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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第二章 迷宮都市

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外套の剣士は神の試練を突き進む

 一面銀世界の雪原地帯を抜けたのは四十階層が終わった時だった。

 次に現れたのは砂漠地帯。暑いわ寒いわで面倒だった。五階層分で終わったので、四十五階層までだった。

 そして次。溶岩地帯とかいう地獄みたいな場所だった。五十階層までずっとこれだったせいで汗をいっぱい掻いてしまい、余計に時間を取られた。スタミナ消費が早すぎて戦闘がとてもだるかった。もう二度とごめんだ。

 ここまでが一回休憩挟むまでの時間と同じくらいかかった気がする。報酬は良かったが精神的疲労が強い。なにせ俺は真夏でも話し相手がおらず一目散に帰宅してクーラーの効いた部屋でのんびりしていたタイプだ。溶岩地帯とか本当に嘗めてやがる。現代人の身体の弱さをな。


 五十一階層から先は鉱山地帯、というのだろうか。

 『液体化』からの『硬化』でつるはし状に変えてダンジョン内にあった鉱石らしき岩を叩いていると、出るわ出るわ貴重な鉱石が。溶岩地帯を抜けた後だったのでテンションが上がってモンスターに見つかったりうっかり長居してしまったりしたが、とりあえずは素材がたくさん集まった。

 ファンタジーで有名なオリハルコンやらミスリルやらヒヒイロカネやらが盛りだくさんだったので、きっといい素材になるだろう。俺が知らなかったのは魔力を込めることで質が変化する魔晶という鉱物だ。多分これを使うことで風を放つ剣とかその辺りを作成するのだろう。知り合いという概念はないがぼったくらない腕利き鍛冶屋との伝手が欲しい。

 他にも貴重そうな素材がいっぱい集まった。モンスターもロックタートルとかクリスタルビットとか鉱物素材にもなりそうなヤツらだったので、すっぱり斬れるミスティを持った俺としてはさくっと倒せるのでうはうはだった。特徴としては動きが遅い。ただし物理に強く魔法耐性も持っているようだ。貫通や切断より破砕の方がダメージ通りやすそうではある。


 鉱山地帯も五階層で切り替わった。どうやら三十五までがチュートリアル、そこからは様々な環境が用意されているらしい。モンスターも環境に適応した種が出現するので溶岩などでは苦戦しそうになった。なにせ熱い。向こうは平然としている癖に『暑さ無効』とかのスキルは持っていないという。生態系の変化による適応なのでスキルの範囲にはならないのだろう。

 だが逆を言えばあの過酷な環境を乗り切れば敵なしとも言える。実際敵自体は強くなったがあの辺りの過酷さを考えれば鉱山など楽勝だった。


 とか思っていたら地下ダンジョンのはずなのに空のある階層に出て上から鳥共に襲われたり。

 湿地帯で泥沼に引き摺り込まれそうになったり。

 海のようなステージで水中戦を強いられたり。

 モンスターが少ない代わりに罠がたくさんありすぎて避けても避けた先に罠がみたいな感じで休みがなくなったり。

 モンスターで埋め尽くされた気持ち悪い階層があったり。


 兎も角人を苛めるのが好きなダンジョンだった。


 とはいえ八十階層まで無事に突破することができた。

 ここまで戦ってきて思ったが、三十五階層までは神級クエストに挑める冒険者がソロ全力で行っても勝てそうだ。そこから先が二人推奨。七十五階層までなら二人でも勝てるだろう。

 続いて七十五階層からがキツい。三人で同等程度に感じた。少なくとも本気メランティナ三人は必要になると思う。つまり四人いなければ全員生き残れない。


 しかも酷いことに、そこからは五階層で難易度が跳ね上がった。八十階層に辿り着くには神級クエストソロ攻略可能なSランク冒険者が五人は必要だ。ペースは落ちに落ちて一日一階層感覚でいければいい方になった。正確な経過時間はわからなくても、これまでのペースから考えれば二倍三倍の時間がかかっている。階層数における休憩の回数が増えてきたため、合計日数も多くなっていた。


 ……もう一ヶ月ぐらいダンジョン内で過ごしてる感覚だな。


 俺がいくら引き籠もり未満の生活を送っていたとはいえ、ここまでアクティブな引き籠もりもないだろう。一ヶ月間戦闘漬けの毎日とかどこの戦闘民族だ。無理しても急激に成長しないぞ、俺は。


 八十一階層目に到達した。

 うじゃうじゃとびっしり虫系モンスターが(ひしめ)いていた七十六階層から八十階層までの気色悪い光景とは異なり、モンスターの気配がなかった。

 『索敵』をしてみると直進したところにボス部屋らしきとんでもなく強そうなヤツがいる部屋があった。途中で道が左右にも行けるようになっていて、その先にも部屋があるようだ。しかもそこにもそこそこ強いモンスターが一体ずついるらしい。


 ……つまりあれか? 二体を倒してキーアイテムを獲得しないとボス部屋に辿り着けないとか?


 いや、もしかしたら直進すれば一気にボス部屋まで行ける可能性もある。一旦そちらに向かおう。


「……あー。ですよねー」


 俺はボス部屋に続く扉の前に来て、そうぼやいた。

 両開きの扉の中央になにかを嵌めるような窪みがあったのだ。しかもご丁寧に窪みの中で線が引かれている。二つのオブジェクトを組み合わせて嵌める形式だ。……くそ、ゲーム的なのはステータス画面だけで充分だろ。


 内心で悪態をつきながらも、半ばわかっていたことだったので来た道を戻って左右それぞれのモンスターに挑んだ。戦い方は基本オーガロードの時と同じだ。全ての体躯で敵よりも圧倒的なステータスとなり、強者だと思わせることでスキルを使わせて『模倣』する。

 このままでは最下層のボスになにが待ち受けているかわかったモノではない。くそみたいな難易度の無理ゲーと化していたら流石にやめたくなる。


 牛頭と馬頭という大柄なモンスターを討伐し、手に入れた二つの欠片を合わせて扉に嵌め込んでやった。二体のモンスターは神級クリア冒険者三人でいい勝負になる程度の強さだ。六人いれば二手に分かれるという選択肢もありだったが、安全を取るなら六人で挑み全員生還を狙うべきだろう。バカみたいにパワーアタッカーだったので全ての体躯を使える俺にとっては弱いモンスターだった。


 牛頭馬頭が前座としているボスとはどんなヤツなのか。答えはすぐに出た。


 オブジェクトを嵌めると自動的に扉が開かれる。そこに座していたのはドラゴンだった。


 『鑑定』してわかった。化け物だ。


 オリハルコンカイザードラゴンと表示された。


 この世で最も硬い鉱物で全身を覆っており、最強のモンスターであるドラゴンの中でも上位種だ。

 俺がボス部屋に足を踏み入れると、片目を開けてこちらを窺い、のそりと起き上がった。


 しかしオリハルコンのドラゴンはどんな攻撃をしてくるのだろうか。まさかオリハルコンのブレスを吐いてくるということはない、よな……?


 ドラゴンと言えどスカーレットドラゴンとは違う。こちらは手足を着いて立っている。そのため前足が長く脚もやや細い。厳つくはないが素直に綺麗だと思う。


「……」


 俺が部屋を歩き対峙するまではじっとこちらを眺めていた。俺が攻撃するまでは攻撃しないという強者の余裕だろうか。


「……全ての体躯」


 更に『魔力障壁』を発動。加えて『鬼帝力皇』。


 流石のドラゴンも警戒心を高めていく。


「……」


 俺は剣を抜いてゆっくりと歩み寄る。見上げればドラゴンと目が合った。互いに手が届きそうな距離まで近づいてから立ち止まる。

 そして、俺はいきなり剣を振り上げた。まずは『魔力障壁』を破れるか。


 『魔力障壁』は簡単に切り裂けた。裂け目は広がって『魔力障壁』を両断する。ドラゴンはそれに驚きつつも口から銀の吹雪を放っていた。回避すると、それが当たった場所はオリハルコンと化していた。……マジでオリハルコン化するブレスかよ。

 しかも地面に出来たオリハルコンから触手と呼ぶには綺麗すぎるモノが生えてくる。オリハルコンを操る能力かもしれない。


 オリハルコンの触手は意思を持っているかのように俺を襲ってきた。剣で切り裂くと地面に転がったがオリハルコンから元に戻らなかった。……あれ、こいつオリハルコン無限製造機なのでは?

 だとすればこいつのスキルを『模倣』しないわけにはいかない。限界まで、奥の奥の手まで見せてもらえるよう徹底的に戦おう。


 詳しくは少し残忍なので言わないが、とても有意義だったと言っておこう。


 八十二階層からは八十一階層と同じシステムだった。ボス部屋以外の部屋でモンスターを倒しキーアイテムを入手する。そしてボス部屋の鍵を作る。

 変わったことはと言えば難易度と部屋の数だな。一部屋ずつ増えていき、最後の九十階層は二部屋増えたので面倒だった。十二という数を見ればどんな面子が出てきたかわかる人もいるからもしれない。俺は真っ先に干支と星座を思い浮かべたのだが、星座の方だった。十二星座それぞれを模したモンスターが各部屋に待っており、ボス部屋には星帝とかいう全ての星座能力を使えるというモンスターが鎮座していた。十二星座の能力以外も使ってきたのでじっくり『観察』できて良かったと思う。


 さていよいよ終盤戦、九十一階層からだ。


 どんな階層が待ち受けているかと思って先へ降りる階段を下ると、階段を降りた先で階段への道が塞がれた。


「……なるほど」


 念のため充分な休息を取っておいて正解だった。


 今までのどのボス部屋より広い。黒と白のドーム状になっていた。

 中央の台座に座禅を組んで座るのは三面六臂の巨躯だ。六本の腕にはそれぞれ異なる武器を持っている。三面は三面でそれぞれ表情が違った。

 そいつは赤褐色の肌をしており、俺の知識と『鑑定』結果が一致する。


 ――阿修羅だ。


 どうやらここから先は、ボスラッシュらしい。

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