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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第二章 迷宮都市

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ぼっちは珍しく話し合う

前話のサブタイトルが統一性あるヤツじゃなかったので修正しました。

 風鈴亭に戻ってきた俺達は、部屋へとディルトーネと“水銀の乙女(ワルキューレ)”を招き入れた。

 一応ディルトーネには人間の姿をしてもらっている。街で騒ぎになるのは面倒だからな。


「……さて、とりあえず話し合いからだな」


 俺はベッドに腰かけつつ集まった者達へ言った。

 集まっているのは十四人。ここディストールでは最高戦力が整っていると言ってもいい。


「……“水銀の乙女(ワルキューレ)”は良かったのか? おそらくギルドマスターはこうなったらB以下の冒険者達を集めて所持品取り押さえ。それがなくても俺が神の試練を攻略した瞬間に包囲、殺害を目論む可能性が高い。まぁ、攻略した瞬間に街の外へ俺の指名手配要請をするのは目に見えてる。共犯者として挙げられるぞ」


 それをすれば俺に殺されると思っていながら、ギルドマスターとしての最期の仕事として考えつく手は打つだろう。だがそれでいい。

 存在感を出せば面倒に巻き込まれる。なら早々に表舞台から姿を消してしまえばいい。もっと早くにこう思っていれば良かったのだろうか。……いや、生活費を稼ぐのに冒険者になるのは必要だった。その上で俺が目立たないためには隠れ蓑が必要だったと思う。


「覚悟の上だ。なによりスキルをコピー、ではなく『模倣』だったか。そんなことのできる貴殿に敵うとは思えない。私の『神意顕現』も使えるのだろう?」

「……ああ、まだやってないが可能だな」


 あれはヴァルキリーでなければ使うことができない。だが新たな男性型ヴァルキリーという位置に落とし込めることはできると検証しているので、使えるはずだ。発動条件もある程度判明している。セレナはヴァルキリーの中でも太陽と湖の乙女という種類なのだそうだ。だからこそ太陽と水辺がないと全力が出せない。乙女なので、つまり俺もヴァルキリーになったら性転換しそうだな、と思っていたのだが。女性の身体が再現されずに男性型ヴァルキリーとなってしまった。正確にはヴァルキリアスという種族のようだ。ともあれ『神意顕現』の条件はなにを司っているのかによって変わるらしい。

 俺のルーツ、またはスキルからそれらを推測できるわけだ。というか種族名がそうなるのですぐにわかった。


「なら、私達は勝てないな。できることは全て、とは言わないが枝分かれするだけで応用可能な範囲だ。奥の手を残しているとしても、ネオン以外の手の内は晒したと思う」


 それに、とセレナは続けた。


「私達もあまり今回のギルドマスターのやり方は好かない」


 他五人もその言葉に頷く。……君達では力不足だと告げてるようなモノだった。だが真剣にそう考えていたようだし、俺が考えても同じ結論に至る。いや、だからおかしいのか? 腐った俺とギルドマスターが同じ結論に至ることが。違うな。おかしいのはそこじゃなく、ギルドマスターがその結論を隠して協力という手を打たなかったのがおかしいのか。その結論に至ったとしても冒険者の間に軋轢を生むと考えつく。

 人は最善の手ではなく、納得できる手を求めるモノだ。


 まさか誰かに誘導されたとかではないよな。そうなるとギルドマスターの裏に誰かいることになるが……流石にわからない。俺の考えすぎだな。


「それに、貴殿は私達の仲間を救ってくれた。その恩を返さないままにすることはできない」

「うむ。わしからも礼を言うぞ、ご苦労じゃった」

「ネオン。偉そう。もっと腰低くして。クレトいなかったら死んでた」

「……う、うむ。すまんの。わしの命を救っていただき、感謝の言葉もないのじゃ。わしにできることなら喜んでしよう」


 尊大な口調でパッツン幼女が言うが、リエルに注意されて丁寧に頭を下げてきた。……これがのじゃっ娘というヤツか。ロリババアなのかどうかはわからないが。


「……じゃあゴーレムの話が聞きたい」


 俺の目的はそれだ。それがなかったらとっくに見捨てている。


「ほう! では説明しよう! ゴーレムとは――」


 ネオンが目を輝かせて人差し指を立て説明を始めようとしたところ、すぱんとリエルが彼女の頭を叩いた。


「どうせ無駄なことばかり喋る。クレトの話を聞いてゴーレムのどんな話が聞きたいのか判断すべき」

「……むぅ。相変わらず反りが合わんの」

「口は災いの元」


 言葉少なく話すリエルと、語りたがりらしいネオンは反りが合わないらしい。まぁ説明が止まらなくなるより、ストッパーがいる方がいいだろう。


「で、なにを聞きたいんじゃ?」

「……その前に俺の目的を話しておくか」


 そう言って話し始める。俺の目的はこの街で二つ。ダンジョンコアを手に入れること、そしてゴーレム好きの変人から技術を盗むこと。

 それらを経て最終目的はなにか。


「……俺はダンジョンコアで巨大なゴーレムを作成し、移動する拠点として使いたいと思ってる」


 俺がこの考えを話すのは初めてだ。クリア達は話したい時に話せばいいと思っているらしく、深くは聞いてこなかった。


「そ、そんなことが可能なのかの?」

「……知らん。思いつきだ。それが技術的に可能かどうかのために、お前にゴーレムの話を聞く必要があった」

「うむぅ。しかしな、お主も知っておるじゃろうが……ダンジョンコアは触れるとその機能を失ってしまう。コアでゴーレムを作り拠点とするなら――おそらくダンジョンを形成するように、部屋を内部に作れるようにしたいのじゃろう?」


 流石に察するか。そう、俺の思いつきを実現するにはダンジョンコアの機能を失わせないままに取り出す必要がある。


「……それについては、ダンジョンの改竄方法を知るそこの悪魔に聞く」


 少なくとも彼女ならダンジョンコアに介入する方法を知っている。なら実現できなくても理論上可能かどうかもわかっている可能性が高かった。


「あたしかい」

「……あんたは“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー"の連中にダンジョンコアへと介入する方法を教えた。ならダンジョンコアへの研究が人よりも進んでると見ていい。理論上可能かどうかぐらいはわかってると思ってな」

「それもあってあたしと手を組んだのかい。まぁ確かに、あたしらはダンジョンコアについて、少なくともあんたらよりは詳しい。そして、ダンジョンコアをダンジョンコアとして取り出す方法も知ってる」

「なんじゃと!?」


 ディルトーネの言葉にネオンが腰を浮かせる。おそらくそれが可能なら超巨大ゴーレム作成に関われるからだろうが。


「……その方法は?」

「ダンジョンコアを創造した者よりも魔力が強大であることが条件で、それを達成してさえいれば触れても機能が失われない」

「……あれか、要は新たな管理者に選ばれればいいのか」

「そう、よくわかったね」


 ディルトーネの言葉に嘘はなさそうだ。他に条件を隠しているのかもしれないが。


「そしてダンジョンコアを創った存在も知ってるよ。となれば大体どの程度魔力があればコアを奪えるかある程度の予想がつく」

「……さっきギルドマスターが言ってた『神術』を使うヤツらのことか」

「そうさ。そいつらの名は神族。神を気取り、しかし神ではないため救いを齎さない種族さね」

「……神族か。知ってるか?」


 俺はディルトーネの言葉が信用できるか、他のヤツに聞いてみる。しかし誰もが首を横に振った。


「そりゃそうさ。ヤツらは裏であたしらを操るだけの存在だ。神を気取ってるんだ、姿は滅多に現さないと思うね」

「……今回みたいに直接介入してくる機会はあるのか?」

「あんまり聞いたことがないね。あたしの知る限りじゃ、先代勇者との戦争時には見かけたよ。勇者側にも、魔王側にも。でもそれは戦争に紛れるためであって自分達がなにかをしたかったわけじゃない、と思うけど」

「存在を知らないから信用できない」

「だろうね。けどあたしら魔王軍はそいつらを知ってる。だからこそ対抗策を考えてるのさ。なにしろ世界征服を目論むなら、暗躍する種族なんて邪魔なだけだろう?」


 世界を征服しても面倒が増えるだけだろうに。そんなことをする魔王は、余程のバカかかなり面倒見がいいのだろう。全てを滅ぼすのではなく征服するのだから。他の種族を生かして支配するのだろう。人間なんて滅ぼしてしまえばいいモノを。


「……まぁ、神族についてはいい。実際会わないと信用できないからな。で、仮に神族がダンジョンコアを創ったとして、どれくらいの魔力があれば奪えるんだ?」

「そうさね……五十階層ぐらいならあたしでも可能だよ。まぁ一時機能を使うぐらいなら、の話さ。それで改竄ができる」

「……お前の魔力は?」

「あたしは若干魔力寄りだからねぇ。多分そこらのドラゴンよりはあるだろうよ」

「……スカーレットドラゴンとならどっちが上だ?」

「ああ、あいつなら私より下だよ。じゃなきゃダンジョンコアの力を借りたって召喚できやしないからね」

「確かに『召喚魔法』の原理で言うなら相手に自分を認めさせる必要があるわ。強力なモンスターほど消費する魔力が多くなるけど、これはコアが解決してくれる。つまりスカーレットドラゴンより強ければ可能ということよね」

「そう。あたしはコアの管理者になるまではいかなかったから、『召喚魔法』の原理でボス部屋にスカーレットドラゴンを召喚した。もちろんあいつらに頼まれてやったことさ。全員殺せるだけのモンスターを設置しろ、っていうね」


 見事に討伐されちまったけどね、とディルトーネは笑う。こいつにとってあいつらの思惑などどうでもいいのだろう。


「……なるほどな。つまりあんたの魔力でも管理者にはなれず、神の試練を創ったコアを奪おうとしても桁違いの魔力が必要になるってことか」

「そうだね。なにせ神の試練には強力なモンスターがうじゃうじゃいる。そいつら全員を召喚できるくらいの魔力がないと不可能だよ」

「……じゃあもう一つ。コアを創った神族とコアそのモノ、どっちが魔力高いと思う?」

「さぁね。でもコアはとんでもない魔力を秘めた代物だ。流石にコアの方が上だと思うけどね。神の試練は前回出現時には年単位で攻略されたような場所だ。それだけ、モンスターを再召喚する魔力を蓄える必要があるってことでもあるだろ? ならコアの方が上だろうさ」


 それなら、俺の『模倣』でコアの魔力を『模倣』または『同化』させて管理者権限を奪えるかもしれないな。


「……ならなんとかなるか」

「もしかして魔力でもコピーするのかい? 相手は無機物、生物でもなければスキルじゃないんだよ?」

「……どうだろうな。『ダンジョン構築』というスキルがあって、それに魔力を貯めてるかもしれないだろ?」

「よくわかったね。あたしはコアの魔力を使って改竄してるけど。コアに介入できなければ知らないはずの情報なんだけどね」


 ダンジョン経営モノを読んでいたからだとか言えるわけもない。


「……ならそれを丸々コピーしてやればいい、かもしれないだろ。ダンジョンコアを奪えれば後はゴーレム作成になるが」

「うむっ! わしの出番じゃな! 必ずやわしの知識と技術を以って作り上げてみせようぞ! ……というか協力させてくれんかの。後生じゃ!」


 尊大な口調で応えたかと思ったが、どうやら巨大ゴーレム作成に興味を引かれたらしい。……確かに俺は知識までは『模倣』できないから、協力してくれるなら有り難い。記憶力が悪いとは思ってないんだが、いいとも思ってない。やってくれるなら任せるとしよう。


「……ああ、俺も元々そのつもりだ」

「ありがとうなのじゃ、絶対超巨大ダンジョン型ゴーレムを作り上げてみせるのじゃ!」

「もっと丁寧にお礼して」


 ネオンの頭を上から押さえつけるようにするリエル。


「……うむ。歴史に名を残す偉業に協力させていただけること、心より御礼申し上げるのじゃ」


 この二人は反りが合わないのだろうが、仲がいいようだ。


「……別にそこまでさせなくてもいいんじゃないか」

「ネオンは調子に乗せると危ない」

「心外じゃ、のう皆の者!」


 リエルの言葉にネオンが他四人の仲間を見るが、すっと目を逸らされていた。


「……なん、じゃと……」


 愕然とした様子で言い、しょんぼりと肩を落としている。……後で口調と種族について聞いてみよう。ただのロリかロリババアか、それはとても大事なことである。


「……で、俺の目的とかは話したことだし、そろそろ魔王軍の話をするか」

「あたしも、ちょっとだけ興味はあるね」

「……言っとくが嘘はつくなよ。嘘をついたと俺が判断したら腕から順に消し飛んでいくと思え」

「……それってあたしに不利なヤツじゃ」


 判断基準が俺なのだから当然不利だろう。しかしディルトーネはやるしかない。俺を欺くにしても真実を話すにしても、話を聞かないことには信用できないからだ。


「……じゃあまず俺から話そう。お前達は知ってるだろうが、前にいた街を襲撃してきた白い悪魔。あいつは使ってきた技からしてもディルトーネの言う“絶望”の悪魔で間違いない」


 トラウマを掘り起こすという効果から考えてもな。あいつを思い出したからか何人かは顔を顰めていた。


「……あいつの強さは、まぁ多分あいつが言ってた獣と契約したからだとして、ここら辺はディルトーネの言い分が納得できる」

「獣ねぇ」

「……だがお前はメフィストフェレスを知らないと言ったな」

「ああそうだよ、メフィストフェレスは知らないね」

「……おかしいな、それは。メフィストフェレスは白い悪魔を飼ってる悪魔で、かなり強いだろうな」

「? あの“絶望”をかい? 物好きなんだね、そのメフィストフェレスってヤツは。……ただ一応言っとくけど、そんな名前の悪魔は存在しないよ。なにせ悪魔は能力によって呼ばれる。下位の悪魔なんかに名前はないのさ。その白い悪魔も、下位だからこそ“絶望”の悪魔って呼ばれてるんだ。炎のスキルを持ってるなら、“炎”の悪魔って全員呼ばれるんだよ、余程強い力を持ってなきゃ、ね」


 ディルトーネの話を聞いて他に目配せをすると、頷かれてしまった。……だがあいつは魔王様と呼んでいた。なにより配下もいる。魔王軍の手の者として考えるのが普通だ。


「……じゃあメフィストフェレスって誰だよ。あいつ、ちゃんと魔王のことを魔王様って呼んでたぞ。お前らの仲間じゃなかったらなんなんだよ」

「知らないよ、あたしが存在を知りもしない悪魔なんていないと思ってたけどねぇ。そいつ、ホントにいるなら一度ちょっかい出す必要があるね」

「……じゃあもう一つ聞く。魔王軍は勇者を召喚してなにがしたいんだ?」

「は? 勇者なら聖女様とやらが召喚するんだろ? なんでわざわざあたしらが敵を作る必要があるんだい。勇者さえいなければ前回だって勝てたかもしれない、そう思うヤツらだっているんだよ?」

「……そりゃそうだ」


 ディルトーネの言い分には筋が通っている。


「……メフィストフェレスって悪魔は聖女の存在を乗っ取ってるんだよ。そいつが勇者を召喚した。しかもなんかリストみたいなのがあってな。適性のある異世界人を任意で召喚できるらしい」

「……なんだいそれ。聞いたこともない。いや、聖女が勇者の素質がある異世界人をリストアップしてるのは噂で聞いたことがあるけど、だとしても聖女を乗っ取れる、殺れるんだったら勇者を召喚する必要すらない。じゃあなんで……待てよ。もしかして、魔王が魔王じゃないのか? だとしたら復活しそうな魔王の座を狙う悪魔か……魔王を取り込みたいと考えるバカか……けどそれなら勇者を喚ぶ必要がない」

「……だとすれば、魔王復活最後の鍵は勇者なんだろうな」

「っ! ……ははっ。あんた最高だよ、あたしと同じ結論だ」


 ぶつぶつと呟き始めたディルトーネに言ってやると、同意されてしまった。ここまで嘘はなさそうだな。


「……勇者と魔王、どっちが先かなんて俺は歴史に詳しくないから知らないけどな。魔王が勇者に対抗する存在なら、勇者の存在があってこその魔王だと考えられる。なら勇者のいない世界に魔王が復活することはあり得ない、とも結論づけられるからな」

「そうだね。あたしもそんな不毛な議論はする気ないけど、そう考えるなら納得もいく。まぁ話を信じるかどうかは、実際聖女に手を出してから考えるとするけどね」


 ディルトーネは結論を出したようだ。とりあえずは考慮するに値する話だと思ってくれたらしい。


「……コアとゴーレム、あと魔王軍の話。一応最低限言っておきたいことは言ったな」

「じゃああたしからいいかい?」


 俺が言うとディルトーネが挙手をした。


「で、そういうあんたは何者なんだい?」


 そして俺を見て聞いてきた。


「……クレトだ」

「そういうことを聞いてるんじゃないんだよ」


 名乗ったのに眉を顰められてしまった。……じゃあなにを聞きたいんだよ。


「仮にあんたの今の話が本当だとしても、メフィストフェレスってヤツが聖女を乗っ取ってる、ってとこであんたのお仲間は驚いてたよ? じゃあなんであんたはそれを知ってるんだろうね」

「……こそこそしてたらあんたみたいに真の姿を晒してな。こりゃびっくりと逃げ出して、今まで胸の内に秘めていた、とかならいいか?」

「そう言うってことは嘘なんだろう? 言う気がないってことかい?」

「……ああ。別に言うほど重要なことじゃない。気にするな、たまたま、タイミングが重なった結果だってことには変わりないからな」

「そうかい。じゃあまぁ聞かなくてもいいよ。貴重な話を聞かせてくれた礼に、あたしら魔王軍の話もしてやろうじゃないか」


 あっさり引き下がると、にやりと笑って説明を始めた。


「そもそもなぜあたしがこんな辺境の街にいるのか。もう坊やにはバレちまったけど、神の試練を出現させる条件を探り、そして神の試練を自在に出現させ続けて装備やら力やらを魔王軍強化のために使うのが目的さ。攻略はあたしを含む“大罪の体現者(カーディナル・シン)”の七人で行うつもりだよ。そして得たモノを支給し、強化する。そうやって魔王軍を強化すれば神の試練を攻略する効率も上がっていく。そうして、前回以上に強力な軍団を築き上げる、ってのが狙いだね」

「……そんな大事なことを簡単に話しても信じるわけないぞ」


 嘘はついていないようなので、おそらく本当だ。その上で話してもいいと判断している。


「そうかもしれないね。でも本当のことさ。いずれわかるだろうけど。とりあえず誤解のないように言っておくと、あたしらは前回の大戦を敗北だと思ってるんだよ。なにせ魔王としてあたしらを率いた者は封印され、腹心だった“大罪の体現者(カーディナル・シン)”は全員殺された。なのに勇者は生きてるんだから、負けと判断していい。一部の者はまだ『勇者さえいなければ』とかなんとか言ってるけど、それは油断に繋がる。あたしら今の“大罪の体現者(カーディナル・シン)”はこう思ってるんだ。――次は絶対に勝つ」


 敗北から学び、魔王軍そのモノを強くする方針で動いているということか。


「次にいつ勇者が現れ、あたしらを倒しに来るかわからない。だからあたしらは勇者が来たとしても倒せるように、魔王軍そのモノを強くすることにした。その一つとして、今の神の試練を利用した案が出たってわけさね」


 つまり他にも色々な案、最低でも七つほどあってそれぞれがそれぞれの目的で動いている可能性もあるわけか。


「もう神の試練が出現する条件はわかったから、話してもなんら問題はないんだよ」

「……お前をここで殺せば、それが伝わらないと思うんだが」

「そうだねぇ」

「……嘘(いち)


 俺は剣を抜き放ってディルトーネの左腕を肩から切断、傷口を焼いた。


「ぐっ……ぅ!」

「……今のは嘘だな。お前はここから脱出できるように手段を整えていると見た。だからお前はここで死ぬと思ってはいない。俺達の実力を考えても、逃げ切れると踏んでいる」

「……厄介な、坊やだね」

「……そりゃどうも。その腕は話が終わるまで再生とかするなよ」

「わかってるよ」


 俺は釘を刺しておいて、考える。

 ……リエルの話では、外の商人とやり取りしたらしい。その時に神の試練がここに出来たことを伝えた可能性がある。なら連絡は取れなくても近くにいれば知ることができるだろう。そしてその仲間が脱出手段として考えられるなら、それは存在する障壁を一時的にでも破れる力を持つ者、抜け穴を作れる者と推測できる。しかし俺はどうやっても破った後無事でいられるとは思えなかった。ならとんでもない攻撃力プラス、とんでもない再生能力を持つ仲間がいると考えた方がいいかもしれない。

 だったら“大罪の体現者(カーディナル・シン)”以外に考えられない。ディルトーネ以上、魔王ではないと考えるなら同格の連中が最も可能性が高いだろう。


「……つまり外にあんたの仲間がいて、そいつが障壁を破って入ってこられるくらいに強いと考えるのが自然だな」

「ホント、嫌な坊やだね」

「……生憎と『嫌われ者』でな」


 異世界に来てまでスキルと化すくらいには。


「……大体俺がこいつから聞きたい話は聞けたな。俺はそろそろ神の試練に挑んでくる」

「私も行きます」

「……断る。予定通り、俺独りでいい」

「な、なんでですか」


 俺が言うとクリアがついてこようとしたので、きちんと制止しておく。


「……ダンジョン内でディルトーネに裏をかかれないようこいつは連れていきたくない。そこで見張っておく戦力が必要だ。同等のメランティナに加えてお前がいればなんとか抑えられるだろ」

「オレ、オレは師匠!」

「……お前はディルトーネみたいな絡め手のタイプに弱そう。バカだし」

「酷いぜ!」


 種族だけは強いナヴィでは頼りにならない。なにせニアとミアを確実に守れるだけの戦力が必要になるのだ。メランティナだけではディルトーネが本気になった時に守り切れない可能性もあった。


「……クレトがそう言うなら、我慢します」

「……それでいい。あと冒険者からの襲撃には気をつけろよ。一人で行動しないようにすればいいと思うが」


 俺は言いながら忘れ物はないかと頭の中で確認し、特にないと判断する。


「……ニア、ミア。悪かったな、怖い思いさせて」


 集会所で大勢が死ぬところを見せてしまった。そこだけは悔やまれる。


「……へいき。くれといた」

「平気!」


 二人はいつものように答えてくれた。……大丈夫ならなによりだ。


「……じゃあ俺は行ってくる。精々死なないようにな」

「それは私達じゃなくて、クレトへのセリフでしょ?」


 俺の言葉にメランティナが苦笑し、他も頷いている。……確かに俺は状況的に死地へ向かうことになるな。だがなんとかなるだろう。俺はぼっちだ。独りでの戦いならスペシャリストと言っていい。


「……そうだな。まぁ、一ヶ月以上かかるかもしれないが、行ってくる」

「「「行ってらっしゃい」」」


 誰かに見送られるなんていつ振りだろうか。そんなに感慨深いことでもないか。


 さて、と。

 この世界で最も難易度の高いダンジョンとやらは、どんな具合でしょうかね。


 俺は部屋を出ると道具袋から外套を取り出して羽織った。

 ここからはギルドマスターの意思通り、外套の剣士としてダンジョンへ入るとしよう。出てくる時も外套を羽織ろう。


 そうすれば、例え俺が死んだとしても外套の剣士は生きるだろうから。

 俺がカッコつけてソロ攻略した癖に途中でくたばった、なんて情けない評判は残らないだろう。

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