『同化』している訳だが、どうしても木の枝や草むらを踏んだ時の音は消せない。それに、獣に対する匂いもだ。『同化』しているとは言え、見つかる。擬態している虫等が今まで増え続けないで一定の数を(地球温暖化は抜きで捕食のみで)保っているのは見つかるからだ。

 見つかって捕食される。それは俺の『同化』スキルも同じだ。


 正体が何かは分からなかったが、メイド長以外全員偽造された姿だったな。


 ……何でメイド長を知ってるかって? 勿論見ていたからだよ。森の中を進んでいると思わせてちょっと物陰に隠れて様子を窺っていた。


 その後メフィストフェレスとか悪魔の名前を言い出すもんだからちょっと『観察』していたら本性を現したので、変装されてるとあんな感じになるのかー、と他人事のように思っていた。


 そして退散。あまり長居すると視線を感じられてバレかねないので、そそくさとその場を去った。


 ……さて。聖女が偽物だと分かった勇者君は、どんな反応をするんだろうな。愕然とするんだろうか。絶望するんだろうか。それとも乗り越えて勇者として頑張っていくのか。

 ……ま、どれにしろ俺には関係ないので良い。


「グルル……!」


 俺の横を狼のようなモンスターが後ろから駆け抜けていく。注意力が散漫だな。いくら後ろからモンスターに追われているとしても獲物を逃がすとは、狩人としてはまだまだだな。


 ……まあつまり、俺今ピンチって事なんだが。


 体長二メートルはある大きな灰色の狼が全速力で逃げる程、どでかいモンスターがズシンズシンと重々しい足音を立て、木々をバキバキと踏み倒して背後から迫って来ている。


「……『観察』して、その後で殺す」


 俺は冷静に呟いて、後ろを振り返る。


「……」


 簡潔に表現すれば、二足歩行をしているサイ。その割りには脚が短く筋肉隆々で腕が長い。右手にはトゲの付いた黒い棍棒を握っている。

 ……どこの極卒獣だよ。

 残念ながらつぶらな瞳をしている訳ではなかった。寧ろ狂気に満ちた濁った瞳をしている。……濁り方が俺とは違うな。流石はモンスターだ。世界をどうでも良いと思っている瞳ではなく、俺の邪魔をするヤツは全て排除する、みたいな狂気に囚われた瞳だ。


「ゴアアアァァァァァ!!」


 サイらしく大人しく口を閉じていたそいつだが、俺の姿を捉えてニチャァ、と口を開いて咆哮した。……おいおい。サイって草食だよな? 俺の記憶が間違っている訳じゃない。その割りにはよだれいっぱいの口内に、鋭く尖った牙がズラリと並んでいる。下も長く口が裂けているんじゃないかってくらいに開いていた。


「……気持ち悪いな」


 俺は本気で引いた。サイが口を開いたらこんなんだったらドン引きだよな。


「ゴァッ!」


 俺は引くついでに言葉の刃で攻撃するが、サイの化け物は野生の本能か、棍棒で間一髪視えない刃を防いだ。……ほう? 猿帝よりも人間に近い体格をしているだけはあるようだ。

 ……あれ? 野生の本能なのに何で人間に近い方が防いでんの? まあいいか。知能の高さは危機感の高さかもしれない。牽制に使っただけだから防がれても別に良いし。


「……死ね」


 だが次は違う。本気の殺意と敵意を込めて言葉にする。


 再びサイの化け物が棍棒で防ごうとするが、棍棒ごと切り裂いた。……チッ。流石に棍棒で防がれると真っ二つには出来ないか。


「……旋風刃」


 俺は左手を前に伸ばし、黄緑の魔方陣を描く。竜巻がサイの化け物に向かって巻き起こり、肩から脇腹にかけて浅いが袈裟斬りされて怯んでいたのでまともにサイの化け物を巻き込んだ。


「ゴアッ!」


 竜巻は刃と付くその魔法により、ズタズタに引き裂かれる。……おぉ、ちゃんと決まるとこんなに威力を発揮するのか。俺の言葉の刃十五連続攻撃よりも相手をズタボロにした。


「……流石は神から授かった魔法、ってとこか。まあトドメを刺すには決定力に欠ける技だが」


 フラフラと足元が覚束ないながらもまだ荒々しく息を吐き命があるサイの化け物を見て思う。


「ッ!」


 サイの化け物は全身から血を滴らせながらも斬れて使えなくなった棍棒を放り投げ、俺に向かって腕を振るってきた。……生命力高いなぁ。やっぱ人間とは違うよなぁ。


 俺は猿帝の時と同じような感想を抱いた。


 逆に言えばモンスターを痛め付けてもその程度の感想しか抱かなかったってことだが。

 猿帝を殺した時、心優しい勇者君は血の気の引いた青白い顔をしていたが、俺は眉一つ動かさなかった。

 ただモンスターの死に様を『観察』していただけだ。


 ……ってか血糊ちのりだけでも落とせないかな。そう言う魔法は水系統っぽいんだが、勇者君の魔法でも『模倣』しておけば良かったな。

 たかだか血糊を落とすのに神から授かった魔法を使うってのも贅沢な気がするが。


 ……川でも探すかぁ。


 森の近くには川がある……のかもしれない。ってか海がなさそうだから湖沼と河川と泉ぐらいしかないんじゃないだろうか。


 水の大陸から降ってくるのかもしれないが。


 ……情報収集には図書館が一番か。最悪奴隷を買うって言う手もあるな。だが奴隷とか面倒そうだしいいや。でも図書館って貴族しか入れないとかめっちゃ料金高いとかそう言う場合もあるんだよな。


 兎に角今は生活費を稼ぐことが重要だ。


 ……今がどんな時かって? 血塗れのサイの化け物に近接戦闘を挑まれている最中だけど?


 俺の『観察』があれば相手の筋肉の収縮等を見て何をしてくるかを流れで読み、ついでに木の根につまずいて転ぶことがないように足元と避ける位置を確認しながら、かわすことが出来る。


 つまりは襲われている最中に避けながら思考を進めることが可能だ。……暴れ回っているせいで周囲のモンスターを引き寄せているかもしれない。血の匂いに誘われて更にモンスターがやってくるかもしれない。……一対多数の練習をしておくべきだな。もし寄って来たらまとめて相手してやるか。


 ……俺がモンスターを実験体ぐらいにしか見てないって? 人間だって人間を実験体にしてきたんだし、今でもネズミや何かの小動物を実験体にすることがある。なら俺が人に近い体格をしたサイの化け物を実験に使おうと、他のモンスターを実験に使おうと勝手だろう。一時期倫理を疑われる人体実験にまで手を出したヤツと同じ人間と言う種族に何を言う資格があるってのか。


 解剖したかったからって同じ種族殺すんだぜ? そんなの最早、獣と変わりねえよ。悪気がなく必死に生きている訳じゃない分獣より性質たちが悪い。


「ゴッ、アァ!」


 腕を振るい続けているので荒々しく吐いていたサイの化け物だが、遂に息切れし始めていた。……もうそろそろ多量出血で死ぬと思っていたんだが、なかなか死なないな。倒しても素材を剥いで売るとか道具がないから出来ないし、売れるのかどうかもよく分からない。倒したらその場に放っておくだけだろうし、あんまり長く戦っても疲れるだけだから嫌なんだが。


「……」


 俺はそろそろ仕留めるか、と思い『模倣』した『疾風迅雷』で風と雷を纏い一瞬でサイの化け物の眼前に潜り込む。


「……旋風脚」


 俺は技としては『風神雷神』の中の雷撃脚と対をなす風の技を使う。

 左脚に逆巻く風を纏い思いっきり振り上げてサイの化け物の顎を蹴り上げた。


 ガクッと膝を折りグラリと意識が揺れたせいか身体をフラつかせるサイの化け物に風で距離を少し詰めつつ、脚を下ろし両手を組んで頭上に振り上げる。


 バリバリバリッ……! と両手に辺りを照らす程の雷を纏い、


「……猿帝のかいな


 俺は猿帝の腕を『模倣』して、両手をサイの化け物の頭に叩き付けた。

 雷がサイの化け物の全身に炸裂し、絶命させる。


 断末魔も上げられず、全身を雷で焼かれたサイの化け物はゆっくり後ろに倒れていく。


「……っと」


 俺は倒れている焼け焦げたサイの化け物の上に着地する。……あれ? 『疾風迅雷』と『風神雷神』があれば高速飛行とか可能じゃね? だって俺の浮遊時間、ジャンプしただけにしては長かったし。もしかしたら本人の意思によって浮遊するのかもしれない。その辺はまた実験してみないと分からないな。


 因みに猿帝の腕とは、『観察』した猿帝の腕の丈夫さと筋力を俺の腕に『模倣』させる技だ。つまり、俺の腕で猿帝の腕力とそれに耐える頑丈さを再現したのだ。


 ……焼いても美味そうじゃないな。牙がズラリと並んだ口を大きく開けて死んでいるからだろうか。いや、サメの丸焼きみたいなもんだと思えば問題ない。だが焼いて美味そうな匂いがしないから止めておくか。


「……はぁ。先が思いやられる異世界旅行だな」


 俺は溜め息をこぼし、モンスターの死体の上で天を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ