ぼっちは神の試練を踏破する
九十一階層、阿修羅から始まるボスラッシュ。
九十二階層、嵐と炎を操る破壊神シヴァ。
九十三階層、射程距離と矢の本数が無限という弾幕ゲーを挑んできた神アポロン。
九十四階層、ダンジョン内を変化させてくるとかいうアホなことをやり始めた大地の女神ガイア。
九十五階層、巨大且つバカげた怪力を持つギガントマキア。
九十六階層、おそらくヘラクレスという逸話を元に構成された怪物ヘラクレス・スペクター。
九十七階層、戦略と守護の女神アテナ。
九十八階層、またしても現れた海のフィールドで悠々と戦いやがる海神ネプチューン。
九十九階層、愛の重さが重力系能力に変化されたらしい神ヘラ。
……お前らこんなとこでなにやってんだよ……。
と異世界人なら思っているラインナップである。神話などに登場する神々が敵として出てくるダンジョンなんて流行らないだろう。というかこの世界にギリシャ神話とかないのになんでこんなモンスターがいるのだか。
どいつもこいつもバカみたいに強かったが、阿修羅の権能が強すぎて苦戦はしなかった。アポロンの弾幕を一振りで薙ぎ払ってやった時のあいつの顔は最高だった。
しかし、九十九階層がヘラであれば百階層は誰になるのか、大体想像がつく。
「此処までただの人が辿り着いたのは初めてである。誇って良いぞ」
しわがれた声でありながら威厳に満ちた声でもあった。
白髪と白髭を蓄えた巨躯の老人だ。白い法衣を纏っており、座禅を組んで宙に浮いている。
「……ゼウス」
俺は『鑑定』するまでもないと、その名を口にした。身に纏う空気が本気になっていないというのにぴりぴりしている。金の瞳で見据えられているととても居心地が悪かった。まるでこちらの全てを見透かそうとしているようだ。しかしそれは俺も同じ。俺は今まで戦ってきた神共の権能を『模倣』している。勝ち目はあるだろう。
戦闘中に『観察』、『模倣』してそっくりそのまま返してやってもいい。
俺にできることは全てぶつけてでも、倒すべきだ。
「……全ての体躯。『獣人覚醒』、『昇華』。『疾風迅雷』、『天下無比の鬼神』、『破壊の化身』、『強大無双』、『闘争の英雄』、『絶対なる神盾』。『神意顕現』」
神から『模倣』したスキルもふんだんに使った。
『強大無双』――ギガントマキアから『模倣』したスキルだ。強力無比ではあるが他の権能と比べると一段階下がったスキルにも見える。問答無用感が薄いと言うか。超絶的な力を発揮し攻撃範囲を増す効果がある。そしてその効果が、身体の大きさに応じて跳ね上がっていくというモノだ。大きくなればなるほど手に負えなくなってくる。それがこの世界におけるギガントマキアなのだろう。とはいえ大きくならずに使っても効果は大きいのでそのまま使っている。実際に戦った時は地団駄で死にそうになった厄介なスキルだ。
『闘争の英雄』――ヘラクレス・スペクターから『模倣』したスキル。基本能力は超人的な身体能力、あらゆる武器を使いこなし十二分に力を引き出す、一日に十二回死なないと絶命しないの三つ。そして特殊な効果が、戦闘時勝つために必要な要素が視えるというモノだ。この効果が地味に有り難く、流石に全ての『模倣』したスキルを覚えてはいないので瞬時にそれらが頭に浮かぶと非常に楽だ。
『絶対なる神盾』――アテナから『模倣』したスキル。防御した時にダメージの一切を負わず敵の攻撃したモノを破壊するという効果を持つ。ちなみに『阿修羅』の攻撃が絶対に通る、で攻撃した場合は『阿修羅』が優先された。おそらくだが『阿修羅』が防御できないために、防御した時がトリガーとなっているこのスキルは発動しなかったのだろう。効果で破壊するモノは一時的とはいえスキルも含まれるため、防御し続ければいつか打つ手がなくなるというチートスキルでもある。
加えて『神意顕現』も初めて使用する。外套は事前に脱いでおり、服の背中に穴を開けておいた。そこから純白の翼が生えている。
俺が身体的特徴を『模倣』してヴァルキュリアスになった時の名前は、獣と風景の男。『動物好き』と『同化』が肝になったような名前だった。獣が近くにいて、風景の中にいれば発動可能だ。風景なんてどこでもいいので、獣だけが条件とも言える。そして俺は獣人の姿を『模倣』できるので、「俺という獣がいる」状態になり発動可能となる。……凄い無理矢理だな。
「……《羽を開け、心を喰らえ》」
その上で制限を設けず邪精霊に感情を喰わせてやる。
そして俺が今まで忘れていたが故にそこまで強くなかった、魔力。
「……全ての魔力」
それらを『模倣』した。神々のおかげでほぼ無限にも等しい魔力を有することになり、目の前のゼウスよりも格上になることができた。……体躯を『模倣』しても身体能力が上がるだけで魔力が上がるわけじゃないってのを失念してたんだよな。俺としたことが、まだここが剣と魔法の世界だっていうことを意識し切れてなかったらしい。道理で魔力の消耗が大きいと思った。
「理解した。主は神にも匹敵し得る人である。故に、最初から全力で挑ませてもらおうぞ」
ゼウスは言うと、座禅を解いて蒼い雷鳴を迸らせる。ダンジョンの地面が融解するほどの熱量を持った恐ろしい雷だ。
「我はゼウス。神鳴の化身にして最高神。史上初の、挑む戦いを主に捧げよう」
最高神が俺を格上と見た上で挑んできた。雷の速さで俺へと近づいてそのまま渾身の雷撃を叩き込んでくるつもりだと、『未来予測』で感知する。なので俺は避けようと左へ跳び、ダンジョンの壁に激突した。
「……痛い」
雷を手に集めて振り被った体勢のゼウスが呆然と俺を見ていた。……哀れむな爺さん。
というか俺も驚きだ。なぜか物凄く身体が軽い。軽すぎて勢い余って壁まで移動してしまったらしい。身体を慣らす必要がありそうだ、と先程よりも軽い感覚で走り出す。その中でも雷速で動くゼウスがややスローモーションに見えた。
原因は明らかだ。ヘラと戦った時との違いはあるが、使用した強化スキルに違いはない。なら全ての魔力を使用したせいだ。おそらくそのせいで『疾風迅雷』の効果が高まりすぎてしまったのだ。
「……本気で駆けるか」
ダンジョン内の四方八方を駆けていると、ゼウスの放つ雷が当たりそうになった。先読みでもしているのかと思ったが、よくよく見てみるとゼウスが俺目がけて雷を放ってから俺が一周してそこに辿り着くまでに着弾している。いくら速さに特化しているとはいえ、神の魔力とはこうも偉大なモノか。
この状態で神から得たという魔法を融合させて放ってみようか。
ということで一発叩き込んでみた。
「……ゴッド・アースフレア」
『神炎魔法』と『神地魔法』を『魔法融合』させた一撃だ。
室内全体に魔方陣が描かれて、そこから溶岩が噴き上がった。……俺は溶岩地帯のボスから『模倣』した『溶岩遊泳』のおかげで溶岩に呑まれても平気だが、ゼウスは大変そうだ。雷を全力で放って溶岩に対抗しているが、対抗し切れずに天井へと押し上げられていた。
魔法が収まった頃には、ゼウスは焼け焦げて地面へと倒れていた。……雪原地帯で同じ使い方をしたんだが、ここまでの威力と範囲じゃなかった。やっぱ魔力のせいかな。
「……神を超えし人の仔よ。主に幸あらんことを」
ゼウスは息も絶え絶えにそう告げると、ばたりと力なく伏せてしまった。そして宝箱が出現する。……割と呆気なく終わったな。これで全階層制覇か。終わってみると長かったし難しかったが。
神級クエスト単独クリア可能な冒険者三十人もいれば攻略可能だろう。阿修羅ぐらいから十人まで増えて、そこからボスと戦う度に二人ずつぐらい増やしていく計算で、全滅しなければ三十人の団体で攻略できそうだ。……これを“大罪の体現者"の七人で攻略するつもりだったのだから、神級冒険者四人分ぐらいの実力は持ってるんだろうか。となるとディルトーネを放置してきたのはマズかったかもしれない。もう一人“大罪の体現者”がいる可能性を考えれば戦力不足は否めない。
とはいえ俺も消耗して……ないな。さっさと行くか。
『模倣』を解除してゼウスの死体を収納し、宝箱を開けた。
ゼウスの首飾りというアイテムだ。『全属性軽減』に『全状態異常無効』と『精神支配無効』がついた上で『神鳴の申し子』という雷を操り雷速で動けるようになるスキルがある。……チッ。二つあればニアとミアにプレゼントできたってのに。使えない。
とはいえ貴重な品には違いない。俺はいらないだろうが、それこそニアかミアにあげよう。喜んでくれるといいが。
俺が今回『模倣』できるのは『雷霆』と『ゼウス』と『全知全能』だ。『雷霆』は雷を操るスキルだろうが、あと二つはわからない。権能も使っていたのかもしれないが、『ゼウス』の効果はなんだろうか?
――と思っていたら頭に答えが浮かんできた。
『ゼウス』:全ステータスを大幅に引き上げる。雷を扱う上で最高位に位置するために雷を相手が使おうとした場合即死させることが可能。天候や気象を操ることも可能。権能は唯一絶対の創造神以外の神とつくモノに対して絶大な力を発揮し、格の違いがあればあるほどに力が増す。また、男女関係が必ず上手くいかない。
最後の一言が不穏でしかなかった。
詳細な説明が浮かんできた。思い当たることは一つだけ。
……これが『全知全能』の効果なのか?
疑問を頭に浮かべる。すると続いて答えが浮かんできた。
『全知全能』:見たことのある事象などを瞬時に理解することができる。頭に浮かんだ疑問に答える形で発動。全てを識る神の知識へと呼びかけ答えを貰うことで全知を再現する。全能はステータスの値を一番高い数値に揃える。
俺の『模倣』がやりやすくなる。とてもいいスキルだ。ステータスが揃うというスキルはよくわからなかったが、ステータスを開いてよくわかった。……しかし同じ数値が並んでいると少し気持ち悪いな。
ダンジョンでの戦いで俺のステータスも上がり、『ゼウス』のような元のステータスを上昇させるスキルもいくつか『模倣』したせいかかなり高くなっている。
しかしそうなると、なんでゼウスが俺を殺せなかったのか。『疾風迅雷』を使ったから、はいバカ即死ーとかあると思うのだが?
――推測。ゼウスがそのような決着を望まなかった可能性が高い。
……ああ、納得。ゼウス様は俺みたくセコい考えを捨ててくれたのね。
まぁいい。ゼウスは神器を持っていなかったので、以上で整理は終わりだった。俺は開いた奥の扉を下っていく。
階段があり下った先には左右と正面に部屋があった。『ワープ』の紋様は見当たらない。正面の部屋だろうか。
とりあえず左の部屋から。
扉を開けると金銀財宝が山のように積まれていた。眩しい。
『鑑定』しても神器のようなモノはなかった。換金アイテムだと思えばいいか。しかし金貨は見たことのない絵柄だった。他国のモノだろうか。宝石の類いもあったので、金には困らなくなりそうだ。
片っ端から道具袋に入れていると、金銀財宝を全て除いて一つの武器が出てきた。
「……聖剣・クラウソラス」
金の意匠を拵えた白銀の刀身を持つ剣だ。
「……ミスティ」
俺には不要な代物なので、後でこいつも勇者の下へ送ってもらおう。ミスティに喰わせればいい。『鑑定』して光の力を持つ聖剣だとわかる。
そうしてミスティを強化し、左の部屋は終わった。
部屋を出て今度は右の部屋へと入っていく。こちらには金銀財宝ではなく装備品が置かれていた。神器が複数あり、高性能な衣服などもある。……正直神の試練を攻略にしては少ない気がする。階層毎の難易度が高い分クリア報酬が一つでは足りないだろう。特にゼウスなんかは神器を持ってなかったから最高難易度のボスとしたら割に合わないだろう。いくら神器などが二十個近くあってもな。
「……特別感がない」
神器を入手してきたからだろうか。感覚が麻痺しているのかもしれない。とりあえず全て回収して正面の部屋に向かった。
正面の扉の部屋を開けると、ダンジョンコアが見える。それ以外にはなにもなかったが、奥にまた扉があった。
『鑑定』すると神のダンジョンコアと表示される。どうやら普通のダンジョンコアとは違うらしい。とはいえ上下の柱が水銀色であること以外は同じに見える。
「……全ての魔力」
俺は早速やってみようと思っていたことを実践する。全ての魔力で俺の方がこれを創ったヤツより多ければ入手できるはずだ。
……けどちょっと不安だ。
『全知全能』先生に聞いてみよう。
これを創ったヤツと今の俺、どっちが魔力高いんだろ?
すると答えが返ってきた。
――推定ではこちらが高い。
予測ではあったが、これなら俺がコアを奪えるかもしれない。予測方法については詳細に尋ねないが、『全知全能』がそう言うならそうなのだろう。
俺は気兼ねなくコアに触れた。……淡い光を放ったままだ。『全知全能』の推測は正しかったようだ。
神のダンジョンコアを再度鑑定してみると、所有者という項目が追加されており俺の名前が記載されている。加えてダンジョンコアの持つ魔力量やダンジョンを構築するためのスキルなども『鑑定』でわかるようになっていた。これなら俺の想像していた巨大居住ゴーレムを作成することができるかもしれない。後は俺をコアとしてゴーレムを作る方法さえネオンから教われば計画も実行するだけとなる。もしかしたらゴーレム作成のために素材が必要になるかもしれないが、それも今回のダンジョン攻略で入手できた。最悪どこかの山をオリハルコンにしてしまえば問題ない。
「……これで俺のモノだな」
実質このダンジョンを支配しているとも言える。だがコア一つにつきダンジョンは一つのようだ。ここは消去する必要がある。
コアは入手できたので道具袋に仕舞っておき、奥の扉を開けて先に進む。この先に『ワープ』場所があるのだろうか。
それは正しかったが、同時に間違いでもあった。
『強き者よ。神の試練を克服した証として絶大な力を与えよう。好きに選ぶが良い』
部屋の中央に女神像らしき置物があり、俺が部屋に入った瞬間老若男女混じりあった聞き取りにくい声が響いてくる。
そして目の前にステータス画面のようなデザインの選択肢が現れた。
一、絶大なるステータスを与える。
一、任意のスキルを三つ授ける。
一、所持しているスキル五つの効果を引き上げる。
一、所持しているアイテム二十個の効果を引き上げる。
一、不要。
五つ目の選択肢は一旦除外として。まぁどこぞの泉に住んでいる物好きなら不要を選択したら残る全てを、とか言ってくれそうなモノだが。そんな賭けを行って『不要か。ではさらばだ』とか言って終わられても困る。
まずは消去法で、一つ目のステータスは不要だ。『模倣』すればどんどんステータスが上がるので、今のところ必要性を感じない。
つまり実質三択というわけだ。
俺の所持しているスキルはこの世界に来た時から一切変わっていない。
『観察』、『同化』、『模倣』、『孤立』、『孤高』、『嫌われ者』、『動物好き』、『孤独』の八つだ。強化するとしたら『観察』、『同化』、『模倣』、『動物好き』ぐらいだろうか。他は強化しても意味がなさそうなので、五つ選べるのなら勿体ない気もする。勇者君のような有用スキルを複数持っているヤツなら選ぶ価値はあるだろうが。俺は『観察』、『模倣』、『同化』に集約されているせいで五つという数が微妙だ。
次に所持アイテムの中から二十個の効果を引き上げる。これは武器を複数持っていて、尚且つ装備品も高性能で取り揃えている場合に有力になりそうだ。俺が持っているのは剣、外套、ズボン、マフラーぐらいが高性能だが、他はただの衣服だ。神器も色々と入手できたので選択肢としてはありだが。もしかしたらダンジョンコアの性能も上げられるかもしれないので、一応候補として挙げておく。
最後は任意のスキルを授かるという選択肢だが、俺はこれといって欲しいスキルがない。なにせ大半を『模倣』できるからな。つまり『模倣』しにくくて所持者の少ないスキルの存在がわかればこれが選択肢に入る。
……むぅ。悩ましいな。スキルはあと一つなにを強化するか、アイテムは二十個選ばないといけない、スキル授与はなにが欲しいかわからない。どれも「これが欲しい!」って感じじゃないんだよな。どれも有用ではあるんだけど。
「……なぁ。どれか一つじゃなくて、数を減らしていくつかを組み合わせるってのはダメなのか?」
俺はしばし悩んだ後に女神像に問いかけた。
『数を減らすのであれば認めよう。数は複数選択した場合その数によって削減される。二つ選ぶのであれば半分となる』
しばらく沈黙があったのでダメかとも思ったのだが、どうやらその辺は融通が利くらしい。
では残る三つを、と考えて任意スキルを考えてみる。俺が欲しいスキルとはなにか。戦闘スキルは充分集まったので生産スキルを取得したいところではある。しかしありふれたスキルをこんなに苦労して取得するのは惜しい。
「……質問。『スキル創造』というスキルは?」
『存在しないため授けることは不可能である』
ダメだった。
「……じゃあ『複製』は?」
『存在するため授けることが可能だ』
また偽物スキルか、とも思うがせっかく百以上のレアアイテムを入手したのだ。量産性能になるかもしれないが、大量生産できれば心強い。では『複製』とはどんなスキルなのか?
『複製』:触れたモノを二つに増やすことのできるスキル。性能の落差は使用者のステータスに応じて変化する。複製には使用者の魔力を消費するが、素材は必要ない。
ふむ。では類似スキルはあるか?
――『大量生産』、『模倣』、『鏡写し』。
……ん? 『模倣』? だが俺の『模倣』にはそんなモノをそっくり生み出すような効果はないんだが。
――『模倣』によって製造方法さえわかっていればそのモノを作り出すことが可能。また見たモノの製造方法を『分析』することで映像として確認できる。
つまり俺が『分析』を持っていれば擬似的に『複製』と同じことができるわけか。加えて『分析』は色々な製造方法なんかを映像として『観察』すれば『模倣』できるので、生産スキルを実際に見なくてもできるということか。
素晴らしい情報だ。『全知全能』がもし実体を持っていて獣耳だったなら抱き着いて頭を撫でてやりたい。
「……じゃあ任意のスキル授与、スキル強化、アイテム強化の三つで頼む」
『了解した。では授けるスキルを一つ、強化するスキルを二つ、強化するアイテムを七つ選ぶが良い』
四捨五入ではなく切り上げにしてくれるようだ。こんなマゾい試練をやらせる割には優しかった。
では『全知全能』という素晴らしいスキルさんに聞いてみよう。なにを強化するのがいいか?
――『観察』と『模倣』。
即答した。俺は『同化』と迷ったのだが、どうやらその二つでいいらしい。
「……強化するのは『観察』と『模倣』だ」
俺が言うと声は『承った』と言って俺の身体へ女神像から白い光の塊を飛ばしてくる。光は俺の身体の中へと吸い込まれていった。これで強化完了らしい。ステータスを確認して効果を確かめる。
『観察』は元々観察したモノを記憶し、得た情報から真実を手繰り寄せるというスキルだった。
それが観察したあらゆる事象を、集めた情報から先読みするというスキルに変わった。つまり最初から最後まで『観察』していなければならなかった状態から、少し『観察』しただけで全てを把握するようになったのだ。この使い勝手の良さは実際に確かめていこう。
『模倣』は『観察』した物事を真似するというだけのスキルだ。『観察』できた範囲でしか『模倣』できない。となるとなぜ『全知全能』が『模倣』できるのだろうか?
――推測。ゼウスが「相手がなにをしようとしているのか」という疑問を浮かべた後、動きを先読みして攻撃を放つ。そして『観察』によって動きを先読みされたのではという考えを持った可能性が高い。
……そういや、確かに俺は先読みしてるんじゃないかとは思ってたな。あれは俺が一周する速度だったからそうなるんだと思ってたんだが、どうやら一周されることを見越した上で先読みしてたようだ。圧倒的ステータス差がなければ詰んでたかもしれないな。今は頼もしい限りだが。
で、『模倣』が強化されたらどうなるのか。
『観察』が先読みを可能としたことによって相手がしようとしている全く同じ動作などを『模倣』することができるようになっただろうが、『模倣』の強化では効果が強くなったというより範囲が広まったのだろう。
『模倣』を他人にも付与できるようになった、それだけではある。しかし『同化』が付与できることは検証済みなので、つまりは俺が『観察』してきたスキル達を誰かに与えるなどの行為も可能となるようだ。あまり周りを強くしすぎると俺に敵対した時の苦戦具合が増すので、そこそこに強くする程度に留めなければならない。とはいえニアとミアの護身用にスキルを『同化』させるくらいにしか使わないだろう、多分。
「欲しいスキルは『分析』だ」
『承った。汝にそのスキルを授けよう』
同じように光の塊が入ってきて、スキルに『分析』が増えた。
次は所持アイテムの強化だ。個数は七なので、とりあえず常に使っているモノを挙げていく。
「……強化するアイテムはこの外套、マフラー、剣、ズボン、手袋」
今身に着けているモノで性能が比較的いいのは五つ。外套だけ見劣りするが、この強化で良くなって欲しい。神器レベルにまで底上げして欲しいくらいだ。上半身の衣服は色合いが派手だったので遠慮している。買い込んでいた麻の服を着ていた。他に使えそうなアイテムを二つ挙げてみるしかない。
片方は神のダンジョンコアにしてみよう。強化できるのかはわからないが。残る一つはなににするか。『全知全能』さんはなにがいいと思うのだろう?
――色合いが好みでない上半身の装備を強化し、『同化』による色彩変化を行えば良い。
なるほど、そういう方法もあったか。ただ風景に『同化』させるだけでなく色を『同化』させることで変えられるのか。なら『全知全能』の言う通りにしてみよう。
「……あと神のダンジョンコアと道具袋にあるシヴァの衣を」
シヴァの衣は黄、赤、黒の三色で模様を描かれたシャツだ。俺には派手に見える。俺のトレンドは白黒灰色なのだ。だが色を変えられるのならどうでもいい。白一色にでも染めてやればいいのだ。
『承った。ではこれにて失礼する。汝の更なる活躍を期待している』
声はそう締め括った。もうなにも聞こえない。……ダンジョンコアも呆気なく強化されたな。後で強化のほどを確認しておこう。
女神像の後ろにある扉を抜けると、『ワープ』のための紋様があった。
出る前に格好を外套と剣のみにしておく。マフラーは一応他のヤツだと思われないように外した。
その上に立ち、ダンジョンの外へ移動するように念じる。……転移する前に『ワープ』を『観察』、『分析』しておいた。
そして俺の意識が一瞬暗転して、神の試練が築かれた位置へと舞い戻ってくる。入り口のあった場所の代わりに俺が立っているような形だ。俺がダンジョンから出てきたことによって入り口は消え、街を覆っていた障壁も晴れるように消えていく。消える直前に『観察』と『分析』で同じモノを張れるようにしておいた。
出てきたら冒険者に囲まれていた。
……という俺の想像通りの展開ではあったのだが。
「お前、強そうだな。俺と殴り合おうぜ?」
予想外だったのは、その入り口を囲むように待機していたであろう冒険者達が全滅していたことだ。それらの中で一人立った巨漢がこちらを見ている。二・五メートルはある身長を盛り上がった筋肉がより大きく見せていた。上半身は裸だったので褐色の肌だとわかる。髪は生えていなかったので額から伸びる二本の角がよく見えた。
黄色い瞳で俺を捉えて、にやりと笑っている。どうやらこいつが冒険者達を殲滅したらしい。
「……誰だ?」
しかし見たことのないヤツだった。こいつの関係者として思い当たるのはディルトーネぐらいなのだが。
「俺か? 俺は“大罪の体現者"が一人、『憤怒』担当、バルメイザってんだ。なぁ、早く殴り合おうぜ?」
本当にディルトーネの関係者だった。というか同輩だ。七人しかいない“大罪の体現者”が二人もいることになる。
「……随分不公平だな。俺は神の試練を攻略し終わった直後で疲れてるってのに、殴り合いだなんて」
「それもそうか! ならいいぜ、先に一発受けてやる。かかってこい!」
俺が言うとバルメイザは潔く腰に手を当てて胸を張った。……こいつバカでは。
「……そうか。なら遠慮なく、全ての体躯」
俺はダンジョンで『模倣』してきた身体能力を自分へと加算した。そしてそのまま男へと肉薄し、目が追い切れていないことを確認した上で身体が貫けないぐらいの加減でぶん殴る。ずごぉと貫けなかったにせよあり得ないくらいに背中へと突き抜け、バルメイザの身体がくの字に折れた。次の瞬間には殴られた衝撃によって空の彼方へと吹き飛んでいく。
「……なんだ、弱いな」
とは言っても『憤怒』という大罪からは遠い状態だったので、本気とは到底言えないだろう。本気だったとしても俺に勝てるとも思えないのだが、それは驕りというモノだ。捨て置こう。
「……俺がダンジョンに潜ってから、どれくらい経ったんだか」
スマホでもあればカレンダーを見て把握できるのだが。とりあえず知っている顔を捜そうかと、風鈴亭のある方へ歩いていった。
ちょっと道中はしょりすぎた感。
今後出す予定の模倣一覧でダンジョン内のモンスターも出す予定ですが、その時などここが見たいという要望がありましたらどうぞ。




