ぼっちはゴーレム造りを教わる
残念ながら家具が揃ってしまったので、俺もいい加減研究に身を窶す時が来てしまった。
改めて俺の目的を整理しよう。
俺の目的は、神のダンジョンコアを使って巨大なゴーレムを造ること。
ダンジョンコアを使うことができれば、ゴーレム内に部屋を自在に造ることができる。
ダンジョンとは、俺が挑んだ神の試練もそうだが本当に地中に造られているわけではない。地中深くまで続いているような造りにはなっているが、実際のところは異空間が創造されている。でなければ階層、大きさの違うダンジョンが毎回造り変えられているのにも関わらず地殻変動が起きていない理由が説明できない。ダンジョンが切り替わる瞬間に地震すら起きていないので、ここは間違いないだろう。他のヤツに聞いても実際に地面に穴が空いているわけではないと聞いた。なんでも、実際にダンジョンの外側から穴を掘って確かめた物好きがいたんだと。
なのでダンジョンコアを使う以上、ゴーレムさえ造れてしまえばほぼ完成と言っていい。
そしてそのゴーレムを使う技術を入手するために、俺にはネオンが必要だった。
「クレトよ。ここに来たということは、いよいよ巨大ゴーレム創造計画を実行する時が来たのじゃな!?」
拠点地下の研究室に降りてきた俺を見て、ネオンが瞳を輝かせる。来る日も来る日も研究に明け暮れていたせいか、顔は煤だらけで服も汚れてしまっていた。だがそんなことはどうでもいいとばかりに目が爛々としている。
だがしかし。
「……臭い」
「!!?」
鼻を摘まんで率直な感想を口にすると、ネオンが衝撃を受けていた。……いやだって何日も籠もりっ放しだから、風呂入ってないんだよこいつ。女性に対して失礼だろうがなんだろうが、はっきり言わなければならないことはある。
ネオンは他人に言われてようやく我に返ったのか、頻りに自分の身体を嗅いでいた。動きが止まったかと思うと、
「お風呂行ってくるのじゃーっ!!」
目尻に涙を浮かべて全力疾走で地下室を出ていく。
しかし、あれだな。少し見ない内に研究室も随分汚れたな。これは一回掃除しておくべきか。
「あら、休憩はもう終わり?」
地下研究室にはもう一人、フィランダもいた。こちらはあまり汚れていない。というか彼女はちゃんと食事の時などに見かけていた。籠もり切りだったのはネオンだけだ。
「……ああ」
「そう。いよいよゴーレムを造るのね? 私にも手伝えることがあれば、手伝うわ」
「……そうか」
個人的にフィランダとの距離感は悪くない。近すぎず遠すぎず、一定の距離感を保っている感じがする。しかしここまで協力的なのには疑問が残る。仲間のためだろうか。ネオンは完全無欠のゴーレムを造ることを夢に掲げている。それに近づくのだから、それは充分彼女が協力する理由になるのかもしれない。
「掃除、するんでしょ? 手伝うわよ」
よくわかったな。一言もそんなこと言ってなかったのに。
「研究室の汚れているところばかり見ていたもの、それくらいわかるわ」
視線を読まれてしまっていたらしい。驚いて彼女の方を向いた俺に、フィランダが苦笑して言った。
ということで、彼女の協力もあり魔法で一気に室内を洗浄することができた。半分ぐらいここで生活していたネオンのせいで汚かったが、ちゃんと綺麗になっていく。そういえばフィランダはネオンの汚れっぷりになんとも思わなかったのだろうか。
「……ネオンのこと、気にならなかったのか?」
「研究で色々な薬品を使うから、魔法で防護していたのよ」
ということらしい。便利な魔法なので『観察』させてもらった。
「ま、待たせたのじゃ!」
掃除も終わって綺麗になったところで、ようやくネオンが来る。バンと勢いよく扉を開けて駆け下りてきた。風呂直後の石鹸の匂いに足されて香水の匂いまで漂ってくる。なんのオブラートにも包まず言ってしまったので、ダメージが大きかったのかもしれない。
「ど、どうじゃ? これで臭くないと思うのじゃが!」
「……ああ。じゃあ始めるか」
「うむ!」
風呂に入ってきてくれればそれで良かったので、さっさと始めることにする。
「……じゃあまず、ゴーレムの造り方から説明してもらっていいか?」
「うむ! では始めるとしよう!」
ネオンは腕組みをして薄い胸を張り嬉々として語り始めた。
「ゴーレムを造るのに必要なのは、まず核となるコアじゃな! コアは鉱石など魔力を保管できるモノならなんでも良いが、質が良いモノであれば良いモノであるほどより良いゴーレムが造れるようになるのじゃ! その辺りの仕組みは後で説明するとして!! コアの問題はクレトは解決しておるからの!」
テンションが高い。
ネオンの言っているコアについてはこれ以上ないほどいいモノが手に入っているので、問題ないだろう。
「ただしいきなり本番のコアを使うのはダメじゃ。まずは練習してゴーレムの造り方を身体で覚えなければならん。クレトは自在に生成できるオリハルコンで練習するのがいいじゃろう。贅沢な話じゃが、神のダンジョンコアを核とする以上練習にも良いモノを使った方がいいじゃろうしな」
神のダンジョンコアを使うのはおそらくだが難易度が高いのだろう。本番で難易度が高いコアを使うのに練習でずっと質の低いコアを使っていたら本番で失敗してしまう。
「もちろん最初はあまり良くない鉱石で造り、感覚を掴むのじゃぞ。質の高いコアの方が造りづらいからの。オリハルコンはわしでも一週間かかったのじゃ」
だから一週間籠もり切りだったのか。
「ダンジョンコアは必要ないじゃろうが、通常鉱石をそのままコアにすることは不可能じゃ。ゴーレム造りはまず鉱石を加工するところから入る」
ネオンは言って、ただの石を取り出した。石を台に置くと化石掘りとかで使っていそうな石を削るための道具を手に取る。その状態で白く半透明なオーラ、魔力を纏いながら石を削った。荒く削る道具、細かく削る道具、最後にヤスリ。手際良く石を削っていき綺麗な球体にしていく。大きさはピンポン球くらいだろうか。
「……うむ。こんなところじゃの。核となるコアは球体の方が良い。それも綺麗な丸であればあるほど良いゴーレムが造れるようになるのじゃ。魔力を纏いながら作業していたのがわかると思うのじゃが、魔力をできるだけ均等に込める必要がある。偏るとゴーレムの形が悪くなってしまうからの。コアの基となる鉱石毎に耐えられる魔力量が決まっておるので、込めすぎには注意じゃぞ」
感覚を掴むまでは難しそうな作業だ。というか球体に削るだけでも神経を使う作業になる。ネオンの削った石を手に取って指を滑らせてみるが、滑らかな球体になっていた。ここまで至るのにどれだけ努力してきたのかは想像に難くない。
こういうのを一から習得するとなる大変そうだが、スキルを使っていいのなら難しくない。
「……スキルで球体に変形してもいいのか?」
「もちろんじゃ。ただし魔力を後から込めると定着せず失敗してしまうのでな。同時に魔力を込めるんじゃぞ」
球体にできればなんでもいいらしい。変形と魔力を込める動作を同時にやらなければならないようだが、作業を一から覚えるよりか効率がいい。
俺はネオンに渡された石を持ち、『母なる大地』を発動する。大地に類するモノを操作できるこの能力なら、石を変形させるのは訳なかった。ただし、魔力を込めるというのが感覚を掴めない。一応ネオンが込めていた魔力と同じくらいの量を球体になっていく石に満遍なく注いでいく。魔力の操作はメランティナがやっていたのを見ていたので問題なくできるが、均等に込めるというような精密な操作まではやったことがない。大体均一になったかなというところで石を完全な球体にした。
「初めてにしては上出来じゃの。変形しているだけあって球体にするのは完璧じゃ。ただ、魔力には若干のムラがあるのう。まぁコツを掴めば均等に込められるようになるじゃろう。練習あるのみじゃ」
ネオンが俺の作った球体を摘まんでじろじろと眺め、評価を下す。俺としてはできるだけ均等にしたと思っていたのだが、まだまだのようだ。実際に自分で感知してみても均等にはなっていない。初めてだから仕方がないとはいえ、難しいな。
「次はいよいよゴーレムを造る工程じゃ! 今作ったコアを基に、ゴーレムを造るのじゃ!!」
本格的なゴーレム造りの説明に移るからか、ネオンのテンションが再び上がった。
「まずさっき作ったコアを持つ。持ったコアに魔力を通してゴーレムの身体となる石を生成するのじゃ。ゴーレムの身体はコアに合ったモノが一番やりやすいからの。岩を生成する方法は、まぁクレトならわかるじゃろ。本当なら魔法と同じコツを身につける鍛錬が必要になるのじゃが、クレトはもうスキルで持っておるようじゃからの」
「……ああ。ゴーレムの大きさはどれくらいがいいんだ?」
「自由自在! と言いたいところじゃがあまり大きなゴーレムは造れんの。大きなゴーレムを造るには大きなコアか膨大な魔力を保有するコアでなければならぬのじゃ。神のダンジョンコアなら問題なくできるじゃろ」
本番に関しては心配いらないということか。問題は今持っている石がどれくらいか、という話になるのだが。
「わしが先に手本を見せるのじゃ。よーく見て、魔力を感じ取るのじゃぞ」
言って、ネオンは手に持ったコアに魔力を通してコアの周囲へと放っていく。今回は「魔力を込める」のではなく「通す」なのでコアに留める必要はない。というか留めると魔力を受けすぎて割れてしまいそうだ。
石のコアから出た魔力が石となってコアの周りに纏わりついていく。それは人型のようになり、石がくっついたような手足と頭を持つ。石のコアはゴツゴツした石の身体に覆われて見えなくなっていた。きちんと頭には目を持ち、赤く輝いている。造られたゴーレムはむくりと起き上がってネオンの手の上に立った。
「こんなモノじゃの。因みに今回の造り方は、使用者が魔力を流し込んで命令することによって動くタイプのゴーレムじゃ。わしは他律型と呼んでおる」
「……つまり、自動で動く自律型もあるってことか」
「そうじゃ!! そしてわしがゴーレム製作者の第一人者である理由でもあるのじゃ!! わしが初めて!! 自律型ゴーレムを造った者なのじゃ!!!」
これが言いたかったらしい。ネオンが反りかえるほど胸を張って告げた。単純に凄い。誰かを真似するのは一を二や十にする作業なので、比較的簡単だ。だが零を一にする作業は難しい。それをやってのけたのだから、ネオンは間違いなく天才なのだろう。
「……へぇ、それは凄いな」
「そうじゃろうそうじゃろう!! 自律型ゴーレムを造る場合はコア自体にどういう風に動くかを記述しておく必要があるので、初心者には難しいのじゃ。もちろん、わしなら可能じゃがな!」
えっへん、という声が聞こえてきそうな様子である。まぁ事実初めて自律型ゴーレムを造ったのだから、それを誇るのは悪いことじゃない。性格が悪かったら平伏せ愚民共! みたいな感じを出してくるだろうし、誇って褒めて欲しそうに見えるだけなのはまだ愛嬌のある方だろう。まぁ見た目の幼さがそう見せているだけかもしれないが。
「……じゃあその時は任せる」
「うむ!! 大船に乗った気でおるが良い!!」
普段ならこういう時に嗜めるリエルがいないからか、ネオンは調子に乗りっ放しだ。横で黙って見ているフィランダも嗜める様子がないのでいいのだろう。
「それじゃあ、クレトにもゴーレムを造ってもらいましょうよ」
「そうじゃな」
ただ話が進まなさそうだったので口を出していた。
ということで、遂に俺もゴーレム造り開始だ。
基本的には『母なる大地』を使用する感覚と同じなので、やり方はわかる。違うのはコアを通す必要があるという一点だけだ。
残る問題はどんな形にするか、だ。ネオンの造った一目見てゴーレムだとわかる姿でもいいが、自在に形を造れるので工夫を凝らしたい。石のゴーレムと言えば、ガーゴイルとかだろうか。あれはゴーレムとは別物なのか? イマイチゴーレムの定義がわからないな。ネオンはゴーレムに強い拘りを持っていそうだが、まぁ怒られてしまったらそれはそれで仕方がない。
ということで、台座に座る悪魔のような姿を思い浮かべながら魔力を通してイメージ通りの形になるよう調整していく。細かいデザインは省いてシンプルに角と翼と尻尾を生やした姿にした。台座にお座りの姿勢で座らせている。イメージすれば大体の形にはなってくれたので、そこまで苦はない。
完成した姿は俺が思い描いた姿そのモノだった。台座のデザインはもう少し凝っても良かったかもしれない。シンプルな台形にし過ぎた。
「う、む……。ま、まぁまぁじゃな! ガーゴイルもゴーレムの一種! わしは普通の方が好きじゃが!!」
「へぇ、見事なものね。動かせるの?」
ネオンは若干言葉を濁らせていたが、とりあえず上手くはできていたようだ。あとガーゴイルはゴーレムの一種らしい。良かった、ゴーレムは人型っぽいヤツしか認めんとか言われなくて。
フィランダに言われて魔力を流し込んでみる。立ち上がれと命令してみると、ガーゴイルが台座の上で立ち上がった。コアが台座の中にあるからか、ガーゴイル単体を飛ばすことはできないようだ。飛べと命令したら翼を羽ばたかせて台座ごと飛んでいた。残念ながら台座が重すぎて頑張っていたがちょっと浮く程度だった。フィランダはくすくす笑っていたが。
「う、むぅ……。まぁ、まぁまぁじゃな! わしの方が、よく出来ておる!!」
「それは当たり前でしょう? 変な意地張ってないで、次に移りましょう」
「うむ、そうじゃな……」
ネオンは尚も歯切れが悪かったが、とりあえず次へと進めてくれるようだ。
俺はその後数時間に及んでネオンにゴーレム造りを教わり、数日間オリハルコンでの練習を重ねることになったのだった。




